高校選手権準々決勝、静岡学園対東福岡を、TV桟敷(正確にはTVer桟敷と言うべきか)で堪能した。
1976-77年首都圏最初の大会決勝の静学対浦和南との死闘から、早いもので半世紀近くが経った。当時いずれかの組の若頭かと思わせる風貌で、徹底した技巧を軸に旋風を巻き起こした名将井田勝通氏。既に後継者として確固たる指導実績を誇る川口修氏が指揮をとっているわけだが、井田氏があいかわらず元気そうな姿でベンチに鎮座しているのをTV桟敷で見ることができたのも嬉しかった。あたかも、引退した先代大親分風の雰囲気をたたえながらw。
一方で、この試合を記者席でじっと見ていた東福岡の名将志波芳則総監督も、既に70代とのこと。この方も井田氏同様幾多の名手を育て上げてきた。少々脇の甘さがあったことは確かだけれども…志波氏の後任として、見事な采配を見せてくれた森重潤也氏(80年代から90年代にかけて、全日空(後のフリューゲルス)や中央防犯(後のアビスパ)で活躍した名選手)。今シーズン、その森重氏からバトンを受けた平岡道浩氏(東福岡時代は、山下芳輝や小島宏美のチームメートだったとのこと)が、後述するような見事な采配を見せてくれた。このような歴史の積み重ねは、我々野次馬にとっては堪えられない楽しみだ。
試合前から、静学が攻勢をとり、東福岡が守備を固め速攻を狙うのは予想できていた。
しかし、東福岡の守備戦法は、そう言った予想を遥かに超えて徹底したものだった。頻度は少ないが静学陣内でプレスをかけボールを奪う場面は幾度かあった。当然前線の 選手はそこから手数をかけずに静学ゴールを目指す。そして後方の選手はコンパクトを維持するために押し上げる。しかし、押し上げるだけで守備ラインの選手はハーフウェイライン近傍より前には前進しようとしないし、中盤の選手も前線への飛び出しを行わない。そのため、東福岡の攻撃は単発で終わる。
結果、静学が圧倒的にボール保持することになり、伝統の(?!)技巧的なボール扱いから次々と東福岡ゴールを襲うことになる。しかし、東福岡DFは、献身的なカバーやゴールライン直前でのクリアなどで、静学の変幻自在の攻撃を何とかしのぎ前半終了。
後半に入り、東福岡の守備作戦はさらに徹底された。静学陣でのチェックをほとんど行わなくなり、FW含めてハーフウェイラインをほとんど越えようとしない。しっかりと守備ブロックを固め、静学の前線の人数に合わせ守備選手の位置取りを丁寧に微修正しながら、守備を徹底する。前半、僅かな回数ではあったがフォアチェックを外され(対静学の場合「外され」と言うよりは「抜き去られ」が適切な日本語のような気もするが)、静学の速攻に肝を冷やす場面があったことを反省しての修正かもしれない。
静学もさすがで、ハーフウェイライン近傍でDF陣が左右に揺さぶっておいて、サイドにすばやく展開。そこで数的優位を作り、トリッキーな崩しを狙う。結果、サイドに両軍が3人あるいは4人を配する形となり、双方の鋭い個人能力での崩し合いとなる。もちろん静学各選手のボール扱いや身体の使い方は格段なのだが、一方で東福岡各選手の技巧やスクリーンのレベルも相当なもの。サイドの局地戦の攻防を見ているだけでおもしろかった。ここで静学にとって重要だったのは不用意な攻め急ぎを行わないこと。ブロックを固め待ち構えている東福岡守備陣に雑な縦パスを入れて奪われれば、逆襲速攻されるリスクがあるが、そのような軽率な場面は一切なかった。静学各選手の知性の高さがよく理解できた。
もちろん東福岡の前線の選手は、フィジカルが相当強い。すると、上記サイドの局地戦攻防で僅かでも東福岡が優位に立ち、いずれかの選手が前向きにプレイできれば、そこから少人数速攻が可能になる。幾度か1人から3人程度の少人数速攻で、守備人数が少ない静学陣を襲う。しかし、静学の守備選手の攻撃から守備への切替の早さもさすがで、ギリギリでシュートまでは持ち込ませない。それでも、東福岡はCK崩れから、たった1度だが決定機を掴んだのだから大したものだった。各選手の意思統一と集中力の賜物だろう。
後半30分以降。静学は猛攻をかける。これまで、徹底してサイドを突いていたのは一種の撒き餌だった。最後の勝負どころで、DFやMFが次々と中央突破の鋭い縦パスを入れる。疲労しきった東福岡DF陣は修正や反応が遅れ、静学は再三決定機を掴む。が、シュートがどうしても枠に飛ばなかった。もちろん、東福岡各選手の修正能力のすばらしかった。川口氏からすれば「試合が80分でなく90分だったら」と思ったことだろうし、平岡氏は「80分なのだから」と割り切ったのだろう。
ただ、ここで私は「割り切った」と簡単に書いたが、その決断は相当重いものだったと思う。上記したサイドの攻防を見ても、東福岡の各選手の個人能力は相当なもの。静学各選手の技巧に何ら負けるものではなかった。それでも、これだけ能力高い各選手に守備作戦を徹底させた平岡氏の指導力は相当なものだ。
その徹底した守備作戦を把握し、80分間逆襲速攻をされるような奪われ方を許さず、執拗に攻撃サッカーを継続。幾度も決定機を作る静学を指導した川口氏の手腕も言うまでもないが。
さらにPK戦もおもしろかった。両軍各選手が、PK戦を想定し相当鍛錬してきたことがよく理解できた。ほとんどの選手が、サイドネット寄りの上方を狙いすまして蹴るのだから恐れ入る。しかし、あまりの過緊張状況。静学は2回、東福岡は1回、キッカーの軸足が甘くボールはバーを超えてしまった。
もはや、ただの「運」としか言いようがない。
この両軍の攻防を堪能し、日本サッカー界のここまでの充実と、将来の発展像も色々考えたのだが、それはまた別な機会に書きたい。
まずは、ここまですばらしい試合を堪能できたこと、すべての両軍関係者に感謝したい。
2025年01月11日
2024年12月31日
2024年10大ニュース
1. アジアカップと史上最高の日本代表
米加墨W杯予選開始後の日本代表の強さは際立っている。考えてみれば、当たり前の話のように思えてくる。
全ポジションに欧州の高いレベルのクラブで常時出場している選手が揃う。そして、カタールW杯後、森保氏がしつこく選手たちに要求しているボールを奪われてからの守備。交通事故を許さない板倉滉や町田浩樹の守備個人能力の高さと谷口彰悟の経験(しかも、日本サッカー史上最高の守備者の冨安健洋が負傷離脱中!)。世界のどこに出しても自慢できる遠藤航の中盤守備と守田英正の運動量と手数の多さ。これまた世界最高の両翼と言いたくなる伊東純也と三笘薫の両翼。しっかりと守備をしながら、好機を量産する鎌田大地、久保建英、南野拓実、中村敬斗そして堂安律の妙技の数々。さらにトップに上田綺世と小川航基の成長。アジアカップ時は少々不安定だった鈴木彩艶の成長。欧州で地位を確立ている旗手怜央、古橋亨梧、菅原由勢、橋岡大樹、瀬古樹らに、ほとんど出場機会がないのだから恐れ入る。
森保氏は、多くの選手を試し、分厚い選手層を誇るチームを作ってきた。上記の通り、いずれの選手にもボールを奪われてからの守備を徹底し、ラージグループを見事に作り上げてきた。その結果、上記した技巧と判断に優れた攻撃的タレントも、常に献身的努力で守備を行うのだからすばらしい。
それでも、アジアカップでは苦杯を喫した。タイトルマッチの勝負は、様々な運不運によるものがある。しかし、イラン戦の敗戦は、単に体調不良の板倉を引っ張り交代しなかったことにあった。もちろんイランは強いチームだったが、当方が最前を尽くし損ね苦杯を喫したのだから、間抜け極まりない敗戦だった。全責任は森保氏にあった。悔しいな、今思い出しても。
また、氏の采配を見ていると、チームとして機能するメンバが一度固まると、采配が硬直化する悪癖がある。カタール予選での柴崎、カタール本大会での浅野、そして同じくカタールで行われたアジアカップでの板倉。10月埼玉の豪州戦で直前の敵地サウジ戦で疲弊した選手を引っ張り勝ち切れなかったのも類似の悪癖が要因と見るべきだろう。
加えて、2026年に年齢的にどのようにピークを迎えるバランスが取れた選手層に持ち込むのかも難しいところ。高井幸大、藤田譲瑠チマ、細谷真大らパリ五輪世代の選手を加えたいところだが、20代半ば以降の選手層が厚過ぎて、中々試す機会が作れないと言う贅沢な悩みも厄介だ。
いずれにしても、2024年のアジアカップを制覇できなかったことは、長い日本サッカー史においての痛恨事として記録されるべき残念な事件と明言しておきたい。
2.改めて最強国であることを示した女子代表
パリ五輪。女子代表はすばらしいサッカーを見せ、USA戦でもほぼ完璧な守備と変化あふれる攻撃で、あと一歩まで追い込みながら、何とも言えない不運で敗退した。2023年の豪州NZW杯に続く、痛恨の敗戦だった。
大会を通じて不運だったのは負傷者の連続。大会前に左サイドDFの遠藤純が重傷で選考外、初戦で右サイドDF清水梨沙が負傷で離脱。同ポジションの北川ひかると守屋都弥が負傷で中々体調が整わず、CBの古賀塔子やFWの宮澤ひなたや清家貴子を起用する苦しい布陣が続いた。北川と守屋が両翼を支えたナイジェリア戦とUSA戦は、すばらしいサッカーを見せてくれた。ただ2人のバックアップ不在ゆえ、USAとの延長で疲労困憊した北川が、オフサイドラインギリギリから抜け出されたロッドマンご息女に一撃を決められてしまったのだから、もうどうしようもなかった。加えて、林穂之香も大会序盤には間に合わず将軍長谷川唯を常時中盤後方で使わざる得なくなったこと。そして、澤穂希感を漂わせている藤野あおばも体調不良でフル出場できなかったのみならず、あのブラジル戦の終盤、PK奪取と鮮やかなダイレクトミドルシュートを決めた谷川萌々子もその後使えなかった。
これらのコンディショニングを含めての勝負ゆえ、敗戦は受け入れなければならないが、ベストメンバが組めれば十分世界一を再現できそうなチームだっただけに残念。それがサッカーなのかもしれないが。13年前に世界一となった以降、欧州各国の強化が進んだこともあり、世界一の奪還は容易なことではない。しかし、これだけのタレントが揃っているだけに、近い将来への期待は大きい。初めての外国人監督の下、短期的成果を期待したい。
もっとも、観客動員が思うように進まないWEリーグや、中学高校の受皿不足などの、女子サッカーの本質強化については、少しずつの改善は見られるが、決定的な解決策が見出せない悩みも大きいのだが。
3.ヴィッセル神戸の2冠と2連覇
J1は終盤、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの3強が覇を競ったが、終盤戦での安定感でヴィッセルが逃げ切った。前川薫也、マテウス・トゥーレル、山川哲史、酒井高徳、扇原貴宏、井手口陽介による安定した守備(山口蛍や齋藤未月の負傷離脱がダメージとならなかった選手層の厚さとも言い換えられる)、大迫勇也、武藤嘉紀、宮代大聖、佐々木大樹らが並ぶ強力攻撃陣。潤沢な資金で集めた元日本代表選手や比較的無名だったタレントを厳しく鍛え抜いた吉田孝行監督の手腕もすばらしい。
天皇杯でも、丹念に勝ち抜いた神戸が、決勝でガンバ大阪を下し2冠を達成。決勝は重苦しいタイトルマッチ決勝らしい試合となったが、すばらしい守備を見せていたガンバの大黒柱中谷進之介が、90分間でたったの1回神戸佐々木に出し抜かれた場面で、大迫が美しいターンからのラストパスを通して勝負を決めた。今シーズン鮮やかなプレイを見せていた宇佐美貴史が負傷で決勝に出場できなかったガンバは非常に不運ではあったけれど。
2004年に神戸出身の三木谷浩史氏が個人オーナとしてチームを支え、2014年から楽天の子会社となったヴィッセル。まあ、過去は色々野次馬にとっては楽しいチーム作りが行われたこともあったが、ここに来て安定した資金力と適切な強化が両立した見事なチーム作りを見せてくれるようになったと言うことか。
元々、神戸は歴史的なサッカーどころ。潤沢な資金力と併せ、日本いやアジアのサッカー界を牽引する期待は大きい。
4.スペインと互角に中盤戦を演じた五輪
パリ五輪の男子の敗戦も、また悔しいものだった。そして、ものすごく悔しい中でほんの少し嬉しかったのは、0-3での苦杯ではあったが、スペインとほぼ同等のボール保持戦を演じ、決定機数もほぼ同じ。西欧の強豪国と世界大会で互角の試合内容だったと言う意味では、歴史的な試合だったとも言える。カタールW杯や東京五輪では、ボール保持に拘泥せず最終ライン勝負に持ち込んで勝ち切ったのだから。
この五輪チームは、アジア予選で幾多の危機をしのぎ(1次ラウンドの中国戦はDF西尾の軽率な退場、早期韓国戦でセットプレイ対応ミスで敗戦など)、粘り強く予選を勝ち抜いた。さらに本大会1次ラウンドでも、失点リスクを少なくしながら慎重に戦う、いわゆる「タイトルマッチ向き」の戦いを実演。堅実に勝ち進んでくれたのだが。すばらしいチームだったことを忘れないようにしたい。
また、この五輪は予選を含めて印象的な事案が多かった。
まず韓国の本大会出場失敗。この隣国は、1986年メキシコW杯予選で我々を破った以降、W杯は10回、五輪は9回、それぞれ連続出場していたのが途切れたけだ。しかも、連続出場を阻止したのは、韓国人監督申台龍が率いた進境著しい東南アジアの雄インドネシア。一つの事件だった。
1次ラウンド最終戦でイスラエルに完勝したのも、我々年寄りには感慨深かった。1970年代イスラエルはアジア連盟に加盟しており、世界大会予選で幾度も完敗を喫していた。当時、イスラエルは韓国よりも高い壁だったのだ。そのイスラエルに対し、既に2連勝で準々決勝進出を決めていた日本は、勝たなければならないイスラエルを冷静にいなし、終盤決勝点を奪う完勝。正に半世紀における日本サッカー界の向上を示す試合となった。
スペイン戦での細谷の幻の同点弾も忘れ難い。画像処理技術によるオフサイド判定は、最新技術適用の一つの成果だが、あの場面は「オフサイドの趣旨:敵陣での待ち伏せ攻撃」でも何でもないものだっただけに、理不尽さは格段だった。現状のルール下では、オフサイドとなったのはしかたがないこと。しかし、あの細谷のオフサイドは、今後のサッカールールの変更のきっかけとなるのではないか。
5.広島と長崎の新スタジアム
広島、長崎に、新しい発想の球技専用スタジアムが作られた。トラックがなく屋根も備えられているので、サッカーを見やすいのは当然のこと、さらにいずれも市の中心部に位置し交通の利便性も格段。しかし、この両競技場の特質はそれだけではない。
広島は自治体が、長崎は民間企業が、それぞれ設立主体だが、両競技場とも試合のない日も様々な娯楽が楽しめる施設を具備している。そのため、観客動員増はもちろん、サッカー以外でも多くの人々が楽しむ場となっていると言う。私も先日のJ1昇格プレイオフで長崎スタジアムシティを訪ねたが、試合観戦とは別に買物や宿泊を楽しむ人々も受け入れ可能な環境に感心した。さらに、試合がない日はスタンドが開放され、競技場そのものが遊戯場となる発想も見事なものだ。
まだ、一部のJクラブの本拠地は、市の中心街から遠く、駐車場からの脱出に時間がかかり、屋根がなく、陸上トラックの湾曲部の外側では真っ当に試合展開が見えない。そう言った悲しいスタジアムからの脱却を改めて考える必要があるだろう。この2都市の成功事例を、多くのJクラブも学びたいものだ。
また、競技場とスポーツの連携というと、やはりプロ野球のファイターズやイーグルスが参考となる。両チームとも地域自治体に相当な負担をしてもらいながら、野球という娯楽と関連の集客で地域に大きな還元を行っている成功例だ。もっともファイターズについては、その前に使っていた競技場との関係が微妙で、それはJリーグにも絡む話なのだが。我々サッカー界も、この野球の両球団のように、少々図々しく(笑)地域の税金を活用させていただく発想も学ぶ必要があるかもしれない。このあたりは、地域に根ざすスポーツクラブが集まって欧州や南米で自然発生的に育ってきたサッカーの世界と、独占ビジネス権を各都市に販売することで発達してきた野球に代表される北米のスポーツの考え方の違いもあるのだが、まあそれはそれ。
残念ながら2024年は世界平和と言う視点では芳しい年ではなかった。しかし、奇しくも80年前に第二次世界大戦で極端な被害に遭った両都市が、平和の象徴とも言うべきスポーツの世界で、新しい成功事例を積み上げたことを記憶しておきたい。
6.町田ゼルビア黒田監督の舌禍
観戦しやすく便利な競技場の話題となったところで、残念ながらそれとは対照的な競技場に悩む町田ゼルビア。J1へ初昇格し、潤沢な資金力を活かし、堂々と優勝争いにからみ、見事な成績を収めた。改めて拍手を送りたい。
ところが、このクラブについては、他クラブ関係者から色々非難される事態となってしまった。曰く、ロングスローがけしからん、時間稼ぎが目に余る、どうしたこうした…まず、ロングスローも時間稼ぎもルール上認められていることで、それで非難されるのはおかしなことだ。また、話題になった敵にPK時にボールに水をかける行為だが、これもルール上は問題ないこと。ただ、PKはサッカーの中でも非常に特殊な状況ゆえ、キッカーとGK双方がプレイしやすい環境準備は、広義の主審の仕事の一つなので、状況によっては主審の何がしかの干渉はあってもよいだろう。これら一連の活動はそれだけのことだと思っている。
しかし、事態を混乱させたのは、やはり黒田監督の舌禍だろう。これは黒田氏の経歴、高校サッカーの名将だったことの影響だったと思う。高校サッカーと言うのは少々特殊な社会でプロサッカーチームとは異なる環境におかれている。取材者も相手を慮り、監督の発言にも適切なフィルタリングを行う伝統がある。黒田氏は、そこを勘違いし言葉の選択や発言趣旨が不適切となり、プロサッカーの取材者におもしろおかしく切り取られてしまったと言うことに尽きるのではないか。
ともあれ、町田の戦績、黒田氏の手腕がすばらしかったことは間違いない。ただし、あの競技場の不便さと見づらさはどうしようないけれど。
7.J3からの降格
2014年にJ3が結成され、全校リーグがJFLと合わせて4部制になって初めて、J3からJFLに降格するクラブが登場することになった。従来は、スタジアムなどの昇格要件を満たしJFLで好成績を残したクラブがJ3に昇格できるレギュレーションだったが、とうとうJ3のクラブ数が増え、降格クラブが登場することとなった。プロフェッショナルを志向するサッカークラブが順調に増えていると、素直に喜びたい(降格の当事者の方々は大変だろうけれど)。日本中津々浦々にプロフェッショナリズムを導入したクラブがあり、各地域のサッカーをリードしていくことが、W杯制覇のためには必須事項だと思うからだ。
一方で、前々項でも述べたが、もう少し競技場への要件は厳しくしてもよいような気もしてくる。ただそれを厳しくすることは普及の妨げになりかねない。難しいものだ。
8.首都圏クラブの充実とファジアーノ岡山のJ1初昇格
上記した町田ゼルビアのみならず、12年ぶりにJ1に復帰した東京ヴェルディもJ1で6位と上々の成績を収めた。来シーズンのJ1陣容は、首都圏9、関西圏4、名古屋圏1、その他6と言う配分となった。即断は禁物だが、ここ数シーズンの傾向として首都圏のクラブ数が少しずつ増えている。これは当該クラブの努力が最大要因だが、首都圏(言い換えると大東京圏)と言うベネフィットを活かし、大規模なスポンサー獲得が容易と言う外的要因もある。ゼルビアの大躍進は、その顕れと言っても過言ではかなろう。
特に24年シーズンは、Jリーグ当局が首都圏クラブを中心に、国立競技場開催などのキャンペーンを行ったのも影響したかもしれない。
一方で首都圏クラブは、地方都市クラブと比較して、地方TV局や地域新聞などの露出が少ないと言うハンディキャップも抱える。また、2025年にはファジアーノ岡山が20余年の歴史でとうとうJ1昇格にこぎつけた。これは、地方のクラブでも健全な経営を行い、適切な強化を継続すれば成功すると言う格好の事例だろう。前項のJ3からの降格と合わせ、日本サッカー界の充実は着実に進んでいる。
9.中東サッカー界とのかかわり
過去5回のアジアカップ開催地は、東南アジア4国:1、豪州:1、UAE:1、カタール:2。そして次回はサウジアラビア。W杯も2022年カタールに続き、2034年のサウジアラビア開催が決定した。ほとんどのタイトルマッチが、いわゆるアラビア半島の産油国で行われている。これだけ広いアジアなのだ。もっとバランスよく各国で行われることが健全と考えるのは私だけではないだろう。
加えて、サウジアラビアはオイルマネーを駆使した公的基金で世界中のトッププレイヤを同国リーグにかき集めている。結果的にサウジアラビア代表の弱体化が言われているが、元々大して強い国ではないので(笑)それは問題ないが、残念ながら観客動員も知れたものとのことだ。世界中のトッププレイヤが盛り上がらない競技場で戦うことが、果たしてよいことなのだろうか。
またカタールが帰化選手や、少数選手を今風の指導で鍛えて、W杯で惨敗したのも記憶に新しい。このカタール惨敗は、我々日本代表がアジアカップでちゃんとカタールを叩きのめして、「サッカーとはこう言うものだ」としっかり指導すべきだったのだから、当方の責任なのかもしれないが。
何を言いたいかと言うと、これらの中東オイルマネーが世界のサッカー界の生態系を崩していることが健全とは思えないと言うことだ。アジアのサッカー界のバランスは完全に崩れてしまっている。別に彼らと対立する必要はないが、このままでよいのかは考え続ける必要があるのではないか。「いやあ、あの強烈なキャッシュ攻勢ですからね、どうしようもありません」と、言ってしまえばそれまでなのですが。
10.賀川浩氏逝去
尊敬してやまない恩師が亡くなりました。齢99歳。ご冥福を祈ります。
若い頃、暗記するまで読み込んだサッカーマガジンのコラム。ボール扱いとそれをどのように使うべきかと言う判断。W杯本大会のクライフやベッケンバウアの妙技や、日本リーグでの釜本邦茂や彼を止めようとする守備者との駆け引き、それらを中学生、高校生だった私たちにわかりやすく解説し、明日の練習への目標を提示してくださいました。
自分のプレイ、子供への指導、そしてサッカー観戦すべてに参考となる言葉の一つ一つが、どれほど自分の血となり肉となったことでしょうか。
長じてから直接お会いした折の薫陶の数々。釜本のボール扱いやキックにインパクトを例にとり、今の選手たちの長所短所を、澱みなく語っていただきました。森島寛晃のゴール前への飛び込みについて「トップスピードでゴール前に入り、一泊置いて、さらに再加速するじゃないですか」と私が語った際に、「そりゃ、いいところに目を付けはったな」と褒められたのは一生の宝物です。「なぜカズの前だけにボールがこぼれるのか」を語り合ったのも最高でした。最後は「まあ、運やな」ともおっしゃっていましたが。
人類が産んだ最高の玩具であるサッカーの楽しみ方と文章化を具体的に教授下さった大先輩でした。
恩返しのために、もっともっと一生を費やしてサッカーを楽んでいきます。ありがとうございました。
2024年ベストイレブン
恒例のベストイレブンです。アジアカップ制覇できなかったことの不快感を表したつもりです(笑)。だから、彩艶、板倉、三笘、久保、堂安、南野は選んでません。冨安も負傷でW杯予選出ていないから不合格(笑)。結果的に国内でプレイするベテランが目立つな。
GK 小久保ブライアン
あの五輪予選決勝のウズベキスタン戦のPKストップに。
DF 酒井高徳
ヴィッセルの試合を見ていると、右DFの酒井は敵左サイドの選手に幾度か突破されかけピンチを招く。しかし失点しない。90分過ぎると、結局右サイドは崩されていない。若い頃は、能力は高いが肝心のところで今一歩感があったのだが。ヴィッセルの2連覇、2冠を文字通り支えたのは酒井だった。
DF 中谷進之介
Jリーグ日本人最高のDFだと思っている。天皇杯決勝でもすばらしい守備を見せていたが、たった1回だけヴィッセル佐々木の巧みなスクリーンを止められなかった場面で、大迫にしてやられたのは、悔しかったろうな。代表でもプレイしてもらいたいと思うのは私だけだろうか。
DF町田浩樹
この1年間の成長を讃えたい。W杯予選での1対1対応の強さには恐れ入った。加えて、左足の精度と不器用そうな持ち上がりもすばらしい。アジアカップ時には上記プレイそれぞれが結構怪しかったのだが、格段に成長してくれた。
DF 佐々木翔
プレイを見ていると、本当に35歳なのか不思議になる。落ち着いた守備対応(これは年齢相応か)、丁寧なフィード(これも経験のなせる技か)、走るべき時に走り切れる脚力(これが驚異なのだ)。少なくとも今シーズンのJリーグを見ていた限りでは、この人を選ばないわけにはいかない。
DF大畑歩夢
ある意味で予選を含めたパリ五輪で最も輝いたタレント。持ち上がった時の攻撃の有効性は言うまでもないが、特筆したいのは守備の安定感。同サイドからの敵突破を粘り強く止めるのも見事だが、170cmに満たない小柄にもかかわらず逆サイドからのクロスへの対応がすばらしい。
MF 扇原貴宏
ロンドン五輪世代で、最も才能あふれるタレントとも期待されたMFが、多くのクラブで経験を積み何とも有効な選手となった。若い頃から期待されていたパスの精度とタイミングに加え、敵速攻を読み切る位置取りの巧みさからのボール奪取がすばらしい。
MF 守田英正
日本代表の大黒柱。
MF 鎌田大地
三笘も久保も堂安も南野も、皆自分のペースでプレイしている(それはそれで否定しないけれど)。鎌田だけが他の選手を活かそうとしている。
FW 伊東純也
日本サッカー史上最高のFW。3DFのウィングバックではなく、4DFの純粋なウィングとして使って欲しい。
FW 上田綺世
トップに位置しての動き直しの頻度。敵DFの隙を突いてのターン。前を向いた瞬間の低い弾道のシュート。もっともっと独善的プレイをしてください。
GK 小久保ブライアン
あの五輪予選決勝のウズベキスタン戦のPKストップに。
DF 酒井高徳
ヴィッセルの試合を見ていると、右DFの酒井は敵左サイドの選手に幾度か突破されかけピンチを招く。しかし失点しない。90分過ぎると、結局右サイドは崩されていない。若い頃は、能力は高いが肝心のところで今一歩感があったのだが。ヴィッセルの2連覇、2冠を文字通り支えたのは酒井だった。
DF 中谷進之介
Jリーグ日本人最高のDFだと思っている。天皇杯決勝でもすばらしい守備を見せていたが、たった1回だけヴィッセル佐々木の巧みなスクリーンを止められなかった場面で、大迫にしてやられたのは、悔しかったろうな。代表でもプレイしてもらいたいと思うのは私だけだろうか。
DF町田浩樹
この1年間の成長を讃えたい。W杯予選での1対1対応の強さには恐れ入った。加えて、左足の精度と不器用そうな持ち上がりもすばらしい。アジアカップ時には上記プレイそれぞれが結構怪しかったのだが、格段に成長してくれた。
DF 佐々木翔
プレイを見ていると、本当に35歳なのか不思議になる。落ち着いた守備対応(これは年齢相応か)、丁寧なフィード(これも経験のなせる技か)、走るべき時に走り切れる脚力(これが驚異なのだ)。少なくとも今シーズンのJリーグを見ていた限りでは、この人を選ばないわけにはいかない。
DF大畑歩夢
ある意味で予選を含めたパリ五輪で最も輝いたタレント。持ち上がった時の攻撃の有効性は言うまでもないが、特筆したいのは守備の安定感。同サイドからの敵突破を粘り強く止めるのも見事だが、170cmに満たない小柄にもかかわらず逆サイドからのクロスへの対応がすばらしい。
MF 扇原貴宏
ロンドン五輪世代で、最も才能あふれるタレントとも期待されたMFが、多くのクラブで経験を積み何とも有効な選手となった。若い頃から期待されていたパスの精度とタイミングに加え、敵速攻を読み切る位置取りの巧みさからのボール奪取がすばらしい。
MF 守田英正
日本代表の大黒柱。
MF 鎌田大地
三笘も久保も堂安も南野も、皆自分のペースでプレイしている(それはそれで否定しないけれど)。鎌田だけが他の選手を活かそうとしている。
FW 伊東純也
日本サッカー史上最高のFW。3DFのウィングバックではなく、4DFの純粋なウィングとして使って欲しい。
FW 上田綺世
トップに位置しての動き直しの頻度。敵DFの隙を突いてのターン。前を向いた瞬間の低い弾道のシュート。もっともっと独善的プレイをしてください。
2024年04月14日
ベガルタ仙台30年の軌跡、執筆顛末
設立30周年を迎えた我がベガルタ仙台。特設サイトが作られ、「30年間の戦いとその舞台裏をみてきた関係者がそれぞれの視点で綴る『ベガルタ仙台 30年の軌跡』」と言う企画の第一弾を、不肖講釈師が担当。怪しげな雑文を書かせていただいた。
本件依頼を受けた時は本当に嬉しかった。愛するクラブの公式WEBサイトで、歴史を語らせていただけるのだから。
とは言え。
30年の歴史を短い文章、約5,000字でどうまとめたらよいのだろうか。
まず、編年体風にクラブの歴史を描写することを考えた。
「1980年代後半、ベガルタ仙台の前身の東北電力は…本格強化を始め…宮城県出身の大学生を中心に…」
「1993年にJリーグが開幕し、仙台にもプロサッカーチームをとの機運が高まり…ブランメル仙台と…」
「1994年の全国地域リーグ決勝大会で優勝し、JFL昇格を決め…」
上記のようなクラブ史の節目に、下記のような講釈を加えていけばよいか
「短期的なJリーグ昇格を目指したこともあり、Jリーグクラブから多くの優秀な選手を獲得し…」
「地下鉄終点駅近傍に球技用競技場を建築することも…」
「鈴木淳、リトバルスキ、オルデネビッツ、越後和男、ドゥバイッチ…」
「経営不振を考慮し、地元出身の高卒の優秀な選手を…千葉直樹や中島浩司がその典型…」
などと構成を考え始めた。しかし、私の文章の常だが、議論は必ず脱線方向に進む。
「当時のブランメルに限ったことではないが…即効的に強化を図ったクラブは、強引な選手加入で、チームそのものが混乱するのみならず…巨額の負債を抱えてしまい…」
「一方で東北新幹線開通に伴い、中央資本が大量に仙台界隈に流れてきた経緯から…知事と市長が逮捕されると言う前代未聞の…」
「考えてみれば、リトバルスキは1FCケルンで、オルデネビッツはブレーメンで、越後和男は古河電工で、日本人欧州プロ第1号の奥寺康彦とチームメートであり…」
そうなってしまうと、
「清水秀彦氏のチーム改革…マルコスの大奮闘もあり…感動のJ1昇格を決め…」
と書くあたりで、既定文字数を遥かに超えてしまいそうなことに気がついた。いや、脱線せずに重要なエピソードに触れていくだけでも、文字数越えが起こりそうだ。これでは30年史ではなく、10年史になってしまう(笑)。
と言ってですよ。
では文章を圧縮し、ただただ歴史的な流れを追えばよいのか。いや、私の責務は違うな(笑)。やはり、どうでもよいことを、ネチネチ・クドクドを語りながら、愛するクラブの歴史を語る必要がある。何がしかの講釈は必要だろう、脱線は身を律して防ぐようにする必要はあろうけれど。
そうなると、重要なことはクラブ史の節目を厳選し適切することだ。ところが、これは意外に難しい。例えば
「前の監督に1億円の違約金を払っても、呼びたかった元日本代表監督が、算数ができなくて入替戦出場を逃した」
と言うエピソードは、クラブ史に残る事件だとは思うが、講釈を垂れ始めると相当な情報量となる
「その元日本代表氏は若くして代表のレギュラーだったが、一時は自クラブでも定位置を失い、30過ぎてから代表の定位置を奪い返した、そして…」
と言った美しい褒め言葉はよいのだろうが、
「しかしその元日本代表氏が就任時に連れてきた新卒選手が…リーグ終盤に抜擢した20歳の若手選手が…そう考えると元日本代表氏には『感謝の言葉を…』、いや冗談じゃねえよ…」
と言った講釈を垂れないと文章としては完結しない(笑)。そうなると止まらないですよね。
「違約金監督氏は、日本でも相当な実績を持つ学究肌だったが…後年別クラブで相当な実績を挙げながら更迭されると言う不思議な…」
「後日、元日本代表氏は本事案についてのインタビューで、自分が算数ができないが故の失敗を理解できていないことが判明…」
と言った本格的脱線も起こしそうになってしまうし(笑)。
そう考えると、監督について言及して歴史を編むのも一案かと考えた。
「初代監督の鈴木武一氏は、塩竈一中、仙台二高を経て読売クラブで活躍した名手で…」
「チーム成績はもちろんクラブの経営が低調なタイミングで就任した清水秀彦氏は…各選手にプロとしての厳しさを叩き込むと共に…」
「あと一歩で入替戦出場に迫った前監督望月達也氏の下、コーチを務めていた手倉森誠氏は…取材陣に明るく東北弁で語りかけることで…遂には梁勇基を軸としたチームでACL出場を果たしてくれた…中でもユアテックでFCソウルに完勝した試合は…」
「2014年シーズン序盤前任の豪州人監督を引き継いだ渡邉晋氏は、まずは伝統の堅守を復活させた上…次第にチームのレベルアップを行い…チーム全体でボール保持を行う攻撃的サッカーを完成…2018年シーズンには天皇杯決勝まで…」
と言う基軸でまとめればよいかと考えたのだが。ここで、ついつい脱線したがる自分がいる(笑)。
「鈴木武一氏と中学、高校、読売クラブとチームメートだった加藤久氏は、1980年代半ば日本代表の主将を務めた、日本サッカー界のレジェンドオブレジェンド…加藤氏は日本協会協会委員長としても辣腕を振るったが代表監督選考問題で日本協会を追われ…」
「清水秀彦氏はまだ関西で行われていた1972-73年シーズンの高校選手権決勝、浦和市立高校のCFとして…法政大で活躍した後、新興チームの日産(現横浜マリノス)に加入後は…冷静な守備的MFとしてこの強豪を…」
「手倉森誠氏は双子の兄弟浩氏と共に…1985-86年シーズンの高校選手権の清水商業戦…故真田雅則氏、江尻篤彦氏らがいた…鮮やかな直接FKを決め、直後のアジアユース大会では井原正巳や中山雅史と共に…住友金属(現鹿島アントラーズ)では…」
「渡邉晋氏は、桐蔭学園出身。当時の桐蔭学園は李国秀氏の指導の下、知性を発揮する選手が多く…渡邉晋氏の他にも…例えば長谷部茂利氏は…」
「ベガルタでは何の実績も残せなかったアーノルド氏だが…プレイヤとしてサンフレッチェでは…日本サッカー史上最高の『ジョホールバルの歓喜』直後のイラン対豪州戦では…2022年W杯で豪州を率い、実に粘り強い戦いで2次ラウンド進出を…」
などと考えると、どうにもまとまらないのだよね(笑)。
清水氏にも、手倉森氏にも、渡邉晋氏にも、ただただ感謝の言葉を捧げたいのだが…
そうなると、やはり選手を讃えることが最適と思い立った。私たちに彼らが見せてくれたバトルこそ、私たちの30年の歴史なのだから。そのような迷走を経て決断しました。決断することは捨てること。自分の中で迷走を重ねて作り上げた結論が以下となった次第。そのような思いで文章をまとめたものです。
(1) 千葉直樹、菅井直樹、富田晋伍、そして梁勇基を讃える。
(2) 一方で「忘れられない場面」を語る(例えば、ウイルソンとイルマトフ氏の出会いの悲劇)
(3) 目立たないが、感謝の言葉を捧げたい選手を讃える(典型例は木谷とフォギーニョ)
(4) 黎明期に貢献してくれた大スター(鈴木淳と越後和男)には言及する
しかしながら、後悔の思いは多い。言及できなかったスターたちについて、もっともっと語りたかった。ドゥバイッチ、シルビーニョ、岩本テル、佐藤寿人、磯崎敬太、萬代宏樹、林卓人、鎌田次郎、角田誠、赤嶺慎吾、石川直樹、ハモンロペス、三田啓貴、渡部博文、島尾摩天、奥埜博亮、西村拓真、永戸勝也、椎橋慧也、石原直樹、そして何より平岡康裕。いや、もっと感謝の言葉を捧げるべきスターはいくらでも。このようなスター選手たちに、幾度感謝の言葉を捧げたことか。でも、彼らは職業人として自らの市場価値を最大限にするために、ベガルタに貢献し、そして去っていった。そう言うことなのだ。
今回、ベガルタ30周年と言うお祭りに参加させていただき、相応の文章は書きました。でも、もっともっと書くべきことは残っている、いやこれからも増えていく、改めて、そのような思いを強く感じた次第です。
昨日の山形戦の完勝についても、いくらでも語るべきことはあるのだしね。
これからも、愛する故郷のクラブについて、皆さんと語り合えること、それが最高なのですよ。
ベガルタ仙台。
ありがとうございます。
本件依頼を受けた時は本当に嬉しかった。愛するクラブの公式WEBサイトで、歴史を語らせていただけるのだから。
とは言え。
30年の歴史を短い文章、約5,000字でどうまとめたらよいのだろうか。
まず、編年体風にクラブの歴史を描写することを考えた。
「1980年代後半、ベガルタ仙台の前身の東北電力は…本格強化を始め…宮城県出身の大学生を中心に…」
「1993年にJリーグが開幕し、仙台にもプロサッカーチームをとの機運が高まり…ブランメル仙台と…」
「1994年の全国地域リーグ決勝大会で優勝し、JFL昇格を決め…」
上記のようなクラブ史の節目に、下記のような講釈を加えていけばよいか
「短期的なJリーグ昇格を目指したこともあり、Jリーグクラブから多くの優秀な選手を獲得し…」
「地下鉄終点駅近傍に球技用競技場を建築することも…」
「鈴木淳、リトバルスキ、オルデネビッツ、越後和男、ドゥバイッチ…」
「経営不振を考慮し、地元出身の高卒の優秀な選手を…千葉直樹や中島浩司がその典型…」
などと構成を考え始めた。しかし、私の文章の常だが、議論は必ず脱線方向に進む。
「当時のブランメルに限ったことではないが…即効的に強化を図ったクラブは、強引な選手加入で、チームそのものが混乱するのみならず…巨額の負債を抱えてしまい…」
「一方で東北新幹線開通に伴い、中央資本が大量に仙台界隈に流れてきた経緯から…知事と市長が逮捕されると言う前代未聞の…」
「考えてみれば、リトバルスキは1FCケルンで、オルデネビッツはブレーメンで、越後和男は古河電工で、日本人欧州プロ第1号の奥寺康彦とチームメートであり…」
そうなってしまうと、
「清水秀彦氏のチーム改革…マルコスの大奮闘もあり…感動のJ1昇格を決め…」
と書くあたりで、既定文字数を遥かに超えてしまいそうなことに気がついた。いや、脱線せずに重要なエピソードに触れていくだけでも、文字数越えが起こりそうだ。これでは30年史ではなく、10年史になってしまう(笑)。
と言ってですよ。
では文章を圧縮し、ただただ歴史的な流れを追えばよいのか。いや、私の責務は違うな(笑)。やはり、どうでもよいことを、ネチネチ・クドクドを語りながら、愛するクラブの歴史を語る必要がある。何がしかの講釈は必要だろう、脱線は身を律して防ぐようにする必要はあろうけれど。
そうなると、重要なことはクラブ史の節目を厳選し適切することだ。ところが、これは意外に難しい。例えば
「前の監督に1億円の違約金を払っても、呼びたかった元日本代表監督が、算数ができなくて入替戦出場を逃した」
と言うエピソードは、クラブ史に残る事件だとは思うが、講釈を垂れ始めると相当な情報量となる
「その元日本代表氏は若くして代表のレギュラーだったが、一時は自クラブでも定位置を失い、30過ぎてから代表の定位置を奪い返した、そして…」
と言った美しい褒め言葉はよいのだろうが、
「しかしその元日本代表氏が就任時に連れてきた新卒選手が…リーグ終盤に抜擢した20歳の若手選手が…そう考えると元日本代表氏には『感謝の言葉を…』、いや冗談じゃねえよ…」
と言った講釈を垂れないと文章としては完結しない(笑)。そうなると止まらないですよね。
「違約金監督氏は、日本でも相当な実績を持つ学究肌だったが…後年別クラブで相当な実績を挙げながら更迭されると言う不思議な…」
「後日、元日本代表氏は本事案についてのインタビューで、自分が算数ができないが故の失敗を理解できていないことが判明…」
と言った本格的脱線も起こしそうになってしまうし(笑)。
そう考えると、監督について言及して歴史を編むのも一案かと考えた。
「初代監督の鈴木武一氏は、塩竈一中、仙台二高を経て読売クラブで活躍した名手で…」
「チーム成績はもちろんクラブの経営が低調なタイミングで就任した清水秀彦氏は…各選手にプロとしての厳しさを叩き込むと共に…」
「あと一歩で入替戦出場に迫った前監督望月達也氏の下、コーチを務めていた手倉森誠氏は…取材陣に明るく東北弁で語りかけることで…遂には梁勇基を軸としたチームでACL出場を果たしてくれた…中でもユアテックでFCソウルに完勝した試合は…」
「2014年シーズン序盤前任の豪州人監督を引き継いだ渡邉晋氏は、まずは伝統の堅守を復活させた上…次第にチームのレベルアップを行い…チーム全体でボール保持を行う攻撃的サッカーを完成…2018年シーズンには天皇杯決勝まで…」
と言う基軸でまとめればよいかと考えたのだが。ここで、ついつい脱線したがる自分がいる(笑)。
「鈴木武一氏と中学、高校、読売クラブとチームメートだった加藤久氏は、1980年代半ば日本代表の主将を務めた、日本サッカー界のレジェンドオブレジェンド…加藤氏は日本協会協会委員長としても辣腕を振るったが代表監督選考問題で日本協会を追われ…」
「清水秀彦氏はまだ関西で行われていた1972-73年シーズンの高校選手権決勝、浦和市立高校のCFとして…法政大で活躍した後、新興チームの日産(現横浜マリノス)に加入後は…冷静な守備的MFとしてこの強豪を…」
「手倉森誠氏は双子の兄弟浩氏と共に…1985-86年シーズンの高校選手権の清水商業戦…故真田雅則氏、江尻篤彦氏らがいた…鮮やかな直接FKを決め、直後のアジアユース大会では井原正巳や中山雅史と共に…住友金属(現鹿島アントラーズ)では…」
「渡邉晋氏は、桐蔭学園出身。当時の桐蔭学園は李国秀氏の指導の下、知性を発揮する選手が多く…渡邉晋氏の他にも…例えば長谷部茂利氏は…」
「ベガルタでは何の実績も残せなかったアーノルド氏だが…プレイヤとしてサンフレッチェでは…日本サッカー史上最高の『ジョホールバルの歓喜』直後のイラン対豪州戦では…2022年W杯で豪州を率い、実に粘り強い戦いで2次ラウンド進出を…」
などと考えると、どうにもまとまらないのだよね(笑)。
清水氏にも、手倉森氏にも、渡邉晋氏にも、ただただ感謝の言葉を捧げたいのだが…
そうなると、やはり選手を讃えることが最適と思い立った。私たちに彼らが見せてくれたバトルこそ、私たちの30年の歴史なのだから。そのような迷走を経て決断しました。決断することは捨てること。自分の中で迷走を重ねて作り上げた結論が以下となった次第。そのような思いで文章をまとめたものです。
(1) 千葉直樹、菅井直樹、富田晋伍、そして梁勇基を讃える。
(2) 一方で「忘れられない場面」を語る(例えば、ウイルソンとイルマトフ氏の出会いの悲劇)
(3) 目立たないが、感謝の言葉を捧げたい選手を讃える(典型例は木谷とフォギーニョ)
(4) 黎明期に貢献してくれた大スター(鈴木淳と越後和男)には言及する
しかしながら、後悔の思いは多い。言及できなかったスターたちについて、もっともっと語りたかった。ドゥバイッチ、シルビーニョ、岩本テル、佐藤寿人、磯崎敬太、萬代宏樹、林卓人、鎌田次郎、角田誠、赤嶺慎吾、石川直樹、ハモンロペス、三田啓貴、渡部博文、島尾摩天、奥埜博亮、西村拓真、永戸勝也、椎橋慧也、石原直樹、そして何より平岡康裕。いや、もっと感謝の言葉を捧げるべきスターはいくらでも。このようなスター選手たちに、幾度感謝の言葉を捧げたことか。でも、彼らは職業人として自らの市場価値を最大限にするために、ベガルタに貢献し、そして去っていった。そう言うことなのだ。
今回、ベガルタ30周年と言うお祭りに参加させていただき、相応の文章は書きました。でも、もっともっと書くべきことは残っている、いやこれからも増えていく、改めて、そのような思いを強く感じた次第です。
昨日の山形戦の完勝についても、いくらでも語るべきことはあるのだしね。
これからも、愛する故郷のクラブについて、皆さんと語り合えること、それが最高なのですよ。
ベガルタ仙台。
ありがとうございます。
2024年02月14日
アジアカップ2024、ただの愚痴です
ドーハの屈辱。
しかし、「屈辱」って、考えてみれば、随分な態度だと思う。だってイランですよ、イラン。32年前の超苦戦とカズの「魂込めた」一撃。31年前のドーハの痛恨。もちろん、人生最高の歓喜を味わったあのジョホールバル。アリ・ダエイやアジジやマハダビキアを筆頭とする尊敬すべき忌々しい名手たち。そして、今回のアズムンやジャハンバクシュらも彼らの系譜を継いでいた。
2005年のドイツ大会予選で苦杯を喫した、あのアザディスタジアムの大熱狂、ペルセポリスや多くの博物館で楽しんだペルシャ帝国時代からの歴史の重み。そのイランにアディショナルタイムにやられて「屈辱」と語る姿勢、そのものが不遜に思えてくる。たとえ、私たちの目標がワールドカップ制覇だとしても。
個人的にもすごく反省のある大会。アジア制覇は当然と考え、決勝あるいは準決勝以降は現地に行く計画だった。早々にアポイントを入れ、万が一早期敗退したらキャンセル料払うつもりで。ところが、情けないことに諸事情からその休暇調整がうまく行かなかった。もう、人生の目的と手段を誤り続けた情けなさの集大成感(笑)。このような情けなさが、今回の主要敗因ではないかと自惚れるサポータ心理と合わせて。
伊東純也の離脱については論評のしようがない。ただ、戦闘能力が大きく下がったのみならず、現場の森保氏以下が精神的にダメージを受けたのは間違いなかろう。ここ最近の伊東は日本代表史上最高のFWと言っても過言ではない存在感だったのだから。加えて、離脱するしないと状況が二転三転したとの報道があったが、もしその報道が正しいのだとしたら、日本協会首脳の情けなさには失望しかない。
特に田嶋幸三会長、この方はサッカーの意思決定が下手くそなことは皆が知るところだった。しかし、今回の事案で組織のトップとしても無能なことが判明した。本人の能力もそうだが、周囲に適切な助言をできる人も不在と言うことだな。もっとも、人材派遣会社の総務部門で活躍し、この手のことにかけてプロ中のプロの人が、比較的最近までは日本協会首脳にいたはずなのだが。
まず強調したいのは、イラン線の前半は、日本にとっては笑いがとまらない結果だったことだ。
イランは前半から強引に攻めかけきたが、冨安健洋を軸に危ない場面はほとんど作らせない。先方が前に前に出てくれば久保建英へのマークが曖昧になり、当方の速攻が機能する。もちろん、イランの最終ラインも強いから、そう簡単には得点は奪えないけれども。
しかし、そうこうしているうちに守田英正が鮮やかに先制点を決めてくれた。左サイドに遊弋した守田が中央の綺世に正確なボールを入れ、上田綺世が敵DFの厳しいプレッシャに負けず正確なリターンを守田に返す。守田は見事な出足で敵DF2人をぶち破り、見事なシュートを決めた。イランからすれば、久保や堂安律の個人技、毎熊晟矢の押上げ、前田大然の無茶走り、そして綺世の裏抜け、このあたりまでは相当警戒していたのだろうが、よい体制でボールを受けた守田への対応までは準備対象外だったのだろう。日本は、選手の個人能力の質の高さで先制に成功したわけだ。
こうなると、後半は相当楽観視できる。イランを引き出しておいて、逆種速攻から好機を多数作れることが期待できるからだ。事実、後半序盤に日本はイランの守備人数が不足しているところを突き、久保と綺世が好機をつかんでいる。日本の各選手の状態が正常ならば、普通に日本が追加点を上げて押し切る試合だったのだ。各選手の状態が正常ならば。
板倉滉のプレイに「あれっ」と言う印象を持ったのは、先制前の20分過ぎに警告を喰らった時だった。イランが前線からの日本のプレスを好技で外し、モハマド・モヘビが毎熊晟矢の裏を突く。それに対応した板倉がかなり強引な当たりで倒した場面だ。モヘビはシャープなドリブルが武器の選手だが、ここ最近の板倉はこの手の場面の対応が非常に巧みになっており、「何もいきなりファウルで倒さなかくてもよいのではないか」と不思議に思ったのだ。その後も板倉のプレイはおかしい、簡単に裏を取られたり、出足で敵DFを封印できない場面が散見される。プレイが止まった時、板倉が足を気にしていているのが大映しになった。1/16ファイナルのバーレーン戦の終了間際に足を痛めていたのだが、その影響だろうか。
私はハーフタイムで、板倉は交代すべきと考えた。明らかに本調子でなく、それが負傷要因の可能性が高いとしたら、必要なのは休養。そして、まだ準決勝も決勝も残っているのだし。しかし、森保氏は板倉をそのままプレイさせることを選択した。そして、55分に奪われた同点弾時の板倉のプレイには目を覆った。日本の自陣でのつなぎミスを拾われ、サルダル・アズムンが冨安を引きつけてスルーパス、カバーするべき板倉がなすすべなくモヘビに突破を許したのだから。センタバックが敵FWにあんなに簡単に突破を許しては、どうしようもない。失点は取り返せないが、板倉が本調子ではないのは、いよいよ明らかになった。
さらに事態を悪化させたのは、オフサイドディレイの適用が不適切な副審の存在。明らかなオフサイドでも放置するため、的確にラインを上げていてもプレイが完結するまで、日本守備陣は安堵できない状況となる。あのような副審が介在すると、浅い守備ラインを築きづらくなる。質の高いサッカーを楽しむためにも、このような無能な副審の選抜は勘弁してほしいものだ。いや、少々怪しい副審でも真っ当に試合を楽しめるように、妙なルールの導入を避けるべきと言うのが、本質かな。
ともあれ、どんなに副審がおかしくとも、私たちは勝たなければならない。そのための柔軟な対応こそ、監督に要求されるタスクだ。せめて、板倉に代えて、谷口彰悟を起用すれば冨安が敵FWをつぶすのに専念できただろう。あるいは高さがあり前に強い町田浩樹を起用すれば冨安がカバーリングに専念できただろう。しかし、森保氏は大然に代えて三笘薫を。久保に代えて南野拓実を起用するが、最終ラインはいじらない。何のために、これまで多くの選手を起用し、分厚い選手層を準備してきたのだろうか。敗戦後、「ロングボールに弱い日本」との報道を目にするが、調子が万全のCBを配していれば、ここ最近の日本がそのようなやり方を苦にしていなかったのは自明なこと。調子のよい選手を使っていればよかっただけなのだ。
20分過ぎから、冨安は開き直った。ラインを上げるを諦め、ペナルティエリア内でイランの攻撃を受け止めることに方針転換。これで裏を突かれることはなくなり、最終ラインで冨安が圧倒的存在感でイランの攻撃を押さえる展開となる。冨安がここにいることで、イランは一見攻め込んでいるように見えるが、好機はつかめなくなった。
けれども、このやり方には背反がある。結果として、日本は攻撃に厚みを欠くことになり、好機を掴みづらくなってしまった。さらに悪いことに、遠藤航の運動量が落ちるとともにデュエル負けも目立ち始め、イランのプレスを外せなくなり、前線によいボールを供給できない。75分過ぎから、守田が位置取りを後方に下げ、3DF気味の体制をとるが、毎熊と伊藤洋輝の両サイドバックが積極性を出せず前進できない。ベンチには菅原由勢も中山雄太も佐野海舟もいた。後方の守備を修正し、押上げの形さえ作り直せれば、前線には堂安、南野、三苫、綺世とタレントは揃っていたのだ。状況は改善できたはずだ。2010年代までは公式戦の交代選手上限は3人だったが、COVID-19以降、交代5人制が定着。チームのリズムが悪い時は、後方にフレッシュな選手を起用するのは定石になっているのだが。
一方で、森保氏が動かなかった理由を推測する。
これまでの準備試合でも、バーレーン戦までの4試合でも、やはり冨安と板倉のコンビは、他のCBよりは圧倒的な能力を見せていた。アズムンやモヘビのような強力FWを抱える相手に対し、最強の2人に頼りたかったのではないか。
しかし、過去の実績や好調時のプレイを期待して眼前の不調選手を放置するのは、いかがなものか。カタールW杯予選の敵地サウジ戦で、明らかな疲労からミスを繰り返していた柴崎岳を交代させずに引っ張り、柴崎の考えられないミスパスから失点した場面を思い出したのは、私だけだろうか。もっとも、板倉はあれだけ調子がおかしかったけれど、何とか試合終了直前まで凌いでいたのだから、大したものだとは思う。調子が悪いなりに、最後の最後まで戦い抜いた板倉のプロフェッショナリズムには感謝の言葉を捧げたい。そして、今大会早期敗退の責任の痛恨を忘れずに、2年後のW杯本大会で私たちに最高級の歓喜を提供してくれることを期待したい。
また、後方の選手交代に消極的だったのは、延長戦を見据えていたのかもしれない。イランと日本は同じ中2日とは言え、イランはシリアとPK戦に持ち込まれ120分戦っていたし、平均年齢も高い。冨安が深く守るようになった以降、押し込まれてはいたが好機は許していない。このまま延長になれば、イランの運動量は落ちるはず。イランがどのような選手交代をしてくるのを見据えて、カードを切ればよいと考えたのではないか。
しかし、あれだけ幾度もペナルティエリアに進出を許せば、偶然や不運で崩れることもある。そして、アディショナルタイムに、板倉が連続でやらかしてしまった。よりによって、挽回猛攻を行う時間すら残っていないタイミングで…「やらかすならば、もっと時間が残っている時に」と言いたくなったのだけれども。
しょせんサッカーと言う競技は理不尽なもの、いくら努力や工夫を重ねたとしても、悔しい結果に終わることはある。増して、上記した通りイランは強いチームだった。けれども、今の日本代表の戦闘能力が史上最強であり、世界のどの国と戦っても、互角の攻防を演じるタレントが揃っているのは間違いなかったのだ。例えば、1/16ファイナルでイラン相手にPK戦まで粘ったシリアを、我々は先日のW杯予選で敵地で5-0で破っている。非公開の練習試合ではあるが、大会直前に決勝進出したヨルダンを6-1で破っている。
やはり、采配負けだったのだ。当方が格段に高い戦闘能力を保持し、ベンチにはいくらでもすばらしいタレントがいたにもかかわらず、中心選手の不調を放置し、攻勢をとることも叶わなかったのだから。言い換えよう、史上最強のチームは、森保氏の采配ミスでアジア再戴冠に失敗したのだ。
イラクやイランが日本に勝利し選手たちが感涙していた点を採り上げ、「熱量の差」と言う指摘もどうかと思う。日本の目標は優勝以外なく、ローテーション的な戦いをしながら、2次ラウンドに進出し4連勝することの確率を丹念に上げる必要があった。毎試合ベストを尽くすのは当然だが、選手たちが決勝での勝利を踏まえてプレイしたことを、否定するわけにはいかない。
これはアジアの壁でも何でもない。単にサッカーの難しさなのだ。伊東純也の突然の離脱が不運だったことを割り引いても、森保氏は最強軍団を率いリアリズムを考慮しながら丁寧に戦おうとした。けれども、森保氏は試合途中で誰の目にも明らかになった改善点を放置すると言う致命的なミスを犯した。
私たちは大魚を逸した。それでもアディショナルタイムまで帳尻を合わせかけた選手たちがすごかったと言うのかしれないけれど。
森保氏の進退云々については、この稿で語るつもりはない。
とは言え、森保氏は「冨安を抱えながら、2回もアジア制覇に失敗した監督」であることだけは、間違いない。
しかし、「屈辱」って、考えてみれば、随分な態度だと思う。だってイランですよ、イラン。32年前の超苦戦とカズの「魂込めた」一撃。31年前のドーハの痛恨。もちろん、人生最高の歓喜を味わったあのジョホールバル。アリ・ダエイやアジジやマハダビキアを筆頭とする尊敬すべき忌々しい名手たち。そして、今回のアズムンやジャハンバクシュらも彼らの系譜を継いでいた。
2005年のドイツ大会予選で苦杯を喫した、あのアザディスタジアムの大熱狂、ペルセポリスや多くの博物館で楽しんだペルシャ帝国時代からの歴史の重み。そのイランにアディショナルタイムにやられて「屈辱」と語る姿勢、そのものが不遜に思えてくる。たとえ、私たちの目標がワールドカップ制覇だとしても。
個人的にもすごく反省のある大会。アジア制覇は当然と考え、決勝あるいは準決勝以降は現地に行く計画だった。早々にアポイントを入れ、万が一早期敗退したらキャンセル料払うつもりで。ところが、情けないことに諸事情からその休暇調整がうまく行かなかった。もう、人生の目的と手段を誤り続けた情けなさの集大成感(笑)。このような情けなさが、今回の主要敗因ではないかと自惚れるサポータ心理と合わせて。
伊東純也の離脱については論評のしようがない。ただ、戦闘能力が大きく下がったのみならず、現場の森保氏以下が精神的にダメージを受けたのは間違いなかろう。ここ最近の伊東は日本代表史上最高のFWと言っても過言ではない存在感だったのだから。加えて、離脱するしないと状況が二転三転したとの報道があったが、もしその報道が正しいのだとしたら、日本協会首脳の情けなさには失望しかない。
特に田嶋幸三会長、この方はサッカーの意思決定が下手くそなことは皆が知るところだった。しかし、今回の事案で組織のトップとしても無能なことが判明した。本人の能力もそうだが、周囲に適切な助言をできる人も不在と言うことだな。もっとも、人材派遣会社の総務部門で活躍し、この手のことにかけてプロ中のプロの人が、比較的最近までは日本協会首脳にいたはずなのだが。
まず強調したいのは、イラン線の前半は、日本にとっては笑いがとまらない結果だったことだ。
イランは前半から強引に攻めかけきたが、冨安健洋を軸に危ない場面はほとんど作らせない。先方が前に前に出てくれば久保建英へのマークが曖昧になり、当方の速攻が機能する。もちろん、イランの最終ラインも強いから、そう簡単には得点は奪えないけれども。
しかし、そうこうしているうちに守田英正が鮮やかに先制点を決めてくれた。左サイドに遊弋した守田が中央の綺世に正確なボールを入れ、上田綺世が敵DFの厳しいプレッシャに負けず正確なリターンを守田に返す。守田は見事な出足で敵DF2人をぶち破り、見事なシュートを決めた。イランからすれば、久保や堂安律の個人技、毎熊晟矢の押上げ、前田大然の無茶走り、そして綺世の裏抜け、このあたりまでは相当警戒していたのだろうが、よい体制でボールを受けた守田への対応までは準備対象外だったのだろう。日本は、選手の個人能力の質の高さで先制に成功したわけだ。
こうなると、後半は相当楽観視できる。イランを引き出しておいて、逆種速攻から好機を多数作れることが期待できるからだ。事実、後半序盤に日本はイランの守備人数が不足しているところを突き、久保と綺世が好機をつかんでいる。日本の各選手の状態が正常ならば、普通に日本が追加点を上げて押し切る試合だったのだ。各選手の状態が正常ならば。
板倉滉のプレイに「あれっ」と言う印象を持ったのは、先制前の20分過ぎに警告を喰らった時だった。イランが前線からの日本のプレスを好技で外し、モハマド・モヘビが毎熊晟矢の裏を突く。それに対応した板倉がかなり強引な当たりで倒した場面だ。モヘビはシャープなドリブルが武器の選手だが、ここ最近の板倉はこの手の場面の対応が非常に巧みになっており、「何もいきなりファウルで倒さなかくてもよいのではないか」と不思議に思ったのだ。その後も板倉のプレイはおかしい、簡単に裏を取られたり、出足で敵DFを封印できない場面が散見される。プレイが止まった時、板倉が足を気にしていているのが大映しになった。1/16ファイナルのバーレーン戦の終了間際に足を痛めていたのだが、その影響だろうか。
私はハーフタイムで、板倉は交代すべきと考えた。明らかに本調子でなく、それが負傷要因の可能性が高いとしたら、必要なのは休養。そして、まだ準決勝も決勝も残っているのだし。しかし、森保氏は板倉をそのままプレイさせることを選択した。そして、55分に奪われた同点弾時の板倉のプレイには目を覆った。日本の自陣でのつなぎミスを拾われ、サルダル・アズムンが冨安を引きつけてスルーパス、カバーするべき板倉がなすすべなくモヘビに突破を許したのだから。センタバックが敵FWにあんなに簡単に突破を許しては、どうしようもない。失点は取り返せないが、板倉が本調子ではないのは、いよいよ明らかになった。
さらに事態を悪化させたのは、オフサイドディレイの適用が不適切な副審の存在。明らかなオフサイドでも放置するため、的確にラインを上げていてもプレイが完結するまで、日本守備陣は安堵できない状況となる。あのような副審が介在すると、浅い守備ラインを築きづらくなる。質の高いサッカーを楽しむためにも、このような無能な副審の選抜は勘弁してほしいものだ。いや、少々怪しい副審でも真っ当に試合を楽しめるように、妙なルールの導入を避けるべきと言うのが、本質かな。
ともあれ、どんなに副審がおかしくとも、私たちは勝たなければならない。そのための柔軟な対応こそ、監督に要求されるタスクだ。せめて、板倉に代えて、谷口彰悟を起用すれば冨安が敵FWをつぶすのに専念できただろう。あるいは高さがあり前に強い町田浩樹を起用すれば冨安がカバーリングに専念できただろう。しかし、森保氏は大然に代えて三笘薫を。久保に代えて南野拓実を起用するが、最終ラインはいじらない。何のために、これまで多くの選手を起用し、分厚い選手層を準備してきたのだろうか。敗戦後、「ロングボールに弱い日本」との報道を目にするが、調子が万全のCBを配していれば、ここ最近の日本がそのようなやり方を苦にしていなかったのは自明なこと。調子のよい選手を使っていればよかっただけなのだ。
20分過ぎから、冨安は開き直った。ラインを上げるを諦め、ペナルティエリア内でイランの攻撃を受け止めることに方針転換。これで裏を突かれることはなくなり、最終ラインで冨安が圧倒的存在感でイランの攻撃を押さえる展開となる。冨安がここにいることで、イランは一見攻め込んでいるように見えるが、好機はつかめなくなった。
けれども、このやり方には背反がある。結果として、日本は攻撃に厚みを欠くことになり、好機を掴みづらくなってしまった。さらに悪いことに、遠藤航の運動量が落ちるとともにデュエル負けも目立ち始め、イランのプレスを外せなくなり、前線によいボールを供給できない。75分過ぎから、守田が位置取りを後方に下げ、3DF気味の体制をとるが、毎熊と伊藤洋輝の両サイドバックが積極性を出せず前進できない。ベンチには菅原由勢も中山雄太も佐野海舟もいた。後方の守備を修正し、押上げの形さえ作り直せれば、前線には堂安、南野、三苫、綺世とタレントは揃っていたのだ。状況は改善できたはずだ。2010年代までは公式戦の交代選手上限は3人だったが、COVID-19以降、交代5人制が定着。チームのリズムが悪い時は、後方にフレッシュな選手を起用するのは定石になっているのだが。
一方で、森保氏が動かなかった理由を推測する。
これまでの準備試合でも、バーレーン戦までの4試合でも、やはり冨安と板倉のコンビは、他のCBよりは圧倒的な能力を見せていた。アズムンやモヘビのような強力FWを抱える相手に対し、最強の2人に頼りたかったのではないか。
しかし、過去の実績や好調時のプレイを期待して眼前の不調選手を放置するのは、いかがなものか。カタールW杯予選の敵地サウジ戦で、明らかな疲労からミスを繰り返していた柴崎岳を交代させずに引っ張り、柴崎の考えられないミスパスから失点した場面を思い出したのは、私だけだろうか。もっとも、板倉はあれだけ調子がおかしかったけれど、何とか試合終了直前まで凌いでいたのだから、大したものだとは思う。調子が悪いなりに、最後の最後まで戦い抜いた板倉のプロフェッショナリズムには感謝の言葉を捧げたい。そして、今大会早期敗退の責任の痛恨を忘れずに、2年後のW杯本大会で私たちに最高級の歓喜を提供してくれることを期待したい。
また、後方の選手交代に消極的だったのは、延長戦を見据えていたのかもしれない。イランと日本は同じ中2日とは言え、イランはシリアとPK戦に持ち込まれ120分戦っていたし、平均年齢も高い。冨安が深く守るようになった以降、押し込まれてはいたが好機は許していない。このまま延長になれば、イランの運動量は落ちるはず。イランがどのような選手交代をしてくるのを見据えて、カードを切ればよいと考えたのではないか。
しかし、あれだけ幾度もペナルティエリアに進出を許せば、偶然や不運で崩れることもある。そして、アディショナルタイムに、板倉が連続でやらかしてしまった。よりによって、挽回猛攻を行う時間すら残っていないタイミングで…「やらかすならば、もっと時間が残っている時に」と言いたくなったのだけれども。
しょせんサッカーと言う競技は理不尽なもの、いくら努力や工夫を重ねたとしても、悔しい結果に終わることはある。増して、上記した通りイランは強いチームだった。けれども、今の日本代表の戦闘能力が史上最強であり、世界のどの国と戦っても、互角の攻防を演じるタレントが揃っているのは間違いなかったのだ。例えば、1/16ファイナルでイラン相手にPK戦まで粘ったシリアを、我々は先日のW杯予選で敵地で5-0で破っている。非公開の練習試合ではあるが、大会直前に決勝進出したヨルダンを6-1で破っている。
やはり、采配負けだったのだ。当方が格段に高い戦闘能力を保持し、ベンチにはいくらでもすばらしいタレントがいたにもかかわらず、中心選手の不調を放置し、攻勢をとることも叶わなかったのだから。言い換えよう、史上最強のチームは、森保氏の采配ミスでアジア再戴冠に失敗したのだ。
イラクやイランが日本に勝利し選手たちが感涙していた点を採り上げ、「熱量の差」と言う指摘もどうかと思う。日本の目標は優勝以外なく、ローテーション的な戦いをしながら、2次ラウンドに進出し4連勝することの確率を丹念に上げる必要があった。毎試合ベストを尽くすのは当然だが、選手たちが決勝での勝利を踏まえてプレイしたことを、否定するわけにはいかない。
これはアジアの壁でも何でもない。単にサッカーの難しさなのだ。伊東純也の突然の離脱が不運だったことを割り引いても、森保氏は最強軍団を率いリアリズムを考慮しながら丁寧に戦おうとした。けれども、森保氏は試合途中で誰の目にも明らかになった改善点を放置すると言う致命的なミスを犯した。
私たちは大魚を逸した。それでもアディショナルタイムまで帳尻を合わせかけた選手たちがすごかったと言うのかしれないけれど。
森保氏の進退云々については、この稿で語るつもりはない。
とは言え、森保氏は「冨安を抱えながら、2回もアジア制覇に失敗した監督」であることだけは、間違いない。
2024年01月16日
フィリップ、やはり22年前あなたは間違えた
私たちが、W杯ベスト4に最も近づいた瞬間はいつか。
2022年カタールでのクロアチア戦?、2018年ロシアでのベルギー戦?、でも準々決勝ではセレソンが待ち構えていた。2010年南アフリカでのパラグアイ戦?、でも準々決勝ではスペインが待ち構えていた。そう、一番ベスト4に近づいたのは2002年我が故郷宮城県でトルコに敗れた時だった。もし、トルコに勝っていれば、準々決勝はセネガル。当時私たちが、トルコ、セネガルに連勝するのは、簡単ではないが相応の確率で実現可能だったのではないか。フィリップが妙な策に走り、アレックスや西澤を起用しなければ。と、22年間に渡り思い続けてきた。このような、実現不可能な「if」に愚痴を語るのは、サッカーの至高の楽しみの一つであるのは、言うまでもない。
そして、昨日のベトナム戦、22年ぶりの再会を果たしたフィリップが作り上げたベトナムの鮮やかな抵抗を、圧倒的戦闘力で粉砕した喜びとともに、22年前に思いを馳せることができた。そう、「フィリップ、やはり、あなたは間違えていた」と。
開始早々、ベトナムが難しい相手であることはすぐに理解できた。
日本陣にボールが入ると、5DFが整然とラインを上げる。いわゆる5-4-1の陣形だが、5DFの押上げがすばやいので、4人のMFは左右のバランスをとりながら、全線までプレスをかけることができる。そのため、谷口彰悟と板倉滉の両CBは自由に縦パスができない。ベトナムDFを押し下げるべく、前線の選手が裏をとりスペースを空けようとすると、こまめにラインを修正するので容易ではない。
それでも、谷口が敵プレスが甘くなったところで前進してベトナムの陣形を崩し、フィードを受けた中村敬斗が中央に引きつけたところで、左オープンに上がった伊藤洋輝がフリーとなり、CKを獲得。ベトナムGKがそのCK処理を誤り、こぼれを菅原由勢が強シュート、こぼれを南野拓実が冷静に詰めて先制に成功。
これで楽になると思ったが、そこからセットプレイで2失点してしまった。
同点弾を生んだCKの提供経緯、谷口がウェイティングしたところを後方から菅原がはさんだが、ちょっとした連係不備から許したもの。そのCKから、ニアで方向を変えた一撃が、かなり偶然にネットを揺らした。もっとも、ニアサイドの日本の守備を空けるベトナムの工夫は鮮やかなものであり、正に「やられた」と言う一撃だった。
逆転されたFKを奪われた場面、日本の浅いラインをベトナムが突こうとしたところで、やや偶然にこぼれ球が裏に流れ、慌てた菅原のスライディングがファウルになったもの(私はこの場面、赤がでなくて安堵した、見方によってはDOGSOと言われてもしかたがなかったから)。そのFKをゾーンDFの外側から入り込むファーサイドの長身DFにピタリ合わせれ折り返され、GK鈴木彩艶のファンブルを詰められた。ゾーン守備の大外から折り返されたところで勝負アリだった。
2失点とも、ゾーンで守る日本のセットプレイの弱点を鮮やかに突かれたもの。最初のキックに対する彩艶の判断の拙さや、各選手の瞬間的な判断の緩慢さには不満はあるが、いずれも先方のキック精度と、全軍の意思統一は見事だった。
いや、セットプレイだけではない。元々、ベトナムやタイやマレーシア、東南アジア諸国の選手のボール扱いはすばらしい。ところが、往々にして各選手のその精妙なボール扱いは、局地戦でのボール扱いの優位にしか使われないことが多かった。しかし、今回のベトナム選手たちはいずれも、日本の厳しいプレスに対し、第1波を技巧で外した後、しっかりとスクリーンして身体を入れ、日本の第2波を許さない。さらに、同サイドでのボール保持ではなく、常に反対サイドへの展開を意識するから、局地戦ではなく、チーム全体での前進なりボール保持につなげることができる。フィリップは、伝統的なベトナム各選手のボール保持能力を、局地戦ではなくチーム全体での前進につなげるところまで指導の落とし込みに成功したのだ。
ものの見事に逆転されてしまったわけで「これは困った」と思ったのだが、それは杞憂だった。
日本は慌てずボールを回し、まずはペースを取り戻す。そして前半40分以降、ベトナムのコンパクトなDFとMFの間に、狡猾に伊東純也と南野が入り込み、後方からの正確なフィードを格段のボール扱いで受け、猛攻をしかける。ベトナムDF陣は、ゾーンをよく絞り中央圧縮でしのぐが、そのクリアを情け容赦なく遠藤航と守田英正が拾い連続攻撃。
加えて日本のシュートがものすごかった。
南野の同点弾は、再三揺さぶった後、遠藤航のパスを受け完璧なボールコントロールから、狙い澄ましたインサイドキック。トップスピードで走り込んでの実に美しいトラップ、香川真司の全盛期、いやちょっとベベットを思い出したりして。
中村敬斗の逆転弾。日本が同点に追いついたのが、45分だったのが、アディショナルタイムは6分。これはベトナムにとっては厳しい。日本が勢いに乗り猛攻を継続できたからだ。そして、南野の展開を受けて敵DFを外した超弩級弾。サイドを崩して自分のシュート力が一番発揮される場所に持ち出す感覚は、リバウドかデルピエロか。
加えて重要なことは、南野にしても、中村敬斗にしても、このチームではレギュラ、第1選択肢ではないと言うことだ。三笘や久保建英や堂安律の方が、このチームでは、南野と中村敬斗よりも格段の実績を誇っている。もちろん、私たちの最大のエース伊東純也は圧倒的に輝いているのだし。
後半、落ち着いた日本は丁寧にボールをつなぎ、前半のような危ない場面を作らせない。後半から起用された上田綺世、終盤から登場した堂安、久保が少しずつ機能し、堂安→久保→上田綺世でとどめの一撃。堂安と久保の個人技の精度はもちろんだが、上田綺世の右インステップの低く鋭い弾道は、釜本邦茂御大を思い出しますね。
でね。
フィリップ。あなたが、今回作ってきたチームはすばらしいものがあった。組織守備、セットプレイ、中盤からの前進。22年前、約四半世紀前、あなたが私たちに教授してくれて歓喜を味合わせてくれたチーム戦術の妙。
でもね。
私たちは、その見事なチーム戦術を粉々に打ち砕くことができた。全選手の戦術眼、精度の高い技術。あなたが築いた組織力を完全に凌駕する戦闘能力。
で22年前ね。
あなたは、なぜトルコ戦で、あんな妙な作戦を行ったのか。22年前の私たちにとってのトルコは、昨日のあなたにとっての私たちほど、どうしようもない差はなかった。昨日の前半40分以降の猛攻と、後半のボールキープを見て、私は改めて22年前のトルコと私たちの差を確信できた。22年前、あなたは間違ったのだ。策を弄さずに、普段のメンバでトルコと戦うべきだったのだ。繰り返します。22年前のトルコは、今の私たちのように強くなかったじゃないですか。
と、言いながらも、あなたとの4年間は本当に楽しかった。
そして、あなたのおかげもあり、私たちはたったの22年間でここまで到達することができた。世界中、どんな相手が出てきても怖くはない。繰り返すが、たったの22年間で。
フィリップ。改めて、四半世紀前の楽しかった日々に感謝したい。そして、あなたとの楽しかった日々が、私たちにとって進歩の礎となったのは間違いない。あなたのおかげもあり、私たちはここまで来ることができた。
本当にありがとうございました。
次はW杯本大会で戦いましょう。
米加墨大会。2次ラウンド、また戦えることを楽しみにしています。今回以上にボコボコに粉砕してやるけれども。
2022年カタールでのクロアチア戦?、2018年ロシアでのベルギー戦?、でも準々決勝ではセレソンが待ち構えていた。2010年南アフリカでのパラグアイ戦?、でも準々決勝ではスペインが待ち構えていた。そう、一番ベスト4に近づいたのは2002年我が故郷宮城県でトルコに敗れた時だった。もし、トルコに勝っていれば、準々決勝はセネガル。当時私たちが、トルコ、セネガルに連勝するのは、簡単ではないが相応の確率で実現可能だったのではないか。フィリップが妙な策に走り、アレックスや西澤を起用しなければ。と、22年間に渡り思い続けてきた。このような、実現不可能な「if」に愚痴を語るのは、サッカーの至高の楽しみの一つであるのは、言うまでもない。
そして、昨日のベトナム戦、22年ぶりの再会を果たしたフィリップが作り上げたベトナムの鮮やかな抵抗を、圧倒的戦闘力で粉砕した喜びとともに、22年前に思いを馳せることができた。そう、「フィリップ、やはり、あなたは間違えていた」と。
開始早々、ベトナムが難しい相手であることはすぐに理解できた。
日本陣にボールが入ると、5DFが整然とラインを上げる。いわゆる5-4-1の陣形だが、5DFの押上げがすばやいので、4人のMFは左右のバランスをとりながら、全線までプレスをかけることができる。そのため、谷口彰悟と板倉滉の両CBは自由に縦パスができない。ベトナムDFを押し下げるべく、前線の選手が裏をとりスペースを空けようとすると、こまめにラインを修正するので容易ではない。
それでも、谷口が敵プレスが甘くなったところで前進してベトナムの陣形を崩し、フィードを受けた中村敬斗が中央に引きつけたところで、左オープンに上がった伊藤洋輝がフリーとなり、CKを獲得。ベトナムGKがそのCK処理を誤り、こぼれを菅原由勢が強シュート、こぼれを南野拓実が冷静に詰めて先制に成功。
これで楽になると思ったが、そこからセットプレイで2失点してしまった。
同点弾を生んだCKの提供経緯、谷口がウェイティングしたところを後方から菅原がはさんだが、ちょっとした連係不備から許したもの。そのCKから、ニアで方向を変えた一撃が、かなり偶然にネットを揺らした。もっとも、ニアサイドの日本の守備を空けるベトナムの工夫は鮮やかなものであり、正に「やられた」と言う一撃だった。
逆転されたFKを奪われた場面、日本の浅いラインをベトナムが突こうとしたところで、やや偶然にこぼれ球が裏に流れ、慌てた菅原のスライディングがファウルになったもの(私はこの場面、赤がでなくて安堵した、見方によってはDOGSOと言われてもしかたがなかったから)。そのFKをゾーンDFの外側から入り込むファーサイドの長身DFにピタリ合わせれ折り返され、GK鈴木彩艶のファンブルを詰められた。ゾーン守備の大外から折り返されたところで勝負アリだった。
2失点とも、ゾーンで守る日本のセットプレイの弱点を鮮やかに突かれたもの。最初のキックに対する彩艶の判断の拙さや、各選手の瞬間的な判断の緩慢さには不満はあるが、いずれも先方のキック精度と、全軍の意思統一は見事だった。
いや、セットプレイだけではない。元々、ベトナムやタイやマレーシア、東南アジア諸国の選手のボール扱いはすばらしい。ところが、往々にして各選手のその精妙なボール扱いは、局地戦でのボール扱いの優位にしか使われないことが多かった。しかし、今回のベトナム選手たちはいずれも、日本の厳しいプレスに対し、第1波を技巧で外した後、しっかりとスクリーンして身体を入れ、日本の第2波を許さない。さらに、同サイドでのボール保持ではなく、常に反対サイドへの展開を意識するから、局地戦ではなく、チーム全体での前進なりボール保持につなげることができる。フィリップは、伝統的なベトナム各選手のボール保持能力を、局地戦ではなくチーム全体での前進につなげるところまで指導の落とし込みに成功したのだ。
ものの見事に逆転されてしまったわけで「これは困った」と思ったのだが、それは杞憂だった。
日本は慌てずボールを回し、まずはペースを取り戻す。そして前半40分以降、ベトナムのコンパクトなDFとMFの間に、狡猾に伊東純也と南野が入り込み、後方からの正確なフィードを格段のボール扱いで受け、猛攻をしかける。ベトナムDF陣は、ゾーンをよく絞り中央圧縮でしのぐが、そのクリアを情け容赦なく遠藤航と守田英正が拾い連続攻撃。
加えて日本のシュートがものすごかった。
南野の同点弾は、再三揺さぶった後、遠藤航のパスを受け完璧なボールコントロールから、狙い澄ましたインサイドキック。トップスピードで走り込んでの実に美しいトラップ、香川真司の全盛期、いやちょっとベベットを思い出したりして。
中村敬斗の逆転弾。日本が同点に追いついたのが、45分だったのが、アディショナルタイムは6分。これはベトナムにとっては厳しい。日本が勢いに乗り猛攻を継続できたからだ。そして、南野の展開を受けて敵DFを外した超弩級弾。サイドを崩して自分のシュート力が一番発揮される場所に持ち出す感覚は、リバウドかデルピエロか。
加えて重要なことは、南野にしても、中村敬斗にしても、このチームではレギュラ、第1選択肢ではないと言うことだ。三笘や久保建英や堂安律の方が、このチームでは、南野と中村敬斗よりも格段の実績を誇っている。もちろん、私たちの最大のエース伊東純也は圧倒的に輝いているのだし。
後半、落ち着いた日本は丁寧にボールをつなぎ、前半のような危ない場面を作らせない。後半から起用された上田綺世、終盤から登場した堂安、久保が少しずつ機能し、堂安→久保→上田綺世でとどめの一撃。堂安と久保の個人技の精度はもちろんだが、上田綺世の右インステップの低く鋭い弾道は、釜本邦茂御大を思い出しますね。
でね。
フィリップ。あなたが、今回作ってきたチームはすばらしいものがあった。組織守備、セットプレイ、中盤からの前進。22年前、約四半世紀前、あなたが私たちに教授してくれて歓喜を味合わせてくれたチーム戦術の妙。
でもね。
私たちは、その見事なチーム戦術を粉々に打ち砕くことができた。全選手の戦術眼、精度の高い技術。あなたが築いた組織力を完全に凌駕する戦闘能力。
で22年前ね。
あなたは、なぜトルコ戦で、あんな妙な作戦を行ったのか。22年前の私たちにとってのトルコは、昨日のあなたにとっての私たちほど、どうしようもない差はなかった。昨日の前半40分以降の猛攻と、後半のボールキープを見て、私は改めて22年前のトルコと私たちの差を確信できた。22年前、あなたは間違ったのだ。策を弄さずに、普段のメンバでトルコと戦うべきだったのだ。繰り返します。22年前のトルコは、今の私たちのように強くなかったじゃないですか。
と、言いながらも、あなたとの4年間は本当に楽しかった。
そして、あなたのおかげもあり、私たちはたったの22年間でここまで到達することができた。世界中、どんな相手が出てきても怖くはない。繰り返すが、たったの22年間で。
フィリップ。改めて、四半世紀前の楽しかった日々に感謝したい。そして、あなたとの楽しかった日々が、私たちにとって進歩の礎となったのは間違いない。あなたのおかげもあり、私たちはここまで来ることができた。
本当にありがとうございました。
次はW杯本大会で戦いましょう。
米加墨大会。2次ラウンド、また戦えることを楽しみにしています。今回以上にボコボコに粉砕してやるけれども。
2024年01月07日
元日タイ戦、新しい選手の日本代表への挑戦について
新年早々、能登半島地震とそれに伴う津波、羽田空港での航空機事故と、言葉にならない事態が連続発生。地震と津波については、被害にあった方々にお見舞い申し上げるとともに、今なお被災地で苦闘している方々の無事と、現地で救援や支援にあたっているプロフェッショナルの方々の成果を念じるしかありません。航空機事故については、何より旅客機の全員の無事に安堵し関係者の卓越した手腕に敬意を表します。一方で当該事故が地震の被災者支援目的の海上保安庁機の関与とのこと、一層やりきれない思いに襲われます。改めて、命を落とされた方々のご冥福を祈りたいと思います。
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年は、もう少し作文の頻度を上げていきたいと思っているのですが。
元日の日本対タイ戦を見て、最近の日本代表のように戦闘能力が相当充実していると、若手の代表デビューと言うものは難しいものだと考えさせられた。年初は、そのあたりを講釈したい。
タイ代表は、アントラーズで格段の成果を挙げた石井正忠氏を監督に招聘(いや、あのレアル・マドリードを追い込んだ試合は興奮しましたよね)。近年充実の度合いが増す国内リーグの勢いの下、アジアカップでの上位進出、米加墨W杯の初出場を目指しての強化試合と言う位置付けになる。森保氏は、欧州のレギュラ格の選手があまり集められない状況下、若い選手にA代表出場の経験を提供しようとし、スタメンのうち3人は初めてのA代表。本日のお題でもある代表デビューの選手を多く並べた前半は、各選手の経験不足とタイDF陣の粘り強い守備もあり、0-0で終了。しかし、後半起用された堂安律が落ち着いたボール保持で圧倒的な存在感を発揮、次々と得点を奪い、終わってみれば5-0の快勝となった。
スタメンを振り返る。現状のレギュラと言えそうな選手は、鈴木彩艶と伊東純也くらい(もっとも、決定的な選手がいないGKの鈴木と、超大エースの伊東純也を同列に語ってよいのかは、さておき)。後は中盤後方に起用された田中碧が純レギュラ。いわゆる2、3番手を争う、毎熊晟矢、町田浩樹、森下龍矢、佐野海舟、細谷真大に加え、初代表の藤井陽也、奥抜侃志、伊藤涼太郎が並んだ(田中碧のアジアカップ不選考については別に語りたいとは思う)。
立ち上がりに、伊藤涼太郎が佐野海舟(だと思った)の縦パスを受け、見事なターンから落ち着いたシュートを狙うも、僅かに枠を捉えられず。これが入っていれば、状況は随分違ったことだろうが、タイの粘り強い守備に手こずっているうちに、日本は攻めあぐむ。大エースの伊東純也が幾度も見事な受けやフリーランを見せ、後方からの縦パスを受けて好機を作るが、あまりに攻撃が右サイドに偏重し過ぎて単調となる。こうなると、左からも攻めたいが、奥抜と森下の連係が悪く形にならない。それならば、前線で溜めを作りたいところだが、伊藤涼太郎はどうしても「見える成果」を出したかったのだろう、ラストパスを狙いすぎて、一層攻撃が単調になり、前半は0-0で終了。
後半立ち上がり、奥抜と伊藤涼太郎に代え、中村敬斗と堂安を起用。堂安の起用は状況を飛躍的に改善した。堂安が、伊東純也と巧みにポジションを入れ替えながら、落ち着いて前線でボール保持し溜めを作る。それだけで、2.5列目の田中碧と佐野が前線に進出しやすくなり、パスの受け手が増え、攻撃に変化が生まれた。加えて、タイ守備陣も、前半からあれだけ連続的に守備を強いられてきたのだから疲弊。日本は完全に崩せるようになり、終わってみれば5-0の快勝。
もちろん、堂安の存在感発揮のほかにもよいことは多数あった。細谷が前線でよくボールを引き出した、中村敬斗が相変わらず敵ゴール前で鼻が利くことを示した、佐野が相変わらずよくボールに触り有益なことを示した、など。終盤起用された南野拓実が、幾度も決定機を外しながら、最後の最後に帳尻を合せたのもご愛嬌だった(この南野の久々の得点が、アジアカップでのよいきっかけになることを切に望みたい)。
さて、今日のお題の初代表選手のデビューについて。
この日スタメンに起用された3人の他に、川村拓夢と三浦颯太が初代表としてデビューした。
CBにスタメン起用された藤井は無難なプレイ。タイの散発的速攻を丹念につぶした。と言っても、日本が押し込みながらもバランスを崩さない戦いをしていたので、苦労して守備をする場面はほとんどなかった。
守備的MFで後半から起用された川村拓夢は、菅原由勢のさすがとしか言いようのない短距離突破からの好クロスから得点を決めることに成功した。また、比較的短い時間帯だったが、落ち着いてよくボールを回して機能した。得点というわかりやすい成果を出すと本人の経歴にA代表1得点と言う記録が残るのは非常にめでたいことだ。
同じく後半から、左DFに起用された三浦颯太も安定したボール扱いと押上げで攻撃を支えるとともに、少々間延びし始めた日本の中盤プレスをかいくぐったタイのボール回しにも的確に対応した。
ただ、藤井にしても川村にしても三浦にしても、代表選手としての評価は、今後の活躍次第と言う事になるだろう。この日はあくまでもデビューして無難なプレイを見せてくれたところまでしか評価できない。
一方で前線にスタメン起用された高速ドリブルが武器の奥抜と古典的な攻撃創造主の伊藤涼太郎。2人は上記した通り、空回り感したまま前半終了。後半立ち上がりに交代されてしまった。多くの人が思ったではないか。後半奥抜か伊藤涼太郎を残し、堂安と伊東純也と一緒にプレイさせれば、もっと得点やチャンスメークという具体的な成果が出たのではないか。あるいは、前半から堂安と伊東純也を並べ、奥抜か伊藤涼太郎のいずれかを起用していれば、彼らはもっと持ち味を発揮できたのではないか。経験が足りないタレントを複数並べるよりは、経験豊富な中核選手たちと若いタレントを使う方が、よい成果が期待できたのではないか。
この2人のような攻撃タレントは、相手の戦闘能力が少々低かろうが、具体的成果を発揮してくれれば、本人の自信ともなるし、周囲のチームメートもそれを活かせばよいと共通認識ができるはず。例えば、このタイ戦でも中村敬斗は南野のシュートをGKがこぼすのをしっかりと詰め、点を決めてくれたが、トルコ戦、カナダ戦、タイ戦とこれだけ鼻が利いて枠を揺らす場面を見せてもらえれば、「何かを持っている」感が漂い、他のチームメートも「使いどころ」を理解できる、奥抜も伊藤涼太郎も、このタイ戦で中村敬斗のような「きっかけ」を掴んでくれればよかったのだが。
この日デビューを飾った5人にとって厳しいのは、現在の日本代表は既に30人程度のラージグループが既に確立していることだ。したがって、彼らが次に起用されるチャンスがいつ来るのかどうかわからない。それでも、この5人にA代表としての経験を積ませたのは(1試合でも代表経験があれば、市場価値も少しは上がるだろうし)、森保氏のせめての親心と考えるべきか。考えてみれば、これだけ潤沢なタレントを抱えている森保氏なのだから、未経験な選手たちには「場」を提供するのが精一杯と言うことかもしれない。
ただし、代表チームには常に新陳代謝が必要なことも間違いない。目先にアジアカップというタイトルマッチが控えているので、どうしても新しい選手の起用機会は限られる。しかし、代表の目標はあくまでも2年半後のワールドカップ制覇。新しく野心的な選手の登場は大歓迎のはず。後方の3人は、ともにJリーガ、J1で圧倒的な存在感を発揮すれば、森保氏のメガネに叶う機会が得られるかもしれない。一方で前線の2人は欧州でプレイしているわけだが、現地で評価され欧州のトップクラブで活躍する機会を得ることができなければ、常時代表に選考されるのは難しいかもしれない。もちろん、Jリーガの3人も見事なプレイを継続して見せてくれれば、欧州に活躍の場を移してしまうのかもしれないけれど。
代表の中核への近道が、どこにあるのか、こればかりは誰にもわからない。
数年前には、想像もできなかった潤沢なタレントを抱える日本代表。元日のタイトルマッチを見て、改めて代表チームの新陳代謝の難しさ、おもしろさを、考えた次第。
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年は、もう少し作文の頻度を上げていきたいと思っているのですが。
元日の日本対タイ戦を見て、最近の日本代表のように戦闘能力が相当充実していると、若手の代表デビューと言うものは難しいものだと考えさせられた。年初は、そのあたりを講釈したい。
タイ代表は、アントラーズで格段の成果を挙げた石井正忠氏を監督に招聘(いや、あのレアル・マドリードを追い込んだ試合は興奮しましたよね)。近年充実の度合いが増す国内リーグの勢いの下、アジアカップでの上位進出、米加墨W杯の初出場を目指しての強化試合と言う位置付けになる。森保氏は、欧州のレギュラ格の選手があまり集められない状況下、若い選手にA代表出場の経験を提供しようとし、スタメンのうち3人は初めてのA代表。本日のお題でもある代表デビューの選手を多く並べた前半は、各選手の経験不足とタイDF陣の粘り強い守備もあり、0-0で終了。しかし、後半起用された堂安律が落ち着いたボール保持で圧倒的な存在感を発揮、次々と得点を奪い、終わってみれば5-0の快勝となった。
スタメンを振り返る。現状のレギュラと言えそうな選手は、鈴木彩艶と伊東純也くらい(もっとも、決定的な選手がいないGKの鈴木と、超大エースの伊東純也を同列に語ってよいのかは、さておき)。後は中盤後方に起用された田中碧が純レギュラ。いわゆる2、3番手を争う、毎熊晟矢、町田浩樹、森下龍矢、佐野海舟、細谷真大に加え、初代表の藤井陽也、奥抜侃志、伊藤涼太郎が並んだ(田中碧のアジアカップ不選考については別に語りたいとは思う)。
立ち上がりに、伊藤涼太郎が佐野海舟(だと思った)の縦パスを受け、見事なターンから落ち着いたシュートを狙うも、僅かに枠を捉えられず。これが入っていれば、状況は随分違ったことだろうが、タイの粘り強い守備に手こずっているうちに、日本は攻めあぐむ。大エースの伊東純也が幾度も見事な受けやフリーランを見せ、後方からの縦パスを受けて好機を作るが、あまりに攻撃が右サイドに偏重し過ぎて単調となる。こうなると、左からも攻めたいが、奥抜と森下の連係が悪く形にならない。それならば、前線で溜めを作りたいところだが、伊藤涼太郎はどうしても「見える成果」を出したかったのだろう、ラストパスを狙いすぎて、一層攻撃が単調になり、前半は0-0で終了。
後半立ち上がり、奥抜と伊藤涼太郎に代え、中村敬斗と堂安を起用。堂安の起用は状況を飛躍的に改善した。堂安が、伊東純也と巧みにポジションを入れ替えながら、落ち着いて前線でボール保持し溜めを作る。それだけで、2.5列目の田中碧と佐野が前線に進出しやすくなり、パスの受け手が増え、攻撃に変化が生まれた。加えて、タイ守備陣も、前半からあれだけ連続的に守備を強いられてきたのだから疲弊。日本は完全に崩せるようになり、終わってみれば5-0の快勝。
もちろん、堂安の存在感発揮のほかにもよいことは多数あった。細谷が前線でよくボールを引き出した、中村敬斗が相変わらず敵ゴール前で鼻が利くことを示した、佐野が相変わらずよくボールに触り有益なことを示した、など。終盤起用された南野拓実が、幾度も決定機を外しながら、最後の最後に帳尻を合せたのもご愛嬌だった(この南野の久々の得点が、アジアカップでのよいきっかけになることを切に望みたい)。
さて、今日のお題の初代表選手のデビューについて。
この日スタメンに起用された3人の他に、川村拓夢と三浦颯太が初代表としてデビューした。
CBにスタメン起用された藤井は無難なプレイ。タイの散発的速攻を丹念につぶした。と言っても、日本が押し込みながらもバランスを崩さない戦いをしていたので、苦労して守備をする場面はほとんどなかった。
守備的MFで後半から起用された川村拓夢は、菅原由勢のさすがとしか言いようのない短距離突破からの好クロスから得点を決めることに成功した。また、比較的短い時間帯だったが、落ち着いてよくボールを回して機能した。得点というわかりやすい成果を出すと本人の経歴にA代表1得点と言う記録が残るのは非常にめでたいことだ。
同じく後半から、左DFに起用された三浦颯太も安定したボール扱いと押上げで攻撃を支えるとともに、少々間延びし始めた日本の中盤プレスをかいくぐったタイのボール回しにも的確に対応した。
ただ、藤井にしても川村にしても三浦にしても、代表選手としての評価は、今後の活躍次第と言う事になるだろう。この日はあくまでもデビューして無難なプレイを見せてくれたところまでしか評価できない。
一方で前線にスタメン起用された高速ドリブルが武器の奥抜と古典的な攻撃創造主の伊藤涼太郎。2人は上記した通り、空回り感したまま前半終了。後半立ち上がりに交代されてしまった。多くの人が思ったではないか。後半奥抜か伊藤涼太郎を残し、堂安と伊東純也と一緒にプレイさせれば、もっと得点やチャンスメークという具体的な成果が出たのではないか。あるいは、前半から堂安と伊東純也を並べ、奥抜か伊藤涼太郎のいずれかを起用していれば、彼らはもっと持ち味を発揮できたのではないか。経験が足りないタレントを複数並べるよりは、経験豊富な中核選手たちと若いタレントを使う方が、よい成果が期待できたのではないか。
この2人のような攻撃タレントは、相手の戦闘能力が少々低かろうが、具体的成果を発揮してくれれば、本人の自信ともなるし、周囲のチームメートもそれを活かせばよいと共通認識ができるはず。例えば、このタイ戦でも中村敬斗は南野のシュートをGKがこぼすのをしっかりと詰め、点を決めてくれたが、トルコ戦、カナダ戦、タイ戦とこれだけ鼻が利いて枠を揺らす場面を見せてもらえれば、「何かを持っている」感が漂い、他のチームメートも「使いどころ」を理解できる、奥抜も伊藤涼太郎も、このタイ戦で中村敬斗のような「きっかけ」を掴んでくれればよかったのだが。
この日デビューを飾った5人にとって厳しいのは、現在の日本代表は既に30人程度のラージグループが既に確立していることだ。したがって、彼らが次に起用されるチャンスがいつ来るのかどうかわからない。それでも、この5人にA代表としての経験を積ませたのは(1試合でも代表経験があれば、市場価値も少しは上がるだろうし)、森保氏のせめての親心と考えるべきか。考えてみれば、これだけ潤沢なタレントを抱えている森保氏なのだから、未経験な選手たちには「場」を提供するのが精一杯と言うことかもしれない。
ただし、代表チームには常に新陳代謝が必要なことも間違いない。目先にアジアカップというタイトルマッチが控えているので、どうしても新しい選手の起用機会は限られる。しかし、代表の目標はあくまでも2年半後のワールドカップ制覇。新しく野心的な選手の登場は大歓迎のはず。後方の3人は、ともにJリーガ、J1で圧倒的な存在感を発揮すれば、森保氏のメガネに叶う機会が得られるかもしれない。一方で前線の2人は欧州でプレイしているわけだが、現地で評価され欧州のトップクラブで活躍する機会を得ることができなければ、常時代表に選考されるのは難しいかもしれない。もちろん、Jリーガの3人も見事なプレイを継続して見せてくれれば、欧州に活躍の場を移してしまうのかもしれないけれど。
代表の中核への近道が、どこにあるのか、こればかりは誰にもわからない。
数年前には、想像もできなかった潤沢なタレントを抱える日本代表。元日のタイトルマッチを見て、改めて代表チームの新陳代謝の難しさ、おもしろさを、考えた次第。
2023年12月31日
2023年10大ニュース
恒例の10大ニュースです。日本代表は強いし、相変わらずJリーグはおもしろいし、よい1年だったとは思います。ただ、ベガルタサポータとしては、つらい1年でしたが、ベスト11にしても、10大ニュースにしても、ベガルタサポータ視点は切り離して語るのが楽しいので。
まあ、ベガルタサポータとしては、下記の第4位で強調したことがすべてでしょうか。
1.日本協会とJリーグ当局、夏夏・年またぎ開催を強行
いわゆる年またぎ開催へのシーズン制変更が困難なことについては、十数年前に随分と書いた。例えばこれ。現実的に大量の試合数をこなすためには、週中の平日に試合をこなすしかなく、そのためにはナイトゲームを行う必要があると言うこと。もし、年またぎのシーズン制を採用すると、北方のクラブでなくとも厳冬期(具体的には12月から3月)の客商売には大きな支障があり、観客動員視点で大きな損失が予想される。もちろん、日本海側の積雪地帯では厳寒期の外出は大きく制限されるから、そう言った地域をホームにするクラブとしては受け入れ難い変更なことは言うまでもない。シーズン制云々よりも、試合数をいかに減らすかが本質的な課題であることも当時指摘した。
しかし、日本協会もJリーグ当局も、この十数年に渡り、上記の本質的課題を能動的に解決しようとせずに来た(例えば、欧州のスタジアムに見られる暖房システムの導入など、ハード面での改善など)。その上でACLがいわゆる年またぎ開催になったことを既成事実として、シーズン制の変更を強行しようとしている。しかも、J1のクラブ数を増やすと言う愚挙も加えてである。
シーズン制の変更理由として、現状のシーズン制の継続では各クラブ(あるいはリーグとしての)収入増限界が理由になっているのもおかしい。厳寒期に試合をすることで収入が増えるとはとても思えないからだ。
もちろん、欧州のトップクラブあるいは中東の一部クラブと、金銭的に戦うことは当面事実上不可能なことだ。そのため、世界のトップレベルの選手はもちろん、日本のトップレベルの選手をJにつなぎ止めるのが難しい現実はある。その中でどのようにサッカー界に入るキャッシュを増やすかは、極めて深刻な課題だ。しかし、その深刻な課題解決のためにやるべきことがシーズン制の変更ではないことは明らかなことだ。
百余年の歳月をかけ、ようやく世界のトップと伍した代表チームを所有するに至った日本サッカー界。もし、報道通りシーズン制変更と言う残念な事態が強行されたとしても、Jリーグの観客動員が一時的に減少したり、よい選手の欧州以外流出が増える程度の被害で済むとは思っている。日本海側クラブの経営に決定的な痛手が生じることがないように祈ってはいるが。そのくらい今の日本サッカー界は磐石な基盤はできている。しかし、愚かな行為はするべきではないのは言うまでもない。
2.女子代表、世界最強チームを作りながら敗戦
大変失礼な物言いとなるが、女子W杯の日本代表があそこまで強力なことは、まったく予想していなかった。こちらに書いたが、戦闘能力だけを見れば、正に世界最強の一角と言っても、言い過ぎではない程だった。それでも勝てないのはサッカーの常、それでもこれだけのチームを作ることができたのだ。特に戦術眼と技術に優れた若い選手が次々と登場している、女子代表の近未来は明るいものがある。女子の強化を推進した多くのサッカー関係者に改めて経緯と感謝を表したい。
確かに世界一を獲得してから12年間、女子サッカーの環境改善はかなり進んだ。例えば、私が関与している神奈川県西部の女子サッカー環境は、小学生世代の女子選手を積極的に集めて試合機会を増やしたり、中学から大人までの一環したクラブが立ち上がったり、十数年前には考えられなかった環境整備が進んでいる。これが全国に広がっているかと言うと、まだまだなのはわかっているが。
ただ、どうにも難しいのがトップレベルの観客動員。常に思うのだが、観客動員視点では、女子サッカーはすぐ隣に男子サッカーと言う強力な競合がある。観客にとって貴重な娯楽に割く時間を、どのようにして女子サッカーに向けることができるのか。そして、その通りWEリーグの観客動員の苦戦はよく知られている。しかし、一方で欧州や北米のトップレベルの女子サッカーの観客動員成功には驚くものがある。その秘訣をうまく整理して日本でも展開できれば、事態は解決するのだろうか。
3.浦和レッズ、3度目のACL王者
レッズが堂々と3回目のアジア制覇。決勝ではサウジの難敵アル・ヒラルを振り切った試合は実に見事。初戦のアウェイゲームで開始早々連係ミスから失点するも、少ない好機を活かし同点として敵地での引き分けに成功。ホームの第2戦は見事な組織守備と少々幸運な得点でリードを奪い、最後までしっかりと守り切った。正に、大人の戦い。
クラブW杯でも、メキシコのレオンに競り勝ち、マンチェスターシティにケンカを売ることはできた。ただ、もうチーム全体があそこまで疲労していては、どうしようもなかったけれど。
それにしても、このクラブのカップ戦での強さには恐れ入る。もちろん、サポータの方々からすれば、リーグの再制覇は大きな目標なのだろうが、毎年のようにしっかりとタイトルを取り切るのだからすごい。
4.ルヴァンカップ城後寿の戴冠
ルヴァンカップ決勝。開始早々、紺野和也の鋭い突破から福岡が先制。浦和が落ち着いて攻め返すが、福岡の組織守備がよく機能。さらに山岸祐也が最前線で巧みなボール保持を見せ、幾度も福岡の速攻が浦和守備陣を脅かす。そして、前半終了間際、またも紺野が輝き、2点差に。
後半の浦和が攻める。交代出場した明本考浩が見事な個人技を発揮して1点差。その後の浦和の猛攻を福岡が押さえ切り(少々怪しげな判定もありましたが)、初戴冠。
でもさ。城後寿がカップを上げる光景はすばらしかったよね。日本中の他クラブのすべてのサポータが、福岡のサポータたちに羨望した瞬間。
5.ヴァンフォーレ甲府ACL 2次ラウンド進出
昨シーズンの天皇杯王者の甲府が、ACLで堂々の2次ラウンド進出。しかもJ1昇格を視野に入れてターンオーバを採用しながらだからすばらしい成果だ。いずれの試合でも、中盤は互角以上の攻防を見せ、変化ある攻撃と組織的に連携した守備を披露。天皇杯制覇が偶然の賜物ではないことを、堂々と証明してくれた。
J1とJ2の最大の差は、両ゴール前での精度にあると言われる。しかし、敵陣前ではピーター・ウタカと三平和司のベテランが知性の限りを尽くしたプレイで、アジアの強豪たちと伍して変化を作り、各選手が次々とネットを揺らした。
多くのトッププレイヤが欧州に流出してもなお、Jリーグが極めて高いレベルのリーグ戦であることを、甲府が堂々と証明してくれた。
6.ヴィッセル神戸、J初制覇
強かった。
大迫勇也、山口蛍、酒井高徳、扇原貴宏とロンドン五輪代表が中核を占め、武藤嘉紀も好調をキープ、周囲を固める前川黛也、山川哲史、本多勇喜、井出遥也、佐々木大樹、汰木康也と言ったタレントが皆堅実に成長、若年層代表時ほど輝きが見られなかった齊藤未月や初瀬亮も輝きを取り戻した感があった。
このクラブは、言うまでもなく約20年前に経営不振で苦しんでいた際に、地元出身の三木谷浩史氏が出資し多くの支援を行ってきた。三木谷氏の支援の下、多くのスター選手を呼ぶなどしていたが今一歩成果は上がらず。特に2014年以降は、三木谷氏の個人支援からいわゆるクリムゾングループの一員となり、バルセロナとの連携や、アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャの招聘など多くの施策を行ってきたが、2019-20年シーズンの天皇杯制覇以外は決定的な成果を挙げることができずにいた。
ここにきて、吉田孝行氏が全権を掌握。上記のベテラン達を軸に、知的労働者たちが輝くチームとなった。結果が出てみると、サッカー的には当たり前のことが証明された感があるけれど。選手吉田孝行は知性あふれるストライカだった。特にフリューゲルス最後の天皇杯制覇の決勝点など忘れ難い。
でも、全盛期とは言えずとも、イニエスタの優雅な舞を幾度も国内で堪能したのだから、それはそれで楽しかったな。
7.遠藤航のリバプール加入
30歳になった日本代表の主将、遠藤航がこの年齢でリバプールに加入。当然のように毎試合の好プレイを継続し、中心選手として機能している。考えてみれば、ブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを披露してきのだから、これは驚きではない。
ただ、このクラスのメガクラブへ、この年齢になってから加入できた日本人選手は記憶にない。過去多くの日本人選手は、早熟な選手(例えば、香川真司や冨安健洋のように)10代のうちに5大国のリーグに加入し経歴を積まないと、欧州CLの優勝を争うようなメガクラブへの加入が難しい感があった。これは、選手編成が必ずしもその年その年のチーム強化と言う視点だけでは決定されず、選手の転売益などの投資的な視点も考慮されたからだろう。したがって、長谷部誠や酒井宏樹のように。そのポジションで世界屈指の名手と言われても、メガクラブへの道が開かれづらかったためと思われた。だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に10代のうちに欧州で売りに出そうとしているるのだが。
しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。
8.ドイツ戦の完勝
気持ちよい完勝だった。
点の取り合いでリードした前半。サネの好機を冨安が完全につぶす。後半立ち上がりに3DFへ切り替えてサネを止めに行った戦術変更。ドイツの攻めをいなしておいて終盤の加点。
日本代表の好調の重要な要因は、カタールW杯で築くことができた各選手の自信だろう。ドイツもスペインも確かに強い。しかし、同様に日本も強いのだ。もちろん、これら強国から学び続けることは、今後も重要だろう。しかし、それらの強国で行われていることを盲信し、日本が積み上げてきた強化を全否定する必要はない。
9.活字媒体の消失とネット媒体の使いづらさ
年寄りの愚痴です。
サッカー界に限ったことではないが、活字媒体の弱体化が進み、多くの活字媒体が廃刊やネット化を余儀なくされている。
大概のサッカー情報は、ネット経由で入手可能。いや、何よりサッカーの本質である1次情報の試合の映像があふれるほどネット経由で入手できるのだから、ありがたい世の中になったものだ。
しかしですよ。自分のクラブ(私の場合はベガルタ仙台)以外の試合情報の入手が、最近非常に難しくなっている。Google検索を行おうとすると、多くのサイトは広告収入狙いで相当数回クリックしないと目的情報には辿り着けないのだ。いや、何回画面を叩いても目的情報に到達しないことも多い。例えば、「今週末、おもしろそうなJリーグ以外の試合あるかな」とか「来週のドイツ対日本は、何時キックオフだっけかな」的なことを調べるのに、ものすごく苦労するのですよね。面倒な世の中になったのだ(笑)。
10.J1昇格プレイオフの非喜劇
J1昇格プレイオフ。余談ながら、第1回現ルヴァン杯決勝と同じ対戦だと、話題になった。あれは31年前、日本が初めてアジアカップを制した直後のことだったな。カズに先制された清水終盤の猛攻、トニーニョのシュートが僅かに外れ勝敗が決した感が漂った時、オーロラビジョンに悔しそうな表情の、清水レオン監督が大映しになった。「ああ、セレソンの元主将が日本で監督しているんだ、」と妙な感動をした。「今まで経験したことのない素敵な時代が来るんだ」と言う何とも言えない予感。そして、その予感通り、30年以上に渡り、若い頃はまったく想像できない歓喜をいくつもいくつも味わうことができた。
本題に戻ります。東京VのハンドによるPKで清水が先制。このハンドだが、東京Vが不当な守備をした訳でも何でもなく、ハンドと言うルール独特の運不運によるものだった。先制後の清水の守備は組織も強度を完璧に近かった。それに対して、東京Vも粘り強く遅攻を重ね、幾度か好機を掴むも崩せずアディショナルタイムに。分厚く守る清水は敵陣にボールを運んだので、定石通りラインを上げる。その瞬間、東京VにFW染野が裏をねらい、縦パスを受け抜け出しかける。しかし、突破したのは染野1人で、簡単に決定機にはつながりそうもなかった。しかし、清水DFが意図不明のスライディング、巧みなスクリーンで持ち出した染野が倒されPK、同点に。
東京Vの久々のJ1復帰が話題となっている、早速横浜Mと開幕戦を戦うなど話題性ある演出も行われているようだ。実際、プレイオフでは私以上の年齢の(笑)サポータの歓喜する姿が印象的だった。一方で清水の悲劇、もうこんな負け方は防ぎようがない。無責任なライターが「清水の体質改善が…」などと語っているが、あんな負け方は体質をいくら改善したってどうしようもない。
いわゆるオリジナル10クラブの明暗が分かれた訳だが、こう言う理屈で説明不能なプレイで来期の昇格が左右される理不尽さ。どうしてサッカーって、こう言った無常観を味わえるのだろうか。
まあ、ベガルタサポータとしては、下記の第4位で強調したことがすべてでしょうか。
1.日本協会とJリーグ当局、夏夏・年またぎ開催を強行
いわゆる年またぎ開催へのシーズン制変更が困難なことについては、十数年前に随分と書いた。例えばこれ。現実的に大量の試合数をこなすためには、週中の平日に試合をこなすしかなく、そのためにはナイトゲームを行う必要があると言うこと。もし、年またぎのシーズン制を採用すると、北方のクラブでなくとも厳冬期(具体的には12月から3月)の客商売には大きな支障があり、観客動員視点で大きな損失が予想される。もちろん、日本海側の積雪地帯では厳寒期の外出は大きく制限されるから、そう言った地域をホームにするクラブとしては受け入れ難い変更なことは言うまでもない。シーズン制云々よりも、試合数をいかに減らすかが本質的な課題であることも当時指摘した。
しかし、日本協会もJリーグ当局も、この十数年に渡り、上記の本質的課題を能動的に解決しようとせずに来た(例えば、欧州のスタジアムに見られる暖房システムの導入など、ハード面での改善など)。その上でACLがいわゆる年またぎ開催になったことを既成事実として、シーズン制の変更を強行しようとしている。しかも、J1のクラブ数を増やすと言う愚挙も加えてである。
シーズン制の変更理由として、現状のシーズン制の継続では各クラブ(あるいはリーグとしての)収入増限界が理由になっているのもおかしい。厳寒期に試合をすることで収入が増えるとはとても思えないからだ。
もちろん、欧州のトップクラブあるいは中東の一部クラブと、金銭的に戦うことは当面事実上不可能なことだ。そのため、世界のトップレベルの選手はもちろん、日本のトップレベルの選手をJにつなぎ止めるのが難しい現実はある。その中でどのようにサッカー界に入るキャッシュを増やすかは、極めて深刻な課題だ。しかし、その深刻な課題解決のためにやるべきことがシーズン制の変更ではないことは明らかなことだ。
百余年の歳月をかけ、ようやく世界のトップと伍した代表チームを所有するに至った日本サッカー界。もし、報道通りシーズン制変更と言う残念な事態が強行されたとしても、Jリーグの観客動員が一時的に減少したり、よい選手の欧州以外流出が増える程度の被害で済むとは思っている。日本海側クラブの経営に決定的な痛手が生じることがないように祈ってはいるが。そのくらい今の日本サッカー界は磐石な基盤はできている。しかし、愚かな行為はするべきではないのは言うまでもない。
2.女子代表、世界最強チームを作りながら敗戦
大変失礼な物言いとなるが、女子W杯の日本代表があそこまで強力なことは、まったく予想していなかった。こちらに書いたが、戦闘能力だけを見れば、正に世界最強の一角と言っても、言い過ぎではない程だった。それでも勝てないのはサッカーの常、それでもこれだけのチームを作ることができたのだ。特に戦術眼と技術に優れた若い選手が次々と登場している、女子代表の近未来は明るいものがある。女子の強化を推進した多くのサッカー関係者に改めて経緯と感謝を表したい。
確かに世界一を獲得してから12年間、女子サッカーの環境改善はかなり進んだ。例えば、私が関与している神奈川県西部の女子サッカー環境は、小学生世代の女子選手を積極的に集めて試合機会を増やしたり、中学から大人までの一環したクラブが立ち上がったり、十数年前には考えられなかった環境整備が進んでいる。これが全国に広がっているかと言うと、まだまだなのはわかっているが。
ただ、どうにも難しいのがトップレベルの観客動員。常に思うのだが、観客動員視点では、女子サッカーはすぐ隣に男子サッカーと言う強力な競合がある。観客にとって貴重な娯楽に割く時間を、どのようにして女子サッカーに向けることができるのか。そして、その通りWEリーグの観客動員の苦戦はよく知られている。しかし、一方で欧州や北米のトップレベルの女子サッカーの観客動員成功には驚くものがある。その秘訣をうまく整理して日本でも展開できれば、事態は解決するのだろうか。
3.浦和レッズ、3度目のACL王者
レッズが堂々と3回目のアジア制覇。決勝ではサウジの難敵アル・ヒラルを振り切った試合は実に見事。初戦のアウェイゲームで開始早々連係ミスから失点するも、少ない好機を活かし同点として敵地での引き分けに成功。ホームの第2戦は見事な組織守備と少々幸運な得点でリードを奪い、最後までしっかりと守り切った。正に、大人の戦い。
クラブW杯でも、メキシコのレオンに競り勝ち、マンチェスターシティにケンカを売ることはできた。ただ、もうチーム全体があそこまで疲労していては、どうしようもなかったけれど。
それにしても、このクラブのカップ戦での強さには恐れ入る。もちろん、サポータの方々からすれば、リーグの再制覇は大きな目標なのだろうが、毎年のようにしっかりとタイトルを取り切るのだからすごい。
4.ルヴァンカップ城後寿の戴冠
ルヴァンカップ決勝。開始早々、紺野和也の鋭い突破から福岡が先制。浦和が落ち着いて攻め返すが、福岡の組織守備がよく機能。さらに山岸祐也が最前線で巧みなボール保持を見せ、幾度も福岡の速攻が浦和守備陣を脅かす。そして、前半終了間際、またも紺野が輝き、2点差に。
後半の浦和が攻める。交代出場した明本考浩が見事な個人技を発揮して1点差。その後の浦和の猛攻を福岡が押さえ切り(少々怪しげな判定もありましたが)、初戴冠。
でもさ。城後寿がカップを上げる光景はすばらしかったよね。日本中の他クラブのすべてのサポータが、福岡のサポータたちに羨望した瞬間。
5.ヴァンフォーレ甲府ACL 2次ラウンド進出
昨シーズンの天皇杯王者の甲府が、ACLで堂々の2次ラウンド進出。しかもJ1昇格を視野に入れてターンオーバを採用しながらだからすばらしい成果だ。いずれの試合でも、中盤は互角以上の攻防を見せ、変化ある攻撃と組織的に連携した守備を披露。天皇杯制覇が偶然の賜物ではないことを、堂々と証明してくれた。
J1とJ2の最大の差は、両ゴール前での精度にあると言われる。しかし、敵陣前ではピーター・ウタカと三平和司のベテランが知性の限りを尽くしたプレイで、アジアの強豪たちと伍して変化を作り、各選手が次々とネットを揺らした。
多くのトッププレイヤが欧州に流出してもなお、Jリーグが極めて高いレベルのリーグ戦であることを、甲府が堂々と証明してくれた。
6.ヴィッセル神戸、J初制覇
強かった。
大迫勇也、山口蛍、酒井高徳、扇原貴宏とロンドン五輪代表が中核を占め、武藤嘉紀も好調をキープ、周囲を固める前川黛也、山川哲史、本多勇喜、井出遥也、佐々木大樹、汰木康也と言ったタレントが皆堅実に成長、若年層代表時ほど輝きが見られなかった齊藤未月や初瀬亮も輝きを取り戻した感があった。
このクラブは、言うまでもなく約20年前に経営不振で苦しんでいた際に、地元出身の三木谷浩史氏が出資し多くの支援を行ってきた。三木谷氏の支援の下、多くのスター選手を呼ぶなどしていたが今一歩成果は上がらず。特に2014年以降は、三木谷氏の個人支援からいわゆるクリムゾングループの一員となり、バルセロナとの連携や、アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャの招聘など多くの施策を行ってきたが、2019-20年シーズンの天皇杯制覇以外は決定的な成果を挙げることができずにいた。
ここにきて、吉田孝行氏が全権を掌握。上記のベテラン達を軸に、知的労働者たちが輝くチームとなった。結果が出てみると、サッカー的には当たり前のことが証明された感があるけれど。選手吉田孝行は知性あふれるストライカだった。特にフリューゲルス最後の天皇杯制覇の決勝点など忘れ難い。
でも、全盛期とは言えずとも、イニエスタの優雅な舞を幾度も国内で堪能したのだから、それはそれで楽しかったな。
7.遠藤航のリバプール加入
30歳になった日本代表の主将、遠藤航がこの年齢でリバプールに加入。当然のように毎試合の好プレイを継続し、中心選手として機能している。考えてみれば、ブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを披露してきのだから、これは驚きではない。
ただ、このクラスのメガクラブへ、この年齢になってから加入できた日本人選手は記憶にない。過去多くの日本人選手は、早熟な選手(例えば、香川真司や冨安健洋のように)10代のうちに5大国のリーグに加入し経歴を積まないと、欧州CLの優勝を争うようなメガクラブへの加入が難しい感があった。これは、選手編成が必ずしもその年その年のチーム強化と言う視点だけでは決定されず、選手の転売益などの投資的な視点も考慮されたからだろう。したがって、長谷部誠や酒井宏樹のように。そのポジションで世界屈指の名手と言われても、メガクラブへの道が開かれづらかったためと思われた。だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に10代のうちに欧州で売りに出そうとしているるのだが。
しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。
8.ドイツ戦の完勝
気持ちよい完勝だった。
点の取り合いでリードした前半。サネの好機を冨安が完全につぶす。後半立ち上がりに3DFへ切り替えてサネを止めに行った戦術変更。ドイツの攻めをいなしておいて終盤の加点。
日本代表の好調の重要な要因は、カタールW杯で築くことができた各選手の自信だろう。ドイツもスペインも確かに強い。しかし、同様に日本も強いのだ。もちろん、これら強国から学び続けることは、今後も重要だろう。しかし、それらの強国で行われていることを盲信し、日本が積み上げてきた強化を全否定する必要はない。
9.活字媒体の消失とネット媒体の使いづらさ
年寄りの愚痴です。
サッカー界に限ったことではないが、活字媒体の弱体化が進み、多くの活字媒体が廃刊やネット化を余儀なくされている。
大概のサッカー情報は、ネット経由で入手可能。いや、何よりサッカーの本質である1次情報の試合の映像があふれるほどネット経由で入手できるのだから、ありがたい世の中になったものだ。
しかしですよ。自分のクラブ(私の場合はベガルタ仙台)以外の試合情報の入手が、最近非常に難しくなっている。Google検索を行おうとすると、多くのサイトは広告収入狙いで相当数回クリックしないと目的情報には辿り着けないのだ。いや、何回画面を叩いても目的情報に到達しないことも多い。例えば、「今週末、おもしろそうなJリーグ以外の試合あるかな」とか「来週のドイツ対日本は、何時キックオフだっけかな」的なことを調べるのに、ものすごく苦労するのですよね。面倒な世の中になったのだ(笑)。
10.J1昇格プレイオフの非喜劇
J1昇格プレイオフ。余談ながら、第1回現ルヴァン杯決勝と同じ対戦だと、話題になった。あれは31年前、日本が初めてアジアカップを制した直後のことだったな。カズに先制された清水終盤の猛攻、トニーニョのシュートが僅かに外れ勝敗が決した感が漂った時、オーロラビジョンに悔しそうな表情の、清水レオン監督が大映しになった。「ああ、セレソンの元主将が日本で監督しているんだ、」と妙な感動をした。「今まで経験したことのない素敵な時代が来るんだ」と言う何とも言えない予感。そして、その予感通り、30年以上に渡り、若い頃はまったく想像できない歓喜をいくつもいくつも味わうことができた。
本題に戻ります。東京VのハンドによるPKで清水が先制。このハンドだが、東京Vが不当な守備をした訳でも何でもなく、ハンドと言うルール独特の運不運によるものだった。先制後の清水の守備は組織も強度を完璧に近かった。それに対して、東京Vも粘り強く遅攻を重ね、幾度か好機を掴むも崩せずアディショナルタイムに。分厚く守る清水は敵陣にボールを運んだので、定石通りラインを上げる。その瞬間、東京VにFW染野が裏をねらい、縦パスを受け抜け出しかける。しかし、突破したのは染野1人で、簡単に決定機にはつながりそうもなかった。しかし、清水DFが意図不明のスライディング、巧みなスクリーンで持ち出した染野が倒されPK、同点に。
東京Vの久々のJ1復帰が話題となっている、早速横浜Mと開幕戦を戦うなど話題性ある演出も行われているようだ。実際、プレイオフでは私以上の年齢の(笑)サポータの歓喜する姿が印象的だった。一方で清水の悲劇、もうこんな負け方は防ぎようがない。無責任なライターが「清水の体質改善が…」などと語っているが、あんな負け方は体質をいくら改善したってどうしようもない。
いわゆるオリジナル10クラブの明暗が分かれた訳だが、こう言う理屈で説明不能なプレイで来期の昇格が左右される理不尽さ。どうしてサッカーって、こう言った無常観を味わえるのだろうか。
2023年ベスト11
恒例のベスト11です。
ドイツを返り討ちにするなど、実に景気のよかった日本代表チームの中心選手と、Jで活躍したタレントを、いつものように偏見で選考しています。
GK
前川黛也
神戸のJ1制覇を支えた安定した守備振り、A代表で唯一決定的タレントが不在のこのポジション。前川黛也が成長し、2026年大会で日本を支えてくれる可能性も十分にあると思っている。落ち着いたクロス処理と広い守備範囲と堅実なセービング。
ここで改めて年寄りの繰言として、前川黛也のお父上の前川和也のアジア制覇について語らせていただく。
1992年のアジアカップ準決勝中国戦、前半開始早々に先制された日本だが、後半落ち着きを取り戻し、福田正博、北澤豪の得点で逆転。ところがその直後、自陣前の混戦後にGK松永成立が意図不明のラフプレイで退場、オフト監督はこの緊急事態に北澤に代えてGK前川和也を起用した。その直後、中国の単調なクロスボールを、CBの柱谷哲二が意図不明のスルー、突然流れてきたボール処理を前川和也が誤り、日本は同点に追いつかれる。本件については、前川のミスとの記録は多いが、どう考えてても柱谷の判断ミスが致命的だった。1人少ない状況での難しい戦いとなったが、終了間際の堀池巧の鮮やかなクロスからゴン中山が美しい決勝点を決め、我々は決勝進出に成功、アジアチャンピオンに駆け上がった。本当に本当に嬉しかった。
ともあれ、あの苦しかった準決勝中国戦、そして続く決勝サウジ戦、我々サポータに初めてのアジア王者を提供してくれたのは、お父上前川和也だったのだ。
ご子息が改めてアジア王者の歓喜を提供してくれることを期待したい。
DF
菅原由勢
ユース時代からエリート選手。2019年のU20W杯でのプレイもすばらしかった。ところが、韓国戦の直接的敗因となってしまった痛恨のミス。その後オランダの名門での活躍があったものの、カタールW杯の最終代表選考直前の負傷で選考外となった。
こう言った不運を糧として、菅原は最高級の右サイドバックに成長した。このポジションは、内田篤人、酒井宏樹と、日本が常にトップレベルの選手の輩出が継続していた。ここに、内田、坂井と遜色ないタレントの、菅原が確立していること、素直に喜びたい
冨安健洋
その潜在能力からすれば、まだまだ不満は多い。また本人の課題とは言い難いが、負傷の多さはいかがなものか。
しかし、あのドイツ戦での完璧なプレイを見せられた以上、ベスト11には選んでおかないと。
谷口彰悟
カタール移籍後もコンディションを崩すことなく、トップフォームを維持。代表戦に呼ばれる度に堅実なプレイを披露。多くの日本人選手が欧州に戦いの場を移しているが、冨安や遠藤航のようなメガクラブで活躍の場を得ることができない選手が生涯年収を最大にする道筋は、谷口のように中東の金満クラブでのプレイではないかとも思える。それはそれで、複雑な思いにとらわれるけれど。
本多勇喜
ヴィッセルのJ初制覇を最終ラインで支えた。正直、この選手は今シーズンの大活躍までノーマークでした。瞬発力を活かした出足の鋭さ、落ち着いた守備対応、左足の精度。32歳となり、このようなタレントが登場するのだから堪えられませんな。
MF
遠藤航
30歳になってからリバプールのようなメガクラブへの加入し大活躍。考えてみればブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを継続してきたのだから、驚きではない。
ただし、こう言ったメガクラブを含めた欧州の一部クラブの編成は、戦闘能力の向上とは別に、選手の売買による利益創出も目的となっている。そうなってくると、日本人選手は、欧州市場への参画がどうしても遅くなり敬遠される傾向があった(だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に欧州で売りに出そうとするのだが)。しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。
守田英正
カタールW杯でも感じたのだが、守田は過去の日本サッカーがようやく生み出すことができた攻守両面で機動的に機能するタレントと言うことになるだろう。中盤後方から挙動を開始し、豊富な運動量で最前線あるいは両翼のサポートを忠実にこなし、時に得点も奪う。しかし、あれだけの頻度で前線に顔を出しながら、中盤守備で破綻もきたさない。
もちろん明神智和の全盛期に真っ当な代表監督がいれば、守田のように中盤を席巻するタレントとして日本代表で圧倒的な存在感を見せてくれた可能性はあっただろうが、まあぞれはそれ。
山口蛍や渡辺皓太と言ったJで秀でたプレイを見せた選手を選びたい思いもあったのだが、今年に関して言えば遠藤と守田がすばらし過ぎた。
紺野和也
あのルヴァンカップ福岡初戴冠の立役者。
ここ十年くらいで世界的流行(十年もの月日が経ったのだから、流行と言うのはおかしいか)となっている左利きの右ウィング。高速で頻度の多いタッチで俊敏性でキュッと中にも縦にも行ける。このような特長が明確なタレントは、チームとしてその異才をいかに活かせるかが重要で、福岡はこの小柄で勇気あふれるウィングにとって最適なチームと言える。これだけ目立った活躍をすると、他の金満クラブから声がかかりそうなものだが、来期も福岡でプレイするとのこと。このまま、この格段の才を活かす活躍が続けばA代表入りも見えてくるのではないか。
伊東純也
日本サッカー史上最高のFWなのではないかとの雰囲気が漂ってきた。
30歳になっても衰えない縦への格段のスピード、そしてトップスピードで長駆しながらブレないトラップの精度がすばらしい。あの高速下の高精度のボールコントロールを見ていると、伊東をトップ下にして久保を右サイドに配した方が、もっと日本は点をとれるように思うのは、私だけか。
三苫薫
川崎時代の活躍を考えれば、プレミアでの圧倒的存在感は不思議ではない。
ただ、私は意地が悪いので、この世界最高級のウィングプレイヤを、長期に渡り代表のレギュラとしてこなかった理由を、森保氏に問いたい。
FW
大迫勇也
やはり今年のCFは上田綺世でも古橋亨梧でもなく、このお方でしょう。優美なテクニシャンに得点力が戻ってきた。
ただ、私は意地が悪いので、この日本サッカー史上屈指の優美なストライカを、カタールW杯代表に選ばなかった理由を、森保氏に問いたい。
余談ながら…
百花繚乱の感がある代表の攻撃的MF。上記の通り、伊東純也は日本サッカー史上最大のFWではないかと思わせる存在感だし、三苫薫は世界屈指のウィングだ。そんな中、久保建英、鎌田大地、堂安律が並立し、凄絶なポジション争いを演じている。そんな中、最近の久保は東京五輪やカタールW杯での独善的が過ぎるプレイがなくなり、レアル・ソシエダでも代表でも見事な攻撃の牽引ぶり。鎌田のドイツ戦での気の利いたポジショニングは見事なものだった。代表での評価が落ちたと揶揄される堂安だが、序盤押し込まれていたトルコ戦で独特のキープで最初に作った好機で伊藤敦樹の得点を演出した場面など大したものだった。結構な時代になったものだが、やはりベスト11となると、ルヴァンカップ決勝の紺野和也かなと思いました。
ドイツを返り討ちにするなど、実に景気のよかった日本代表チームの中心選手と、Jで活躍したタレントを、いつものように偏見で選考しています。
GK
前川黛也
神戸のJ1制覇を支えた安定した守備振り、A代表で唯一決定的タレントが不在のこのポジション。前川黛也が成長し、2026年大会で日本を支えてくれる可能性も十分にあると思っている。落ち着いたクロス処理と広い守備範囲と堅実なセービング。
ここで改めて年寄りの繰言として、前川黛也のお父上の前川和也のアジア制覇について語らせていただく。
1992年のアジアカップ準決勝中国戦、前半開始早々に先制された日本だが、後半落ち着きを取り戻し、福田正博、北澤豪の得点で逆転。ところがその直後、自陣前の混戦後にGK松永成立が意図不明のラフプレイで退場、オフト監督はこの緊急事態に北澤に代えてGK前川和也を起用した。その直後、中国の単調なクロスボールを、CBの柱谷哲二が意図不明のスルー、突然流れてきたボール処理を前川和也が誤り、日本は同点に追いつかれる。本件については、前川のミスとの記録は多いが、どう考えてても柱谷の判断ミスが致命的だった。1人少ない状況での難しい戦いとなったが、終了間際の堀池巧の鮮やかなクロスからゴン中山が美しい決勝点を決め、我々は決勝進出に成功、アジアチャンピオンに駆け上がった。本当に本当に嬉しかった。
ともあれ、あの苦しかった準決勝中国戦、そして続く決勝サウジ戦、我々サポータに初めてのアジア王者を提供してくれたのは、お父上前川和也だったのだ。
ご子息が改めてアジア王者の歓喜を提供してくれることを期待したい。
DF
菅原由勢
ユース時代からエリート選手。2019年のU20W杯でのプレイもすばらしかった。ところが、韓国戦の直接的敗因となってしまった痛恨のミス。その後オランダの名門での活躍があったものの、カタールW杯の最終代表選考直前の負傷で選考外となった。
こう言った不運を糧として、菅原は最高級の右サイドバックに成長した。このポジションは、内田篤人、酒井宏樹と、日本が常にトップレベルの選手の輩出が継続していた。ここに、内田、坂井と遜色ないタレントの、菅原が確立していること、素直に喜びたい
冨安健洋
その潜在能力からすれば、まだまだ不満は多い。また本人の課題とは言い難いが、負傷の多さはいかがなものか。
しかし、あのドイツ戦での完璧なプレイを見せられた以上、ベスト11には選んでおかないと。
谷口彰悟
カタール移籍後もコンディションを崩すことなく、トップフォームを維持。代表戦に呼ばれる度に堅実なプレイを披露。多くの日本人選手が欧州に戦いの場を移しているが、冨安や遠藤航のようなメガクラブで活躍の場を得ることができない選手が生涯年収を最大にする道筋は、谷口のように中東の金満クラブでのプレイではないかとも思える。それはそれで、複雑な思いにとらわれるけれど。
本多勇喜
ヴィッセルのJ初制覇を最終ラインで支えた。正直、この選手は今シーズンの大活躍までノーマークでした。瞬発力を活かした出足の鋭さ、落ち着いた守備対応、左足の精度。32歳となり、このようなタレントが登場するのだから堪えられませんな。
MF
遠藤航
30歳になってからリバプールのようなメガクラブへの加入し大活躍。考えてみればブンデスリーガでもW杯でもあれだけのプレイを継続してきたのだから、驚きではない。
ただし、こう言ったメガクラブを含めた欧州の一部クラブの編成は、戦闘能力の向上とは別に、選手の売買による利益創出も目的となっている。そうなってくると、日本人選手は、欧州市場への参画がどうしても遅くなり敬遠される傾向があった(だから、日本人選手の代理人の多くは、日本でほとんど実績上がっていないタレントを、無理に欧州で売りに出そうとするのだが)。しかし、この遠藤の成功は、ベテランの域に達した日本人選手の有用性を示すもの、今後の欧州での各選手の活躍の場を広げるきっかけになるのではないか。
守田英正
カタールW杯でも感じたのだが、守田は過去の日本サッカーがようやく生み出すことができた攻守両面で機動的に機能するタレントと言うことになるだろう。中盤後方から挙動を開始し、豊富な運動量で最前線あるいは両翼のサポートを忠実にこなし、時に得点も奪う。しかし、あれだけの頻度で前線に顔を出しながら、中盤守備で破綻もきたさない。
もちろん明神智和の全盛期に真っ当な代表監督がいれば、守田のように中盤を席巻するタレントとして日本代表で圧倒的な存在感を見せてくれた可能性はあっただろうが、まあぞれはそれ。
山口蛍や渡辺皓太と言ったJで秀でたプレイを見せた選手を選びたい思いもあったのだが、今年に関して言えば遠藤と守田がすばらし過ぎた。
紺野和也
あのルヴァンカップ福岡初戴冠の立役者。
ここ十年くらいで世界的流行(十年もの月日が経ったのだから、流行と言うのはおかしいか)となっている左利きの右ウィング。高速で頻度の多いタッチで俊敏性でキュッと中にも縦にも行ける。このような特長が明確なタレントは、チームとしてその異才をいかに活かせるかが重要で、福岡はこの小柄で勇気あふれるウィングにとって最適なチームと言える。これだけ目立った活躍をすると、他の金満クラブから声がかかりそうなものだが、来期も福岡でプレイするとのこと。このまま、この格段の才を活かす活躍が続けばA代表入りも見えてくるのではないか。
伊東純也
日本サッカー史上最高のFWなのではないかとの雰囲気が漂ってきた。
30歳になっても衰えない縦への格段のスピード、そしてトップスピードで長駆しながらブレないトラップの精度がすばらしい。あの高速下の高精度のボールコントロールを見ていると、伊東をトップ下にして久保を右サイドに配した方が、もっと日本は点をとれるように思うのは、私だけか。
三苫薫
川崎時代の活躍を考えれば、プレミアでの圧倒的存在感は不思議ではない。
ただ、私は意地が悪いので、この世界最高級のウィングプレイヤを、長期に渡り代表のレギュラとしてこなかった理由を、森保氏に問いたい。
FW
大迫勇也
やはり今年のCFは上田綺世でも古橋亨梧でもなく、このお方でしょう。優美なテクニシャンに得点力が戻ってきた。
ただ、私は意地が悪いので、この日本サッカー史上屈指の優美なストライカを、カタールW杯代表に選ばなかった理由を、森保氏に問いたい。
余談ながら…
百花繚乱の感がある代表の攻撃的MF。上記の通り、伊東純也は日本サッカー史上最大のFWではないかと思わせる存在感だし、三苫薫は世界屈指のウィングだ。そんな中、久保建英、鎌田大地、堂安律が並立し、凄絶なポジション争いを演じている。そんな中、最近の久保は東京五輪やカタールW杯での独善的が過ぎるプレイがなくなり、レアル・ソシエダでも代表でも見事な攻撃の牽引ぶり。鎌田のドイツ戦での気の利いたポジショニングは見事なものだった。代表での評価が落ちたと揶揄される堂安だが、序盤押し込まれていたトルコ戦で独特のキープで最初に作った好機で伊藤敦樹の得点を演出した場面など大したものだった。結構な時代になったものだが、やはりベスト11となると、ルヴァンカップ決勝の紺野和也かなと思いました。
2023年09月12日
冨安健洋でドイツに完勝
冨安健洋と言う最高級選手の存在が勝負を分けた。
もちろん、大迫敬介は少々高いボールへの安定感に欠けたが落ち着いた処理を見せた。事実上2アシストの菅原由勢は守備の安定感も申し分なく、酒井宏樹不在の不安を払拭してくれた。板倉滉は失点時に前進対応に課題はあったが、1対1の強さを存分に見せた上、フィードの鋭さも相変わらずだった。伊藤洋輝は、さすがにレロイ・サネと正体すると苦戦していたが、総合能力の高さを見せてくれた。遠藤航は相変わらず圧巻の存在で、当たり前のように中盤を封鎖してくれた(一瞬PKを取られるかと心配させられたが)。守田英正も的確に中盤で奪い、落ち着いて持ち出し、隙を見て敵陣への進出を果たしてくれた。鎌田大地は前半の2得点で伊東との絶妙なポジションチェンジと菅原との連係が見事だったが、それ以外の場面でも気の利いた展開を見せてくれた。伊東純也は特別の存在、26年W杯で33歳になる伊東が、この俊足、献身、そして格段の得点力をあと3年間維持してくれるのかは心配だけれども。上田綺世については、とりあえず代表でのPK以外の初得点を祝福しようか。三笘薫は、長駆後の美しいうなぎドリブルは相変わらずだし、短い時間帯最終ラインに入った時を含め守備も安定していた(もうこの選手は直接得点にからまないと、不満に思ってしまう)。谷口彰悟はカタール移籍後も一切衰えていないことを再証明、後半序盤からのDFライン加入と言う難しいタスクをこなしたくれた。浅野拓磨は70分の決定機を外したのはご愛嬌だったが、相変わらず精力的に最前線の数的不利状態での守備をこなし、得点も決めた。田中碧は、得点そのもののヘディングは鮮やかだったが、クローズに起用されたと考えると不満が多いが、別途語りたい。久保建英も2アシストは見事だし、明らかな成長を感じさせてくれたが、クローズと言う視点での不満は同じ、これも別途語りたい。
お互いがコンパクトなサッカーで中盤を抜け出すのに苦労していた序盤。日本はドイツの前線プレスを巧みに外し、遠藤(だと思った)が左サイド三笘に通す(以下左右はすべて日本から見て)。三笘はうなぎドリブルから、ペナルティエリアに進出した守田を使おうとするも、かろうじてドイツDFがつかまえクリア。そのクリアを、冨安が身体を開き、無理な体勢をとりながら、右サイドの鎌田にダイレクトパス(最初、私は冨安のミスキックかと思った)。鎌田は絶妙な溜めの後菅原へ、菅原は見事なスピードで縦抜けして好クロス、ニアで(鎌田とポジションチェンジしていた)伊東がアントニオ・リュディガーの鼻先で見事に合わせ先制。
同点に追いつかれた直後、ドイツの前線プレスが少し緩んだところで、冨安が左足で右サイドの伊東に40m級のフィードをピタリと合わせる。伊東は中央の鎌田につなぎ中央へ、鎌田は再度絶妙な溜めの後右外を疾走する菅原へ、菅原は中央に進出した伊東に、伊東はジャストミートできなかったが、上田が素早い反応からサイドキックでキッチリと合わせネットを揺らした。
2得点とも、冨安の視野の広さと技術の高さが起点となり、鎌田や伊東が受けたところで勝負あり。その時点で右サイドに数的優位確立。菅原はトップスピードで切り込むスペースを獲得できた。さらにドイツCBの視点が左右に大きく移らざるを得ない状況で、上田と三笘のみならず、守田も伊東も敵視野から外れた状態でペナルティエリアに進出する時間を獲得できた。このようなロングパスを通すことができれば、世界中のどんなチームからも得点できる。
複数回、サネを止めたプレイについては、再三VTRがテレビニュースでも流れたが、冨安の守備貢献はもちろんそれにとどまらない。反転の速さ、単純な足の速さ、上半身を当てる強さ、タックルの鋭さに加え、味方DFと敵FWの相対位置をよく考慮した適切な読みが再三冴え渡った。
森保氏は、サネが右側で遊弋し、再三好機を許したのを嫌い、後半から5DFに切り替えた。必然的に、後半は日本が引く展開となった。しかし、危ない場面は皆無、と言っても過言ではないほど守備は安定。これは、冨安の圧倒的な存在感があってのことだった。
この日の冨安を見ていると、なぜアーセナルでフル出場していないのかまったく理解ができない。言葉のコミュニケーションの問題、負傷が多いこと、今シーズンはアジアカップで長期離脱が確定していることなどが、要因なのだろうか。もっと格上のクラブ(そんなクラブは世界にほんの少ししかないのだがw)でも中心選手として君臨するのが当たり前にも思うのだが。
もちろん、過去も冨安は代表では圧倒的存在感だった。しかし、昨年のカタールW杯、一昨年の東京五輪、いずれも負傷がちでフル出場は叶わず。1人の優秀なDF程度の活躍しかできなかった。冨安も11月には25歳となる、もう決して若手DFではなく、全軍指揮官になってもらわなければならない年齢だ。このドイツ戦は、W杯4回優勝国に完勝したと言う意味でも、日本サッカー史に記憶される試合となるだろう。しかし、後年この試合は以下のように記憶されるのではないか。
冨安が日本代表で遅まきながらも圧倒的個人能力を発揮し強国を叩きのめした試合、と。
もちろん、大迫敬介は少々高いボールへの安定感に欠けたが落ち着いた処理を見せた。事実上2アシストの菅原由勢は守備の安定感も申し分なく、酒井宏樹不在の不安を払拭してくれた。板倉滉は失点時に前進対応に課題はあったが、1対1の強さを存分に見せた上、フィードの鋭さも相変わらずだった。伊藤洋輝は、さすがにレロイ・サネと正体すると苦戦していたが、総合能力の高さを見せてくれた。遠藤航は相変わらず圧巻の存在で、当たり前のように中盤を封鎖してくれた(一瞬PKを取られるかと心配させられたが)。守田英正も的確に中盤で奪い、落ち着いて持ち出し、隙を見て敵陣への進出を果たしてくれた。鎌田大地は前半の2得点で伊東との絶妙なポジションチェンジと菅原との連係が見事だったが、それ以外の場面でも気の利いた展開を見せてくれた。伊東純也は特別の存在、26年W杯で33歳になる伊東が、この俊足、献身、そして格段の得点力をあと3年間維持してくれるのかは心配だけれども。上田綺世については、とりあえず代表でのPK以外の初得点を祝福しようか。三笘薫は、長駆後の美しいうなぎドリブルは相変わらずだし、短い時間帯最終ラインに入った時を含め守備も安定していた(もうこの選手は直接得点にからまないと、不満に思ってしまう)。谷口彰悟はカタール移籍後も一切衰えていないことを再証明、後半序盤からのDFライン加入と言う難しいタスクをこなしたくれた。浅野拓磨は70分の決定機を外したのはご愛嬌だったが、相変わらず精力的に最前線の数的不利状態での守備をこなし、得点も決めた。田中碧は、得点そのもののヘディングは鮮やかだったが、クローズに起用されたと考えると不満が多いが、別途語りたい。久保建英も2アシストは見事だし、明らかな成長を感じさせてくれたが、クローズと言う視点での不満は同じ、これも別途語りたい。
お互いがコンパクトなサッカーで中盤を抜け出すのに苦労していた序盤。日本はドイツの前線プレスを巧みに外し、遠藤(だと思った)が左サイド三笘に通す(以下左右はすべて日本から見て)。三笘はうなぎドリブルから、ペナルティエリアに進出した守田を使おうとするも、かろうじてドイツDFがつかまえクリア。そのクリアを、冨安が身体を開き、無理な体勢をとりながら、右サイドの鎌田にダイレクトパス(最初、私は冨安のミスキックかと思った)。鎌田は絶妙な溜めの後菅原へ、菅原は見事なスピードで縦抜けして好クロス、ニアで(鎌田とポジションチェンジしていた)伊東がアントニオ・リュディガーの鼻先で見事に合わせ先制。
同点に追いつかれた直後、ドイツの前線プレスが少し緩んだところで、冨安が左足で右サイドの伊東に40m級のフィードをピタリと合わせる。伊東は中央の鎌田につなぎ中央へ、鎌田は再度絶妙な溜めの後右外を疾走する菅原へ、菅原は中央に進出した伊東に、伊東はジャストミートできなかったが、上田が素早い反応からサイドキックでキッチリと合わせネットを揺らした。
2得点とも、冨安の視野の広さと技術の高さが起点となり、鎌田や伊東が受けたところで勝負あり。その時点で右サイドに数的優位確立。菅原はトップスピードで切り込むスペースを獲得できた。さらにドイツCBの視点が左右に大きく移らざるを得ない状況で、上田と三笘のみならず、守田も伊東も敵視野から外れた状態でペナルティエリアに進出する時間を獲得できた。このようなロングパスを通すことができれば、世界中のどんなチームからも得点できる。
複数回、サネを止めたプレイについては、再三VTRがテレビニュースでも流れたが、冨安の守備貢献はもちろんそれにとどまらない。反転の速さ、単純な足の速さ、上半身を当てる強さ、タックルの鋭さに加え、味方DFと敵FWの相対位置をよく考慮した適切な読みが再三冴え渡った。
森保氏は、サネが右側で遊弋し、再三好機を許したのを嫌い、後半から5DFに切り替えた。必然的に、後半は日本が引く展開となった。しかし、危ない場面は皆無、と言っても過言ではないほど守備は安定。これは、冨安の圧倒的な存在感があってのことだった。
この日の冨安を見ていると、なぜアーセナルでフル出場していないのかまったく理解ができない。言葉のコミュニケーションの問題、負傷が多いこと、今シーズンはアジアカップで長期離脱が確定していることなどが、要因なのだろうか。もっと格上のクラブ(そんなクラブは世界にほんの少ししかないのだがw)でも中心選手として君臨するのが当たり前にも思うのだが。
もちろん、過去も冨安は代表では圧倒的存在感だった。しかし、昨年のカタールW杯、一昨年の東京五輪、いずれも負傷がちでフル出場は叶わず。1人の優秀なDF程度の活躍しかできなかった。冨安も11月には25歳となる、もう決して若手DFではなく、全軍指揮官になってもらわなければならない年齢だ。このドイツ戦は、W杯4回優勝国に完勝したと言う意味でも、日本サッカー史に記憶される試合となるだろう。しかし、後年この試合は以下のように記憶されるのではないか。
冨安が日本代表で遅まきながらも圧倒的個人能力を発揮し強国を叩きのめした試合、と。