これほどの代表選手達を保有できている事を改めて誇りに思える試合だった。
確かに、中国は圧倒的な戦闘能力差がある非常に弱い敵ではあった。そもそも、これだけ戦闘能力差があるチーム同士が試合をするのがミスマッチなのかもしれない。
しかし、2つの事態が試合をスコアだけはもつれさせる事になった。いずれも試合前にある程度の予想と言うか、覚悟はできていた事なのだが。
1つ目。中国の全選手は「敵を蹴ってはいけない」と言うサッカーのルールを知らなかった。安田を壊したGKがイエローカードを食らって文句を言っていた事、さらにはあのGKは終盤啓太が中国の主将ともつれた時に冷静に仲裁に入っていた事、この2点から、あのGKはあの安田に対するプレイに悪意を持っていないし、罪の意識も感じていない事が理解できる。つまり、あのGKはルールを知らないのだ。その他の中国選手も、前半2回楢崎が蹴られた場面を皮切りに、スクリーンした日本選手を後方から蹴る、足の裏を見せてタックルする、肘打ちをする等、様々なプレイを見せてくれた。おそらく、彼らは悪意なくこれらの行為を行っているのだろう。そう言えば、
こんな試合もあったなと。
2002年の韓国代表チームの振る舞いは、これらに比較すれば随分と正常なものだ。当時の韓国選手達は審判団の判断基準を理解した上で、明らかに明確な意図を持ってラフなプレイを継続していたからだ。当時の韓国のプレイ振りは、イタリアやスペインを存分に悩ませていたが、それでもそれは(相当卑怯なやり方ではあったが)あくまでも意図のあるプレイだから、予測可能なもの。しかし、昨日の中国のそれは悪意がないのだから、日本選手の対応は極めて難しいものだった。6年前にマルディニ達が相手にしたのはまだ人間だったのに対して、昨日啓太達が相手したのは人間ではなかったのだ。
2つ目。しかし、それでも審判がまともであれば、前半で中国は10人になっていただろうし、後半中国は試合成立不可能な人数に減っていただろう。ところが昨日の主審の判定基準は非常に明確ながら独特のものだったために、90分間試合が継続してしまった。
通常の試合ならば数試合以上の出場停止になる反則にはイエローカード。通常の試合ならば退場になる反則だと日本のFK。通常の試合ならば警告となる反則だと中国または日本いずれかの反則(ほぼ半々の比率だっただろうか)。実に明確な判定基準ではないか。まあこのように独特の判定基準に審判には、たまには
出会う事があるのだけれどもね。
試合終了時、憲剛と握手をした際の主審の清々しい表情が、無能な人間に大役を負わせては行けない事を示していた。北朝鮮は審判の育成に苦労しているのではないか。特にカードの出し方を理解していないようだ。幸い日本にはカードを出す事を得意とする審判は多数いる。柏原丈二氏あたりを、長期間に渡り北朝鮮に審判技術指導で派遣するのはいかがだろうか。日朝両国のサッカー界いずれにもメリットになると思うのだが。
それにしても日本選手の戦う姿勢と冷静さは素晴らしかった。80年代に友人が「クールに燃えろ!日本代表」と言う応援幕を出していたが、正にこの日の日本の全選手は、「クールに燃えて」いた。あの中国の異様な削りと、あの主審の独特の判定に対し、誰1人逃げもしなかったし、誰1人取り乱す事もなかった。中澤や遠藤や楢崎のように海千山千の経験を積んだ選手だけではない。むしろ、今回のチームは決して平均年齢こそ低くはないが、諸事情でアジアの真のタイトルマッチの経験は少ない選手が多かった。それにもかかわらず、全員が冷静に戦い抜いたのだ。いくら相手が弱いと言っても、上記した2つの外乱に耐えながら、ここまで知的に技巧差を発揮できる試合を演じてくれたのだ。これほどのまでの代表チームを保有できる事が本当に誇らしい。
唯一の得点は完璧な崩しだった。中国の組み立てに憲剛と啓太がプレッシャをかける事でミスパスを誘因、右サイドで拾った安田が中央の山瀬につなぎ、山瀬が巧みなスクリーンプレイでキープし、後方に引いてきた田代が左に流れる遠藤へ展開、遠藤が一拍ためる間に駒野は左サイドに進出し田代と山瀬は前線に進出。遠藤の展開を受けた駒野が縦を突きセンタリング、田代が敵GK前でつぶれ、こぼれたボールを山瀬が押し込んだ。CBが駒野ばかり見て田代を見失ってしまうレベルの選手だったのは確かだが、実にきれいな得点だった。どうでもいいが、中国のサッカー人は、このような得点を自分たちが決める快感を味わいたいとは思わないのだろうか。
この日の日本のチームとしての課題は先制後の前半、中国に合わせてやや蹴り合いめいた展開にしてしまった事か。内田や楢崎への狼藉を主審が見逃した事、中盤のバランスが悪く敵ボランチを自由にしてしまった事などが要因だった。しかし、ここでは憲剛に注文したい。確かに敵CBのラインは不適切だったが、無理に縦パスを狙い過ぎたのではないか。まだ試合は前半で中国選手には体力も残っていたし、1−0でリードしていた。無理に2点目を狙う事よりも、交通事故による失点すら防ぎ、敵を疲労させるのが前半の課題だったのではないのか。一方で完璧なボールキープと揺さぶりで敵DFをガタガタにし続けた後半の展開は上々だったが、目指しているのは格段に高いレベルである事を認識して欲しい。
負傷した安田はどうやら無事らしい。やれやれである。彼の
blogを読んだが本当に感動した。彼はあの場面、蹴られる前にシュートを外した事をしっかりと反省している。これは本物だ。絶対に積んで欲しくなかった経験を積み、いよいよこのタレントは本物になっていくであろう。
内田は散々の前半だった。主審の独特の判定基準を理解できず、不当なチャージに倒されて再三敵に好機を作らせてしまった。しかし、後半には、主審の基準をよく理解し守備も格段に向上したし、幾度となく攻撃参加から好機を演出した。ただし、落ち着いた後半でも中にしぼり過ぎ、時々右サイドでフリーの選手を作ってしまった位置取りには課題ありか。既に安田には相当な差をつけられてしまっている事は忘れてはいけない。
田代も高い評価を与えるべきだろう。決勝点への絡みで、山瀬のスクリーンプレイを判断よく感じ取り、自らが近寄った判断など絶妙だった。この得点場面の他にも、ワントップの難しいポジションで、前線でしっかりとしたキープし、得点への意欲を見せてくれた。終了間際の謎のオフサイドになった得点も絶妙。ロスタイムの決定機に枠に飛ばせなかった事を、しっかりと反省してくれれば、さらに向上が期待できる。
羽生も、安田が壊された難しい状況での交代出場で堂々たるプレイを見せた。あの重苦しい場面で、しっかりと引き出すプレイを連続する事で、チームのリズムを作ると共に好機を演出した。先日、山瀬との並列を期待したのが、実に不幸な事態で実現した訳だが、苦境でも活躍できる重要な人材だ。
橋本は久々の登場。頼りになるクローザ振りを見せてくれた。このようなJリーグで格段な実績を残している選手は、どんなぶっつけ本番でも国際試合で着実にはたらいてくれる。優秀なトップリーグを保有していると、このような事が強みになる。
そして山瀬。とうとう来た。森島寛晃以降ようやく我々は1.5列目から格段の得点力を持つタレントを獲得できたのだ。森島は飛び込んでのダイレクトシュートに妙味があったのに対し、山瀬は一歩遅れた挙動からの正確なボール扱いが持ち味。森島が時に頑健な敵DFと共につぶれる事でスペースを作ったのに対し、山瀬は優雅な技巧で敵陣前にスペースを作る。その対比はさておき、我々は久々に頼りになるセカンドストライカを確保しつつある。
これ以外の楢崎、中澤、今野、加持、駒野、啓太、遠藤については、この程度の相手に完勝した事を、改めて評価する事が失礼なのかもしれない。ただし、試合終了直後の中澤のガッツポーズは忘れ難い。あのガッツポーズこそ、他の全選手に「クールに燃える」事を認識させ続け、それに成功した男の成功の歓喜だったのだ。伝統は継続しているのだ。
中国には13億人もの人々が住んでいる。これだけの人々が「優れたサッカーの代表チームを所有する喜び」を持つ事ができない事が、あまりに気の毒だ。