重苦しい日々が続く中で、長谷部や長友らが帰って来てくれて、有料試合を観られる事を素直に喜びたい。両軍の選手達それぞれに、多くの想いがあるだろう。観戦するサポータ達にも、複雑な想いがあるだろう。私にも、仙台出身のサッカー狂として、何とも言えない想いがある。
ただ、とにかく、私は華やかなスタア達の競演が観られればそれで十分だと思う。
ちょっと視点を変えて、改めてカズについて考えてみた。カズがアジア最優秀選手になったのは93年のドーハの悲劇の年。あれから、なんと18年の月日が経った。あの年に生まれた子供が、普通にJリーガなのだ。そして、今なお元気にプレイをして、さらに今回のチャリティマッチでも、主役の1人として君臨している。いったい、この男は何なのだろうか。
カズについて5年前にこんな事を書いた。これは自分なりにカズの記録としては決定版?なのではないかと自負していた。あの時も、「すごい男だな」と呆れていたのだが、あれから5年経ち、今なおカズが現役選手として光彩を放っている。
先日、ある方が「外国人にカズを説明するのには?カズのようにワールドカップに出た事はないが、その国のサッカーの象徴となっている選手は誰か?」と言う問いをしてくれた。
たとえば、ライアン・ギグス、ヤン・リトマネン、ジョージ・ウェア、釜本邦茂のように、格段の能力を誇った選手でも、その国がワールドカップに出る事ができない場合がある。
ベルント・シュスター、ラモン・ディアス(ディアスは1回出ているのだが、全盛期には出場できなかった)のように、ご本人の意思とか、チーム編成の都合で、出場しない場合もある。
エリック・カントナは確かにワールドカップに出られなかった。ただし、出られなかった事の責任の一端は本人にもあるのだし、何より彼は偉大な存在だが、プラティニとジダンと比べて、フランスの象徴かどうかとなると、やや疑問が残る。もっともユナイテッドの象徴ではあるかもしれないが。
しいて言えば、ジョージ・ベストかもしれない。82年大会、久々に本大会に出場し、地元スペイン、スタア軍団ユーゴスラビアと同じと言う難しいグループに入りながら、ベテランGKパット・ジェニングスを軸に2次ラウンドまで進出した北アイルランド。ジェニングスと同世代のベストが、「あの場にいてくれれば」と世界中の誰もが想った。しかし、言うまでもなく、外国の方々に、ストイックの固まりで長期に渡りプレイを続けているカズを、自堕落極まりなく全盛期があまりに短かったベストに喩えて説明すると、混乱は大きいかもしれない。共通点は、ドリブルが巧みで、得点力が抜群で、格好よくて、抜群に女にもてて、その国のサッカーの象徴である事くらいだから(同世代の北アイルランド人と飲んだ時、そいつは目を潤ませながら、極東のサッカー狂にベストの自慢話をしてたから、カズ同様男達からも尊敬されていたのだろうが)。
カズは、苦労して、苦労して、日本代表を引っぱり、ようやくワールドカップにたどり着いたが、出られなかった。
重要な事は、90年代カズの全盛期の日本サッカー界ほど、物凄い右肩上がりでその質を上昇させた国は、他に思いつかない事だ(同時に井原正巳、福田正博と言う、カズとは別な意味で超スーパーなスタアがいたのも幸いしたのだが)。そして、その右肩上がり以降も、日本は世界の強豪の片隅の地位をしっかりと確保している。その急激な上昇と、以降の安定に、カズが格段な貢献をした事は言うまでもない。
けれども、それでもカズはワールドカップに出られなかった。
以前より述べているが、岡田氏贔屓の私でさえ、その事は飲み込めずにいる。もっとも、岡田武史と言う人を現役時代からずっと観ていて、ブラジルから帰国以降のカズもずっと観ていて、その後の2人の活躍も反芻すると、あの時の岡田氏の決断とカズの悲劇は、生半可には書けない想いもある。
カズよりも、偉大でワールドカップに出る事が叶わなかった国民的象徴は他国にいない。カズは世界レベルから見ても、唯一無二の存在なのだ。