いくつか備忘として。
前半の代表は、真剣に戦っていた。元々このチームは、南アフリカでベスト16に入ったチームを基盤にして、ザッケローニ氏が上積みし、さらに20代半ばの選手が着実に成長して、アジアカップを制している。「チームとしての完成度」は相当なレベルにある。選手の走り始める早さ、走り切る距離の長さ、これらチームとしての完成度が高く、相互の信頼のレベルが高いからこそ、発揮される要素で、代表はJ選抜を圧倒した。
中澤、闘莉王、憲剛と言った、代表選手より格上とも言える選手を含めているとは言え、急造のJ選抜では、とても歯が立たなかった。しかも、J選抜はいわゆる守備的MFと言う選手が不在。このあたり、いかにもピクシーらしい選抜と言えばそれまでだが、「高名なスタアを集める」と言うならば、せめて稲本、中田浩二、鈴木啓太あたりを呼んでおけばよかったと思うのだが。その代わりに、若手の有力最前線タレントを1人外しても、バチは当たらんと思ったのだが。まあ、来期のグランパスの補強候補を、1度生で見ておきたかったから、と邪推したりして。
代表では、遠藤の鬼気迫るプレイがすごかった。これまた邪推だが(こう言う試合で、こう言う事を言ってはいかんような気もするが)、ナイジェリアワールドユースのチームメートだった、小野や小笠原が敵にいた事が、遠藤の意欲を沸き立たせたのでは、なかろうか。「俺がナンバーワンだ」と。
再三、取沙汰されていた3−4−3の初披露となった訳だが、伊野波、今野、吉田麻也と、フィードの質の高い選手を並べ、長友と内田が長駆上下動する守備ラインは、上々のでき。このような独特の試合にもかかわらず、オプションを増やす事ができたのはよかった。
岡崎の動き出しに駒野がつかざるを得ないので、長友の前進の多くを梁が見張る事になったのは、正に災難。そんな中で、梁はよく動いて、長友を見張りながら、ボールをさばいていた。これはこれで、梁にとってとてもよい経験になったはず(よい年齢の梁だが、学習能力の高い男ゆえ、この森島スタジアムの経験を、きっともっと活かしてくれるだろう)。
後半に入り、代表も大幅にメンバを代え、すっかり親善ムードに。
ただ、感心したのは中村俊輔。落ち着いたボールキープを軸に、精度の高いサイドチェンジが機能した。なるほど、この男は長年に渡り欧州のトッププロで活躍したのだな、と当たり前の事を再認識。腕章も巻いていたが(今期はマリノスの主将を務めるようだが)、腕章を巻く事そのものを嫌がっていた時代を思い出したりして愉しい。老獪な俊輔は、今期のJの愉しみの1つとなりそうだ。
代表は、あれだけメンバが代ってしまったので、どうこう言う事もないのだが、結構レギュラと控えの差が大きくなっているのは気になるところ。もちろん、ウズベキスタンに行っている五輪代表候補たち、今回はJ選抜に回ったスタア達もおり、悲観する事はないのだが。そう言う中で、ザッケローニ氏が今回阿部勇樹を呼んだのは、ちょっと興味深かった。このオッサンのこう言うあたり、とても好きです。
それにしても、あのハーフボレーの巧さが全盛期そのものだった事、と言うかあのようなバウンドするボールをしっかりと枠に叩き込む技術については、紛れもなく世界サッカー史でも屈指だったのだな、いや屈指なのだなと。92年のアジアカップのイラン戦。井原のカーブをかけたラストパスがバウンドして、それを...あの日、あの瞬間、カズはキングになったのだ。そして、以降「得点を取る事については、何も心配いらない」代表チームを所有できた幸せ。
直前に、関口がシュートを枠に飛ばせなかった事との対比。関口にとっても非常に重要な学習、経験になったはず。あのようなシュートをしっかりと枠に飛ばすためには、目的意識を持った執拗な反復練習に尽きる。あのイラン戦。その時カズは25歳と8ヶ月だった。関口はまだ25歳と3ヶ月。真摯に努力を積み、この日の経験を活かし、超大化けをして欲しい。
このタイミングで、日本中のサッカー人が気持ちを1つにできる試合を見る事ができた事にとにかく多謝。
でも、復興への戦いはまだ始まったばかり、この試合はせいぜいキックオフに過ぎない。粘り強く、サッカー人として誇りを持って戦っていきたい。