2011年04月24日

気持ちは勝因の1つだ、しかしそれだけが勝因ではない

 多くの論評が「でき過ぎた勝利」あるいは「ベガルタの気持ちが上回った」と語っている。
 試合の多くをフロンターレに支配されていた。守備的に戦ったにもかかわらず、山瀬の妙技で先制を許してしまった。稲本と柴崎の中盤を抜け出す事ができず好機すらほとんど作れなかった。結果、ベガルタの後半のシュートは僅かに2本。
 その僅か2本のいずれもがネットを揺らしたのだから、ベガルタに相当な幸運が舞い降りた事は確かだ。そして、ベガルタの選手達の戦う気持ちはすばらしいものがあった、罹災後再開最初の試合ゆえ、ベガルタ選手達の気持ちの入り方は格段だった。けれども、幸運を呼び勝利を呼び寄せた要因は、決して「戦う気持ち」だけではなかった。

 立ち上がり、ベガルタは後方からのフィードを受けた赤嶺や太田が、素早い動き出しから敵DFを振り切り好機を掴みかける。しかし、その時間帯を過ぎると、稲本、柴崎のボランチコンビを軸にしたフロンターレから容易にボールを奪えなくなる。ベガルタの守備ラインは右から(以下、左右はすべてベガルタから見て)菅井、曹秉局、鎌田、朴柱成、ボランチの角田、高橋義希の6人がブロックを作り、我慢を重ねる。
 守備面でポイントになったのは、主に右サイド(しつこいですが、ベガルタから見てです)から挙動を開始する中村憲剛の押さえ方。柴崎や稲本が前線への展開を狙うタイミングで、憲剛はタッチライン沿いからやや中央に位置取りを変える。その位置取りが絶妙で、菅井がついていくには中過ぎるし、角田が押さえに入ると守備ラインの前に穴が開くし、曹がつくと後方に隙ができる。それをベガルタは試合前から覚悟していたのだと思う。各DFは憲剛の恐怖に耐えながら、ゾーンの網を張り、憲剛には付いて行かなかった。結果たびたびベガルタ陣で前向きで憲剛がボールを受ける事があったが、曹と鎌田はとにかくシュートコースだけは消し、他の選手がまとわりつく事で最悪の事態だけは回避する事に成功した。
 けれども、そうやって憲剛に揺さぶられれば、ボール奪取はギリギリのものになる。結果的に、苦し紛れのクリアが増え、そのボールを稲本に拾われ...と苦しい時間帯が継続した。

 だから、クリアせずに、しっかりとボールをつなぎたい。角田と義希は、そういう意識をはっきり見せ、何とかボールを散らし、ベガルタの時間帯を増やそうと努力した。この2人(あるいは後半登場した斉藤大介)の努力により、押し込まれ続ける時間帯が多かったにもかかわらず、4DFが再度押し上げ位置取りを修正し、ある程度休む時間帯を確保する事ができた。もちろん、前線でフロンターレ守備陣を追い回した赤嶺、押し上げてくるサイドバックに長駆ついてきて再三ボールを奪取した関口と太田、常に柴崎、稲本に対し数的不利を余儀なくされた梁の献身も見事だったが。
 ただ、柴崎と言う僚友を得て、「守る」と言う事を意識した稲本の中盤でのボール奪取は圧倒的。ベガルタのボランチのつなぎのボールを再三奪取し、速攻につなげてくる。これは、最も避けたい形となる。失点場面も左サイドから局面を打開しようとした角田のボールを奪われて、いわゆるショートカウンタの形から。最後の局面での山瀬の突破と田中に合わせたプルバックのアイデアには、山瀬に土下座するしかない訳だが。
 結局、強豪と敵地で戦い守備的に戦う中で、押し込まれて逃げるか、勇気を持ってつなぐかのバランスを取り損ねて、前半でリードを許す事となった。

 角田はこの失点で明らかに神経質になっていた。警告を食らった場面、相当不満の意を唱えていたが、けっこうきついファウルを続けていただけに、柏原丈二氏の判定は妥当に見えたの。そして、角田からの展開がさらに単調になり、稲本に狙われる展開が継続した。ただ、この角田がおかしくなった前半残りの時間帯を、義希、梁が粘り強くカバーしたのが、大きな分岐点となった。
 後半に入り、角田は完全に立ち直る。ハーフタイムで手倉森氏が、うまく指示をしたのかもしれない。再び落ち着いて、しっかりとキープしボールを散らす努力を再開したのだ。もちろん、後半序盤もフロンターレに押し込まれる時間帯が続くが、ベガルタの選手達は粘り強く我慢する。
 後半半ば、手倉森氏は攻め返す時間帯を増やす狙いだったのだろう、中島を義希に代えて起用し局面の打開を図る。一方その直後、相馬氏は山瀬に代えて田坂を起用。失点場面を含め、最前線で巧みな進出と技巧でベガルタ守備を悩ませていた山瀬がいなくなって、ベガルタ守備陣は精神的に楽になったかもしれない。フロンターレの攻め疲れもあったのだろうが、山瀬がいなくなってしばらくの時間帯だけは、ベガルタがある程度ボールキープができるようになったのだ。そして、双方のプレスが強い故に、蹴り合いが続いた時間帯、こぼれ球に飛び込んで突破を狙った梁にフロンターレ守備陣の集中が集まってしまい、右後方から走り込み赤嶺からのパスを受けた太田はフリー、斜めに走っていた太田は湿った芝生に滑ってしまいシュートはジャストミートできなかったが、敵DFに当たったボールはGK杉山の上を越えてゴールイン。幸運と言えばそれまでだが、ほんの僅かだった自分たちの時間帯に勇気を持って梁も太田も前進したから生まれた得点だった。
 同点直後、曹が負傷したのか、斉藤と交代。さらに得点を決めた太田も足をつって動けなくなり、そのまま退場して富田が入った。以降の約15分はまたもベガルタは我慢の時間帯となる。フロンターレはジュニーニョを起用し圧力を高めるが、ベガルタはしのぐ。そうこうして40分過ぎ、ボールを奪ったベガルタは梁と富田(それぞれそう思ったのだが、反対サイドなのでようわからんかった)が丁寧なつなぎから右オープンの中島を走らせる。中島は1度はフロンターレの横山に止められるが、そのクリアをしつこく競り合い、ファウルを奪取。そして、そのFK、梁のボールがピタリと鎌田に合った。
 3分のロスタイムを含め、関口の技巧の粋を尽くした右サイドでボールキープを堪能し、試合終了に。

 ベガルタが幸運だったのは間違いない。選手の精神的な粘りも確かだった。
 けれども勝因はそれだけではなかった。意図的にゾーンの網を張り、憲剛や山瀬にその網を乱されても、ベガルタ守備陣は我慢し続けた。手倉森氏が試合前から企図した守備策を選手全員が継続し切ったのだ。そして、苦しみながらも機を見て、しっかりとつなぐ意識を持ち続け、ここぞと言う場面で意思統一した攻撃をやり切ったのだ。
 周到な準備を行い、それを具現化できたから勝てたのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(2) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする