ベガルタは、ユアテックにジュビロを迎え、前半の2−0のリードを追いつかれ、終了間際に突き放したと思ったらロスタイムに軽率なプレイから再び同点とされると言う、何とも味わい深い試合を展開した。腹立たしいと言えば腹立たしいが、落ち着いて考えると、去年までの「僕らの愉しいベガルタ」が帰ってきたかのうような試合でもあり、奇妙な安堵感を覚えたりもした。そして、前節以上にもったいない勝ち点消失ではあったが、ここまでの選手達の戦いぶりを振り返ると、さすがに疲労は相当溜まっているのだろうし、このような間抜けな試合をしてしまうのも仕方がないかと思ったりして。
ベガルタの前半は完璧。クラブの歴史を振り返っても史上最高の内容ではないかと思わせる45分間だった。
3分、後方でボールを回し、フリーになった曹秉局が正確なフィードを縦に入れ、赤嶺が後方の角田に落とす。フリーで前進する角田はジュビロの中盤選手をかわし、右サイドの太田にタイミング精度共に抜群のスルーパス。太田はグラウンダのセンタリングを入れるも、わずかにボールは左サイドに流れる。そのボールを拾って、再び押し込み最後は梁が中央で溜めて、左サイドゴールライン前でフリーキックを蹴るくらいフリーになった朴柱成へ。朴は狙い済ましたクロスを上げ、逆サイドから長駆走りこんだ菅井が見事なヘディングで決めた。何とも美しい攻撃だった。
続く9分。菅井の出足のよさで掴んだ右サイドハーフウェイライン過ぎたあたりからのフリーキック。梁は大外の曹にピタリと合わせ、曹が落としたボールを赤嶺が蹴りこむ。
2点差としたベガルタは、得意の素早く引く守備と、鋭い逆襲を見せ、ジュビロを完全に圧倒。ジュビロにほとんど好機すら与えずに前半を終了した。
後半、ジュビロ監督柳下氏が動いてくる。アンカーの那須を最終ラインに下げ3DFとして、両翼の駒野と朴柱昊(どうでもいいが、この韓国代表の若者は、うちの朴と名前が似ているな、今この原稿を書いていて気がついた)を上げてきたのだ。これは今のベガルタに対しては1つの策だろう。しっかりとボールをキープできずとも、梁と関口を押し下げる事ができるからだ。しかし、ベガルタの後半の入りも抜群だった。前半同様の出足の鋭さで、鋭い攻撃を繰り返した。約10分間は。
ところが、高橋義希がバックパスを誤り敵FWにシュートを許した(林が見事にブロック)あたりから様相が変わる。さすがに鋭い出足はそうは続かず、ベガルタが一服入れたあたりで、右サイドの駒野への守備がすっかりおかしくなってしまった。基本的には関口が駒野につくべきだが、帰陣が遅れたり絞ったりしてつけない場面もあり得る、そうなると朴なり高橋義希あたりが、密着とは言わないまでもある程度スライドして適切な距離でウォッチする必要が出てくる。そこの修正が、ちょっとうまく行かないところを突かれ、右から速いクロスを入れられ、折り返しを山田に決められる。こら、菅井、オフサイドのアピールをしている暇があったら、ちゃんと守れ。評価の高かった山田だが、ここまでほとんど消えていたのだが、ワンチャンスを決めてくるとは、何か持っている感もあるな。
ここまでほとんどジュビロに好機を与えていなかったのだから、何もあわてる必要はなかったのだ。1点差になったのだから、守備を厚めにしてしばらく我慢をすればよい。ジュビロは3−5−2に切り替えている事そのものが、バランスを崩している。点を取った山田、五輪代表の中核と期待される山崎、ボランチの若手小林、山本、勢いに乗って出てくるのは自明なのだから、ベガルタはいなせばよかったのだが...1点差になって慌てて前掛りになり、同じように駒野から崩され、見違える動きを見せた山崎に...同点。ちゃんと守備の人数は揃っていたのに。
ただ、ここからは、ジュビロの若さが出た。ユアテックでベガルタは必ず勝ち点3を目指す。だから、同点になったのだから、ジュビロは落ち着いてボールを回して、うちが出てくるのを待てばよかったのだが、逆に前に出て来てくれた。太田に代わり入ったと富田の運動量をを軸に、ベガルタイレブンも、肉体疲労の色は濃いが精神的に立ち直る。右サイドに飛び出した義希が右に出るフェイクから逆に左のターンで敵DFを振り切り、赤嶺にラストパス、赤嶺の狙い済ました左足シュートは、川口の超美技に防がれる。さらにベガルタは足のつった菅井、義希の代わりに田村、中島を起用し、圧力を高める。梁のスルーパスに中島が反応するが、振り切れない。富田を起点にした逆襲で梁が持ち出すが、川口にまたも防がれる。と、これだけ攻めれば、ジュビロ守備陣も突かれてくる。右の田村のクロスをはね返され、逆サイドで拾った朴がクロス。この揺さぶりにジュビロ守備陣はついていけず、後方から進出した角田は全くのフリー。川口もこれは止められなかった。
まあ、ジュビロも疲れていて、パワープレイする体力すら残っていなかった。勝ったと思うよな。でも、今期ここまですばらしいプレイを見せてくれた曹、鎌田、林を責めるのもねえ。むしろ文句を言うとしたら、あと2分くらい残っていたのだから、同点にされた瞬間に倒れ込んでしまった事にだな。その後、攻め込んで敵陣前のFKやCKを結構つかんだのだから、さっさと再開していたら、4−3に突き放せていたかもしれん。
何とも言えず、悔しい試合だった。
でも、サッカーだからな。重要な事は、選手達が相当疲労している事だ。再開以降の見事なプレイの連続、疲労が溜まって当然だろう。最後の失点など、曹と鎌田がすり減っているがためとしか思えない(だからと言って、あの間抜け振りが許されるかと言うと、議論は別れようが)。菅井や義希が足をつらせて途中退場したのもそうだ。そのような状況下において、2点差を追いつかれた後、攻め返して突き放したのだ。これはこれですごい事だと思う。キリンカップのための中断期まで、適切な体調管理と、格段に厚くなった選手層をうまく使う事で、よりよい成績を残す事が、何より大事だろう。
ここまで選手達は見事な集中力で、すばらしいサッカーを見せてくれた。みな、人間だから抜ける事もあるさ。もちろん、誉められなかったこの試合で勝ち点3を獲得できれば、めでたかっただろう。でも、それはそれ。今日は、ヘマした試合はヘマした試合として、同点に終わった事で、自分たちの反省材料になったと考える事にしよう。甘いと言われるかもしれないが。
あの入替戦、能力的には圧倒的な差を見せつけられたジュビロを、この試合では技術戦術で完全に圧倒したのだから。そして、6試合終わって3勝3分け、無敗で勝ち点12。堂々たる成績である。今日の試合を見たザッケローニ氏は、梁も関口も角田も菅井も、前田や駒野に匹敵するタレントと判断してくれたに違いない。物事を前向きに捉える事こそ大事なのだ。