2016年09月05日

最高のエンタティンメント

 腹は立っている。
 しかし、このUAEに対する苦杯を反芻してみると、改めて、サッカーの奥深さを色鮮やかに感じることができ、ワールドカップと言う私の人生にとって最高のエンタティンメントを堪能することに、喜びを禁じ得ないのだ。

 UAEはよいチームだった。ちょっと前のこの国の代表チームは、かなりラフな反則を含め激しく守り、前線の選手の脚力に頼る速攻ばかりを狙う、発展性を感じさせないサッカーしか見せてくれなかった。90年イタリア大会に、このようなサッカーで出場権を得ていたのも、悪影響を与えていたのかもしれない。
 しかし、昨年のアジアカップにせよ、この試合にせよ、今のUAEは違う。悪辣なファウルもないし、単純に縦に行くだけではなく軽妙で精度の高いショートパスは鮮やかだ。
 このような状況での「上から目線」が失礼なのはわかる。でも、私は嬉しかった。「UAEが来てくれた」のだ。日本、韓国、豪州、イラン、イラク、ウズベキスタン、このグループに、完全にUAEは来てくれた。こうやって、アジアのレベルが上がることは、長期的に我々のレベルを上げることになる。毎年毎年の地域内のレベルの高いタイトルマッチが、代表チームのレベルを引き上げていくのだ。
 先日の欧州選手権の映像、単純にうらやましかったではないか。小国も大国も、持てる知性と技巧を丹念にぶつけ、それぞれのサポータ同士が愉しそうに応援し合っている。UAEの参戦は、あのような愉しそうな地域競争に、我々が一方近づく事ができた証左なのだ。
 アジアで簡単に勝てないことを嘆くのは完全にピントがずれている。我々が健全に戦えていると言う前提は必要だが、アジアでの戦いが難しくなればなるほど、我々のワールドカップ優勝への夢は近づいてくるのだ。 
 そして、腹は立っているが、このUAE戦、日本代表は健全に戦ってくれていた。

 だからと言って、腹が立って、腹が立って、腹が立って仕方がないが。
 まあ、「アジア予選で、ここまで不愉快な気持ちになることができる快感は格段なのものだ」と強気の態度を崩さずにおこう。

 で、本題に入る。

 結果は最悪のものだったが、試合内容は悪くなかった。
 この日の敗因は2点だ。

 1つ目は、酒井宏樹と長谷部が、ちょっとあり得ないミスをしたこと。その後、各選手がそれを丁寧にカバーしようとしたが、日本の守備の弱点が矢面に立ってしまった。
 1点目の酒井宏樹のミスを誘引したのは、大島のパスが弱かったこと。しかし、だからと言って、敵にボールを奪われそうなった酒井宏樹が、フィールド中央にグラウンダのキックをしたのにはあきれた。たまたま、そのボールが敵エースのオマールにピタリと合ってしまい、いきなり速攻を許してしまったのは結果論だが。そして、加速した敵FWへの対応は、吉田麻也が最も苦手とするところ。傍目に見ても慌てた対応となり、ファウルをとられてしまった。森重もカバーに入っており、落ち着いてコースを消せばよい場面だったのだが。FKそのものについては、敵が巧かった。ただ、左右のキッカーが揃っている状態で、蹴ったのは先に助走を始めた選手だった、とすれば、西川には、蹴るまでステップは踏まないで、我慢して欲しかったのだが。
 2点目の長谷部、代表100試合目で犯してしまった痛恨。そこからの展開、敵FWを3人で囲みながらも、囲んだのが少々守備が怪しい香川と大島だったこともあり、微妙なPKをとられてしまった。長谷部がミスしてしまってはどうしようもない。ただ、大島には言っておきたい。イニエスタやモドリッチの守備を学んでほしい。
 サッカーにミスはつきものだし、ミスが起こったら、周囲がカバーするのが肝要。そして、この試合、大きなミスが出た直後、各選手は丁寧にそれをカバーしようとしたのだが、それがたまたま弱点を突かれることになってしまった。

 敗因の2つ目は終盤に猛攻を仕掛けられなかったこと。
 リードを奪われたのは後半の序盤。たっぷり時間は残っていた。そして、日本はそこから次々と攻撃をしかけ、決定機を掴む。清武の空振り(あそこはアウトサイドでなく、インサイドで丁寧に狙えば、少なくとも空振りはなかったはず)、岡崎得意のニアからのヘディングがバーをたたく。前半粘り強く中盤で対応していたUAEだが、中盤で止め切れない場面も増えてきた。日本が、素早くボールを動かし、変化を交えた攻撃を継続すれば、あと2点とるのは難しくない状況だった。幸い、ベンチには多士済々の攻撃タレントもいるし。
 ところが、その交代策が様々な面で裏目となる。
 まず清武に代えて宇佐美。宇佐美は得意のドリブルで幾度か好機をつかみ、PKではないかと思える場面も作った(ただし、あの場面の倒れ方は感心しなかった、もう少し強引に前進すればよかったのではないか)。しかし一方で、清武がいなくなり、セットプレイの精度は落ちた感があった。
 次に岡崎に代えて浅野。浅野はゴールインしたのではないかと言うシュートを放ったし(ただし、あのシュートをちゃんとミートしていれば、GKを破ることができて、文句ない得点となったはずだ)、幾度も裏を突いてUAEに脅威を与えていた。しかし一方で、岡崎の不在は、両翼からのクロス攻撃において、敵への脅威を明らかに減らしてしまった。
 そして、最後の交代は、大島に代えて原口。1次ラウンドから、中盤後方に起用され中盤からの持ち上がりを期待されている原口は、再三長駆のドリブルから好機をつかみ、ミドルシュートを果敢に狙った(ただし、残念ながら枠には飛ばなかった)。しかし一方で、大島がやっていた左右への展開はなくなり、攻撃が単調になってしまった。
 そう、これらの「裏目」は結果論なのだ。交代で起用された選手は皆健全に戦い、特長を発揮し、必死に戦った。でも、傍で見ている限りは、何か交代策が裏目に出たようにも見えたのだ。ちゃんと逆転していれば、そんな印象は薄れたかもしれないがね。
 もちろん、ハリルホジッチ氏としては、このような交代策をとっていった最大の理由は、清武、岡崎、大島の役割を、香川がある程度カバーしてくれることを期待したからだと思う。しかし、残念ながら、終盤の香川は、焦りもあったのだろうが、慌てたプレイも目立ち、攻撃の変化や鮮やかな技巧は見せてくれなかった。
 清武を控えにおいていれば、香川と交代する手段もあったろうが、2人をスタメンに並べた以上、ハリルホジッチ氏としては香川を残すしかなかったのだろう。また、清武がスタメンにいたからこそ、本田の先制点が生まれたのも事実だし。
 難しいものだ。
 
 そうこう考えると不運な試合だった。
 ただし、私が嘆く不運は審判の判定ではない。ファウルかそうではないか、ボールがラインを越えたかどうか、これらに伴う運不運は、長い目で見れば公平に左右する。また、浅野のシュートの判定については、いわゆるゴールラインテクノロジー導入の健闘があるべきかもしれない(ただね、私はアジアのアウェイゲームで、「そのようなテクノロジーが正常に動作するのか?」と言う不安も感じるのですがね、まあそれはそれ)。
 私が述べたい不運は、ハリルホジッチ氏も、長谷部とその仲間達も、UAEを舐めていたわけではない。存分なリスペクトを持ち、丁寧に戦い、己の能力を発揮しようとしていた。そして、相応よい試合をしていたのだ。チームメートの大きなミスを丁寧にカバーしようとしていたし、リードを奪われても、執拗にあきらめることなく、それぞれの選手の特長を前面に出し得点も狙った。

 でも、それらが、すべて空回りした。
 まさにサッカーそのものではないか。
 西川、麻也、宏樹、香川、もちろん長谷部、それぞれには、相当厳しい批判を行った。でも、彼らは格段に経験を積んだ我々の英雄だ。もちろん、「もっとできるはずだ」との思いは強いが。

 今メンバに入っている選手達、彼らを逆転しようと虎視眈々と狙っている選手達、それらの選手の特長を最大限に融合し、厳しい予選を勝ち抜き、本大会に最強チームを送り込む。そして、ロシアで丁寧に戦い抜き、ベスト8以上を目指す。
 サポータ冥利につきる、最高のエンタティンメントが、今始まったのだ。
posted by 武藤文雄 at 01:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月01日

ロシアワールドカップ最終予選初戦前夜

 いよいよ最終予選が始まる。
 何歳になっても、ワールドカップ予選は、最高級のエンタティンメント。己が参戦したのは、86年大会が最初だった。そして、2002年大会を除くと、今度の予選体験は8回目。陳腐な言い方になるが、真剣勝負の愉しさは格段のものがある。

 ともあれ。
 正直言って、やはり楽観的な思いに支配されてしまう。今回のレギュレーションは、6チーム総当たりのホーム&アウェイの長期戦。このような総当たり戦で、チーム数が増えれば増えるほど、戦闘能力が高いチームが上位に上がっていく。たとえば、明日のUAE戦に苦杯したとしても、丁寧に勝ち点を積み上げればそれで上位に進んで行ける。一方で、UAEが日本から勝ち点をとれたとしても、残り試合で勝ち点を積み上げられるかどうかは別な話だ。
 たしかに、UAEはワールドユースで好成績を上げた世代だけに、相当な強化をしてきているらしい。報道によると、2ヶ月にわたる長期合宿を行ったとのこと、決して簡単な相手ではないだろう。

 何より岡崎がいる。この精力的なストライカは、2009年に代表の中核に定着以降、足かけ7年に渡り、我々に歓喜を提供し続けてくれた。昨年のアジアカップUAE戦苦杯。アギーレ氏が、負傷を抱えた岡崎を無理に1次ラウンドで引っ張り過ぎ、交代せざるを得なかったことが敗因となった。そして、昨シーズンは、とうとうプレミアリーグチャンピオンの一員となった。岡崎がいる限りにおいて、我々は得点力不足に悩むことはなかった。
 岡崎も30歳になった。このロシア予選、そして本大会が総決算となることだろう。

 もちろん、長谷部も、本田も、(このUAE戦は負傷で離脱してしまったが)長友もいる。みな、長期に渡り、欧州のトップクラブで実績を残してきた男たちだ。苦労を重ねながら、香川も清武も両酒井も、欧州で地位を確保してきた。さらに世代が下がり、武藤も宇佐美も、そして大島も浅野も遠藤航も、続こうとしている。西川、東口、森重、柏木、小林悠と言ったJのトップスタアが、格段の能力を誇ることは言うまでもない。

 攻撃ラインの整備はかなり進んできている。
 ハリルホジッチ氏の初戦のシンガポール戦。わざわざ、岡崎をトップに固定しながら、香川が前線に飛び出して、岡崎を妨害し、勝ち点を能動的に失ったのは記憶に新しい。たまたまハリルホジッチ氏が視察したJリーグで好プレイを見せた選手を、執拗に起用して強化試合を無駄に費やしたのも、愉しい思い出だ。
 しかし、そう言った問題は過去のものとなろうとしている。少なくとも、最近の試合では、岡崎、本田、香川の位置取りや関係性は整理されつつある。

 不安を語るのは愉しい。
 特に、シリア、ブルガリア、ボスニアヘルツェゴビナ、とここ3試合、安定して「ひどい守備」の試合を見せられている。シリア戦とブルガリア戦は、終盤に中盤や前線の選手の怠慢。ボスニア戦は、最終ラインのタレントの集中不足。異なるモードでの大失態だけに、一層悩ましさが増す。
 4年前の最終予選は、初戦のオマーン戦で、日本代表史に残るような完璧な試合を見せてくれた。しかしながら、本大会での悲しい結果が出た今となっては、ピークが早過ぎたようにも思えてくる。最終予選初戦の前夜は、このくらい不安感があったほうが、よいのかもしれないなと。

 などと、あれこれ考えることを堪能する、初戦前夜。これが愉しいのだ。
posted by 武藤文雄 at 00:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする