2017年06月10日

ロシアに向けたの準備が整った試合

 日本1対1シリア。

 前半はひどかった。ボールがしっかりと回らず、およそ中盤が機能しない。 思うようにボールを保持できない故、無理な縦パスが多く、ボールを失う悪循環。さらに、ハリルホジッチ氏が「デュエル」を要求するからだろう、敵のボール保持時間が多いのに、無理に強く当たりに行くから、かわされピンチを増やす。
 それでも、今の日本はFWの個人能力が高い。前線で大迫はしっかりと持ちこたえるし、原口は幾度もシュートまで持ち込む。前半終了間際の久保のシュートも惜しかった。しかし、シリアのDFも強い。特に主将のアルサリフは、ロンドン五輪予選から、我々に立ち塞がっていた名手(大迫との丁々発止当時も今も見事な戦いだ)で、今日もすばらしいプレイを見せてくれた。と言うことで、前半日本がリードしてもおかしくはなかった。もちろん、リードされても不思議はなかったが、充実の川島と麻也を軸に、何とか守り切る。
 後半開始早々も同じ展開。そして、押し込まれた展開から許したCK、ショートコーナへの緩慢な対応、期待のCB昌子の目測ミスから、あえ無く先制を許した。

 元々、この試合はとても難しい試合だ。
 何よりアウェイ(と言っても中立地だが)イラク戦に勝ち点3を確保するのが最重要事項。そのための準備となるこのシリア戦は、体調のピークを合わせるわけにはいかない。しかし、ビジネス上の理由で、満員の大観衆を集めて仰々しい試合としなければならないのがつらいところ(いつもいつも語っているが、カスミを食うだけでは生きられないのだから、しかたがない)。そうなると、そうひどい試合を見せると勢いが出ない。
 さらに、以下の特殊条件が重なる。今回の代表強化セッションは、欧州のシーズンが終了し、選手達は休暇前にもうひと頑張りと言うタイミング。加えて、久々にハリルホジッチ氏が、欧州クラブ所属選手を集中強化(あるいは観察)できる貴重な機会。
 そうこう考えると、何とも焦点の絞りづらい試合なのだが、このままでは、内容は悪いは、結果も出ないと言うことになる。その状況でイラク戦に臨むのでは、何とも重苦しい雰囲気になってしまう。

 内容が悪いと言えば、タイ戦もそうだった。中盤でのボール回しが明らかに劣勢にもかかわらず、香川、岡崎、久保の見事なシュート力で点差を広げ、麻也を軸に最終ラインでしのぎ続け、あげくは川島のPKストップ。チームとしての機能は褒められたものではなかったが、気が付いてみれば、スコアだけ見ると4対0の完勝だった。悪いなりに拾った試合ではなく、すごく悪かったけれど完勝だったのだ。日本代表を40余年見続けているが、あれほど内容が悪い中で、結果だけがすばらしかった試合はなかった。また、その前のUAE戦は、アウェイゲームで、序盤に久保が先制したこともあり、守備的にペースを握ればよい試合だったが、中盤から崩した好機は少なかった。つまり、今年に入って能動的に中盤が機能した試合はなかったのだ。これは長谷部の負傷離脱の影響もあったのだが。
 言ってみれば、今年に入っての日本代表は、モドリッチのいないレアル・マドリード、イニエスタがいないバルセロナのようなサッカーを見せていたのだ。これでは、安定した試合は望めないし、何より相手DFが当方のFWより能力が高ければ、点はとれない。そして、残念ながら、大迫も原口も、クリスチャン・ロナウドやメッシの域には達していない。
 さらに振り返れば、日本にとって貴重な強化期間だった1次予選で、ハリルホジッチ氏は先を見据えた準備をあまり行わなかった。必ずしも本調子でなかった本田、香川を軸にした攻撃ラインを拘泥、組織守備が崩壊しても試合結果がよければ、それでよしとの態度だった。
 そして、最終予選でいきなりUAEに苦杯し、イラクに苦戦して、慌てて組織守備を整備。原口、大迫を抜擢し、攻守を建て直した。平行して、吉田麻也が格段の成長を遂げたのが大きかった。このあたり、ハリルホジッチ氏の追い込まれたときの手腕はさすが、と言うべきだろう。
 ただし、上記の通り、スコア的に完勝だった敵地UAE戦にしても、ホームタイ戦にしても、中盤でのボール回しは褒められたものではなかった。そして、このシリア戦の前半、これが3試合続くと言うことは偶然ではない。長谷部がいないと、中盤の展開力が激減するのだ。そして、イラクはアジアの中では、日本、ウズベキスタンと並び、中盤の展開力が高い国だ。この状態で、この厄介な相手と戦うのか。いや、それでも予選は勝ち抜ける確率は高かろうが、33歳の長谷部を頼りに、ロシアに向かおうと言うのか。さすがに楽観的な私も、イヤな気分にとらわれ始めた。

 しかし、答えは簡単に見つかった。
 本田圭佑のインサイドハーフ起用だった。
 ザッケローニ氏時代の本田は、年齢的にも全盛期、トップ下で圧倒的な存在ではあった。しかし、細かすぎる崩しに拘泥したり、強引な持ち出しを狙い過ぎる傾向があった。そして、その本田の自己過剰評価と共に、ブラジルで日本は沈んで行った記憶は新しい。
 けれども、この日の本田は違った。
 交代時間が前後したが、アンカーに入った井手口の、早くて速い展開のサポートを受け、本田が長短のパスを繰り出し、中盤をリードした。そこに乾が加わり、溜めを作りつつ突然得意のドリブルで突破も狙う。こうなると、倉田も持ち味が出て来て、中盤で落ち着いてバランスがとれる。
 この日の本田は、自己過剰評価などみじんも感じさせず、よい意味で自己顕示欲を発揮しつつ、落ち着いて中盤を構成した。試合を積んで、大迫との位置関係が整理されれば、いっそう変化あふれる中盤が作れるようになるだろう。こうして軸ができれば、周囲の選手も役割が決まってくるはずだ。
 我々は、本田圭佑と共に、1人のトッププレイヤの登場、成長、飛躍、停滞を愉しんできた。そして、そのドラマに、成熟と言う新たな章が、刻まれようとしている。代表サポータならではの人生の贅沢である。

 遠藤保仁の後継者は、すぐそばにいたのだ。

 川島−麻也−本田−大迫と、縦のラインがしっかりと固まった。これにより、ロシアのベスト8以上に向けてチームの中軸がようやく整理された。本大会まで約1年、ちょうど、タフなイラク戦、豪州戦、サウジ戦を控える。準備状況としては最適なタイミングなのではないか。
 本田が、このシリア戦と同じポジションで常時出場できる的確なクラブを選択することを期待したい。そうすれば、このシリア戦は、ロシアに向けた準備が整った試合と記憶されることだろう。
posted by 武藤文雄 at 13:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月03日

南米との相性の悪さと未来への希望

 ユース代表は、2次ラウンド1回戦ベネズエラ戦、0対0で迎えた延長後半、CKから失点し悔しい敗退。

 今大会は、冨安のミスで敗退した大会と記憶すべきだろう。
 煮詰まった延長後半立ち上がりの敵CK、冨安は目測を誤り、ベネズエラ主将エレーラにフリーでヘディングシュートを許してしまった。110分間これだけタフな試合を繰り広げた上での判断ミス。集中力の欠如ゆえのミスだったが、冨安を攻める気持ちは一切ない。また、冨安がいなければ、我々はここまで勝ち残ることはできなかった。冨安の魅力は、1対1の強さ。特に、加速に乗って仕掛けてくる敵FWへの対応のうまさは格段で、順調に成長してくれれば、日本サッカー史最高の守備者にまで成長する可能性を持たせてくれた。つまり、現在の師匠である井原正巳を超える存在になるのではないかと。
 しかし、この悔しい試合では、肝心要の場面で、目測ミスから痛恨の失点を許してしまった。これだけの逸材なのだ。「冨安のミス」と、皆で明確に記憶し、捲土重来を期してもらうべきだろう。

 悔しいけれど、戦闘能力に僅かだが明確な差があった。一方で、このチームは、日本のの伝統的強さに新たな要素が加わった魅力があった。

 まず、悔しいが明確な差について。ベネズエラとの差は、歴史的に幾度も見てきた、典型的な南米強豪国との間に見られるものだった。
 元々我々は、南米勢とは、相性が非常に悪い。90年代半ば、日本が世界大会に常時出場するようになった以降、ワールドカップ、五輪、ワールドユースで、日本は南米のチームにほとんど勝っていない。アトランタ五輪のブラジル戦と、ナイジェリアワールドユー ス準決勝のウルグアイくらいではないか。この要因には、「絡みキープ力?」とでも呼ぶべきか南米独特の各選手の1対1のうまさと、勝負どころを見極める集中力の二つがあると思っている。

 まず前者の「絡みキープ力」。
 0対0で迎えた後半、ベネズエラはフォアチェックで日本DF陣に厳しいプレスをかけてきた。日本はこれを抜け出すことができず、ベネズエラに攻勢を許した。それでも、中山と冨安を軸に丁寧にしのぎ、それなりに意図的な逆襲を狙ってはいたが、有効な攻撃頻度は少なかった。
 少々乱暴な総論で語る。この日もそうだったのだが、南米の選手達は単純な1対1の競り合い、それも粘り強く身体を絡めてのキープがうまい。そして、その「絡みキープ力」と対すると、日本は持ち前のパスワークの精度が落ち、ペースをつかめなくなる傾向がある。
 欧州やアフリカが相手だと、南米ほど絡みキープが執拗でないため、よりパワフルな選手がいても、日本はパスワークで圧倒できることも多いのだが。ちなみに南米勢は、欧州勢との対戦では、欧州の単純なパワーの前に、絡みキープがうまくいかず苦戦することもある。まあ、このあたりは、ジャンケンと言うか、相性と言うものなだろう。
 南米勢と互角以上に戦うためには、こう言った絡みキープ力を高める必要がある。そのためには、はやり言葉で言うデュエルとかインテンシティとかだけではなく、純粋なボール扱いの技術、身体の使い方、ボールを受ける前の準備、競り合う中での判断など、多面的な強化が必要に思う。そして、そのためには、1対1で勝つための執着、創意工夫を必死に考える習慣付けが必要。これは、指導の現場と言うよりは、サッカーを語る我々が、「絡みキープ力」で勝てる選手を称え続けることが重要に思う。

  次に後者の勝負どころを見極める能力。
 後半、日本は粘り強くしのぎ続け、延長まで持ち込む。そして、延長に入るや、さすがにベネズエラに疲労が目立ち、日本も押し返せる時間帯が増えてきて、シメシメと思っていた。ところが、延長後半、キックオフから攻め込まれ、FKを奪われ、その流れからの連続CKから失点してしまった。しかも、悔しいことに、敵の精神的支柱のマークを当方の守備の大黒柱がし損ねての失点である。それにしても、ここでのキックオフ直後のベネズエラ各選手の集中力には感心した。
 南米勢との試合で、勝負どころで見事な集中や変化を付けられて、やられることは多い。この大会のウルグアイ戦の失点時もそうだった。昨年のリオ五輪でも、コロンビアに許した先制点は、当方の僅かな守備陣のミスを活かされたものだった。
 この感覚を、いかに若年層の選手たちに身につけてもらうか。陳腐な考えだが、若い頃から厳しい試合を経験してもらうしかないのではないか。具体的には、Jユース所属時代から、J2なりJ3のクラブにレンタルに出し、毎週末サポータに後押しされながら(場合によっては罵倒されながら)、勝ち点を1つでも積み上げる(多くのクラブでは、下位に近づかないようにもがく)経験だ。プリンスリーグや、U23でのJ3の試合では、このような経験は難しい。一番似ているのは、高校選手権になるが、これは勝ち抜き戦と言う構造から、多くの選手が経験できない欠点がある(もっとも、そのような欠点があるから、格段の難しさとなり、貴重な経験となるのだが)。

 一方で、今回のチームは、過去のユース代表と比較しても、実に魅力的だった。日本の伝統である、細かなパスワークも、粘り強い集団守備も高いレベルだった。いずれの試合でも、ペースを握った時間帯は、素早いパスワークが奏功し、変化あふれる攻撃を見せてくれた。特に市丸と三好は判断力と技術に優れたMF、この2人が遠藤保仁と中村憲剛の配下として、Jを戦っていることは非常に意味があると思っている。中山も非常に優れたCBで、落ち着いたカバーリングと精度の高いフィードは魅力的だった。久保については、色々な意味で標準外のところもあり、別に検討してみたい。
 ともあれ、今回のチームを魅力的にしていたのは、冨安と堂安だろう。
 冨安については、冒頭に述べた通り。この手の若年層大会で、ここまで格段の素材力を見せてくれたタレントはほとんど記憶にない。師匠の井原正巳は、当時に日本の戦闘能力の低さもあり、世界のトップレベルと対峙する権利を得ることができたのは20代後半になってからだった。対して、冨安は18歳でこれだけ鮮やかな失敗経験を積むことができた。前途洋々たる未来である。もちろん、ここから、大人の身体に育つときに今の強さと速さが維持できるか、ちょっと猫背気味の体型など、気になることもあるが、これだけのタレントがこれだけの経験を詰めたことを素直に喜びたい。
 そして堂安、あのイタリア戦の2得点で十分。日本サッカー史上最高の攻撃創造主と言えば、やはり中村俊輔と言うことなるだろう。そして堂安は、俊輔があれだけ気の遠くなるような努力を積んでもどうしてもできなかった、屈強な守備者をボールタッチと緩急の変化で突破する能力を18歳で身につけている。もちろん、贅沢を言えばキリがない。特に押し込まれたベネズエラ戦の後半に、ちょっと引いて市丸あたりとボールをキープして、試合を落ち着けて欲しかった。今の堂安の年齢で、A代表マッチでそのようなプレイを見せてくれたタレントは少なくない。ディエゴ・マラドーナとか、ミッシェル・プラティニとか、ネイマールとか。
 冨安にせよ、堂安にせよ、最大の課題は、いかに早く自分のクラブで絶対的な存在になるかだろう。自分のクラブで、いかに研鑽を積み続けられるか、期待していきたい。

 我々が多数の好素材を保有していることを再確認できる大会だった。そして、公式国際試合と言うものは楽しいものだと、再確認できた。よい時代はまだまだ続く。
posted by 武藤文雄 at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする