2018年09月30日

続シュミット・ダニエルの致命的ミス

 ベガルタは、敵地三ツ沢でマリノスに2対5で完敗。

 試合の流れはわかりやすかった。
 マリノスが最前線から質が高く厳しいプレスをしかけてくる。ベガルタはそれを抜け出せないことが多く、幾度も有効な攻撃を受ける。それでも、そのプレスを抜け出すのに成功すると、マリノスが前に人数をかけている分、後方は薄いから好機を作れる。
 そのような、流れが継続した前半、奥埜のクリアミスを拾った天野の見事なさばきから、山中に超弩級の左足段を食らい失点。その直後、上記の薄い守備をうまく突き人数をかけたパスワークから自殺点で同点に。しかし、ハーフウェイライン付近の争奪戦で前を向かれた仲川のスピードドリブルに富田がついていけず、大岩も軽い対応で股抜きされて、再度リードを奪われる。。
 後半開始早々、山中と天野の絶妙なワンツーからのクロスに、守備陣が完全にボールウォッチャになり、仲川にファーサイドのゴールエリア内に進出されてヘディングを決められ突き放される。ここまでの3失点は、いずれも連続攻撃で振り回されたと言うことではなく、ジワッと押し込まれ続け、守備時の対応にミスが出てのもの。サポータからすれば、いずれの失点も「もうひと踏ん張りしてよ」と言いたくなるものだったが、マリノスの長時間攻勢に当方守備陣が少しずつ疲労し集中を欠いたと言うことだろう。
 その後は、マリノスは後方を厚めにして速攻をしかけ、その第一波をベガルタがしのぐも、すぐに再度プレスをかけられ、得意の人数をかけてパスワークに持ち込めず、崩し切れない時間帯が継続。そうこうしているうちに、バックパスをシュミットが処理ミスをして、ウーゴ・ヴィエイラに奪われ3点差とされ勝負あり。ただ、以降の時間帯、守備ラインの選手達の押上が遅くなり、チームプレイがまったく機能しなくなったのは残念だった。まあ、選手達も機械ではなく人間だから…
 マリノスには、7月に8点とられて殲滅されたことがあったが、流れとしては同じような展開になってしまった。両チームとも、選手の配置、攻守の重点は異なるが、最近の欧州風の数的優位を確保するサッカーを狙っている。ベガルタとしては、、上記したジワッと押し込まれた影響と、山中、天野、仲川、ウーゴと言った選手の個人能力に、やられたこととなる。まあ、天皇杯は俺達が勝ったから、と強がりを言っておくことにしよう。
 ここに来ての2連敗は痛い。しかし、済んだことを嘆いていもしかたない。次節は難敵レッズ。ACLのためにも、何としても勝ち点3が欲しいところ。渡邉監督の修正に期待しよう。

 さて、本題のシュミット・ダニエル。
 上記4点目の失点場面。大岩からのバックパスを受け、プレスに来るウーゴをかわそうとして、ブロックされた上に、置いてきぼりを食らい、無人のゴールに決められてしまった。前節に続いて、言い訳の余地のないミス。ここで問題だったのは、かわそうとし損ねたボールコントロールのミスではなく、その前のプレイ。ウーゴのプレスはあったが、シュミットには十分時間的余裕があったから、前進してパスを受ければ、まったくフリーでボールを扱うことができる状況だった。グラウンダのパスを受けるために、パスコースに向かって進むのは、サッカーの基本中の基本。ところが、シュミットはこの場面、ウーゴのプレスを読み誤り前進を怠った。バックパスだったので、手で扱うことができないボールなので、ペナルティエリアに止まる優位はないのだから、前進しなかったことに言い訳の余地はない。
 余談ながら、DAZN実況の倉敷氏と福田氏が、このブロックを「間違いなくハンド」と言っていたが、ベガルタサポータの私の目から見ても、これはハンドではないと思う。だって、ウーゴは手を胸にしっかりとつけていたところに、シュミットが蹴ったボールが当たったのだから、どう考えてもウーゴは意図的に手を使っていない。この試合、その他の場面でも両氏の審判団批判、それも何かマリノスに有利な判定をしている趣旨の発言が多かった。しかし、完敗したベガルタサポートの目からみても、これらの批判は疑問だった。たとえば、仲川の3点目をオフサイドの可能性を示唆していたが、映像を見た限り、とてもではないがオフサイドには見えなかった。また主審が、中盤戦でベガルタのファウルを取り過ぎる、インテンシティの高いプレイをするためには不適切との発言も目立った。しかし、この日の主審の笛は、接触プレイにやや厳し目だったたが、基準は明確だった。ベガルタは中盤で激しいプレスをかけるやり方をしているだけに、笛への対応に苦慮していたのは確かだが、それはマリノスも同じこと。マリノスと比較して、ベガルタの選手達の判定基準への対応が下手だっただけだ。もちろん、後半右サイド明らかなベガルタボールのスローインを見損ねたこと、最後のベガルタのPK(笑)はミスジャッジだった思うけれど。もしかしたら、主審の笛にうまく順応できず、いらだつベガルタの選手達を見た、我らが黄金のサポータたちのブーイングなどの不平不満に、両氏は引っ張られたのかもしれないな(笑)。
 実は3点目時にも、目立たないが、シュミットはミスをしている。右サイドを、天野と山中のワンツーで崩され、山中がクロスを上げた場面、シュミットは一度そのクロスを取りに行ったが、取れずと判断してゴールラインに戻りながら対応、結果的に仲川のヘッドへのセーブが間に合わなかった。直接的失点要因は、仲川の進出を放置し誰もマークしなかったベガルタDF陣の対応であり、もしシュミットがクロスを取りに出なくとも、決められていた可能性は高い。しかし、ミスはミスである。
 先ほど、解説の福田氏を批判したが、私が「福田氏の言う通り」と同意したこともあった。前半、ベガルタ陣35mくらいの直接FK、山中が直接狙ってきた低い弾道の一撃が、ポストを掠めた場面。シュートは壁に入った富田と阿部(だったと思った)の間を抜けてしまった、壁が役割を果たさなかったのだ。その時に福田氏は、「これはシュミットは怒らなければいけない」と言っていたが、その通りだ。もっと、守備陣とのコミュニケーションを豊かにしてもらわなければ、よい守備網を築けない。
 と、マリノス戦のシュミットには不平不満山積である。そして、2節続けて決定的なミスで失点に絡んでしまったことは重い。

 けれども。
 上記した場面を除くと、シュミットは再三マリノスの鋭いシュートを押さえてくれた。特に先制される前のウーゴのシュートへの反応などすばらしかった。鋭いシュートを確実にキャッチすること、キャッチできないボールをはじく方向など、いわゆるシュートへの対応は、着実に進歩をしている。大柄なゴールキーパにありがちな、低いシュートへの対応への課題は払拭しつつあると見てよいだろう。だからこそ、持ち味の高さと守備範囲の広さを、もっと活かせる段階にきたはずだ。
 先週も述べたが、2022年に、欧州、南米の列強に我々が打ち勝とうとするためには、守備範囲が広くペナルティエリアを完全に制圧し、最後方から正確な組み立てをするゴールキーパが必要だ。その理想像に、シュミットは近い存在の1人であることは間違いない。そして、そのために、シュミットには日々「前進するプレイ、飛び出すプレイ」を成功できる選手となるように、努力を積み上げて欲しいのだ。先日の日本代表選考で、シュミットはそこに向けての意識を持ってくれたのだろう、それが故の前向きのミスが続いていると、信じている。
posted by 武藤文雄 at 15:18| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月23日

シュミット・ダニエルの致命的ミス

 それは79分のことだった。
 ハーフウェイラインからややベガルタ陣に入ったところで、長崎に与えたFK。
 長崎FWファンマに合わせたクロスに、果敢に飛び出した仙台GKシュミット・ダニエル。しかし、ボールに触ることができず、こぼれたボールを長崎澤田に無人のゴールに決められてしまった。
 言い訳のしようがない、シュミットのミス。ここまでの時間帯、丁寧に攻め込み、幾度も決定機をつかみながら、長崎の粘り強い守備をどうしても崩せなかったベガルタとしては、本当に痛い失点となった。その後、梁勇基とハーフナーを投入し、猛攻をしかけるが、逆に攻撃が単調になったきらいもあり、崩し切れず。
 ベガルタにとっては、この敗戦は、歴史的な痛恨となるかもしれない。丁寧に勝ち点を積み上げ、ようやくACL出場権が現実的なものになってきた矢先の勝ち点ゼロだからだ。このシュミットのミスにより、来年のACLを失ったかもしれない。

 ともあれ、ベガルタの試合内容はよかった。
 前半から、ここに来てしっかりとチームの基軸となった速いパスワークから、両翼に基点を作り好機を幾度か作る。そのため、後方を厚くした長崎に対して、最終ラインから精度の高いロングボールを入れることで、長崎の中盤選手を押し下げる。結果、はね返されたボールを、奥埜や富田がきっちり拾い分厚い攻撃を続ける。
 ただ、長崎高木監督は、しっかりベガルタの弱点を狙っていた。ベガルタの攻勢をはね返したボールが、(ベガルタから見て)左サイドに流れると、いずれの選手も板倉の軽い当たりを突き、そこから速攻をしかける。しかし、ここ数試合でベガルタの危機管理は見違えるほど充実している。全選手の帰陣も早く、シュミットの落ち着いた位置取りもあり、しっかりと押さえる。
 そして後半に入り、ベガルタはさらに攻め込む。野津田の展開と、奥埜の押し上げ。中野を関口に替えて投入し、蜂須賀との両翼攻撃が圧力を増す。それでも決められないまま、終盤を迎え、最後の10分でどう崩すかと言う場面での、冒頭の失点…
 シュミットの失態を別にすれば、この試合の反省点はハーフナーの活かし方。空中戦の強さが格段のこのシュータをトップに入れた際の、両翼の崩しや、他の選手の入り方が、まだまだ洗練されていない。ベガルタは、最前線の選手にも、高度な守備判断を求めるサッカーを行っている。そのため、シーズン途中に加入したハーフナーは、どうしてもスタメン起用ではなく、終盤どうしても点を取りたい場面に限定される。ために、ハーフナーの出場時間は限定され、中々連携が成熟してこないのが悩みだ。あと9試合でどこまで、この連携を高めていくか。

 済んだことはしかたがない。冒頭に、敢えて重苦しい表現をとったが、私は悲観していない。
 ここまで質の高いサッカーをできるようになってきたのだ。上記した板倉の軽率さや、ハーフナーの使い方の改善を含め、連携を洗練させ、攻撃に変化を加え、守備の粘り強さを高める。全選手が、いっそうの努力を重ねれば、2度目のACLは自然と我々の手に入るはずだ。

 で、シュミット・ダニエル。
 ベガルタサポータとしては、過去もシュミットのミスを嘆息したこともあった。また、ベガルタには、キーパとしては小柄ながら、堅実に実力を積み重ねてきた関と言うすばらしい選手もおり、毎シーズンシュミットと激しい定位置争いを演じてきた。そして、シュミットは、ここに来てベガルタの定位置を確保し、控えとは言え代表にも選考された。2m近い長躯、左右で蹴ることができる正確なキック、敵FWのプレスをかわせる技巧、シュミットには世界トップレベルのキーパに近づける、いや追いつける、あるいは追い越せる?素質はある。
 シュミットが、2022年ベスト8以上を目指す日本代表の正ゴールキーパを目指そうと言うならば、あのクロスに飛び出し、しっかりはね返せる選手にならなければならない。そして、そう言ったレベルのキーパになるためには、それなりの失敗経験は必要だろう。ベガルタサポータにとしては、この長崎戦の悔しい敗戦は、2022年日本のゴールを守るシュミットを楽しむための、高い授業料だったと理解したい。
 シュミットはこの日のミスをしっかり反省するのは当然だ。しかし、反省して、このクロスに飛び出さなくなったら意味はない。今後も、このようなクロスには飛び出し、確実にはね返すキーパにならなければいけない。ノイヤーや、ロリスや、クルトワのように。そして、2022年の歓喜のために。
posted by 武藤文雄 at 00:13| Comment(1) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月03日

李承佑の才気 −アジア大会2018準優勝−

 延長前半3分のことだった。左サイドから強引に切り込む孫興慜に対し、日本のDF陣は慎重に間を測る。孫興慜がもうワンタッチしようとした直前、突然中央から進出した李承佑が孫興慜からボールをかっさらう形でダイレクトで左足で強シュート。孫の動きに集中していた日本DF陣はブロックすらできず、好セーブを続けていた日本GK小島の反応も遅れ、ボールはネットを揺らした。
 日本のDF陣も、孫興慜がシュートに持ち込もうとするフェイントから、ラストパスを狙うことは予測の1つに入れていたはずだ。しかし、大エースのドリブルを強引に奪って,、別な選手がダイレクトシュートを狙うとは。日本守備陣はもちろん、孫興慜を含めた韓国選手たちも、李承佑を除いては誰もが予測だにしていなかった。正に見事なアイデア、完全にやられてしまった。あんな攻撃をされたら、世界のどのようなチームの守備網でも崩されてしまうだろう。いったい、李承佑はいつどのようなタイミングであのシュートを発想したのだろうか。
 それまでの90分+αを、韓国は個人個人の1対1の強さの差で、日本を押し込んでいた。けれども、フィニッシュが単調なこともあり、日本は粘り強く守っていた。特に、後半半ば以降は、韓国にも攻め疲れが見受けられ、日本も散発的に好機をつかめるようになってきた。たまらず、韓国の金鶴範監督は、この日ベンチに置いていた李承佑を起用するが、チーム全体に疲労感が漂っており効果的な攻撃にはつながらず、試合は延長戦へと進んだ。日本のねらい通りだったのだが。

 毎回のことだが、日本はこの大会に次回五輪用の年齢的にも若いチームで臨んでいる。さらに、シーズン真っ最中と言う悪条件が重なり、各クラブからは1名のみ選考。しかも、直前まで各選手はリーグ戦を戦っているだけに、準備合宿もままならなず、戦いながら、体調も連係も整えていく必要がある。
 1次ラウンドでは、真っ当な連係にほど遠い状態のチームで、どうなることかと思わせた。けれども、2次ラウンドに入り、状況は格段に改善。少しずつ連係も充実。チーム全体として守備をしっかり固め、苦しい場面は我慢を重ね、後半に敵の隙を突きリードを奪い勝ち切る堅実な戦いで、決勝進出に成功した。
 ただ、決勝戦のチームは満身創痍だった。上記延長で先制された時間帯も、フレッシュな交替選手を起用したいところだったが、森保監督はギリギリまで交替に消極的だった。これは、負傷や体調不良で使えない選手もいたのみならず、準決勝まであまり戦術的に機能しない選手もいたためだったようだ。
 優勝できなかったのは残念だが、日本好素材の若者たちが、年齢的に上の韓国に苦杯すると言う、願ってもない失敗経験を積むことができたのだ。いや、単なる失敗経験にはとどまらない。あそこまで粘り抜いたことで、あの李承佑の神業ゴールを呼び込んだのだ。小島も立田も原も板倉も、あの神業をどうやったら防げたか、今後のサッカー人生で悩みぬき、糧としてくれることだろう。これ以上何を望むと言うのだ。
 各選手にもよい経験になった。森保氏も五輪の準備を進めることができた。我々サポータもよい試合を多数楽しめた。と考えると、とてもよい大会だった。めでたし、めだたし。

 などと冷静に考えれらるわけないだろう。
 一両日たった今でも、李承佑に、完璧な才気を見せつけられた悔しさから脱することはできない。この若者は、弱冠20歳と言う。今後も我々を悩ませる厄介な存在になっていくことだろう。
 板倉よ。「李承佑にやられた決勝戦」の悔しさを忘れるな。
posted by 武藤文雄 at 23:16| Comment(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月02日

西村拓真CSKAモスクワに移籍

 ベガルタの若き中心選手、西村拓真がCSKAモスクワに移籍した。まずは、3年半の間、我がクラブのために献身的なプレイを継続し、時に大きな歓喜を提供してくれたこの若者に、感謝の言葉をささげたい。ありがとうございました。

 西村不在となる初めての試合、ベガルタは苦労しながら、エスパルスを下し勝ち点3を獲得、暫定順位を5位まで上げ、試合後挨拶をした西村を心地よく送り出すことに成功した。これで、3位までに与えられるACL出場も視野に入ってきたのだから、結構なことだ。
 ただし、試合内容は苦しいものだった。前半から、ここ1か月の間フル回転してきた富田、奥埜の動きに切れがなく、1対1の競り合い(いわゆるデュエル)で後手を踏むことが多い。そのため、チーム全体として、ボールを奪われた後のボール奪取に失敗し、幾度も速攻や連続攻撃を許す苦しい展開が続いた。それでも、復帰初戦となる野津田のCKを大岩が決めて先制に成功。
 しかし、後半も類似の展開が継続、ベガルタ守備陣がはね返したボールを、負傷上がりの阿部が落ち着けられずに許した連続攻撃から、ドゥグラスに打点の高いヘディングで決められてしまう(ここはマークしていた椎橋にもう一工夫欲しいところだったのだが、まああれだけよいボールが来てしまうと仕方がないか)。
 その後、中野を投入し、攻勢をとる。エスパルスは日程の不運もあり、中2日ゆえ、次第に各選手が明らかに消耗しているのが目につき始めるが、ベガルタは崩し切れない。それでも、ベガルタは終盤起用した大ベテランの梁が丁寧なボール回しを継続、そして、アディショナルタイムに、蜂須賀の逆サイド展開を、中野が頭で折り返し、中央飛び込んだ石原のダイビングヘッドで決勝点。美しく感動的な得点だった。
 最近の試合では、流れが悪い時間帯は、西村の単身ドリブルによる前進でペースを取り戻すことが多かったが、その西村が不在となる初めての試合で、ゆっくりした丁寧な展開で、試合終盤に相手を崩し切れたことはとても重要だ。西村に対して、「お前がいなくても、俺たちは問題なくやれるよ」と伝えて、送り出すことができたことになるのだし。

 ともあれ。送り出す方は何とかなるにしても、送り出される方はいかがか。私からすれば、心配山積である。
 CSKAモスクワは、まごうことなき、ロシアの伝統的なトップクラブ。ここでプレイしたと言えば、言うまでもなく本田圭佑であるが、本田はCSKAに移籍した2010年には、既にオランダで相応な実績を上げ、代表でもほぼ定位置を確保していた。日本人選手が現在所属するクラブで、CSKAに一番ランク的に近いのは、長友佑都が所属するトルコのガラタサライあたりに思う。8年前の本田にせよ、今の長友にせよ、西村からすれば、はるかかなた格上の存在なのは言うまでもない。まだ一度のA代表経験も、いや若年層代表の経験すらない若者が、定位置争いに加われるものなのだろうか。
 また、ロシアと言う国には、言葉の問題も大きい。英語が通じる場所が限定的のみならず、キリル文字は読むのも難しい。モスクワのような大都市でも、庶民が通うレストランのメニューのほとんどはキリル文字。プライベートな時間に、西村は食事をとるのも簡単ではない国で、働くことになるのだ。極東の島国からやってくる若い選手に、CSKAがどのような通訳を含めたサポートを提供してくれるのだろうか。
 そもそも、西村が強力なFWとして、Jで評価されるようになったのも今シーズンから。昨シーズンは、ナビスコでニューヒーロー賞を獲得したが、若手期待のFWがようやく常時試合に出るようになったと言う段階。そして、今シーズンは完全に中心選手の座を確保し、継続的な活躍をしてくれるようになった。けれども、まだまだ課題は山積。シュートを打てる場所にいるのに味方へのパスを選択してしまうこともある。ドリブルで完全に抜け出したGKとの1対1でのシュートの精度も改善の余地が多い。また、時々ファーストタッチを雑にしてしまい、味方の速攻の好機を台無しにしてしまうのも散見される。加えて、格段の俊足とか長身とか技巧とか目に見える明確な武器があるわけでもない。このような選手が、ロシアのトップクラブで、すぐに活躍できるのだろうか。

 一方で、西村の何がよいかと言うと、ボールを受ける位置取りのうまさと、長駆した後にもう一仕事できる点だ。
 西村はベガルタでは、トップ、シャドー、インサイドMFのいずれかで起用されてきた。ポジションにより、守備のタスクは異なるが、これら異なるタスクをしっかりとこなした上で、マイボールとなるや否や、いわゆる質の高いオフザボールの動きで、敵DFやMFの間隙で斜め前を向いてボールを受けられる位置にすぐ入る。この攻撃に転じたときの位置取りと身体の向きが非常によいのだ。
 また、今シーズン得点を重ねているのも、ゴール前に入る位置取りのよさがポイントになっている。特にここ2カ月は、チームメートがラストパスを狙うタイミングを計ったかのようなタイミングで、敵DFよりわずかに早く核心的な場所に加速して入るのが、実にうまくなった。なので、センタリングに合わせたダイレクトシュートや、思い切りのよい反転シュートが、再三ネットを揺らすようにになってきたのだ。
 さらに、脚力も魅力的だ。ハーフウェイライン手前あたりで、よい位置取りでボールを受けるや、そのまま高速ドリブルで30m程度の前進後、またぎなどの大きなフェイントから突破をこなせる。長い距離を走った後に、俊敏性を活かすもう一仕事ができるのだ。
 これらを考慮すると、西村と言う選手は、欧州のある程度のレベルのクラブにとっても、使い勝手がよいように思うのだ。与えられた守備のタスクを如才なくこなし、ボールを奪うやよい位置取りが可能、長駆をいとわずボールを運び、ペナルティエリア内で敵が嫌がる場所に進出できる。監督の意図さえ理解できれば、試合出場の機会は比較的早くやってくるのではないか。CSKAのようなレベルのクラブは、選手に対する個人戦術の要求レベルは、それなりに高いはずで、西村の特長はその高い戦術レベル対応できそうなところにある。そのうえで、まだ課題が残っているファーストタッチや、ドリブルシュートや、プレイ選択を、すこしずつ改善していければ。そして、西村は、この3年半、ベガルタでそうやって個人技術を少しずつ磨いて今日の地位をつかんだのだ。いま私が述べた西村の長所に、CSKAが目をつけてくれたのだとしたら、すばらしいのですけれども。
 、欧州の中堅どころのクラブは技巧に優れた選手を確保しづらいので、日本の若い攻撃タレントが、重宝されてすぐに起用されるケースをよく聞く。古くは中田英寿や中村俊輔であり、最近では久保裕也や堂安律がそう言った好例に思う。それに対して、その国のトップチームの場合、比較的タレントを集めやすいこともあり、相当レベルの高い日本人選手でも出場機会を得られないこともある、たとえばバーゼルにおける柿谷曜一朗が、そのような不運と遭遇したと思っている。
 まあ、ベガルタサポータの贔屓目かもしれないけれどもね。

 この西村の移籍劇で、ベガルタサポータの私は、またサッカーの新しい楽しみを得ることができた。
 海外のクラブの映像を丁寧に追いかけたいと言う思いを抱くのは、カズがジェノアに、あるいは中田がペルージャに、それぞれ移籍して以来だろうか。いや、西村がCSKAで定位置を確保し、さらなる上を目指すようになり、現地でベガルタゴールドをまといながら応援できたら、どんなに素敵だろうか。いや、日の丸とヤタガラスを胸にした西村がワールドカップ本大会で躍動する姿を見ることができたら。
 決して簡単な道ではないけれど、愛するクラブの若き選手が、自らの努力で新たな道を開拓してくれた。おめでたいことだ。西村拓真の成功を切に祈るものである。
posted by 武藤文雄 at 17:46| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする