2018年12月23日

生まれて初めての天皇杯決勝体験

 サッカーに浸って40余年。生まれて初めて、自らがかかわる天皇杯決勝を体験させていただきました。ここまで、勝ち残ってくれた渡邉監督を軸とするスタッフたち、大岩一貴とその仲間たち、共に戦ったサポータ仲間たち、すべてのベガルタ関係者に感謝します。そして、すばらしい試合を演じてくれた、レッズ関係者にも感謝の言葉を捧げます。この雑文で、生涯でもそうない悔しさを存分に堪能することができた、夢のような2時間を振り返ります。

 敗れた。
 呆然としていた。
 妻に引きずられるように、スタジアムを出て、浦和美園駅に向かう。
 頭が整理できない状況での夜景。ちょっと、5ヶ月前のロストフ・ナ・ドヌを思い出した。
 60年近い人生で、たった5ヶ月の間に、ここまで濃密な経験を2回も味わうことができたのだ。
 ありがたいことだ。

 立ち上がり、ベガルタは左右からゆさぶりやや攻勢をとる。しかし、レッズ長沢に中盤から飛び出すフリーランで、左サイドをえぐられ(以降、左右はベガルタから見て)、興梠に決定機を許した以降、レッズペースに。そして、幾度か左サイドに人数をかける攻撃で崩され、CKを許す。そのCKをショートコーナでつながれてクロスを許し、野津田のヘディングでのクリアを、宇賀神に鮮やかなダイレクトのミドルシュートを決められ失点した。
 ベガルタは敵CKを、ゾーンディフェンスで守るが、それを研究している敵は、中央を固めたゾーンの外から狙ってくる。この場面では、宇賀神に「恐れ入りました」と言うしかない。ただ、贅沢を言えば、クリアした野津田は、まったくのフリーでヘディングできたのだから、ダイレクトシュートのリスクを考慮し、中央に返すのではなく、逆サイドのタッチ方向にボールを流してほしかったのだが。
 その後、レッズはベガルタの3DF大岩、板倉、平岡に、興梠、武藤、柏木の3人が厳しくフォアチェックをかけ、ベガルタの組み立てを阻止してくる。そのため、ベガルタは下りてきたアンカー椎橋なり、GKのシュミットなりが、前線にロングボールを入れ、トップのジャーメインを走らせることで、レッズを押し下げることを狙う。しかし、若いジャーメインは、挙動開始のタイミングを、老獪な阿部勇樹に完全に読まれ、正に絵に描いたように「完封」されてしまう。そのため、ベガルタは攻め手を失ってしまった。
 このようなときに一番常識的な対抗手段は、両サイドのCBが左右後方に引き、DFラインのボール回しにGKが加わって数的優位を作って、遅攻でペースを取り戻すことだ。しかし、このやり方をすると、両サイドMFも挙動点も後方に下がってしまう。これは、両翼を前線に張り出させ、チームとしてボールを握ろうとする、今シーズンのベガルタの狙いとは違う。
 そして、渡邉監督は今シーズンのやり方を継続した。平岡と板倉を高い位置に残し、椎橋、大岩、シュミットの3人から、奥埜と野津田に展開して前線で数的優位を作り、両翼の古林と中野をさらに前に展開する、ベガルタ本来のやり方を続けた。このやり方では、椎橋らにミスが出ると、一気に速攻から失点するリスクはある(そして、椎橋は今シーズン時々やらかしたこともあるのだが)。けれども、この日は椎橋が頑張ってくれた。レッズのフォアチェックを外し、中盤でしっかりとつなぎ、前線で石原が拠点を作り、両翼で数的優位を作り始めたのだ。阿部勇樹に完封されていたジャーメインも少しずつ、前を向く機会が増え始める。一方のレッズは、負傷上がりの選手が多いためか、無理な攻めをせず、全軍は引き気味の体勢をとり、決定機を与えてくれない。
 後半に入り、ベガルタペースが継続する。そして渡邉氏は、関口、阿部拓馬を相次いで起用し、圧倒的攻勢に出る。両サイドの関口、中野のところに拠点を作り、素早い集散で3対2、4対3を作り、サイドをえぐれるようになる。しかし、ベガルタが崩しかける度に、レッズ守備陣は、阿部勇樹と槙野の2人を中心に声を掛け合い、必死の修正を重ねる。阿部拓馬のミドルシュートはGK西川の正面を突き、フリーで抜け出した野津田はダイビング気味のヘディングをジャストミートできない。どうしても崩し切れない。
 崩し切れなかった要因は2つあった。1つは、両翼の攻防でレッズの宇賀神、橋岡の2人を破り切れなかったこと。左サイド中野のドリブル突破には定評があるが、ユース代表の中核でもある橋岡は、中野の得意の間合いを作らせぬように不用意な動きを行わず、瞬発力を活かして中野がはたくパスを狙って再三ボールを奪った。一方、右サイドの関口の変幻自在のフェイントに対し、宇賀神は我慢を重ね、裏だけは突かれないような位置取りを続けた。結果として、ベガルタは両翼を崩すのに時間がかかり、中央の阿部勇樹、槙野、岩波の強力3DFに余裕を与えてしまった。
 そして2つ目。この3DFに対して崩し切るだけの変化がなかった。石原も阿部拓馬もすばらしいFWだが、彼らにこの強力DFを破れるような変化を伴うラストパスは供給できなかった。もう1枚前線で変化加えたかったのだが、高さを期待し獲得したハーフナーはとうとう定位置をつかめなかった、ハモン・ロペスは移籍前クラブで天皇杯出場をしていたので出場できなかった。
 そして。アディショナルタイムにロシアの首都で奮戦する若者を思い出したのは秘密だ。ジャーメインの成長に期待したい。

 かくしてタイムアップ。日本一にはなれなかった。
 思い起こせば、今シーズンのベガルタを象徴する試合だったと思う。ゾーンで守るセットプレイの弱点を突かれて失点。以降、両翼を前に出してパスワークで崩すやり方を阻止する守備方式をとる敵に対し、我慢を重ね自分たちのペースにするのに成功。幾度も好機を作りながら、崩し切れなかった。
 負けたのは悔しいが、ここまで積み上げてきたサッカーの質は非常に高いもので、存分に誇り得るものだったと思う。だからこそ、勝ちたかった。日本一の座をつかみ、ACLに再度挑戦したかった。悔しい。
 とはいえ、渡邉監督には感謝の言葉しかない。氏がチームを引き継いだ時は、手倉森監督の卓越した手腕でACLまで出場したチームはすっかり老齢化していた。そこから、若手選手を育成することを軸に丹念に強化を重ね、ここまでのチームを作り上げたのだ。そして、西村は北の大国に旅立ち、シュミットはA代表に定着しつつある。
 ただし、ここまでチームが仕上がってくると、そこからの上積みの強化は容易ではない。選手個々の質の向上など、現場の強化にはとどまらず、チームとしての経営規模拡大がなければ実現できない要素が重要になってくる。いよいよ、ベガルタの経営陣の奮起が必要になる。
 決勝戦翌日、ベガルタは早々に渡邉氏との再契約を発表した。翌シーズンに向けて、ベガルタ経営陣は、まず最も重要な仕事から初めてくれた。しかし、勝負はここからである。

 すばらしい決勝戦だった。
 ピッチ上の両軍の攻防のレベルもすばらしかったは、上記の通り。それに加えて、スタジアムの雰囲気は、また格段のものだった。
 一部で、「レッズがホームグラウンドでプレイできたので不公平」と言う報道を目にしたが、まったくピントがずれた見方だ。この日は諸事情で、ゴール裏ではなく、ベガルタ寄りのバックスタンドの2階席で参戦したのだが、私の周囲にはレッズのサポータは、ほとんどいなかった。当然ながら、チケッティングは、非常に公平に行われたからだろう。そして、ベガルタサポータの応援は、声量こそ物量差で劣勢だったかもしれないが、チャントの変化や、次々に繰り出す応援歌の変化は、レッズに何ら遜色のないものだった。あれで、「アウェイで不利だった」などとは、選手たちは決して口にしないだろう。
 そもそも、諸事情で現状は、中立の大型スタジアムがないのだから、たまたまそこをホームとするクラブと決勝で戦うことはやむを得ない。豊田や吹田でやるよりは、多くのベガルタサポータが参戦できる埼玉での開催は、むしろ幸運だったと考えるべきだろう。いや、そもそも準決勝のモンテディオ戦が、ユアテック開催だったことだけでも、我々にとっては相当は幸運だった。
 そのような状況下でもレッズのサポータたちには感心させられたは否定しない。特に後半半ば、ベガルタが圧倒的にな攻勢に立った時間帯、ゴール裏を中心とした「We are Reds!」は、苦しむレッズ守備陣を、さぞや勇気づけたことだろう。
 また、後半、シュミット、大岩、椎橋が後方から丁寧につなぎ持ち出そうとする度に、後方のレッズサポータが、すさまじい音量でブーイングする迫力は中々だった。しかし、シュミットらが、それに一切動じず、丁寧なつなぎから組み立てる姿は感動的だった。そして、反対側のゴール側の声援に引き出されるようにベガルタは猛攻を繰り出したのだが。ベガルタが「ベガルタ、センダイ!」と「センダイ、レッツゴー!」と2種類のチャントを持っているのは、非常に有効なのだと、当たり前のことを再発見したりした。

 磐田の夕焼け空の下で茫然としたのは、ほんの10年前のことだ。J1を制覇し損ねて茫然としたたのは、ほんの6年前のことだ。ACLで2次ラウンドに進出し損ねて茫然としたのは、ほんの5年半前のことだ。そして、もう1つ。
 ベガルタは、たったの10年間に、私にこんな素敵な体験を4回も積ませてくれた。

 ロストフと埼玉。我ながら、おめでたい人生だと思います。ありがとうございました。
posted by 武藤文雄 at 22:55| Comment(1) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする