本稿では、この悲しい事件について、会社としてのベガルタ仙台の活動が妥当だったかどうかを、サポータの立場から論評したい。
第一報を聞いた時(20日昼頃)、正直何が何だか、まったく理解できなかった。関連の文章、クラブの公式発表を読み、自分の知見と組み合わせても整合がとれなかった。その後(20日夜)、少しずつ信頼できる情報源を調べ、うっすら状況がつかめてきた。そして、昨日(21日)、ベガルタが公表した記者会見議事録を読み、自分なりに全貌が理解できた。
まず結論から申し上げる。ベガルタは、この事案について何も間違ったことはしていない、と、私は判断している。
加えて語っておく。
ベガルタの渡辺取締役(当該記者会見にも、事実上の主役として登場)は、高校大学のサッカー部の先輩だ。ただただ楽しかった大学サッカー部時代、苦楽を共にし、心底お世話になった。渡辺さんはセンタバック。出足の鋭さを活かし、知性の限りを尽くして敵エースに喰らいつくプレイは忘れられない。大事な試合にサイドバックとして抜擢され、渡辺さんに怒鳴られながら90分間守備の位置取りを修正し続けし、勝利に貢献したのは飛び切り甘美な記憶だ。渡辺さんが今の立場になられた後、じっくり話をする機会もあった。かなり勝手なことを語らせていただいた。過去の私の文章についてもご存じだ。先週14日、本当に久しぶりにユアテック詣でをした際、寄付金募集を行っていた渡辺さんに挨拶することもできた。しかし、この事件発覚後渡辺さんとはコンタクトをとっていない。
当該記者会見にも出席しているサッカーライターの板垣晴朗氏は親しい友人だ。そして、私が最も信頼するライターの1人だ。当該記者会見については、いくつか板垣さんから詳細情報をいただいた。そのような意味では、私は一般の方々よりは多くの情報を持っている。
また、(Jリーグ開幕より前からの)30年来のサッカー狂でもある弁護士の友人(もちろん今回の事案にはまったく関係していない)に、本件についてはいくつか助言をもらった。
以上をクドクド説明するのは、一般に公開されている情報以外に私が持っている情報を明示しておいた方がよいと考えたからだ。
愛するクラブのスタア選手が極めて残念な行為をしたことが、何より悲しい。とにかく悲しい。表現しようもないが悲しい。
生業にはしていないが、それなりにサッカーの世界で生きてきた。現場がきれい事だけでないことは熟知しているつもりだ。不器用な選手が起こしたトラブルは枚挙に暇ない。ただ、今回はその中でも最悪に近いものだ。
上記記者会見議事録を読んだ上で私が理解した状況は単純なものだ。残念な行為をした選手がトラブルについてベガルタに虚偽報告をした。一方で、被害者の方は示談に納得していなかった。
トラブルの対応は当該選手の弁護士(ほぼ間違いなく代理人会社の弁護士だろう)と、被害者(報道によると芸能事務所に所属されていたとのこと、したがい示談は当該事務所の弁護士が対応したと推測される、ただし信頼できる情報源がないので断定は危険かもしれない、もしそのような背景がない個人の方だった大変失礼なことを語っていることになる)間で行われた。ベガルタは、当該選手の弁護士から「示談成立」と伝えられた。このやり方においては、ベガルタは、被害者の方が納得していないことを知りようがない。
とは言え。100%状況を理解したわけではないが、ベガルタの本件への対応の疑問を列記してみる。ただ、読んでいただければわかると思うが、私は本件についてベガルタがとってきた施策に対し細かに文句を言っているものの、総論としては正しいと思っている。
(1)被害者の方との関係
本件で一番重要なことは被害者の方の回復に尽きる。今からでもベガルタやJリーグ当局がそのお手伝いができるならば、できる限りのことをしてほしい。
とは言え、当該記者会見を読んで一番気になったのが、被害者の方と当該選手の示談について、明快な説明がないことだ。
上記した通り、報道によると被害者の方は芸能事務所に所属していた模様。だとしたら、示談は本人たちではなく、代理人(それぞれの弁護士)同士で行われたことになる。けれども、ベガルタの発表からはその旨が読み取れない。
そのため、代理人会社の弁護士と被害者の方が直接対峙して、示談交渉を行ったようにも読めてしまうのだ。もし、そうだとしたら被害者の方は大変お気の毒なことになる。ベガルタは、そのあたりを正確に説明する必要があるのではないか。
もちろん、示談の条件にそのあたりの不提示があるとしたらどうしようもない。もし、そうだとしても、可能な限り正確で具体的な情報提示は必要だと思うのだが。
(2) 議事録提示の遅さ
10/20(火)朝に当該選手の処分を含めたリリースを流し、同日午後に記者会見実施。その後、議事録公開は10/22(木)午後。これはあまりに遅い。その丸2日間に、あいまいな情報を基礎に根拠ない報道が出回ることになった。危機管理としては、結果的に「お粗末」と言うことになってしまった。
事態発覚後、当該議事録で語られたような情報を速やかに提示できていれば、ここまで状況はこじれなかっただろう。もっと早く、情報開示はできなかったものか。
しかし、現状のベガルタの事務処理能力を考えれば精一杯だったのだろう。文句を言うのは簡単だ。けれども、ベガルタは、小さな会社なのだ。むしろ、事態発覚後に、ここまでスピーディにリリース→記者会見→議事録、と進めてきたのは大したものだと思う。
しかし、非常事態だったのだ、このスピード感では遅かったのだ。例えば、思い付きだが、ベガルタには仙台を本社とする多数の出資団体がある。この非常事態、それらの協力を求めることはできなかったのだろうか。
(3) 弁護士の使い方
当該議事録を読んで気になるのは、記者会見にベガルタの顧問弁護士が同席していないことだ。
話がややこしいが、本事案には3者の弁護士が登場するはずだ。ベガルタの顧問弁護士、当該選手の弁護士(おそらく当該選手の代理人の所属会社)、被害者の方の弁護士(上記した通り、おそらく存在してたのだと推測している)だ。議事録を読んでいても、いずれの弁護士の発言なのか、わかりづらいところが多々ある。
それだけではない。本件については、任意同行、逮捕、釈放など、法律用語が並ぶことになったが、それについて法律面で専門とは思えない記者の方々とベガルタの経営陣が語り合うのは、あまり生産性が高いものとはとても思えない。補足する弁護士が同席していれば、用語解釈の混乱を的確にさばいてくれたと思うのだが。
まあ現実を語ると見も蓋もないのだろう。
(2)で述べた議事録整備にせよ、(3)で述べた顧問弁護士の同席にせよ、少ないスタッフでやりくりするから、そこまで対応できないと言うこと、要は今のベガルタにはカネが足りないと言うことだろう。
(4)Jリーグ当局との関連
もう一つ気になるのはJリーグ当局との関連だ。
当該記者会見を読んでいると、「ベガルタは適切なタイミングでJ当局に連絡した」と言う事項が、一種の免罪符になってしまっている印象を受けた。しかし、本当にそれだけでよかったのだろうか。
なぜ、このようなことを語るかと言うと、本件に限らずJ当局の役割とは何なのか、私にはわからなくなっているのだ。今回のケースで言えば、上記してきた通り、ベガルタは適切なタイミングでJ当局に本件を連絡している。10月20日の時点で一部報道があった時点で、一部のメディアが「ベガルタの隠蔽」的な(今思えば)誤った情報をかなりの勢いで流すことになった。けれども、22日の時点では当該議事録の公表もあり、そのような情報は間違いだったと確認されたはずだ。また8月の時点でベガルタはJ当局に本件を連絡していた。
だったら、それらの誤情報の是正を、J当局も語ってはくれないのか。「本件についてベガルタの対応に落ち度はなかった」とリリースしてくれるだけもよい。いや、議事録を公表するのに四苦八苦しているベガルタに対し、スタッフを一時貸してくれるだけでも随分助かったと思うのだが。
J当局に、そのような期待を持つことそのものが間違っているのだろうか。もし間違っているならば、このような不運な事案時の「J当局の役割」について、誰か教えてください。何か最近のJ当局には「仲間としての全体発展」ではなく「上位権威者としての君臨」、「不適切な行為の場合の罰則提示者」を感じるのは私だけだろうか。
ちょっと余談。
今回の一連の話を聞いていると、個人事業主としての選手の権利がかなり強いもので、選手とクラブが相対した際に、決してクラブの意向ばかりが重視されないことが確認できた。これはよいことだと思う。私たちに歓喜を与えてくれる選手たちが。クラブのエゴに左右されない状態になっているのだから。
言い換えれば、所属クラブと独立した形態で、選手の権利がかなり高いレベルで守られていると言うことなのだろう。Jが開幕して、今年で28年。これまでの蓄積で代理人制度が機能し、よい意味で選手がクラブと対等に渡り合えている現状、これは素直に喜びたい。たとえ、それが今回の事案では仇になってしまったとしても。
以上、ちまちまとベガルタに対して文句を言ってきた。粗探しである。しかし、これら粗探しを含めても、今回の不運な事案について、ベガルタは適切な活動をしてきてくれたと思う。
安心した。
そして、今回の議事録で嬉しかったことがある。それは、「当該選手が過去にもDV事案でトラブルを起こしていたがが今回の判断にそれを加味しなかったのか」との問いに対する、渡辺取締役が語った以下の意見だ。
2度目という事を私たちが常に念頭に置かなければならないのか。「この人は犯罪者であったから、また犯罪を犯すのか」というように見ながら暮らす社会がよろしいのかという事です。2 度目という事で、通常より重い処罰を下すということは選択しませんでした。
まったくその通りだと思う。私はそのようではない社会で生きていきたい。そして、そのようではない社会を作っていきたい。
今回ベガルタは正しかったのだ。
悲しい事件ではあった。しかし、繰り返すがベガルタは正しかった。私の愛するクラブは正しい判断を行ってくれたのだ。
今私ができることは1つだけだ。
今日のグランパス戦、勝ち点3を目指す私たちの選手たちを必死に応援する事。生観戦は叶わない以上、DAZN経由で必死に念を送ることだ。
必ずグランパスに勝つのだ。
最後に。
道渕諒平さん。
過ちは誰にでもあります。それが複数回となると残念ですが、それでも人生は長いのです。挽回の機会は訪れます。あなたは、天分に恵まれ、果てしない努力を重ねることでたどりつける場所に到達することができた稀有の人なのです。その地位を失ってしまったのは残念ですが、あなたはそこまでの努力を積むことができた人なのです。
お願いです。立ち直ってください。あれだけの努力ができるあなたです、必ずや立ち直れるはずです。
あの颯爽とした突破、献身的な守備、美しい弾道のミドルシュート。思い出はいくつもあります。それらの思い出、私は小さな胸の痛みと共に忘れません。
ありがとう、さようなら。