先日のアルゼンチン戦もそうだったが、判断力、技巧、フィジカル、我らがタレント達は世界のトップ国と遜色ない個人能力を持つ。加えて、冨安健洋、田中碧、堂安律と言った傑出した個人能力を発揮できる若者達が多数。誠に結構な時代になったものだ。
これだけタレントが揃えば、当然ながらメダル、それも最もよいい色のメダルを期待したくなる。
1.ここまでの準備
今回の五輪代表の準備はうまく行っていなかった。19年11月に実施したコロンビアとの強化試合は、(冨安こそ不在だったが)堂安や久保建英を呼び、チーム強化の集大成的な姿勢で臨んだが、中盤後方の弱さを徹底して突かれ惨敗。さらにその後の20年1月のU23アジア選手権では、守備ラインの信じられないミスなど残念な試合振りで、散々な結果。
この時点で、数か月後の五輪に向け、冨安以外定位置確保感のある選手がおらず、地元五輪を前に怪しげな雰囲気か漂った。予選なしでのチーム作りの難しさと言おうか。
ところが、COVID-19により五輪は延期。この疫病禍での1年延期が、不謹慎ながら不幸中の幸いとなる。五輪世代の多くの選手がJで大活躍したのだ。特にフロンターレの田中碧、三笘薫、旗手怜央の3人は、高い技巧で自クラブのJ制覇に貢献、また上田綺世、瀬古歩夢、林大地、前田大然、橋岡大輝らの成長も耳目を集めた。同様に欧州でも菅原由勢、板倉滉が活躍。そして何より堂安律がブンデスリーガで中堅チームの完全な攻撃の中心としてフルシーズン活躍、すっかり逞しい攻撃創造主に成長してくれた。
そして、迎えた3月のアルゼンチンとの準備試合。初戦こそ完敗だったが、出場停止だった田中碧が、第2戦起用されるや全軍指揮官として圧倒的存在感を発揮し、日本を完勝に導いた。冨安も堂安もオーバエージも抜きで、世界最強国に完勝したのだ。
その上で、オーバエージに、吉田麻也、遠藤航、酒井宏樹を選考。麻也、冨安、航、碧で構成される中央の守備ブロックの堅牢さと前線への球出しの質は、A代表を含めても日本サッカー史上最強かもしれない。期待は大いに高まってきた。
2. オーバエージ
上記した麻也、遠藤、酒井の3人はいずれも経験豊富な強者で、この3人を軸にした堅牢な守備は大いに楽しみ。ただ、ちょっと気になっているのはゴールキーパにオーバエージを起用しなかったこと。谷晃生も大迫敬介もよいキーパだし、鈴木彩艶の素質も疑いない。しかし、このポジションは特に経験が必要なポジション。
加えて、麻也とかぶるCBは、冨安と言う格段のタレントがいて、板倉、町田浩樹、瀬古とよい選手が多い。同様に酒井の右DFも、橋岡、菅原、岩田智輝、原輝綺など人材が揃っている。そのような視点から、麻也や酒井ではなく、川島永嗣なり権田修一をオーバエージとして選ぶ選択肢もあったかもしれないと考えたりする。
もっとも、準備試合での麻也の圧倒的なリーダシップや、スペイン戦で右サイドで1対2を作られくずされかけた場面での酒井の鮮やかな守備を見せられると、このメンバ選考でよかったのだとも思うのですけれどw。谷、大迫の奮戦に期待しよう。
3. 左サイドバック
A代表でも、選手層が最も薄いポジションは左DF。長友佑都は相変わらず元気でカタールまで活躍してくれそうだが、バックアップに決定的なタレントはいない。この五輪代表でも定位置確保感のある選手はとうとう登場せず、この世代のユース代表時代から主将を務める中山雄太(元々はCBが本職だがこの五輪代表では守備的MFでの起用が多かった)、川崎で左サイドバックに起用され無難にこなしている旗手怜央のいずれかが起用される。中山は、昨年のA代表コートジボワール戦で左DFに抜擢され、そこそこのプレイを見せた。中盤に起用されると、キープ力に自信がないためかせわしなく左右に展開を急ぎ状況を苦しくすることが多い。一方CBでは1対1が今一歩。そう考えると、脚力はあるから、左利きを活かせる左DFは向いているのかもしれない。先日のホンジュラス戦でも無難なプレイを見せていた。一方の旗手は、いかにも静岡学園出身らしい技巧が魅力。オーバラップよりも、しっかりしたキープ力から動き出しのよい中盤や前線の選手に正確なグラウンダのパスをピタリ通せるのが魅力だ。
ユース時代から高い評価を受けていたこの2人が、それぞれ本来とは異なるポジションで五輪代表にたどり着いたのはおもしろい。ここがピタリとハマってくれるかどうかが、どの色のメダルまで到達できるかを左右するように思える。うまくいけば、カタールW杯に向けてこれほど明るい話題もないわけで。
4. 中盤後方の輝きと層の薄さ
今回の五輪代表の最大の魅力は強力なドイスボランチにある。往時の遠藤保仁を彷彿させファルカンやピルロの域に近づいてくれないかと思わせる若き将軍田中碧。日本にもマテウスやドゥンガのようなプレイを見せる選手が登場したかと思わせてくれる遠藤航。この2人の輝きを他国に見せびらかすだけでも、今回の五輪は楽しみ。
決勝戦の勝利まで、いかにこの2人を消耗させずに戦い抜けるか。ただでさえ消耗の激しいポジションなのだし。ところが、この2人の控えには板倉しか準備されていない。中山や旗手がいるが、どちらかは左DF。また、中山はこのチームで中盤で起用されても、あまりよいプレイを見せたことはない。もちろん、板倉はとてもよい選手で、球際の強さと常識的だが正確なパスと空中戦の強さは格段、頼りになる選手だ。昨シーズン、オランダリーグ中堅どころのフローニンゲンでフル出場した実績もすばらしい。
森保氏としては、板倉、中山、旗手で、ここを回せると考えているのだろう。ただ疑問はどうしても残る。4-2-3-1の布陣で戦うとすると比較的消耗の少ないCBは2人枠に対し4人(加えて板倉)、対して運動量を要求される守備的MFが2人枠に対し3人と言うのは心配になってしまう。当初の18人登録時ならばさておき、たとえば、渡辺皓太、松岡大起、高宇洋あたりをメンバに入れておけば田中碧を休ませたり、敵の布陣や状況により攻撃的MFを1枚削り4-3-3に切り替えるやり方もとりやすかったと思うのだが。今更言ってもしかたがないが、アルゼンチン戦での渡辺を除き、この手のつなぎや拾うのがうまい中盤タレントがほとんど選考されず、板倉や中山のようなユーティリティ系の選手を優先して試していたのが仇とならなければよいが。まあ、この手の大会は、このように監督の選手選考に文句を言うのが楽しいのですが。
もっとも、大会の勝負どころで、冨安を航と碧で中盤を組んで来たりしてねw。
5. 最前線
冒頭で、不謹慎ながら1年延期が日本に幸いしたと語ったが、その最大の恩恵はFW陣だろう。
上田綺世も前田大然も林大地も、既にJを代表するストライカだが、五輪が1年前だったら、3人ともまだまだの存在だった。それぞれ紆余曲折があったが、昨シーズンを通した活躍があって、ここまでの評価を得たのだ。
林はホンジュラス戦もスペイン戦でも、強引にシュートに持ちだす場面と、味方を使う選択がよかった。あれだけ精力的に守備を行いながら時にシュートまで持ち込める。北京五輪後に一気に成長した岡崎慎司を思わせる活躍だ(そして技術は岡崎より上に思える、だからと言って岡崎より点をとれるかどうかはまったく別な話だが)。
前田は、その格段のスプリントをリードした試合で前線で役立てる役割となりそうで、ホンジュラス戦の3点目のような活躍が期待できる。スペイン戦ではサイドMFに起用され、よく機能していた。
そして、上田の低く沈む強いシュートが格段なのは言うまでもない。しかも、このストライカの魅力はそれだけではなく、位置取りの巧妙さや、ラストパスに合わせる加速のタイミングなど多岐に渡る。
この3人は協力して金メダルを目指し、大会終了後A代表の数少ないFW枠を大迫勇也らと争うことになる。
6. 堂安律と久保建英と三笘薫
落ち着いたキープから、読みづらいパスとシュートを操る堂安律。素早く正確なボールタッチで敵DFを抜き去り、強烈なシュートが打てる久保建英。魔術師のような緩急で敵DFを抜き去り、落ち着いたシュートを決める三笘薫。攻撃的MFには、このきらめく3人に加え、日本人には珍しく長駆した後さらに加速が利いて縦にえぐる突破が格段の相馬勇紀、鋭いドリブルを仕掛けながら正確なラストパスを繰り出せる三好康児もいる。
一方で、堂安、久保、三苫と並べると次々と相手を崩せそうな気がしてくるが、この3人を並べたジャマイカ戦では連係の妙は見られなかった。これは、久保と三笘がまだ十分成熟していないためだ。
三笘はフロンターレでプレイするように自分得意の間合いに入りたい選手。ところが真ん中の前田や久保がどんどん左に流れてくると得意のドリブルができない。結果前線でキープしてもはたくばかりで、あの魔術師ドリブルが発揮できない。三笘の選択肢は2つある。久保に「流れてくるな」と言うか、久保が流れたら中央に位置取りする(ジャマイカ戦で上田にスルーパスを通したように)、それを主張しなければ本当の超一流選手には届かないのではないか。
一方の久保は、誰に何を言われても気にせず、当面は天井天下唯我独尊を貫くのだろう。久保はフィジカルも強いし守備もさぼらない。けれども、一度ボールを持つと(いや正確に言うとボールをもらう動きをする時から)、自分本位のプレイを選択する。でも、それがよい。強引に自分のリズムでドリブルし、シュートまで持ち込み、それなりの確度で決め切るのだから。最近の久保のプレイを見ていると、本田圭佑的な雰囲気を感じるw。まだ20歳、繰り返すがそれでよいのだ。もちろん、強引に行き過ぎてボールを奪われ、敵の速攻を許すリスクもあるのだが、それも経験と割り切るべきか。
もちろん、森保氏が選手配置に工夫するやり方もあるはず。例えば、3トップにして左ウィングに三笘を起用する。板倉か旗手か冨安を中盤に起用し、右ウィングに堂安。あるいは堂安を中盤に下げ、右は相馬、前田、橋岡など。つまり、久保をベンチにおいて、勝負どころで起用するとか。
7. 結びに代えて
ホンジュラス戦後半の攻めあぐみは貴重な失敗経験となった。2-0で勝っているのだし、ゆっくりボールを回したいところだった。ところが中盤や最終ラインから中央に拘泥した縦パスが通るのだが、後方からのサポートが遅れているにもかかわらず。久保を中心に前に前に急ぎ過ぎ簡単にボールを奪われ続けた。
高温多湿、中2日の価格な6連戦を勝ち抜くためには、押し上げが利かなくなったり、リードして無理する必要がなくなった時間帯、逆にリードを許し敵が多人数で最終ラインを固めてきた折は、ゆっくり落ち着くのが肝要。そしてこのチームには20代前半で、そのような攻守のリズムを中盤で、適正に操れそうな田中碧と堂安律がいる。2人が、あのホンジュラス戦後半の失敗経験を活かすことができるかどうか、それが金メダルに到達できるかどうかを左右する。
厳しい環境下での大会、地元日本に圧倒的有利にはたらくはず。各選手が大会を通じ着実に成長し、最高の成績を収め、カタールワールドカップの礎を築いてくれることを期待してやまない。