2021年07月30日

高倉カテナチオからの切り替え

 今回の女子代表のチーム作りは、カテナチオねらいということになるのだろうか。
 敵にボールを奪われると(最近の流行りことばでいえば「ネガティブトランジション」)、各選手はボールの再奪取をねらわず、後方に引いて4DF-4MFのライン形成を心掛ける。再奪取をねらわないので、敵は攻撃起点を作りやすくすぐに攻め込まれることが多いが、第一波をしのげば人数が揃っているので、それなりに守れる。特に熊谷と南の2CBは位置取りもよく、強さも高さもある。
 例えば英国戦の後半、日本は中盤から抜け出せず、終始攻め込まれる展開となった。それでも熊谷を軸とする守備ラインは、勇猛果敢にクロスや裏抜けに対応。決定的なシュートはほとんど許さなかった。唯一の失点は、英国の大エースのホワイトの絶妙としか言いようなバックヘッドによるものだった。ただ、このホワイトの妙技もGK山下が中途半端な飛び出しをしてしまったから入ったもの。さらにこの場面のブロンズのクロスにしても狙いすましたものではなく偶然的なもの。日本にとってはかなり不運な失点だった。
 カナダ戦の失点にしても、前半開始早々に押し込まれた時間帯でよい縦パスが入り、えぐられたところで、カナダのレジェンドのシンクレアの絶妙な位置取りから決められたもの。試合後、熊谷が「あのようなクロスへの対応は相当練習していたのに」と悔しがっていた。ただ、カナダ戦に関しては、その後の時間帯であの場面ほどの縦パスは出てこなかった。おそらく、あの縦パスはかなり偶然のものだったのだろう。
 チリ戦でも後半バーに当たったヘディングシュートがゴールラインを割っておらず救われたが、あの場面はGKとDFの信じられないパスミスが連続して起こったための決定機だった。
 そうこう考えると、今回の女子代表の守備は相応に強いことが、改めてわかる。

 しかし、この守備が本当の強豪国に通用するかどうか。
 上記したように、ボールを奪われた直後に再奪取にいかない以上、そこからの攻め込み第一波で崩されてしまうリスクはある。これまではその第一波を熊谷と南で防ぐことができていた。これは、カナダにせよ英国にせよ、攻撃の精度、スピード、変化、アイデアが、格段のものではなかったからとも言える。問題は、開幕で合衆国を3-0で破ったスウェーデンの攻撃力次第となる。
 さらに別な問題がある。英国戦の後半、日本は中盤をほとんど抜け出せなかった。これは英国の選手との体格差によるものではなく、位置取りや連係の差に思えた。上記したように、日本の守備網は4DFと4MFが素早く後方に引くことが基盤になっている。そのためか、一度ボールを奪ってからの押し上げが悪い(ポジティブトランジション)。一方英国は日本にボールを奪われるや、すぐに近くの選手が再奪取にかかる。そして周辺の選手はそのポイントを中心にサポートに入る。瞬間的な技巧は日本の選手の方が優れているから、最初のアプローチを外すことができる。しかし、数的優位を作るスピード、つまりサポートに入る早さに格段の差があり、すぐにボールを奪われてしまった。あれだけ中盤を制圧されてしまっては、いくら守備が固くてもいつかは崩されてしまう。
 一方カナダ戦は、英国ほどサポートの早さがなく、日本はそこそこ攻め返すことができた。しかし、サポートが遅いから、前線で多くの選手が孤立。有効な攻撃回数は限られたものになった。同点弾が、後方に引いた長谷川の正確なフィードを、岩渕が巧みな個人技で決めたわけだが、サポートに課題を抱えるチームらしい得点だったとも言えよう。

 このサポートの遅さが、今回のチームの最大の課題なのだ。
 チリ戦にしても、押し込んでいるが何かイライラ感がつのったのは、ボールを持った選手に対して、周囲の呼応が遅いから。せっかく敵陣で敵ゴールを向いてボールを受けられても、結果的に各選手が一拍置き、単身突破を狙う事になる。そうなると緩急の変換などあったものではないから、単調な攻めかけになり、人数をかけたチリ守備網にひっかかることとなった。
 岩渕と長谷川を筆頭に、日本選手の攻撃技術は鋭いものがある。杉田、塩越、遠藤、木下、椛木、みな自分の間合いでボールを持てば、それなりの突破が期待できる。しかし、周囲のサポートが遅いから、自分の間合いでボールを持てないのだ。

 強敵スウェーデン戦。何とも陳腐な結論となるが、ボール保持時のサポートをいかに早くするかが勝敗の鍵を握る。どうして日本代表にこんな講釈を垂れなければならないかはさておき。
 マイボールになったら、周囲の選手はすぐにキープする選手をサポートする。そこで拠点を作り、田中美南なり岩渕なり長谷川に当てる。彼女たちがキープしたらすぐにサポート。そうしてこの3人で敵陣に新たな拠点を作る。そうすれば、清水や林が追い越せる時間が作れる。そこにまたサポート…

 スウェーデンの選手が、高倉氏が構築したカテナチオを破れるか。日本の選手が、高倉氏の指示したカテナチオから素早く切り替えて攻撃に参加できるか。
 ワールドカップでも、1次ラウンドは重苦しかったが、2次ラウンドのオランダ戦の攻撃は鋭さを増すことができていた(不運な失点から敗れることになったが、それはそれ)。地元大会でのプレッシャはあっただろうが、2次ランド進出で最低のノルマは達成した。
 今こそ、各選手には思い切りのよさを発揮して、持ち前の技術を活かすべくサポートの早さを徹底してほしい。そうすれば活路は開けるのではないか。
posted by 武藤文雄 at 01:09| Comment(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする