2022年01月31日

サウジは無理をして来ない

 2022年1月27日 日本2-0中国 於埼玉スタジアム。
 個人的には、日本代表史に残る完璧な試合だったとは思う。「だったと思う」ではなくて「だったとは思う」だが。

 元々、戦闘能力で中国を圧していることは事前にわかっていた。ただ、戦闘能力が劣るチームに対し確実に勝ち点3を確保するのが、必ずしも容易ではないことは、サッカー狂ならば誰もが理解している。そして、本大会出場のために、この試合で勝ち点3をしっかり獲得すること、その確率を極力高めることが重要なこと、それぞれもサッカー狂ならば誰もが理解していたことだ。
 そして、この日、遠藤航とその仲間たちは、そのミッションをほぼ完璧に演じてくれた。この「ほぼ」の徹底ぶりは実に見事。
 開始早々から、ボールを奪われた直後の切り替えが格段(最近の流行り言葉では「ネガティブトランジション」)。そのため、中国はまともにつないでハーフウェイラインを越えられない。それならばとロングボールで前線をねらってくると、板倉と谷口がそれを冷静にはね返すので、中国はまったく前線で起点を作れない。そしてこの急造CBコンビは、後方に引いてくる田中碧と連携し、前線に次々と好パスを送り出す。
 それにしても、板倉の出足(その前提となる読みを含めて)はすばらしかった。ベガルタが天皇杯決勝で浦和に苦杯を喫したのは、この日と同じ競技場での3年前のことだった。あの試合、ベガルタの左CBとして起用された板倉、マークする相手に詰め切れない弱点を突かれ、幾度も裏への突破を許してしまった。欧州での3年の経験は、この若者をまったく質の異なる戦士に変えてくれた。板倉は、この中国戦でのプレイ振りで、完全に吉田麻也との定位置争いに名乗りを上げたことになるだろう。少しずつ、最高レベルのCBになりつつあるこの逸材と、1年間ともに戦えた幸せ、ベガルタサポータとして本当に嬉しい。
 攻撃には色々不満もあるが、このレベルの相手に、これだけ素早いネガティブトランジションを継続すれば、試合は一方的なものとなる。遠藤航と守田の切り替えは当然かもしれないが、3トップの切り替えの早さも格段。そして序盤に見事なパス回しで伊東純也の突破場面を作りPKで先制に成功。以降は、攻撃面で無理をするリスクを負わず、執拗に切り替え早さで守備を固める試合となった。この切り替え早さを90分間継続するのだから、「日本代表史に残る完璧な試合」と表現した次第。加えて、中国が田中碧をまったく押さえにこないので、一度日本がボールを奪うと、上記の通り2CBと田中碧を起点におもしろいようにボールを回すことができた。結果、90分間に渡り試合をコントロール。僅かなズレから許した数少ないCKや自陣のFKからシュートを許したものの、交通事故のリスクも最小限。まったくおもしろさはないかもしれないが、リアリズムと言う視点からは「完璧な試合」と言うしかないではないか。少なくとも、戦闘能力が明らかに落ちる中国に対し、勝ち点3を間違いなく獲得するという視点では、この試合はすばらしかった。
 もちろん不満もある。上記の通りボールをしっかり回すことはできたが、なかなか追加点を奪えなかったこと。これは開始早々に先制したこともあろうが、各選手が「悪い取られ方をしないこと」を徹底し、無理をしなかったためだった。正直言って勝ち点3を確保するのが最重要な試合だから、各選手の思いはわからないでもない。しかし、あれだけボールを奪われた直後の守備が機能していたのだ。最前線の選手は、もう少し無理をしてよかったはずだ。特に南野には不満がある。長友との連係を工夫したり、もう少し無理をしてもよかったのではないか。だから、冒頭で「だったとは思う」と微妙な表現をとった次第。贅沢なのかもしれないけれど。

 さてサウジ戦。
 中国と比較すれば、戦闘能力が格段に高いことは間違いない。しかし、落ち着いて考えてみよう。先般の敵地戦の苦杯だが、序盤のセットプレイから許したピンチ(権田が好フィスティングでしのいだ)を除くと、危ない場面は皆柴崎のミスによるものだった(それにしても、あの柴崎の完璧な敵へスルーパスには驚いたが)。どんな選手にも不調の時はある。にもかかわらず、柴崎を交代させなかった森保氏の問題なのだ。加えて、サウジは日本時間28日の未明にホームでオマーンと戦った後の来日となっている。それも極寒の日本に。コンディションがよいとはとても思えない。さらにサウジとの試合、日本はホームで過去勝ち点を失ったことはないはず、引き分けもなく常に勝っているはずだ(記憶違いだったらごめんなさい)。中国戦の守備強度を含め、常識的に考えれば、日本が圧倒的に優位なのだ。
 さらに各国の勝ち点勘定を考えると、サウジは出場権獲得をほぼ決めており、一方で豪州は相当追い込まれているのだ。
 1位 サウジ 勝ち点19 得失点差+7 残試合 A日本 A中国 H豪州
 2位 日本 勝ち点15 得失点差+4 残試合 Hサウジ A豪州 Hベトナム
 3位 豪州 勝ち点14 得失点差+9 残試合 Aオマーン H日本 Aサウジ
 4位 オマーン 勝ち点7 得失点差-2 H豪州 残試合 Aベトナム H中国
ベトナムと中国が圏外と考えると(いや、ベトナムは本大会出場可能性なくなっても最後まで相当な抵抗はしてくるだろうが)、サウジは次節の敵地中国戦に勝てば勝ち点は22確保できる。そうなると、日本と豪州は直接対決が残っているので、サウジは残る豪州と日本の直接対決に敗れたとしても、2位には入れるのだ。サウジにとっての唯一の悪夢は日本に2点差で敗れ、(可能性は低いが)中国に引き分け以下で終わり、日本が豪州に1点差で負けたケース。その場合以下となる。もし、火曜日に日本に負けたとしても0-1ならば、サウジが悪夢にはまっても得失点差で日本を2上回ることができる。そうなると日本はベトナムに大量点が必要になる。
 サウジ勝ち点20、得失点差+5 ホームとは言え豪州と直接対決
 豪州 勝ち点20、得失点差+10以上 敵地とは言えサウジと直接対決
 日本勝ち点18、得失点差+5 ベトナムに勝てば2位には入れる
 そうこう考えると、サウジにとって火曜日の日本戦は引き分けで十分、負けても1点差ならば問題ない試合なのだ。
 余談ながら、オマーンのホームゲーム豪州戦はすごい試合になるだろう。オマーンはこの豪州戦を勝てば、勝ち点16まで行ける可能性が出てくる。豪州が日本にもサウジにも勝てなければ、オマーンが3位になれる。

 以上考えると、サウジは絶対無理をして来ない。日本がリードしても、強引に同点をねらわず最小得点差を維持することを考えるはずだ。
 とすれば、日本は中国戦の守備強度を確保しながら、左右両翼から攻勢をかけるべきだろう。南野が強引に無理をしに行くのか、久保を左サイドに使い強引に行くのか、中山を起用し左オープンに開かせるのか、森保氏はいずれを選択するのか。冷静な采配で2点差以上の勝利を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 00:31| Comment(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月27日

CB2人不在だけれども

 Jリーグオフという厄介なタイミングで迎えるホームの中国戦、サウジ戦。この季節以外では、欧州でプレイする選手の体調は呼んでみなければわからず、国内の選手の体調は計算できるのが常。しかし、今回については国内の選手はみな体調があまりよくないことは自明(長いシーズンに向けたフィジカルトレーニングの最中だから)。で、さらにCOVID-19でのバブル対応がコンディショニングを難しくする。
 まあ、ずっと日本国内に滞在し移動がない有利さは格段だ。同じバブルでも、異国と母国ではまったく精神的負担は異なるはず。加えて、敵軍の戦闘能力との相対比較という意味では、両試合ともかなり有利なことは間違いない。
 中国の弱さは初戦で明らかになった。元々あまり機能していなかった帰化選手たちの去就も曖昧だ。中途半端に帰化選手に頼らず、真面目に強化を積んだらよかったのではないかとの上から目線も楽しい。それにしても、この国のサッカーはどうしてダメなのだろうか。合衆国が地味ながらワールドカップで好成績を収めているから、超大国がサッカーがダメという理屈はないはず。テレビで習近平氏(大変なサッカー好きとのことだが)のふんぞり返った態度を見る度に「いいから、サッカーが強くなってから偉そうにしてください」と、つぶやくのも楽しい。
 サウジは難敵で先日も苦杯を喫している(詳細は後述する)。しかし、2月の日本のナイトゲームの寒さは彼らには相当厳しいハンディキャップとなるだろう。いや、アラビア半島の湿度と高さと気温の高さのしんどさと言ったら形容し難いものがある。そのような地域で生まれ育った選手たちに、2月の日本の寒さは厳しい試練になることだろう。歴史的にもこのアジアの強国は日本で勝ち点を獲得したことはないと記憶している(間違っていたらごめんなさい)。そう考えると、日本との勝ち点差4を考えれば無理をしないはず、引き分ければ大成功と思っているはずだ。
 したがって、両軍とも完全な引き分け狙いで来る。落ち着いて90分で複数回崩し切る工夫をし、当方の豪華絢爛な我々のスター選手の誰かがゴールネットを揺らしてくれるはずだ。よほど妙なことが起こらない限り勝ち点6を確保の可能性は高い。

 と書いたわけだが、その「よほど妙なこと」を起こすのが、我らが森保監督。これまでの予選の2敗を振り返ってみよう。
 ホームオマーン戦では、CBと守備的MFの控えがいない異常事態にもかかわらず新しい選手を呼ばない謎対応。さらに疲弊したサイドバックを交代させず状況を放置。その結果、終了間際に遭えなく失点した。
 敵地サウジ戦では、再三ミスパスやボールロストを繰り返す柴崎を交代させず、そうこうしていたら柴崎の誰も予測できないようなミスパスから失点した。さらに、1点を取りに行く必要が出てきたので柴崎→田中碧の交代が妥当だったのだが、失点前に準備していた柴崎→守田の交代を変更せず、終盤の攻めあぐみを招いた。
 以前から幾度も書いてきたが、森保氏は決して悪い監督ではない。中心選手を固め、彼らに試合を委ねる。全員にハードワークを期待し、まず試合を無失点で終えることを目指す。そうこうしているうちに、かなりの確率で勝利を収めることができる。サンフレッチェでJを制覇した際も、佐藤寿人を軸にしたチームで丁寧に勝ち点を積み上げていった。アジアカップの準優勝や、先日の東京五輪での準決勝進出も、これらのチーム作りの成果と言えよう。
 しかし、これまた幾度もイヤミを語ってきたが、
選手の体調を見極められないこと、選手交代について計画性がないこと、勝っている試合のクローズが稚拙なこと。そして、五輪での最大の失敗である選手の消耗対応を反省していないこと。要は森保氏は、1試合ずつ丁寧に勝ち切る用兵が決定的にお粗末なのだ。
 その結果上記のホームオマーン戦や敵地サウジ戦で、非常識な采配を行い、後半煮詰まった時間帯にありえないような失点をしてしまい、そのまま敗北を喫してしまった。東京五輪でもチームの要である遠藤航と田中碧を酷使し消耗させ、結果メダルを逃したは記憶に新しい。

 そうこう考えていたら、なんとこの2試合、吉田麻也と冨安が欠場すると言う。さらに古橋亨と三笘薫まで。でもあまり不安はないのですがねw。
 散々イヤミを語っている敵地サウジ戦だが、柴崎がからんだ場面以外に敵に許した好機は序盤のFKからのみ。後はサウジの個人技による攻撃を、ことごとく冨安の1対1の強さと、麻也の老獪なカバーで防いでいた。前線からの組織守備と、遠藤航の協力な中盤デュエルにより、敵FWが加速して攻めてくる場面は非常に少なかったので危ない場面はほとんど作らせなかった。しつこいのは承知で繰り返すが、森保氏が適切な采配を振るっていれば、間違いなく勝ち点1を確保できていたことだろう。
 そう考えると、麻也と冨安の不在に不安感は高まる。おそらく、谷口と板倉が中央を固めることになるのだろうが、この2人にとっては代表定着の絶好機ということになる。フロンターレでの谷口の最終ラインでの安定感は相当なものだし、板倉の東京五輪での守備ぶりは中々で欧州での評価もかなり高い。そう考えると、この2人については、それほど心配する必要はないだろう。
 むしろ不安は守備的MFの控えの薄さではないか。おそらく、4-3-3のスタメンで、遠藤航、田中碧、守田が先発となるのだろうが、中盤後方のタレントの控えは柴崎しかいない。そうこう考えると、(森保氏が以前選考したことのある)稲垣祥や川辺駿あたりを呼べばよかったにと思うのは私だけだろうか。随分チーム運営が楽になると思うのだが。
 以前から何度か書いているが、30年前の森保一のような選手を、もっと呼べばよいと思うのだが。

 不安や不満を語り始めればキリがない。心配していない。中国とサウジを、圧倒的な戦闘能力で完全に殲滅すればよいのだ。
posted by 武藤文雄 at 00:40| Comment(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月15日

2022年サッカーはどこまで正常化するか

 遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。最近筆が重くなって、なかなか更新できませんが、ゆるゆると講釈を垂れていこうと思います。

 約2年間、疫病禍に襲われたこの世界。国内外、関係者の多大な努力で何とかサッカーを楽しむことができていた。幾度も語ってきたが、関係者の丹念な努力の賜物、改めて感謝したいと思う。
 残念ながら、年が明け新変異したオミクロン株により、状況が再び悪化したようだ。高校選手権準決勝関東一高の出場辞退、ラグビーリーグワンの開幕戦中止。日本国内での陽性者増加も悩ましいが、欧州主要国では10万人オーダの日次新規陽性者増加とのこと、「だったらマスクぐらいしろよ」とも言いたいが。声を出して応援できる環境に羨望しているだけかな。
 そもそもCOVID-19対応は科学的に何が正しいのかよくわからないのが厄介。ここ最近の陽性者増加が、我々の正常な生活に対してどのくらい深刻なリスクなのか、それを客観的に示してくれるマスコミ報道がどれなのか判別し難いのが大きな悩みとなっている。

 先ほど「関係者の努力」と簡単に述べたけれど、すべてのサッカー人の「努力」には感謝の言葉もない。
 国内の若年層の公式戦、Jリーグを頂点とする国内のトップレベルの試合、各種国際試合、それぞれのレベルで、それぞれのリソースを駆使しながら異なる対策が行われてきた。
 国際試合での帰国時の「バブル対応」、ACL奮闘直後にJの各クラブが相当な苦労をしていたのは記憶に新しい。また月末に行われるワールドカップ予選のバブル対応について、先日ヴィッセル神戸の実質オーナの三木谷氏が噛み付いたのもごもっとも。
 国内トップレベルの試合で陽性者が出た場合の適正対応、何か起こる度にマスコミがおもしろおかしく語る中での難しい対応だった。Jリーグ当局が早々に立ち上げたプロトコル。プロ野球との連係を早々に立ち上げた政治的手腕もすばらしかったが、早々に明確なルールを作り、丸々2年運用継続をおこなった手腕は尊敬に値する。もっとも、その延長で湘南対浦和を無効試合にしてしまった痛恨時も表裏一体なのかもしれない。賞賛するしかない業績と、非難するしかない業績。
 上記した今年の高校選手権の準決勝の悲劇ほどではないが、約1年前の高校選手権でチームメートが競技場ではなく学校での応援を余儀なくされたのも残念だった。いや、それ以上に大きな大会でもやむを得ず中止の判断が行われたケースも多かった。それでもサッカーは、相応の組織力があり、多くの人々の献身的努力により、他競技よりは中止の悲劇を防ぐことはできた。
 グッとレベルは下がるが、底辺の少年団でも本当に大変だった。中でも大事な少年団最後の大会が中止になった時の子供たち、そしてずっと自分の子供とその大会に向けて準備を進めてきた父親コーチの失望を見るのは、それぞれつらかった。それでも子供たちは小学校を卒業した以降も無限のサッカーライフが待っているが、父親コーチには次はない。14年前とは異なり、彼らは人生の歓喜を味わえなかったのだ。

 また幾度か語ったことがあるが交代人数が増えた新ルールは、サッカーを大きく変えた。活動量が激しいポジションは交代を行うのが前提の戦い方が当たり前になっている。長期のリーグ戦でも、短期決戦一発勝負でも、監督の作戦と駆け引きがやたら複雑になったこのルール変更。年寄りとしては抵抗感もあるが、サッカーの新しい側面を見せてくれている。もっとも、このルール変更にまったく対応することができてない代表監督を抱えているスリルも中々なのだが。
 
 そして、サッカー観戦で声を出せないつらさは格段だ。

 そうこうしながら2年近い月日が流れた。
 冨安健洋、遠藤航、田中碧、伊東純也らがいるだけに、どんなに代表監督が愚行を重ねても出場権獲得はまったく問題ないと思っている。
 しかし、俺はカタールに観客として行けるのだろうか。我々は、あと約10ヶ月でノンビリと観光旅行を楽しめる世界を取り戻すことができるのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 00:39| Comment(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする