個人的には、日本代表史に残る完璧な試合だったとは思う。「だったと思う」ではなくて「だったとは思う」だが。
元々、戦闘能力で中国を圧していることは事前にわかっていた。ただ、戦闘能力が劣るチームに対し確実に勝ち点3を確保するのが、必ずしも容易ではないことは、サッカー狂ならば誰もが理解している。そして、本大会出場のために、この試合で勝ち点3をしっかり獲得すること、その確率を極力高めることが重要なこと、それぞれもサッカー狂ならば誰もが理解していたことだ。
そして、この日、遠藤航とその仲間たちは、そのミッションをほぼ完璧に演じてくれた。この「ほぼ」の徹底ぶりは実に見事。
開始早々から、ボールを奪われた直後の切り替えが格段(最近の流行り言葉では「ネガティブトランジション」)。そのため、中国はまともにつないでハーフウェイラインを越えられない。それならばとロングボールで前線をねらってくると、板倉と谷口がそれを冷静にはね返すので、中国はまったく前線で起点を作れない。そしてこの急造CBコンビは、後方に引いてくる田中碧と連携し、前線に次々と好パスを送り出す。
それにしても、板倉の出足(その前提となる読みを含めて)はすばらしかった。ベガルタが天皇杯決勝で浦和に苦杯を喫したのは、この日と同じ競技場での3年前のことだった。あの試合、ベガルタの左CBとして起用された板倉、マークする相手に詰め切れない弱点を突かれ、幾度も裏への突破を許してしまった。欧州での3年の経験は、この若者をまったく質の異なる戦士に変えてくれた。板倉は、この中国戦でのプレイ振りで、完全に吉田麻也との定位置争いに名乗りを上げたことになるだろう。少しずつ、最高レベルのCBになりつつあるこの逸材と、1年間ともに戦えた幸せ、ベガルタサポータとして本当に嬉しい。
攻撃には色々不満もあるが、このレベルの相手に、これだけ素早いネガティブトランジションを継続すれば、試合は一方的なものとなる。遠藤航と守田の切り替えは当然かもしれないが、3トップの切り替えの早さも格段。そして序盤に見事なパス回しで伊東純也の突破場面を作りPKで先制に成功。以降は、攻撃面で無理をするリスクを負わず、執拗に切り替え早さで守備を固める試合となった。この切り替え早さを90分間継続するのだから、「日本代表史に残る完璧な試合」と表現した次第。加えて、中国が田中碧をまったく押さえにこないので、一度日本がボールを奪うと、上記の通り2CBと田中碧を起点におもしろいようにボールを回すことができた。結果、90分間に渡り試合をコントロール。僅かなズレから許した数少ないCKや自陣のFKからシュートを許したものの、交通事故のリスクも最小限。まったくおもしろさはないかもしれないが、リアリズムと言う視点からは「完璧な試合」と言うしかないではないか。少なくとも、戦闘能力が明らかに落ちる中国に対し、勝ち点3を間違いなく獲得するという視点では、この試合はすばらしかった。
もちろん不満もある。上記の通りボールをしっかり回すことはできたが、なかなか追加点を奪えなかったこと。これは開始早々に先制したこともあろうが、各選手が「悪い取られ方をしないこと」を徹底し、無理をしなかったためだった。正直言って勝ち点3を確保するのが最重要な試合だから、各選手の思いはわからないでもない。しかし、あれだけボールを奪われた直後の守備が機能していたのだ。最前線の選手は、もう少し無理をしてよかったはずだ。特に南野には不満がある。長友との連係を工夫したり、もう少し無理をしてもよかったのではないか。だから、冒頭で「だったとは思う」と微妙な表現をとった次第。贅沢なのかもしれないけれど。
さてサウジ戦。
中国と比較すれば、戦闘能力が格段に高いことは間違いない。しかし、落ち着いて考えてみよう。先般の敵地戦の苦杯だが、序盤のセットプレイから許したピンチ(権田が好フィスティングでしのいだ)を除くと、危ない場面は皆柴崎のミスによるものだった(それにしても、あの柴崎の完璧な敵へスルーパスには驚いたが)。どんな選手にも不調の時はある。にもかかわらず、柴崎を交代させなかった森保氏の問題なのだ。加えて、サウジは日本時間28日の未明にホームでオマーンと戦った後の来日となっている。それも極寒の日本に。コンディションがよいとはとても思えない。さらにサウジとの試合、日本はホームで過去勝ち点を失ったことはないはず、引き分けもなく常に勝っているはずだ(記憶違いだったらごめんなさい)。中国戦の守備強度を含め、常識的に考えれば、日本が圧倒的に優位なのだ。
さらに各国の勝ち点勘定を考えると、サウジは出場権獲得をほぼ決めており、一方で豪州は相当追い込まれているのだ。
1位 サウジ 勝ち点19 得失点差+7 残試合 A日本 A中国 H豪州
2位 日本 勝ち点15 得失点差+4 残試合 Hサウジ A豪州 Hベトナム
3位 豪州 勝ち点14 得失点差+9 残試合 Aオマーン H日本 Aサウジ
4位 オマーン 勝ち点7 得失点差-2 H豪州 残試合 Aベトナム H中国
ベトナムと中国が圏外と考えると(いや、ベトナムは本大会出場可能性なくなっても最後まで相当な抵抗はしてくるだろうが)、サウジは次節の敵地中国戦に勝てば勝ち点は22確保できる。そうなると、日本と豪州は直接対決が残っているので、サウジは残る豪州と日本の直接対決に敗れたとしても、2位には入れるのだ。サウジにとっての唯一の悪夢は日本に2点差で敗れ、(可能性は低いが)中国に引き分け以下で終わり、日本が豪州に1点差で負けたケース。その場合以下となる。もし、火曜日に日本に負けたとしても0-1ならば、サウジが悪夢にはまっても得失点差で日本を2上回ることができる。そうなると日本はベトナムに大量点が必要になる。
サウジ勝ち点20、得失点差+5 ホームとは言え豪州と直接対決
豪州 勝ち点20、得失点差+10以上 敵地とは言えサウジと直接対決
日本勝ち点18、得失点差+5 ベトナムに勝てば2位には入れる
そうこう考えると、サウジにとって火曜日の日本戦は引き分けで十分、負けても1点差ならば問題ない試合なのだ。
余談ながら、オマーンのホームゲーム豪州戦はすごい試合になるだろう。オマーンはこの豪州戦を勝てば、勝ち点16まで行ける可能性が出てくる。豪州が日本にもサウジにも勝てなければ、オマーンが3位になれる。
以上考えると、サウジは絶対無理をして来ない。日本がリードしても、強引に同点をねらわず最小得点差を維持することを考えるはずだ。
とすれば、日本は中国戦の守備強度を確保しながら、左右両翼から攻勢をかけるべきだろう。南野が強引に無理をしに行くのか、久保を左サイドに使い強引に行くのか、中山を起用し左オープンに開かせるのか、森保氏はいずれを選択するのか。冷静な采配で2点差以上の勝利を期待したい。