2022年12月31日

2022年10大ニュース

 恒例の10大ニュースです。カタールワールドカップについて、まだ何も書けていないので迫力に欠けることこの上ないのですが、今年の重要事項を自分なりに整理しました。11、12月にワールドカップを堪能してしまうと、あまりにその影響が強すぎるのですけれど、何とかまとめました。

1. 日本代表ベスト8 ならず

 できればこの正月休みのうちに、日本代表についても、ワールドカップ全体についても、まとめたい。

 今はただ、クロアチア戦の苦杯は、とにかく悔したかったと言うことだけ。今回こそは、今回こそは、と思ったけれど勝ち切れず。とにかく悔しい。繰り返すが悔しい。何度でも言うが悔しい。ドイツやスペインはやっつけたけど、悔しいのだ。

 一方で。今は私は62歳、何となく大会前から、死ぬ前に一度はベスト4を体験できるのではないかと思っていた。そして、それを希望ではなく、確信できたのがこの大会かなとは思う。たとえ、それが錯覚で自惚れだとしても。

 でも、延長前半の三笘のシュートが、もう少しポスト寄りに飛んでいればとは思うけれど…

2. ヴァンフォーレ甲府の日本一

 日本で最も歴史の古いクラブチームの一つ、ヴァンフォーレ甲府が天皇杯制覇、初めての日本一の栄冠を獲得した。歴史的偉業と語られ続けるべきだろう。

 甲府の前進の甲府クラブの事実上の設立は1965年と言う。甲府クラブは1972年のJSL2部設立時に参加以降、常にJ1、J2、JFL、JSL2部のいずれかで戦っている。設立は読売クラブより古く、継続的に活動している純粋なクラブとしては神戸FCと並ぶ歴史を誇る。もちろん、日本中にあるいわゆる学校のOBチームで、より古い歴史を持つクラブはあるかもしれないが、トップリーグで高い続けている歴史は圧倒的だ。特に90年代後半、プロ化を決断した直後に大きな経営危機を迎えるが、関係者の血の滲むような努力で回避。人口が決して多くない地方クラブとして自立に成功。さらに複数年にわたりJ1で戦うなど、日本中の地方クラブの象徴とも目標とも言える存在となっている。

 またカタールで戦った日本代表のエース伊東純也は、甲府でプロのキャリアをスタートさせたことも特筆されるべきだろう。

 その甲府が天皇杯制覇。それもサンフレッチェ広島と戦った決勝の勝ち方が鮮やかだった。先制に成功するが終了間際に追いつかれて延長に。延長でも丹念に守っていたが、116分にチームのレジェンド山本英臣が痛恨のハンドでPKを与える。そのPK河田晃兵が止めPK戦に。PK戦で最後に山本が決めると言う劇的勝利。

 来シーズン、甲府はACLを戦える。「J2で苦しい戦いになる」とか「ACL出場権をカップ戦王者に与えてよいのか」と、サッカーをわかっていない輩が余計なことを言うが、言いたい奴には言わせておけばよい。難しいシーズンにはなろうが、国際試合で戦う権利は、勝者にしか与えられないのだから。

 この決勝戦ですっかり悪役となってしまったサンフレッチェ広島。こちらは森保監督時代に3回J1制覇をしているが、カップ戦は幾度か決勝進出はあったが優勝はなかった(もっとも、前身のマツダ(東洋工業)時代には1960年代は複数回天皇杯制覇しているが)。今回も決勝で苦杯を喫し、「またか」感ががあった。しかし、1週間後に行われたルヴァンカップ決勝セレッソ戦、セレッソに退場者が出たこともあり、アディショナルタイムの連続得点での逆転勝利。劇的なルヴァンカップ制覇となったのも付記しておこう。


3. 横浜マリノスと川崎フロンターレの覇権争い

 ここ数年、優勝争いを演じている両チーム。今年は横浜Mが川崎を振り切った。疫病禍下でACLも合わせて戦わなければ難しいシーズン。

 韓国に快勝するなど実に気持ちよい優勝を演じてくれたE-1東アジア選手権の中軸は今年の横浜M、水沼宏太や岩田智輝の知性あふれるプレイはすばらしかった。老人としては、30歳過ぎて日本代表に到達した水沼宏太に、かつての水沼貴史の面影を見て感涙ものだったのだが。

 もっとも、川崎サポータはこのチームの中核は谷口彰悟だったと語り、カタールの日本代表は、谷口の他に、板倉滉、山根視来、田中碧、守田英正、三笘薫と川崎出身選手が中軸だったと主張するだろうが。

 リーグ戦が終わってみれば、この2チームの後ろに、新監督スキッベ氏が機能した広島が続き、監督問題で苦労したが優秀な選手を多数抱える鹿島が続いた。まあ妥当な結果なのかなとは思う。海外への選手流出が続くJリーグだが、丹念にクラブの経営規模を拡大し、丹念な強化を継続しているチームが常に上位をうかがっている。野心的に上位を目指す各クラブにも、適切な目標が提示されている形態は健全な状況に思える。


4. J2山形対岡山戦再試合

 J2モンテディオ山形対ファジアーノ岡山戦で、主審のルール適用ミスがあり、Jリーグ当局は再試合と裁定した。私はこの裁定が間違っていないとは思うが、サッカーのルールと裁定が非常に難しくなったものだと嘆息した次第。上記リンクは非常によく整理されており、経緯は以下だと理解できる。

 (1) 主審がルール誤適用をして山形GKが退場、山形は約80分間10人での戦いを余儀なくされ敗戦

 (2) Jリーグ当局がIFABに問い合わせたところ、「ルール誤適用の場合は『主審の試合決定が最終』とは言えない」と回答受領

 (3) ルール誤適用についてJFAもJリーグも規定なく、試合成否決定という重要事案なので理事会で議論し、再試合とした

 実はこの誤適用となったルール追加は約2年前のこと。キーパがゴールキックやFKをペナルティエリア内で蹴り、それがミスにつながり敵が決定的チャンスを掴んだ場合などに、キーパが他選手より先にボールに触ったら警告なり退場(退場はDOGSOのケース)と言うもの。一方で、バックパスを手で受けた場合は従来通り敵に間接FKが与えられるだけで警告も退場にもならない、とも同じ条項内で明記されている。そして今回は後者のケースにもかかわらず退場と誤適用してしまった。余談ながら、当時少年サッカーのコーチ仲間とこのルール変更が話題となり「そんな難しいこと、いちいち覚えてられないよねえw」と語り合ったものだった。

 まず、私のような年寄りは「前者だろうが後者だろうが、そんな稀にしか起こらないことはルール化せず、主審の判断に任せてしまえ」と言いたくなる。しかし、昨今のルールの考え方は、全世界で?極力判定基準を揃えようとするもの。結果的に、本件のようにやたら細かい項目を考慮してルール化することになる。ついでに言うと、得点や決定機の阻止の退場についてはDOGSOを満たした場合と条件を具体化したのも、審判の仕事をやたら難しくすることとなっている。私のような底辺の4級審判員には、あまり縁のない世界だが、トップレベルの審判の方々には同情を禁じ得ない。

 さらに、私のような年寄りは「主審の試合決定が最終であるべきだろう」と言いたくなる。しかし、ルールを詳細化することで、今回のように「後から考えたら誤適用」となるケースが出てくる。そうなると、「試合の最終決定を誤った判断をした主審に任せてよいのか」問題起こってしまい、今回のような騒ぎに発展してしまう。誤適用により主審の最終決定をくつがえす事例にはこんなことがあった(当時私も講釈を垂れた)。以降、ルールが一層複雑化しているのは言うまでもなく、このような事例が世界中で増えているのかもしれない。

 加えて、私のような年寄りは「さてJ当局は、このような誤適用がシーズン終盤日程に余裕がない時に起こったならばどうしたのだい?」と言いたくなる。しかし、これはただ私が性格が悪いだけのことだな。誤適用で不利益をこうむった山形が負けていた以上、Jリーグ理事会が当該決定をしたことは正しいのだろう。

 それにしても、厄介な時代になったものだ。


5. 名古屋グランパス虚偽報告

 名古屋は、保健所の指導がなかったにもかかわらず、活動停止の指導があったと虚偽報告を行い、チェアマンに7/16に予定されていた川崎フロンターレ戦を中止させた。後日、それが判明、Jリーグ当局からけん責と罰金200万円の処罰が発表された。

 上記リンクから、名古屋が行ってしまった虚偽報告と経緯を具体的に記載しば部分を抜粋するとおおむね下記となる(以下の抜粋では「名古屋グランパス」をすべて「名古屋」に読み替えた。
(前略)真実は管轄保健所から指導を受けたものではなく、名古屋の対応方針を是認されたものにすぎないのに、新型コロナウイルス感染者の多発により管轄保健所から同日から3日間の活動停止の指導を受けた旨をJリーグに報告し、チェアマンをして(中略)同試合の中止を決定させた。
 さらに上記リンクでは、名古屋の日程遵守義務回避疑念を厳しく追及している。
(前略)「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」(規約第3条の2)においては(中略)各Jクラブが虚偽を述べないことが大前提となっているところ、本件名古屋の行為はこの前提を揺るがすものである。(中略)公式試合は予め一部のJクラブのみが不利な日程にならないよう調整して日程が組まれており、特別の事情がない限り変更され、または中止されないことが原則である(中略)。そのため、各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである。
 ただし、J当局の調査によると、情状を考慮すべき点もあるとのこと。
一方で、弁護士等も交えた(中略)への聞き取り調査に基づき、名古屋が虚偽の報告を故意に行ったとは認められず、(中略)名古屋側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、(中略)他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋の陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない。また、その後の調査によれば、(中略)当時、名古屋はエントリー下限人数をもともと満たせていなかったことが客観的に明らかであるために、虚偽報告の有無にかかわらず、結果的に開催可否判断への影響が限定的であった。
 以上より、譴責と200万円の罰金が妥当との結論になったようだ。弁護士を交えた客観調査で、チーム内の実情は感染者が相当数出ていた。そのため、虚偽報告がなくとも、最終的にチェアマンが試合中止を判断した可能性が濃厚だった。そのため、虚偽報告は論外だが、結果的には同じ結論に至ったと言うことらしい(いつも思うが、Jリーグ当局は、もう少しリリースをわかりやすく書いて欲しいのだがw)。ただし、今回たまたま対戦相手が、ACLにも出場し日程的に非常に厳しい戦いを演じていた相手が川崎だったこともあり、日程遵守義務を回避した虚偽報告は、川崎を含めた関係各部門にも相当な迷惑をかける事態だった。そのために性悪説をとなえ、名古屋が意図的に川崎戦を回避したのではないかとの揶揄も飛んだが、まあそれはなかったと言うことだろう。



 疫病禍下のリーグ戦を継続するのは、本当に難しいことが顕在化した事件と言えよう。J当局が上記の情状を考慮し、けん責と200万円罰金と言う処罰を決定したのも間違いとは思わない。本件については。

 しかし、昨年の10大ニュースの筆頭でも議論した浦和への意味不明の懲罰とのバランスがまったく取れていない。事務手続きのミスはあったものの、結果的に誰にも迷惑をかけていない浦和は試合をなきものにされた。一方、(結果論からもしれないが)虚偽申告で多くの関係部門に迷惑をかけた名古屋は200万円の罰金にとどまった。

 21年の浦和への裁定が間違っていたのだ。今からでもよい、Jリーグ当局は当時の誤りを認めるべきだろう。

6. ACLレッズ決勝進出と声出し罰金問題
 浦和レッズがACLの決勝に進出。

 それにしてもこのクラブの最近のカップ戦の強さには恐れ入る。15年天皇杯決勝進出、16年ルヴァン制覇、17年ACL制覇、18年天皇杯制覇、19年ACL決勝進出、21年天皇杯制覇、そして今回のACL決勝進出。20年は疫病禍が最も厳しい年だったので、天皇杯が特殊レギュレーションで行われたので例外的な年。そう考えると、毎年のように必ずカップ戦で決勝進出しているのだから、さすがだ。日本最大のサポータ集団に支えられた勝負強さとでも言おうか。実際、浦和のサポータの大声援はすばらしいと思うのだよね。もちろん、浦和サポータの友人と会話していると、彼らの悩みは深い。クラブの経済力を考慮すると、常にリーグ戦でも上位を争い、栄冠を掴むのを当然と思っているのだろうから。まあ、それはそれでステキな悩みですよね。

 ところが、そのサポータ集団の一部をクラブが制御できない残念な事案から、2000万円と言う多額の罰金が浦和に課せられた。一部のサポータがマスクなしで、複数回声出し応援を行ったと言うものだ。カタールワールドカップを典型例に、海外ではマスクなしでの声出し応援が許可されている。しかし、その是非はさておき、Jでは声出し応援は禁止されていた。これはJ当局に賛同せざるを得ない。J当局の裁定を抜粋しておく。
(前略)声出し応援の禁止等のガイドライン遵守をはじめとする秩序維持にはサポーターの強い自律が必要であって、クラブには、これを促すための不断の改善努力が求められる。短期間のうちに(中略)秩序を損なう行為を阻止できなかったことは重く受け止めざるを得ない。かかる状況はJリーグ全体への社会的信用の低下につながるものである(中略)、今後Jリーグも浦和と共に再発防止に向けて対応するものの、浦和が再び(中略)懲罰事案を発生させた場合、無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性があることを付言しておく。
 一部のサポータの暴走をクラブが複数回止められなかった事実は重い。これは前項で述べた昨シーズンの不合理な裁定とは無関係な話である。

 あのすばらしいサポータ集団の一部に困った人々がいる残念な事態、何とか解決してほしい。


7. ジュビロの国際契約違反

 事象としては単純だが、情報の多くが公表されていないので、非常にわかりづらい事件となっている。ともあれ、アジア王者となった実績もある歴史あるクラブが、事務手続きで決定的なミスを冒したわけで相当な事件である。

 ジュビロが契約したファビアンゴンザレスが、その前にタイの別クラブと契約していたとの疑惑が濃厚。結果的に二重契約を行なったジュビロが、FIFAから常に厳しい制裁の決定を受領。ジュビロが、それを不服としてCAS(スポーツ仲裁裁判所)に異議申し立てを行なった。ジュビロは、このリリースで、本件の詳細について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)における審理に影響を及ぼす可能性がございますので、回答を控えさせていただきます。と言及している。そのため、本件の経緯や詳細については、第三者の我々にはよくわからない。しかし、結果的にジュビロの異議申し立ては却下されたと言う。

 この手の二重契約を防止するために、移籍の際に国際移籍証明が徹底されている。ここで引用したのは、日本協会のものだが、当然ながら他国でも同様の対応がとられているはず。どこかで大きな間違いが生まれたのだろうが、よくわからない。起こしてしまったことはしかたがない。改めて、何が起こったのか、どこで間違いがあったのか、適正な情報公開を期待したい。説明責任としての責務もあるし、これが再発防止につながる。


8. サッカー中継の将来、ABEMA

 ワールドカップの放映権をABEMAが獲得したと聞いた時、「また新しい有料配信サービスにカネを払わなければならないのか」と思った。ところが、全部無料だったのには驚いた。考えてみれば、ABEMAで試合を見ている間、ハーフタイムや試合の合間には、そこから流れてくるCMを見ているのだから、民放テレビと同じではないか。「そうか配信サービスも無料での観戦は可能なのか」と改めて勉強した感がある。

 カタール滞在中は、把握できなかったが、本田圭佑氏らの若々しい解説が、ABEMAでは好評だったとのこと。帰国後、準々決勝以降ABEMAの配信を楽しんだけれど、提携しているTV局の優秀なアナウンサ、豊富な解説陣、何ら既存のTV局と変わりなかった。本田圭佑氏の解説は松本育夫氏、松木安太郎氏の系譜を継ぐ本能型の解説でおもしろかった。故岡野俊一郎氏を起点とする、岡田武史氏・反町康治氏・戸田和幸氏・中村憲剛氏の流派だけではつまらないからね。いや、NHKが拘泥してるサッカーの魅力を矮小化するアテネ五輪代表監督のような外乱が登場しない分、安心して楽しめたかな。

 冗談はさておき。我々はサッカー中継を見られればよいのであって、方式や媒体はどうでもよいのだと、改めて痛感した。今後のサッカー中継がどうなっていくのか、注視していきたい。


9. 山下氏ワールドカップ主審選考と女性審判のこれからと三笘の1mm

 ワールドカップの審判として、山下良美氏が選考された。

 山下氏はJ1及びACLの主審経験があり安定した判定は評価されているが、日本人の主審としてはトップとは言えない存在。また、大会では第4審を複数回務めたのみで、笛を吹く機会は訪れなかった。女性の優秀な審判と言うことでワールドカップの審判団に下駄を履かせた評価で選考されたが、現地での事前準備で笛を吹くところまでの評価を得られなかった、と言うことだろう。いささか失礼な評価となるが。ただし、女性審判と言う視点では、ドイツ対コスタリカをステファニー・フラパール氏を主審とする女性審判団が裁き、上々の評価を得た。

 性別にかかわらずサッカーに携わってくれる人が増えるのは大歓迎だ。副審の場合は瞬間的な守備ライン上下動や逆襲速攻に対応する必要があるため、脚力の面から女性のハンディキャップがあるかもしれない。しかし主審ならば、展開の予測や位置取りの工夫やトレーニングによる運動量確保で、極端に不利になることはないのではないか。女性でトップレベルの審判を目指す人がもっと増えて質の高い経験を積めれば、上記のような失礼な表現が不要となる時代も来るだろう。

 そう考えてみると、今大会話題になった画像処理による判定がトップレベルのサッカーに定着してくれば、女性副審でも脚力の弱点がカバーされる。個人的にはVARは相当改善の余地があると思うが(画像処理によるライン判定と、複数審判の連係による反則判断が、将来あるべき姿だと思うが)、技術の向上が間違いなく審判に必要な要素を変えていく。女性の審判進出もその一例だろうが、サッカーも変わっていくのだろう。
 その典型が、あのスペイン戦の三笘の神業だったのだろう。三笘の1mmと言う歴史に残る妙技を、新技術が支えてくれたのだ。


10. 高校選手権決勝、青森山田対大津の両監督

 約1年前となってしまったが。

 高校選手権決勝は青森山田対大津。幾多の名選手を輩出した大津が、はじめて選手権の決勝にたどり着き、この世代で圧倒的強さを誇る青森山田と対戦。非常に興味あふれる試合となったが、4-0と青森山田の完勝。大津はまともにシュートにすら持ち込めなかった。

 大津平岡和徳氏と青森山田黒田氏は日本のユース世代指導者としては代表的存在。平岡氏は巻誠一郎、植田直道、谷口彰悟、黒田氏は柴崎岳と言ったワールドカップ代表選手を育てている。

 平岡氏は、言うまでもなく帝京高校出身。高校選手権で創意工夫を凝らした采配で勝ち切ることに執念を燃やし結果を出してきた古沼監督の弟子にあたる。しかし、この決勝では、特別な工夫すら行わず、戦闘能力で優位に立つ山田にまともに戦いに行き、木っ端微塵に粉砕された形となった。およそ、古沼先生の弟子とは思えない淡白な采配だった。もっとも、平岡氏は、トッププレイヤの育成や選手たちの人間教育に主眼を置き、師匠と異なり選手権での上位進出には拘泥していないのかもしれないのかもしれない。

 一方で、このシーズンオフ、青森山田の監督を長年勤めていた黒田氏の町田ゼルビア監督就任が発表された。黒田氏率いる山田はプレミア、高校選手権など幾度も日本一を獲得、采配の実績は格段。また、青森山田中からの一環強化に見られる組織作りも相当の手腕。ユース世代の指導者として格段の成果を挙げていた黒田氏が、大人のクラブを率いるのは、大変興味深い。類似例としては、市立船橋で格段の成果を挙げた布啓一郎氏が思い起こされるが、トップレベルの指導者のキャリアメイクとしてどのようなことになるか、注視していきたい。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年ベストイレブン

 どうしても、今年はカタールワールドカップのメンバが中心となります。ただ、東京五輪に続き、この大切な大会をベストで迎えられなかった冨安健洋は選んでいません。また、ドイツ戦とスペイン戦で見事な得点を決めた堂安律も、コスタリカ戦とクロアチア戦は不満なので選びませんでした。この2人への要求はこんなものではないのです。

GK 権田修一
 ドイツ戦、スペイン戦、難しい時間帯、よくもまあ守り切ってくれたと思います。細かい部分を言えば不満はありますが、やはり今年の日本のGKと言えば今年は権田でしょう。

DF 酒井宏樹
 クロアチア戦75分以降の知性の限りを尽くした戦いを見ると、やはり右DFはこの選手です。浅野の裏にボールを出すだけになった単調な攻撃に変化をつけようとした尽力は忘れられません。

DF 谷口彰悟

 ワールドカップでの大活躍は言うまでもなし。E-1東アジア選手権での圧倒的存在感も格段でした。予選でも麻也、冨安不在時に何も不安を感じさせませんでした。カタールでタップリ稼いでください。今まで、本当にありがとう。

DF 板倉滉
 スペイン戦の先制を許した痛恨のポジションミスはありました。しかし、それ以外はほぼ完璧な守備。もちろん、予選でのすばらしい守備も忘れられません。列強に対して、冨安との2CBで留め切る姿を見るのが楽しみです。

DF 中山雄太
 予選での充実を含め、メンバ選考された直後の重傷は本当に痛かった。森保監督は、3DFを採用しサイドMFに三笘薫を抜擢する奇策で上位進出を果たしました。しかし、中山がいれば、三笘をもっと前で使えたはずです。

MF 遠藤航
 カタール直前負傷の情報が流れましたが、大会が始まってみれば、俺たちの遠藤航でした。中盤でのタフなボール奪取、落ち着いた前進。何と頼りになることか。

MF 岩田智輝
 E-1東アジア選手権での活躍、J制覇への貢献を考えると、カタールの26人に入るのではないかと思っていました。横浜Mでは最終ラインで使われることが多く、Jの最優秀選手にも選考されたわけですが、一番魅力を発揮できるのはMFだと思います。セルティックでの活躍を期待。

MF 守田英正
 日本サッカー界がようやく作り上げることができた、攻守に戦い続けることのできるMF。イタリアの名手、タルデリ、デ・リービオ、ガットゥーゾを彷彿させるタレント。

FW 伊東純也
 2021年日本代表のエースは、2022年本大会もやはりエースでした。予選のサウジ戦の得点とアシスト。カタール本大会でも幾度右サイドをえぐってくれた事か。さらに3DFのサイドMFとして起用されると、シャドーに入った堂安と美しい連係も見せてくれました。

FW 前田大然
 2002年に鈴木隆行が見せてくれた日本伝統の守備的CF。あの献身がスペイン戦の逆転劇を演出し、クロアチア戦の先制弾を決めてくれました。他の国ではまったく考えられない異次元のストライカに育って欲しい。

FW 三笘薫
 ドイツもコスタリカもスペインもクロアチアも、皆三笘の突破を警戒しまくっており、それでも三笘は幾度も突破を成功させました。3DFのサイドMFで守備もあそこまで見事に演じられるのも驚きでしたが、もう少し前で攻撃に専念して欲しかったかなとも思います。
posted by 武藤文雄 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

富田晋伍との18年

 富田晋伍が引退する。
 18年間に渡り、ベガルタ仙台一筋で戦い続けてくれた戦士。ベガルタゴールド以外のユニフォームを着る事なくトップレベルのプレイを終える富田。言葉にならないほどの感謝を、微力ながら日本語化させていただきたい。

 富田のプレイは何がすばらしかったか。
 言うまでもなく、中盤でのボール奪取能力だ。ただし、この奪取能力が、独特の魅力を持っていた。常に中盤で位置取りの修正を行い、敵の進出経路を予測し、自らのプレイエリアに入ってきたところで躊躇せず身体を張りボールを奪取、常識的だが正確なパスで味方につなぐ。富田の最大の特長は待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐところにあった。
 ボール奪取を武器するMFには様々なスタイルがある。例えば遠藤航、自ら能動的にボール奪取のために飛び出し、身体を当て合い、ボールと敵の間に自らの身体を入れボールを奪取。そのまま強引に前進を継続する。例えば明神智和、豊富な運動量で敵に幾度もからみ都度攻撃を阻止し、ボールを奪うやあちらこちらに展開する。一方上記の通り、富田のスタイルは待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐやり方。似たスタイルの選手を探すと鈴木啓太だろうか。鈴木啓太の方がパス精度は高かったが、ボール奪取力は富田が上回っていたのではないか。躊躇せず奪うと言うとアルゼンチンのマスケラーノを思い出す。富田のパスの精度やタイミングは、さすがにこの南米の大巨人の足下にも及ばない。しかし、ボール奪取の妙は紛れもなくこの名人を彷彿させるものだった。
 富田はチーム戦術への柔軟性も高かった。ACLに出場した手倉森政権の頃は、分厚い守備からの速攻の起点となっていた。この頃は富田は敵からスッとボールを奪い、素早く梁勇基や菅井直樹や朴柱成にボールを渡すプレイが光っていた。角田誠と富田のドイスボランチが、いかに他クラブを苦しめたことか。一方で、渡邉晋氏が采配時のポゼッションを軸としたサッカーでも十分に機能した。渡邉氏が指向するサッカーは様々な変遷があったが、前線に通すさりげないパスや、後方でフリーとなったDFにロングフィードを出させるパスを、富田は巧みに操った。奥埜博亮、三田啓貴、野津田岳人らと組む中盤は魅力的だった。
 もう少し上背があれば、代表チームに選考された可能性もあったかもしれない。国際試合だと、どうしてもこのポジションだと高さが欲しくなるからだ。ただ、あの躊躇せず奪う能力は、富田が短躯で重心が低いが故に完成したもののようにも思える。もちろん、サッカーにはヘディングと言う重要な要素があり、上背は高いに越したことはない。しかし、サッカーの能力要素を個別に整理すれば、背が低いことがメリットになるケースもあるのだ。もっとも富田は的確な位置取りで、ヘディングも決して弱くはなかったけれど。

 2005年シーズン富田がベガルタに加入したきっかけが、あの都並敏史監督にあった。そのあたりは、引退記者会見で富田自身が言及していたし、よく知られたことだ。ただ、都並氏は不思議なことに、この富田をサイドバックとして抜擢した。しかし、富田は、足が速いわけでもなく、角度のあるクロスを蹴るのがうまいわけでもなく、長駆を繰り返せるタイプでもない。なぜ、都並氏が、富田をサイドバックに起用したのは本当に不思議だった。
 当時のベガルタは毎シーズンJ1復帰を目指し迷走を繰り返していた。毎シーズン監督交代を繰り返し、一貫性ある強化が叶わず、再三空振りを繰り返すこととなった。都並氏の招聘もその一つ。さすがに、日本代表選手として豊富な経験を積んできた都並氏が算数ができないとは思ってもいなかったけれども。
 ともあれ、そんな事ははるか昔のこと。都並氏は監督としての姿勢も能力も残念なものだったかもしれない。けれども、私たちは富田晋伍をたっぷりと18年間にわたって堪能できた。改めて都並氏にも感謝したい。

 2009年シーズンにJ1に復帰して以降、ベガルタは高橋義希、和田拓也、金眠泰と言った能力の高い守備的MFを補強した。言わば、定位置争いで富田のライバルとなる選手たちだ。しかし、彼らは短期間ベガルタに在籍したのみで、他クラブに移籍する。そして、移籍後にすばらしい活躍をすることになる。これは、彼らの能力の高さを的確に評価したベガルタフロントの慧眼と、彼らとの定位置争いに負けなかった富田の存在感を示している。柏レイソルで中心選手として活躍する椎橋慧也。2020年シーズンにベガルタで定位置を確保した後、レイソルに移籍した。しかし、この2020年シーズンは富田が重傷を負い、リーグ戦登場の機会がなかった。椎橋はベガルタに在籍した4シーズン、毎年少しずつ出場機会を増やしていたが、富田が元気な間は完全に定位置を奪う事はできなかったのだ。言い方を変えれば、富田は定位置争いのライバルだったこう言った選手達に対して大きな壁となることで、彼らの成長にも大きく貢献したことになる。

 富田の18年間。上記したがJ1再昇格を目指しての迷走時代、富田や梁をしっかり育てJ1への昇格、考えられない自然災害、ACL出場、経営規模拡大が叶わず毎シーズンの苦闘、天皇杯決勝進出、疫病禍における経営危機、J2降格。思えば色々なことがあった。そして、幾多の喜びと悲しみを味わう事ができた。
 改めて富田晋伍と言う我々のレジェンドが引退する報を聞き、まず大きな空虚感を味わった。そして、幾多の喜びと悲しみを思い出し、整理できない感謝の念が交錯した。無数の感謝を整理していると、不思議なことに喜びばかりの記憶に満たされてきた。目をつぶれば、多くの待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐプレイを思い起こす事ができる。そのすべてに感謝の言葉を捧げたい。富田が敵からボールを奪ってくれた分だけ、私は喜びを味わえたのだ。

 富田晋伍さん、本当にありがとうございました。18年間積み上げた無数のボール奪取に乾杯。
posted by 武藤文雄 at 18:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月05日

2次ラウンドを前に

1. 最高の上下動
 ちょっと考えられない上下動を堪能している。
 ドイツ戦とスペイン戦は、先制を許し、しかも前半は思うようなキープもできない苦しい展開。それを凌いだところで、攻撃の切り札の伊東純也と三笘薫を起点にした少ない好機を、浅野拓磨や堂安律がゴラッソを決め逆転。その後はいかにも森保氏のチームらしい粘り強い守備で守り切る。コスタリカ戦は、最悪でも引き分けを狙った丁寧な展開で、ピンチらしいピンチもまったくない見事な試合を演じながら、ほんのちょっとのミスの連鎖で敗れる。
 戦ってみての、講釈師独自戦闘能力評価によると、ドイツとは10回戦えば、2回勝ち、2回引き分け、6回負けるくらいの戦闘能力差があったように思う。スペインとは2回勝ち、4回引き分け、4回負ける。コスタリカとは20回戦い、1回負ける、9回引き分ける、10回勝つくらいか。コスタリカに負けたのはそのくらい不運だったと思っている、おそらくコスタリカは大会直前の準備に何か障害があり、戦闘能力は決定的に弱かったのだろう。ドイツ対コスタリカについても、ドイツに最前線にもう少し落ち着いたタレントがいれば、スペイン戦的な大差がついてもおかしくなかった。ドイツの中盤は、(日本戦の前半を見た限りでは)ブラジルと並んで大会最強だったと思うが、最終ラインと最前線が今一歩だった。スペインは、中盤の組み立てから前線への崩しが十分に整理されていない印象があるが、彼らの本領発揮はこれからだろう、決勝での再戦も十分あり得るな、うん。
 サッカーに浸り切って半世紀。この3試合を振り返るだけで、友人からの「あなたは何のためにサッカーを見ているのか」との質問の答が容易に出てくる現況が幸せでならない。何としてもこの幸福の堪能を継続したい。あと4連勝で。

2. 不運な日本、それでも
 大会前から再三述べてきたように、今回の日本代表チームが史上最強の戦闘能力を持つことは間違いなかった。一方で、史上最悪の1次ラウンドの組み合わせだったのも間違いなかった。
 加えて、予期されたことではあるが、負傷者続出。これも大会前から予想されたことだが、欧州のシーズン真っ盛りで休養期間ほとんどない開催、中3日の試合でのリカバリの難しさが影響してのこと。もちろん、大会に入ってのタフな死闘による負傷発生は毎回のことだが、リカバリ期間の短さの影響は避け難い。
 こう言った負傷者について、運不運と言う視点では、出場32国で日本は最も不運な部類に入るはずだ。何故ならば、冨安健洋と言う我が国史上最高の選手を、今までスタメンに使えなかったのだから。
 このような難しい環境下、4年計画で作られたきたこのチームは、未だベストの姿を見せる機会なく、1次ラウンドを突破した。次は前回準優勝国、伝説的名手モドリッチを誇るクロアチアである。本大会のクロアチアとの戦いは3回目で最多国となる(今まで複数回戦ったのは、このクロアチアの他はベルギー、コロンビア)。今回は勝たせていただこうではないか。

3. ドイツ戦
 前半、ドイツのハイプレスが見事で、日本は後方からつなぐことがまったくできない。さらにドイツのMF達の技巧と位置取りが予想以上にすばらしかった。日本の選手が中盤でボールが取れそうな間合いで、身体の向きとは異なる方向の角度あるパスのタイミングと精度と速さがすばらしかった。押し込まれること事態は想定内だったが、日本がまったくキープできなかったのは大誤算だった。自陣のゴールキックからの展開は、ドイツのハイプレスでロングキックを余儀なくされる。ボールを奪っても押し込まれているためもあり、板倉滉も遠藤航も田中碧もよい体制でパスできないこともあり、鎌田大地も久保建英もキープが叶わない。
 それでも日本は吉田麻也を軸に粘り強く守り、PKの1失点に止めることができた。全員の献身の賜物と言えるだろう。ただ、アディショナルタイムに入り、オフサイドに救われた失点もどきは、残念だった。ドイツの後方でのボール回しと言う撒き餌に引き付けれられて裏を取られた訳で、大きな反省点だった。結果的に、この痛恨のミスがオフサイドで救われたことが、チームに反省材料を提供したと言うことを含め、今大会の一つ目の大きな分岐点になった。
 さすがに、森保氏は「この状況を放置できない」と考えたのだろう、久保に代えて冨安を起用し、後方での組み立ての人数を増やす改善を行う。結果ボールは回るようになり、前田大然に代えた浅野の強引な前進と合わせて好機を掴むことができるようにはなった。
 しかし、一方でこの3DFは練度が足りない。前線でつなぎ損なうと、主に右サイドから再三崩されかけた。一方で板倉が対人の強さを発揮、権田修一の再三のファインプレイなどで、何とかしのぐ。「後半立て直した」との評価が多いようだが、この後半の日本の守備はとてもではないが褒められたものではなかったことは明記しておきたい。
 さて逆転劇。三笘のドリブルはドイツは相当警戒していたようで、ドイツDFが2人がかりで守りに来る。そこで後方から長駆した南野が追い越し好クロス、そしてノイアー、堂安!この三笘を追い越すやり方は、森保氏が隠していた策だった訳だ。お見事でした。
 決勝点、浅野が抜け出し、私のいたゴール裏に向かって爆進してくる。「いいから、打て!」と絶叫したら、浅野は指示に従ってくれた。日本代表もベガルタ仙台も、いつもこうあって欲しいものだ。後から映像を見たら、ドイツの右DFがラインメークを完全ミスしたのね、一部報道では南野の空走りが奏功したとの由、これも森保氏の準備の賜物なのか。
 その後のドイツの攻撃は、やや上滑り気味。おそらく前半のハイペースがたたったのだろう。少々不思議なのだが、なぜドイツは前半あんなハイペースの猛攻を繰り出して来たのだろうか。そもそも日本の最終ラインはかなり強い(しかも本来ならば、他の誰より読みと1対1に優れた冨安が起用されていれば、前半で得点するのは一層容易ではなかったはず)。勝点勘定を考えても、90分丁寧に戦い、より確実に勝点3を取りにくるべきだったように思うのだが。いや、文句を言う筋合いではありません。
 私の世代にとっては、ドイツのサッカーとはあまりに特別な存在。故クラマー氏の薫陶、ベッケンバウア・Gミュラー・フォクツらの名手たち、そして奥寺康彦の奮闘。そのドイツにワールドカップで勝てたのだ。さらに1次ラウンドで蹴落とすことに成功したのだ。ドイツ戦直後の歓喜たるや人生第2位でしたな(1位はもちろんジョホールバル)。

4. コスタリカ戦
 勝点勘定からすれば、勝てれば御の字だが、負けないことが何より重要。日本はそのような試合を狙った。一方コスタリカは当然勝ちを狙って来る…と思ったら、完全に引いて来た。前半は互いに様子を見合い45分が経過した。
 後半、浅野を投入し、さらに両翼に伊東と三笘を並べて攻勢をとる。ただ、失点を防ぐために遠藤も守田英正を自重して押し上げないこともあり崩し切れない。そこで事故が起こった。その後も三笘が複数回突破を成功しかけるなど攻勢をとったが決めきれず。上記したが、20回戦って1回起こるかどうかと言う、受け入れ難い結果となってしまった。
 結論から言えば、コスタリカを過剰にリスペクトし過ぎた試合と言うことだろう。安全第一に引き分けでよい戦いをほぼ達成しながら、終盤敵が何も凄いことをしていないのに自滅。あの時間帯まで徹底したセーフティファーストでプレイしていた麻也に何が起こったのか。10分以上の残り時間があり、勝ちを急ぐ時間帯でもなかったのに。大会後、いずれかのメディアがあのプレイ選択を丁寧に麻也に取材することを期待したい。
 点がとれなかったのは残念だが、そもそも森保氏は点を取らせない狙いで戦ったのだからしかたがないところもある。ただ、ボール保持が圧倒的優位の相手に対してなので、三笘と伊東の両翼攻撃を行う際に、上田綺世を残す時間帯はあってよかったと思う。あるいは町野修斗を中央に入れるとか。あるいは、疲労気味の鎌田に代えて田中碧を入れるのも一手段に思えた。ただし、エースの風格が漂いつつある鎌田やドイツ戦大爆発した浅野に賭ける采配ももっともではある。ついていない試合とはそう言うものなのだろう。いかにもサッカーらしい切歯扼腕する試合となってしまった。正にサポータ冥利に尽きるではないか。
 年寄りの愚痴。私は失点の反対側のゴール裏にいたのだが、失点後多くの人が黙り込んでしまった。失点まではよく声が出ていたのに。ウルトラズの必死のリードは続いていたし、私含めた何人かはチャントを必死にコールしたのだが。苦境で応援止まるなんて、Jリーグでは考えられないことだ。もっとも、劣勢で黙ってしまうのは他の国のサポータも同じようなものなのだし、代表のサポータと言うものはクラブのサポータとは性格が異なるのかもしれない。あの「盛り上がった」と歴史的に語られる97年フランス予選でも、国立で韓国に逆転された以降の「シーン」とした雰囲気もそうだったしな。でも、結構な金額を支払ってここに来ているのだから、最後までもがくのは悪くないと思うのですけれど。とにかくクロアチア戦はがんばりましょう。

5. スペイン戦
 立ち上がり早々に失点。日本の左側から上がってくるガビの捕まえ方が決まる前に、モラタに板倉が出し抜かれてしまった。試合後に友人が映像見ていて発見したのだが、麻也が必死に板倉に「下がれ!」と指示していたのだが。板倉は出足の鋭さ、1対1の強さ、前線へのフィード、いずれも世界最高レベルまで来ていると思うが、まだ細かなポジション修正には課題があると言うことか。
 この左サイドの守備の修正は、私の眼前で行われた。外に引き出された長友佑都を軸に、後方の谷口彰悟、右斜め前の守田、前方の鎌田それぞれが、必死に会話を行いお互いの距離感を修正し合う。そうこうしているうちに、当方の守備は安定。スペインがボールを圧倒的に支配するが、崩される感じはあまりなくなってきた。ただし、ドイツ戦の前半同様ボールキープができず、ほとんど逆襲の機会もなく前半終了。ドイツ戦同様「1-0で終えられてよかった」と言う試合内容、さらに最後の数分で板倉、谷口、麻也が連続警告、暗雲漂うハーフタイムとなった。
 ところが後半、三笘と堂安の同時起用で状況は一変する。堂安の一撃を何と言ったらよいだろうか。眼前で、堂安独特のドリブル後シュート体制に入った瞬間に「決めてしまえ!」と絶叫したら、堂安も指示にしたがってくれた。コスタリカ戦先発起用され、思うようなボール保持ができず後半早々に交代になったのと同じ選手とはとても思えなかった。堂安よ、このようなプレイをもっともっと見せてくれ。
 そして2点目、同点とされたスペインの動揺もあったのか、右サイド伊東と碧がつなぎ堂安が左を警戒するDFの逆をとり右足で低いクロス、わずかに前田大然が合わせられず、と思ったら何かがその後方から進出し完璧な折り返し。眼前で碧が押し込んでくれた。何かようわからんかったが、三笘だったのね。それにしてもあの三笘の折り返しをどう理解したらよいのだろうか。トップスピードでゴールラインを割りそうなボールに飛び込み、GKがまったく取れない場所に浮き玉で折り返したのだ。グッと右足を踏み込み、左足インサイドで面を作りボールを捉える、その後少しだけ伸び切った足首を捻り浮き球にしたと推定するが、正に魔術のようなプレイではないか。あれがゴールラインを割ったかどうか、画像処理技術による判定に救われた訳だが、そのような高度な技術を擁した判定とはまったく関係なく、超人的な技術による折り返しとして、世界中の皆が記憶すべきプレイだった。
 以降、日本は前半同様引きこもる。ジョルディ•アルバの起用に合わせて冨安をサイドに起用すると言う驚きの采配で右を封鎖(「だったらスタメンで使えよ」と言いたくもなるが時間制限があったのかな)。もう少し、うまい速攻を仕掛けられればよかったが贅沢は言うまい。とは言え、三笘が脚力で左サイドを破り、浅野に合わせた場面は慌てず丁寧なサイドキックで合わせて欲しかったところ。終盤、中央を割られかけたが権田がよく防ぎ、日本の快勝とあいなった。試合終盤、ドイツが2点差とした情報が入り、ここで点をとられて29年前の再来にならないだろうか心配しながら、絶叫していたのはひみつだ。

6. クロアチア戦展望
 さて2次ラウンド、ノックアウトステージが始まる。
 まず前回準優勝国、巨人モドリッチが率いるクロアチア。難しい試合になるだろう。
 守備の最大のポイントは、ドイツ戦でもスペイン戦でも前半うまくできなかったボールキープ。いくら組織守備網を完璧に近く構成しても、あれだけ長時間継続キープを許せば、いつか崩れる恐れがでてくる。ポイントになるのは、鎌田、堂安、南野拓実と言った技巧に長けた攻撃的MFたちの持ち堪えとなるはず(久保は負傷で不在の模様)。また、冨安スタメン復帰の噂があるが、これにより先方のロングボールやクロスのはね返し、前線へのフィードは大幅に改善されるはず。まずはそこが最大のポイントとなる。
 そして攻撃だが、伊東と三笘の両翼をどの位置にいつ置くか。そして、そこに堂安をどう絡めるか。もちろん、守備面を考えたら大然のスタメンが有力だろうが、勝負所でトップに誰を起用するか。上田なり町野の使い所が重要になるかもしれない。

7. どんな難敵でも
 まだ3試合を戦っただけなのだ。改めて2次ラウンドの組み合わせ表を見て思う。ワールドカップの真髄はこれからなのだ。
 ただ、少しでも真髄を味わうためには、1試合ずつとてもつない壁を破らなければならない。
 29年前のこの街ドーハ。最初の壁を破り損ねた時、改めて「生涯で1度でよいから、本大会で日本を応援したい」と思ったものだった。しかし、日本サッカー界は年々充実するJリーグと共に想像以上のスピードで進歩してくれた。98年の初出場、02年の地元での2次ラウンド進出、06年で一度停滞するかと不安になったが、さらに新しい選手が継続して次々と出てきた。10年パラグアイにPK負けした時は、人材輩出はそろそろ頭打ちになるのではないか、こんなよい選手が次いつ揃うのかと心配になった。しかし代表はアジアを制するなど安定して機能、14年は大会前に敵地でベルギーを撃破するなど期待値は大きかったが惨敗、18年は監督人事の混乱はあったが、また新しい選手が登場しベスト8まで後一歩まで迫った。毎年毎年、よい選手が潤沢に出てくる土壌は完全に整っているのだ。
 そして今大会。冨安を筆頭に、かつてないほど欧州で成果を上げている選手が登場。選手層も格段に厚くなり、攻守共に切れるカードは無数にある。今、我々より豊富な選手を誇り、色々なタイプの選手を保有できる国が他にいくつあるだろうか。おそらく、ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、イングランドくらいではないか。ただし、我々にはまだ「勝利する」と言う経験が不足していた。
 でももう違う。我々はドイツとスペインを真剣勝負で打ち破ったのだ。どんな高い壁も打ち破る準備は整った。
 我慢する時は隙を見せず奪える時に敵に喰いつく、点が取れそうな時に全員が呼応して敵を喰い破る。簡単にクロアチアに勝てるとは思っていない。ここから4連勝するのは、どんなによい選手がいても、どんなによい経験を積んでも、決して簡単な道のりではない。でも、我々はドイツやスペインに勝ったのだ。どんな難敵でも打ち破る潜在力は持っているのだ。
 決勝までのコンディショナルチケットを片手に、愛する代表チームと共に戦う準備は整ったのだ。我ながら、めでたい人生である。
posted by 武藤文雄 at 03:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする