トゥールーズと言う街は、日本のサッカー狂たちにとって特別な存在だ。理由は簡単、ちょうど四半世紀前の1998年6月14日、私たちはこの街で、生まれて初めてW杯本大会の試合を味わうことができたから。そう、あのバティストゥータにやられたアルゼンチン戦を。
ゴール裏で君が代を歌えた感動、井原正巳を軸にした組織守備が機能した喜び、0-1で終盤まで凌ぎ終盤幾度か好機をつかんだものの決められなかった嘆息。試合後、ビールや葡萄酒と共に堪能した名物料理のカスーレ。
ラグビーW杯、日本は明日の初戦を、そのトゥールーズでチリと戦う。
毎週、ベガルタ仙台の試合を追いかけ、世界最強に駆け上がりそうだった熊谷紗希と仲間達の不運に切歯扼腕し、バスケットW杯で富樫勇樹と仲間達の颯爽たる五輪出場権獲得に熱狂、そして、姫野和樹と仲間達の初戦の半日前には、遠藤航と仲間達が戦うドイツ戦(先方にとっては10ヶ月前の復讐戦!)。贅沢なことだ。
前回日本で行われたラグビーW杯は本当に楽しかった。あの静岡でのアイルランド戦の歓喜、日本敗退後の準決勝以降の国歌斉唱時の空虚感。大会をサッカー狂の視点から振り返ったこのような文章を書かせてもいただいた。
正直言って、ラグビー代表の今大会準備のテストマッチを振り返ると、内容も結果も芳しいものではなかった。そのため、前々回、前回のような好成績を収めることができるのか、とても心配だ。ただし、そこには多くの錯綜した事情があったのは、ラグビーシロートの私にも理解できる。
まず前大会と比較すると、今回の代表チームは準備期間が短い。前大会は9月の大会に向けて2月から代表候補選手を集中強化していた。しかし、今大会の強化合宿は6月からだった。おそらく頻繁にテストマッチを行っていた7月はフィットネス系の鍛錬を相当行っていたはずで、各選手のコンディションが整っていなかった可能性が高い。
しかし、これは落ち着いて考えれば健全なことだ。ラグビーを本質的に日本に定着させる目的で作られたリーグワンが2シーズン目を迎え、5月まで熱戦が繰り広げられていたのだから。クボタスピアーズ船橋・東京ベイが、主将立川理道の信じ難いキックパスで、埼玉パナソニックワイルドナイツを破った決勝戦など、すばらしかったではないか。
前大会、準々決勝で南アフリカに敗れた最大の敗因は、選手層の厚さだった。前半互角の攻防を続けていた日本だが、後半両軍が選手交代を重ねるにつれ、FW戦の劣勢が明らかとなり、次々に失点を重ねた。控え選手のレベルが相当違っていたのだ。代表チームの選手層を厚くするのは、長期の代表合宿では不可能。長期的には普及活動をして選手人口を増やすしかない。一方で短期的には国内リーグのレベルを上げて、優秀な選手を増やすしかないのだ。そのあたりについても、このような文章にまとめたことがる。
前大会、あるいは前々大会、日本ラグビー協会は、地元W杯を控えていたこともあり、単独チームに相当迷惑をかけながら、長期強化合宿で成功を収めた。しかし、そのようなやり方は続かない。結局単独チームの強化がおざなりになり、選手層を厚くすることはできないからだ。
強化合宿が短かったことの他にも障害があった。選手の負傷が多かったことやベテランの退場劇である。
若手の大型ロックとして期待されているワーナー・ディアンズや、頑健で瞬足な若手ウィングのシオサイア・フィフィタは、テストマッチにまったく出場できず、ほとんどぶっつけ本番で大会に臨むことになる。ロックの中心選手ジェームス・ムーアは大会直前に離脱。同じくロックのアマト・ファカタヴァは一度離脱したが治療がうまくいったのか、直前の復帰に成功。本当に全選手がよい体調で大会を迎えられるのかと言う不安は尽きない。この激しい競技で負傷はつきものでしかたがないのかもしれないが、
また、サモア戦でのリーチ マイケルとフィジー戦でのピーター・ラブスカフニの退場も痛かった。最近のルール改正で、意図的ではなくても結果的にタックルが相手の頭に向かって行われると無条件で一発退場となったらしい。代表主将を務めたことがあり、経験豊富な2人が対応し損ねたのだから、選手達には順応が難しいルール変更なのだろう。この2件の退場劇は、単にテストマッチの勝敗と言うこと以上に、その試合での連係成熟と言う視点で痛かった。さらにラグビーは、一度退場となると、続く複数試合退場になるので、一層連係成熟が難しくなる。
上記した要因を考えると、テストマッチでの内容や結果が芳しくなかったのはしかたがないことなのだろう。肝心なのは明日から始まる本大会なのだから。今大会、前大会と比較して多くの外乱を抱えることになったジェイミー・ジョセフ氏がどこまでチームを仕上げることができたかは、神のみぞ知ることだ。少々怖いもの見たさもあるが、それらの不安が裏切られ、4年前同様の歓喜が連続することを期待したい。
2023年09月09日
ドイツとの再戦
早いもので、カタールの興奮から1年近く10ヶ月が経った。
一方でW杯予選やアジアカップも近づいてきている。48国出場と言うおよそ緊張感のないW杯予選、優勝以外考えられないアジアカップと、何とも味わい深い相違はあるが、代表の試合が楽しいことだけは変わりない。
そして、今回の欧州の強豪ドイツ、トルコとの2連戦。欧州各国がクローズな地域対抗戦を重視するようになり、なかなか有効な親善試合が組めなくなっている中で、良好なマッチメークを行った日本協会にも敬意を表したい。そして、11月には早くもW杯予選が2試合。その後、アジア制覇奪回をねらい選手達は1年ちょっと振りにドーハに降り立つ計画。落ち着かない楽しい日々が続くが、ありがたいことだ。
まずはドイツ戦。親善試合とは言え、先方からすればカタールの復讐戦。さらに言えば、最近の試合でドイツはすっかり不調(W杯終了後、1勝1分3敗)とのこと。この手の親善試合では珍しく、先方がどうしても勝利を挙げたい事情が強い。これは、難しいが楽しいタフな試合が期待できそうだ。もちろん、ドイツは強いのは間違いない。特にここ10年くらいのドイツサッカーは、昔の無骨さがなくなり、柔軟で洗練されたパス回しを見せてくる。ドーハでも前半、当方が相当引いていたこともあったが、パスの強弱を巧みに使い分け、押し込まれたことが記憶に新しい。
加えて、続いてトルコ戦。「トルコ」と聞くとついつい「21年前故郷宮城の復讐戦だ!」と言いたくなりますね。しかし、あのドーハの歓喜からもう10ヶ月経ったのも驚きだが、あの雨の利府の絶望からも既に21年が経ったのか。時の経つのは、本当に速いものですね。
アジアカップに向けて、森保氏は様々なトライアルを行いたいことだろう。
負傷がちだった冨安健洋が復活したところで、どのような守備網を構築するのか。ここまでの森保氏の起用のやり方を見ていると、右から菅原由勢-冨安-板倉滉-伊藤洋輝をベストと考えているように思うが、ドイツ戦の先発はどうなるのか。また、少々手薄完がのある左DFをどう考えているのか。ただ、ここは中山雄太が負傷から回復すれば問題なくなるのかもしれないが。DFラインでちょっと不思議なのは、瀬古歩夢の不選考。ここまでの起用方法を見ている限り、CBは冨安は別格として、板倉、谷口に続く序列は瀬古なのかと思っていたのだが。まあ。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹と言った大ベテランは事実上代表を去ってもなお、幾多の人材がいるのだから、文句を言ったらバチが当たりますね。
中盤後方の選手選考が少ないのは、以前も講釈を垂れたが、森保氏の方針か(笑)。今回も川辺駿は呼ばれていない。合わせて気になるのは田中碧、東京五輪時点では日本代表全軍の指揮官獲得の時は近いと期待していたのだが、ドイツの2部リーグのチームから中々転身できないのはどうしたことか。結局リバプール入りした主将の遠藤航と守田英正を軸とすることになるだろう。しかし、このポジションはそれなりにタレントは多数いると思うのだが、森保氏は断固として多数を呼ばない。このポジションだけは妥協を一切許さず、自分の水準を超える選手しか選ばない方針なのだろうか(笑)。
前線のタレントは本当に潤沢。現状では、両翼に伊東純也と三笘薫を並べるのが最強布陣かと思うが、その場合真ん中の2枚を8人が争うことになる(笑)。さらに今回は、ドラミ相馬勇紀と最近好調が伝えられる南野拓実が不選考なのだから贅沢なものだ。
私がサッカーをはじめた半世紀前。
ドイツ(当時は西ドイツでしたが)と戦うことはもちろん、勝つなどと言う概念は存在しなかった。いや、W杯に常時出場することや、アジアカップで常に優勝をねらうなども、およそ想像すらできなかった。
アジアカップを初制覇したのが31年前か。以降90年代、日本は驚異的な右肩上がりでサッカー界の地位を上げていった。その右肩上がりは、いつか止まるだろうと思っていた。しかし、もちろん上がり下がりはあったし、微分値こそ小さくなったが、今なお右肩上がりは継続している。気がついてみたら、W杯本大会でドイツやスペインに勝ってもおよその驚きはなくなり、欧州のトップクラブで当たり前のように日本人選手が活躍している。多くの有為なタレントが欧州に流出しても、Jリーグは常にスキルフルな選手を多数抱え熱狂的な試合が、日本中のどこでも見ることができる。
などと半世紀の思いを抱えながら、ドイツを返り討ちにするのを、じっくり楽しみたい。
一方でW杯予選やアジアカップも近づいてきている。48国出場と言うおよそ緊張感のないW杯予選、優勝以外考えられないアジアカップと、何とも味わい深い相違はあるが、代表の試合が楽しいことだけは変わりない。
そして、今回の欧州の強豪ドイツ、トルコとの2連戦。欧州各国がクローズな地域対抗戦を重視するようになり、なかなか有効な親善試合が組めなくなっている中で、良好なマッチメークを行った日本協会にも敬意を表したい。そして、11月には早くもW杯予選が2試合。その後、アジア制覇奪回をねらい選手達は1年ちょっと振りにドーハに降り立つ計画。落ち着かない楽しい日々が続くが、ありがたいことだ。
まずはドイツ戦。親善試合とは言え、先方からすればカタールの復讐戦。さらに言えば、最近の試合でドイツはすっかり不調(W杯終了後、1勝1分3敗)とのこと。この手の親善試合では珍しく、先方がどうしても勝利を挙げたい事情が強い。これは、難しいが楽しいタフな試合が期待できそうだ。もちろん、ドイツは強いのは間違いない。特にここ10年くらいのドイツサッカーは、昔の無骨さがなくなり、柔軟で洗練されたパス回しを見せてくる。ドーハでも前半、当方が相当引いていたこともあったが、パスの強弱を巧みに使い分け、押し込まれたことが記憶に新しい。
加えて、続いてトルコ戦。「トルコ」と聞くとついつい「21年前故郷宮城の復讐戦だ!」と言いたくなりますね。しかし、あのドーハの歓喜からもう10ヶ月経ったのも驚きだが、あの雨の利府の絶望からも既に21年が経ったのか。時の経つのは、本当に速いものですね。
アジアカップに向けて、森保氏は様々なトライアルを行いたいことだろう。
負傷がちだった冨安健洋が復活したところで、どのような守備網を構築するのか。ここまでの森保氏の起用のやり方を見ていると、右から菅原由勢-冨安-板倉滉-伊藤洋輝をベストと考えているように思うが、ドイツ戦の先発はどうなるのか。また、少々手薄完がのある左DFをどう考えているのか。ただ、ここは中山雄太が負傷から回復すれば問題なくなるのかもしれないが。DFラインでちょっと不思議なのは、瀬古歩夢の不選考。ここまでの起用方法を見ている限り、CBは冨安は別格として、板倉、谷口に続く序列は瀬古なのかと思っていたのだが。まあ。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹と言った大ベテランは事実上代表を去ってもなお、幾多の人材がいるのだから、文句を言ったらバチが当たりますね。
中盤後方の選手選考が少ないのは、以前も講釈を垂れたが、森保氏の方針か(笑)。今回も川辺駿は呼ばれていない。合わせて気になるのは田中碧、東京五輪時点では日本代表全軍の指揮官獲得の時は近いと期待していたのだが、ドイツの2部リーグのチームから中々転身できないのはどうしたことか。結局リバプール入りした主将の遠藤航と守田英正を軸とすることになるだろう。しかし、このポジションはそれなりにタレントは多数いると思うのだが、森保氏は断固として多数を呼ばない。このポジションだけは妥協を一切許さず、自分の水準を超える選手しか選ばない方針なのだろうか(笑)。
前線のタレントは本当に潤沢。現状では、両翼に伊東純也と三笘薫を並べるのが最強布陣かと思うが、その場合真ん中の2枚を8人が争うことになる(笑)。さらに今回は、ドラミ相馬勇紀と最近好調が伝えられる南野拓実が不選考なのだから贅沢なものだ。
私がサッカーをはじめた半世紀前。
ドイツ(当時は西ドイツでしたが)と戦うことはもちろん、勝つなどと言う概念は存在しなかった。いや、W杯に常時出場することや、アジアカップで常に優勝をねらうなども、およそ想像すらできなかった。
アジアカップを初制覇したのが31年前か。以降90年代、日本は驚異的な右肩上がりでサッカー界の地位を上げていった。その右肩上がりは、いつか止まるだろうと思っていた。しかし、もちろん上がり下がりはあったし、微分値こそ小さくなったが、今なお右肩上がりは継続している。気がついてみたら、W杯本大会でドイツやスペインに勝ってもおよその驚きはなくなり、欧州のトップクラブで当たり前のように日本人選手が活躍している。多くの有為なタレントが欧州に流出しても、Jリーグは常にスキルフルな選手を多数抱え熱狂的な試合が、日本中のどこでも見ることができる。
などと半世紀の思いを抱えながら、ドイツを返り討ちにするのを、じっくり楽しみたい。