2022年カタールでのクロアチア戦?、2018年ロシアでのベルギー戦?、でも準々決勝ではセレソンが待ち構えていた。2010年南アフリカでのパラグアイ戦?、でも準々決勝ではスペインが待ち構えていた。そう、一番ベスト4に近づいたのは2002年我が故郷宮城県でトルコに敗れた時だった。もし、トルコに勝っていれば、準々決勝はセネガル。当時私たちが、トルコ、セネガルに連勝するのは、簡単ではないが相応の確率で実現可能だったのではないか。フィリップが妙な策に走り、アレックスや西澤を起用しなければ。と、22年間に渡り思い続けてきた。このような、実現不可能な「if」に愚痴を語るのは、サッカーの至高の楽しみの一つであるのは、言うまでもない。
そして、昨日のベトナム戦、22年ぶりの再会を果たしたフィリップが作り上げたベトナムの鮮やかな抵抗を、圧倒的戦闘力で粉砕した喜びとともに、22年前に思いを馳せることができた。そう、「フィリップ、やはり、あなたは間違えていた」と。
開始早々、ベトナムが難しい相手であることはすぐに理解できた。
日本陣にボールが入ると、5DFが整然とラインを上げる。いわゆる5-4-1の陣形だが、5DFの押上げがすばやいので、4人のMFは左右のバランスをとりながら、全線までプレスをかけることができる。そのため、谷口彰悟と板倉滉の両CBは自由に縦パスができない。ベトナムDFを押し下げるべく、前線の選手が裏をとりスペースを空けようとすると、こまめにラインを修正するので容易ではない。
それでも、谷口が敵プレスが甘くなったところで前進してベトナムの陣形を崩し、フィードを受けた中村敬斗が中央に引きつけたところで、左オープンに上がった伊藤洋輝がフリーとなり、CKを獲得。ベトナムGKがそのCK処理を誤り、こぼれを菅原由勢が強シュート、こぼれを南野拓実が冷静に詰めて先制に成功。
これで楽になると思ったが、そこからセットプレイで2失点してしまった。
同点弾を生んだCKの提供経緯、谷口がウェイティングしたところを後方から菅原がはさんだが、ちょっとした連係不備から許したもの。そのCKから、ニアで方向を変えた一撃が、かなり偶然にネットを揺らした。もっとも、ニアサイドの日本の守備を空けるベトナムの工夫は鮮やかなものであり、正に「やられた」と言う一撃だった。
逆転されたFKを奪われた場面、日本の浅いラインをベトナムが突こうとしたところで、やや偶然にこぼれ球が裏に流れ、慌てた菅原のスライディングがファウルになったもの(私はこの場面、赤がでなくて安堵した、見方によってはDOGSOと言われてもしかたがなかったから)。そのFKをゾーンDFの外側から入り込むファーサイドの長身DFにピタリ合わせれ折り返され、GK鈴木彩艶のファンブルを詰められた。ゾーン守備の大外から折り返されたところで勝負アリだった。
2失点とも、ゾーンで守る日本のセットプレイの弱点を鮮やかに突かれたもの。最初のキックに対する彩艶の判断の拙さや、各選手の瞬間的な判断の緩慢さには不満はあるが、いずれも先方のキック精度と、全軍の意思統一は見事だった。
いや、セットプレイだけではない。元々、ベトナムやタイやマレーシア、東南アジア諸国の選手のボール扱いはすばらしい。ところが、往々にして各選手のその精妙なボール扱いは、局地戦でのボール扱いの優位にしか使われないことが多かった。しかし、今回のベトナム選手たちはいずれも、日本の厳しいプレスに対し、第1波を技巧で外した後、しっかりとスクリーンして身体を入れ、日本の第2波を許さない。さらに、同サイドでのボール保持ではなく、常に反対サイドへの展開を意識するから、局地戦ではなく、チーム全体での前進なりボール保持につなげることができる。フィリップは、伝統的なベトナム各選手のボール保持能力を、局地戦ではなくチーム全体での前進につなげるところまで指導の落とし込みに成功したのだ。
ものの見事に逆転されてしまったわけで「これは困った」と思ったのだが、それは杞憂だった。
日本は慌てずボールを回し、まずはペースを取り戻す。そして前半40分以降、ベトナムのコンパクトなDFとMFの間に、狡猾に伊東純也と南野が入り込み、後方からの正確なフィードを格段のボール扱いで受け、猛攻をしかける。ベトナムDF陣は、ゾーンをよく絞り中央圧縮でしのぐが、そのクリアを情け容赦なく遠藤航と守田英正が拾い連続攻撃。
加えて日本のシュートがものすごかった。
南野の同点弾は、再三揺さぶった後、遠藤航のパスを受け完璧なボールコントロールから、狙い澄ましたインサイドキック。トップスピードで走り込んでの実に美しいトラップ、香川真司の全盛期、いやちょっとベベットを思い出したりして。
中村敬斗の逆転弾。日本が同点に追いついたのが、45分だったのが、アディショナルタイムは6分。これはベトナムにとっては厳しい。日本が勢いに乗り猛攻を継続できたからだ。そして、南野の展開を受けて敵DFを外した超弩級弾。サイドを崩して自分のシュート力が一番発揮される場所に持ち出す感覚は、リバウドかデルピエロか。
加えて重要なことは、南野にしても、中村敬斗にしても、このチームではレギュラ、第1選択肢ではないと言うことだ。三笘や久保建英や堂安律の方が、このチームでは、南野と中村敬斗よりも格段の実績を誇っている。もちろん、私たちの最大のエース伊東純也は圧倒的に輝いているのだし。
後半、落ち着いた日本は丁寧にボールをつなぎ、前半のような危ない場面を作らせない。後半から起用された上田綺世、終盤から登場した堂安、久保が少しずつ機能し、堂安→久保→上田綺世でとどめの一撃。堂安と久保の個人技の精度はもちろんだが、上田綺世の右インステップの低く鋭い弾道は、釜本邦茂御大を思い出しますね。
でね。
フィリップ。あなたが、今回作ってきたチームはすばらしいものがあった。組織守備、セットプレイ、中盤からの前進。22年前、約四半世紀前、あなたが私たちに教授してくれて歓喜を味合わせてくれたチーム戦術の妙。
でもね。
私たちは、その見事なチーム戦術を粉々に打ち砕くことができた。全選手の戦術眼、精度の高い技術。あなたが築いた組織力を完全に凌駕する戦闘能力。
で22年前ね。
あなたは、なぜトルコ戦で、あんな妙な作戦を行ったのか。22年前の私たちにとってのトルコは、昨日のあなたにとっての私たちほど、どうしようもない差はなかった。昨日の前半40分以降の猛攻と、後半のボールキープを見て、私は改めて22年前のトルコと私たちの差を確信できた。22年前、あなたは間違ったのだ。策を弄さずに、普段のメンバでトルコと戦うべきだったのだ。繰り返します。22年前のトルコは、今の私たちのように強くなかったじゃないですか。
と、言いながらも、あなたとの4年間は本当に楽しかった。
そして、あなたのおかげもあり、私たちはたったの22年間でここまで到達することができた。世界中、どんな相手が出てきても怖くはない。繰り返すが、たったの22年間で。
フィリップ。改めて、四半世紀前の楽しかった日々に感謝したい。そして、あなたとの楽しかった日々が、私たちにとって進歩の礎となったのは間違いない。あなたのおかげもあり、私たちはここまで来ることができた。
本当にありがとうございました。
次はW杯本大会で戦いましょう。
米加墨大会。2次ラウンド、また戦えることを楽しみにしています。今回以上にボコボコに粉砕してやるけれども。