2024年02月14日

アジアカップ2024、ただの愚痴です

 ドーハの屈辱。
 しかし、「屈辱」って、考えてみれば、随分な態度だと思う。だってイランですよ、イラン。32年前の超苦戦とカズの「魂込めた」一撃。31年前のドーハの痛恨。もちろん、人生最高の歓喜を味わったあのジョホールバル。アリ・ダエイやアジジやマハダビキアを筆頭とする尊敬すべき忌々しい名手たち。そして、今回のアズムンやジャハンバクシュらも彼らの系譜を継いでいた。
 2005年のドイツ大会予選で苦杯を喫した、あのアザディスタジアムの大熱狂、ペルセポリスや多くの博物館で楽しんだペルシャ帝国時代からの歴史の重み。そのイランにアディショナルタイムにやられて「屈辱」と語る姿勢、そのものが不遜に思えてくる。たとえ、私たちの目標がワールドカップ制覇だとしても。
 個人的にもすごく反省のある大会。アジア制覇は当然と考え、決勝あるいは準決勝以降は現地に行く計画だった。早々にアポイントを入れ、万が一早期敗退したらキャンセル料払うつもりで。ところが、情けないことに諸事情からその休暇調整がうまく行かなかった。もう、人生の目的と手段を誤り続けた情けなさの集大成感(笑)。このような情けなさが、今回の主要敗因ではないかと自惚れるサポータ心理と合わせて。

 伊東純也の離脱については論評のしようがない。ただ、戦闘能力が大きく下がったのみならず、現場の森保氏以下が精神的にダメージを受けたのは間違いなかろう。ここ最近の伊東は日本代表史上最高のFWと言っても過言ではない存在感だったのだから。加えて、離脱するしないと状況が二転三転したとの報道があったが、もしその報道が正しいのだとしたら、日本協会首脳の情けなさには失望しかない。
 特に田嶋幸三会長、この方はサッカーの意思決定が下手くそなことは皆が知るところだった。しかし、今回の事案で組織のトップとしても無能なことが判明した。本人の能力もそうだが、周囲に適切な助言をできる人も不在と言うことだな。もっとも、人材派遣会社の総務部門で活躍し、この手のことにかけてプロ中のプロの人が、比較的最近までは日本協会首脳にいたはずなのだが。

 まず強調したいのは、イラン線の前半は、日本にとっては笑いがとまらない結果だったことだ。
 イランは前半から強引に攻めかけきたが、冨安健洋を軸に危ない場面はほとんど作らせない。先方が前に前に出てくれば久保建英へのマークが曖昧になり、当方の速攻が機能する。もちろん、イランの最終ラインも強いから、そう簡単には得点は奪えないけれども。
 しかし、そうこうしているうちに守田英正が鮮やかに先制点を決めてくれた。左サイドに遊弋した守田が中央の綺世に正確なボールを入れ、上田綺世が敵DFの厳しいプレッシャに負けず正確なリターンを守田に返す。守田は見事な出足で敵DF2人をぶち破り、見事なシュートを決めた。イランからすれば、久保や堂安律の個人技、毎熊晟矢の押上げ、前田大然の無茶走り、そして綺世の裏抜け、このあたりまでは相当警戒していたのだろうが、よい体制でボールを受けた守田への対応までは準備対象外だったのだろう。日本は、選手の個人能力の質の高さで先制に成功したわけだ。
 こうなると、後半は相当楽観視できる。イランを引き出しておいて、逆種速攻から好機を多数作れることが期待できるからだ。事実、後半序盤に日本はイランの守備人数が不足しているところを突き、久保と綺世が好機をつかんでいる。日本の各選手の状態が正常ならば、普通に日本が追加点を上げて押し切る試合だったのだ。各選手の状態が正常ならば。

 板倉滉のプレイに「あれっ」と言う印象を持ったのは、先制前の20分過ぎに警告を喰らった時だった。イランが前線からの日本のプレスを好技で外し、モハマド・モヘビが毎熊晟矢の裏を突く。それに対応した板倉がかなり強引な当たりで倒した場面だ。モヘビはシャープなドリブルが武器の選手だが、ここ最近の板倉はこの手の場面の対応が非常に巧みになっており、「何もいきなりファウルで倒さなかくてもよいのではないか」と不思議に思ったのだ。その後も板倉のプレイはおかしい、簡単に裏を取られたり、出足で敵DFを封印できない場面が散見される。プレイが止まった時、板倉が足を気にしていているのが大映しになった。1/16ファイナルのバーレーン戦の終了間際に足を痛めていたのだが、その影響だろうか。
 私はハーフタイムで、板倉は交代すべきと考えた。明らかに本調子でなく、それが負傷要因の可能性が高いとしたら、必要なのは休養。そして、まだ準決勝も決勝も残っているのだし。しかし、森保氏は板倉をそのままプレイさせることを選択した。そして、55分に奪われた同点弾時の板倉のプレイには目を覆った。日本の自陣でのつなぎミスを拾われ、サルダル・アズムンが冨安を引きつけてスルーパス、カバーするべき板倉がなすすべなくモヘビに突破を許したのだから。センタバックが敵FWにあんなに簡単に突破を許しては、どうしようもない。失点は取り返せないが、板倉が本調子ではないのは、いよいよ明らかになった。
 さらに事態を悪化させたのは、オフサイドディレイの適用が不適切な副審の存在。明らかなオフサイドでも放置するため、的確にラインを上げていてもプレイが完結するまで、日本守備陣は安堵できない状況となる。あのような副審が介在すると、浅い守備ラインを築きづらくなる。質の高いサッカーを楽しむためにも、このような無能な副審の選抜は勘弁してほしいものだ。いや、少々怪しい副審でも真っ当に試合を楽しめるように、妙なルールの導入を避けるべきと言うのが、本質かな。
 ともあれ、どんなに副審がおかしくとも、私たちは勝たなければならない。そのための柔軟な対応こそ、監督に要求されるタスクだ。せめて、板倉に代えて、谷口彰悟を起用すれば冨安が敵FWをつぶすのに専念できただろう。あるいは高さがあり前に強い町田浩樹を起用すれば冨安がカバーリングに専念できただろう。しかし、森保氏は大然に代えて三笘薫を。久保に代えて南野拓実を起用するが、最終ラインはいじらない。何のために、これまで多くの選手を起用し、分厚い選手層を準備してきたのだろうか。敗戦後、「ロングボールに弱い日本」との報道を目にするが、調子が万全のCBを配していれば、ここ最近の日本がそのようなやり方を苦にしていなかったのは自明なこと。調子のよい選手を使っていればよかっただけなのだ。
 20分過ぎから、冨安は開き直った。ラインを上げるを諦め、ペナルティエリア内でイランの攻撃を受け止めることに方針転換。これで裏を突かれることはなくなり、最終ラインで冨安が圧倒的存在感でイランの攻撃を押さえる展開となる。冨安がここにいることで、イランは一見攻め込んでいるように見えるが、好機はつかめなくなった。
 けれども、このやり方には背反がある。結果として、日本は攻撃に厚みを欠くことになり、好機を掴みづらくなってしまった。さらに悪いことに、遠藤航の運動量が落ちるとともにデュエル負けも目立ち始め、イランのプレスを外せなくなり、前線によいボールを供給できない。75分過ぎから、守田が位置取りを後方に下げ、3DF気味の体制をとるが、毎熊と伊藤洋輝の両サイドバックが積極性を出せず前進できない。ベンチには菅原由勢も中山雄太も佐野海舟もいた。後方の守備を修正し、押上げの形さえ作り直せれば、前線には堂安、南野、三苫、綺世とタレントは揃っていたのだ。状況は改善できたはずだ。2010年代までは公式戦の交代選手上限は3人だったが、COVID-19以降、交代5人制が定着。チームのリズムが悪い時は、後方にフレッシュな選手を起用するのは定石になっているのだが。 

 一方で、森保氏が動かなかった理由を推測する。
 これまでの準備試合でも、バーレーン戦までの4試合でも、やはり冨安と板倉のコンビは、他のCBよりは圧倒的な能力を見せていた。アズムンやモヘビのような強力FWを抱える相手に対し、最強の2人に頼りたかったのではないか。
 しかし、過去の実績や好調時のプレイを期待して眼前の不調選手を放置するのは、いかがなものか。カタールW杯予選の敵地サウジ戦で、明らかな疲労からミスを繰り返していた柴崎岳を交代させずに引っ張り、柴崎の考えられないミスパスから失点した場面を思い出したのは、私だけだろうか。もっとも、板倉はあれだけ調子がおかしかったけれど、何とか試合終了直前まで凌いでいたのだから、大したものだとは思う。調子が悪いなりに、最後の最後まで戦い抜いた板倉のプロフェッショナリズムには感謝の言葉を捧げたい。そして、今大会早期敗退の責任の痛恨を忘れずに、2年後のW杯本大会で私たちに最高級の歓喜を提供してくれることを期待したい。
 また、後方の選手交代に消極的だったのは、延長戦を見据えていたのかもしれない。イランと日本は同じ中2日とは言え、イランはシリアとPK戦に持ち込まれ120分戦っていたし、平均年齢も高い。冨安が深く守るようになった以降、押し込まれてはいたが好機は許していない。このまま延長になれば、イランの運動量は落ちるはず。イランがどのような選手交代をしてくるのを見据えて、カードを切ればよいと考えたのではないか。
 しかし、あれだけ幾度もペナルティエリアに進出を許せば、偶然や不運で崩れることもある。そして、アディショナルタイムに、板倉が連続でやらかしてしまった。よりによって、挽回猛攻を行う時間すら残っていないタイミングで…「やらかすならば、もっと時間が残っている時に」と言いたくなったのだけれども。

 しょせんサッカーと言う競技は理不尽なもの、いくら努力や工夫を重ねたとしても、悔しい結果に終わることはある。増して、上記した通りイランは強いチームだった。けれども、今の日本代表の戦闘能力が史上最強であり、世界のどの国と戦っても、互角の攻防を演じるタレントが揃っているのは間違いなかったのだ。例えば、1/16ファイナルでイラン相手にPK戦まで粘ったシリアを、我々は先日のW杯予選で敵地で5-0で破っている。非公開の練習試合ではあるが、大会直前に決勝進出したヨルダンを6-1で破っている。
 やはり、采配負けだったのだ。当方が格段に高い戦闘能力を保持し、ベンチにはいくらでもすばらしいタレントがいたにもかかわらず、中心選手の不調を放置し、攻勢をとることも叶わなかったのだから。言い換えよう、史上最強のチームは、森保氏の采配ミスでアジア再戴冠に失敗したのだ。
 イラクやイランが日本に勝利し選手たちが感涙していた点を採り上げ、「熱量の差」と言う指摘もどうかと思う。日本の目標は優勝以外なく、ローテーション的な戦いをしながら、2次ラウンドに進出し4連勝することの確率を丹念に上げる必要があった。毎試合ベストを尽くすのは当然だが、選手たちが決勝での勝利を踏まえてプレイしたことを、否定するわけにはいかない。
 これはアジアの壁でも何でもない。単にサッカーの難しさなのだ。伊東純也の突然の離脱が不運だったことを割り引いても、森保氏は最強軍団を率いリアリズムを考慮しながら丁寧に戦おうとした。けれども、森保氏は試合途中で誰の目にも明らかになった改善点を放置すると言う致命的なミスを犯した。

 私たちは大魚を逸した。それでもアディショナルタイムまで帳尻を合わせかけた選手たちがすごかったと言うのかしれないけれど。
 森保氏の進退云々については、この稿で語るつもりはない。
 とは言え、森保氏は「冨安を抱えながら、2回もアジア制覇に失敗した監督」であることだけは、間違いない。
posted by 武藤文雄 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする