2025年02月28日

敵地徳島戦、工藤蒼生の痛恨

 徳島ヴォルティス1-0ベガルタ仙台
 52分に逆襲速攻から失点、その後猛攻をしかけたが取り返せず悔しい敗戦。敵地とは言え勝ち点ゼロは痛く、課題も多い試合ではあった。一方で、リードを奪われた後の攻撃は中々見事、新戦力の台頭もあり今後に期待を抱くこともできた。
 失点は完全に工藤蒼生の判断ミスからだった。前半、圧倒的に劣勢だったのを何とか0-0でしのいだハーフタイム。森山監督は有田恵人に代えて荒木駿太を起用。荒木が前後左右によく動き、後方からの縦パスを受けるようになり事態は改善された。ところが、52分工藤が敵陣で中途半端な持ち出しから簡単にボールを奪われ速攻を許す、素早く戻った蒼生だが引いてきた徳島の渡大生に巧みにスクリーンされポストプレイを許す、そのボールを受けたジョアン・ヴィクトルと渡に見事な連係から崩され失点。渡の妙技には「恐れ入りました」と言うしかないのだが、失点の主因は不用意な持ち出しを奪われた蒼生にあった。
 
 前半開始早々、ベガルタは最前線のフォアチェックを外され、速攻を許す。右サイドを徳島のベテラン杉本太郎に突破され、逆サイドに振られた後決定機を許すも、林が好捕でかろうじてしのぐ。敵地戦の開始早々まだ様子を見るべき時間帯に、あそこまで見事に注文にはまり崩されてはいけない。この場面で、前線で止め切れなかったことで、以降フォアチェックに行き切れないことが増え、徳島に圧倒的にボール保持されることとなった。それでも、組織守備で我慢を継続、好機はほとんど許さず何とか0-0で前半終了。
 徳島のフォアチェックはよくベガルタの特徴を研究していた。真瀬拓海を押し込み、裏狙いで前に行こうとする有田恵人との間を分断する。逆サイドでは、右利きの左DF奥山政幸の縦を押さえて中に追い込む。森山氏の目論見は、俊足の有田へロングボールを入れて走らせ、徳島の3CBを押し下げることで、押し込まれの連続を防ぐことだったのだろう。しかし、強風下ロングボールは風で押し戻されてしまい、敵のラインは下がらない。さらに鎌田大夢も前への持ち出しに拘泥して、ハーフウェイライン近傍で複数の徳島MFにはさまれてボールを奪われることが再三。この鎌田の無理し過ぎは前節の鳥栖戦でも見受けられた傾向、押し込まれた場面で守備陣の押し上げが遅れている時には前進ではなくボール保持を狙うべきなのだが。あそこまで押し込まれてしまっては相応に失点のリスクは高まってしまう。
 一方で、これだけ圧倒された前半を無失点で終えることができたのは大したものだ。悪い展開なりに4-4-2のブロックを丹念に維持し好機をほとんど許さなかったことは長いシーズンが始まるにあたり結構なことだと思う。ただ、状況が改善された後半序盤に速攻を許し失点するのだから、サッカーは難しい。
 失点はしたが、荒木の投入で流れがよくなったこと、先制した徳島が後方を固めるやり方に切替えたこともあり、ベガルタは押し込むことができるようになる。さらに、中盤に武田英寿を起用、武田はよくボールに触り中盤を構成、鎌田と武田とタイプの異なるパサーを起点に複数回の好機を掴んだが、相良、郷家、鬼木らのシュートがどうにも決まらず、悔しい敗戦となった。
 
 悔しいが、極端に悲観する内容ではなかった。前半圧倒的攻勢を許したことは課題ではあるが、強風という誤算が痛かった。どうしても勝たなければならない試合だったならば、守山氏は前半で有田に代えて荒木なりエロンを起用したのではないか。しかし、長いシーズンを考えれば、信頼して起用したスタメンを維持したのは決して間違っていたとは思えない。そして押し込まれたなりに守備の充実も見られたのは確かだし。また上記の通り、武田が機能したことはこの試合の大きな収穫となった(デュエル負けでボールを奪われるところは改善の余地ありだが)。攻撃ラインも宮崎鴻、荒木、武田と言った新加入選手が多いだけに、連携の妙には至っていないのはしかたがない。焦らずにチームの熟成を待ちたいものだ。
 
 さて、いよいよホーム開幕となる大分戦。大分は開幕戦でいきなりJ1から降格してきた札幌に快勝、順調な出足を切っている。芝の張り替えもありユアテックが使えないため、キューアンドエースタジアムでの地元開催戦。遠いとか、不便とか、行くだけでカネがかかるとか、トラックが邪魔で見づらいとか、屋根が機能的でなく濡れやすいとか、23年前にトルコにやられたとか、文句を言うとキリがない。しかし、前回J1昇格を決めた2009年シーズンとの類似性も感じるではないか。前シーズンのあと一歩での昇格失敗、リーグ序盤のキューアンドエースタジアム利用。
 そのような雑事よりも何より、工藤蒼生は並々ならぬ気迫でこの試合に臨んでくれることだろう。痛恨のボール喪失、さらに渡に出し抜かれたこと。中盤後方のタレントとしては絶対に犯してはならないプレイを連発してしまった。だからこそ、あの悔しい失敗経験を活かし、蒼生がこのホーム開幕で見事なリベンジ劇を見せてくれることと期待していても構わないだろう。
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2025年02月22日

2025年開幕、郷家友太の一撃

 サガン鳥栖0-1ベガルタ仙台
 敵地での開幕戦で、強豪から勝点3を奪ったのだから、最高のリーグ開幕と言っても過言ではなかろう。しかも、その決勝点がすばらしかった。
 71分、守備ラインでボールを回し、CB菅田がフリーとなって前線のエロンを狙う性格なロングパス、エロンが敵DF2人とつぶれながらボール保持し、郷家がすばやく宮崎につなぐ。真瀬は格段の動きだしの早さを見せ(相対する相手を完全に置き去り)、右オープンに飛び出し、宮崎の展開を受ける、既にその時点でエロン、郷家、相良の3人がペナルティエリアに進出済み。真瀬がよく腰をいれて蹴ったクロスは、落ち着いた位置取りで敵DFから離れていた郷家にピタリ。郷家は柔らかなヘディングをサイドネットに向けて合わせるだけだった。
 腕章を巻いたチームリーダが崩し始めに絡み、献身的なチームメートが特長を出しながら作り上げた好機を、見事な位置取りと正確な技術で決めた得点だった。

  後半開始早々から、試合はすっかり鳥栖ペースで展開していた。鳥栖FW陣の前線からの厳しいチェックに追い込まれ、仙台各選手は落ち着かない状態で無理な縦パスにこだわる。また前線の選手も強引に縦抜けをねらう。しかし、DFの押し上げがまだなのに縦を急いでしまうものだから、すぐにボールを奪われ連続攻撃を許す悪循環。それでも、最終ラインの粘り強い守備でなんとかしのぎ続ける。森山氏としてはメンバ各位の個人判断で、この苦境を抜け出して欲しいと考えたのだろう、しばらく我慢する。しかし、劣勢の継続を見て、63分荒木に代えてエロンを投入。エロンは期待に応え身体を張ってまずボール保持をねらう。その結果、チーム全体も落ち着き始め、サガンの猛攻を食い止めることに成功した。そして、冒頭の先制点へと試合は流れていった。
 先制点後、サガンは猛攻の疲労が出たのか、後半序盤の猛攻を支えた前線守備が失われ、パワープレイに転じる。1度だけスリヴカに前を向かれポストを掠めるシュートを打たれたが、その直後、守山氏が割り切ってモラエスと石尾を投入。最終ラインを増強し跳ね返す体制をとってからはピンチとはならず、しっかりと守り切った。

 サガンは、セレッソで見事な采配を見せていた小菊氏を監督に招聘。かなり選手の出入りはあったものの、各選手の個人能力は高く、小菊氏が仕込んだフォアチェックの組織力も強度もなかなかだった。スリヴカと山田の2トップや西澤と新井の両翼など、各選手の個人能力も高く相当厄介な存在となりそう。まずは、その難敵に勝てたのだからめでたい話だ。
 先般も述べた通り、攻撃はおおむね期待通りと言ってよい内容だった。得点こそ1点に終わったが、前半狙い通りボール保持できた時間帯に遅攻から決定機を複数回作り、上記の通り後半の決勝点は見事なものだった。最前線に起用された宮崎は期待通りに機能し、荒木も前半よく好機にからみ、エロンは相変わらず献身的だった。
 しかし、守備はまだまだ。上記の通り、後半序盤の内容はとてもではないが褒められたものではなかった。期待のCB井上は押し込まれた後半序盤に身体を張った好守備を見せてくれたが、前半開始早々敵の縦パスを無理にカットしようとして触ることができず危ない場面を作られたのは反省材料。菅田がサガン山田に出し抜かれスリヴカに許した超決定機(林のファインセーブでかろうじて防ぐ)だが、鎌田がスリヴカの動き出しに対応できなかったのがは残念だった(気が抜けたプレイに見えたのは私だけか)。アウェイで迎える大事な開幕戦だったのだ、もう少し慎重さが欲しかった。今後の改善に期待したい。

 次節は徳島との敵地戦。
 昨シーズンは、柿本、エウシーニョ、岩尾、永木と言ったベテランの知的なボールさばきに苦戦させられた悪い印象が強い。さらに徳島は開幕戦で、敵地で藤枝に完勝している。難しい試合になることだろう。
 改めて守備を整備し、落ち着いた試合運びを期待したい。目標は2位に入りJ1復帰を実現すること。その目標に向けて逆算された試合を見せてくれること、それだけを期待したい。
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2025年02月14日

2025年シーズンが始まる

 新シーズンが近づいてきた。毎年のことだが、 それだけで気持ちが高揚してくる。「いよいよ開幕を迎えられる」と言う何とも言えないワクワク感を押さえることができない。そして、明日以降、週末ごとに試合がやってきて七転八倒、阿鼻叫喚の日々を送ることができるのだ。


 このシーズンオフ、ベガルタ仙台は順調な補強を行うことができた。昨シーズン活躍した中心選手のほとんどと再契約に成功。さらにレンタル所有していた松井蓮之、奥山政幸の所有権を獲得したのも地味ながら見事な補強と言える。


 一部に、攻撃の中核だった中島元彦のレンタル元への復帰を心配する向きがあるようだが、私はそれほど心配してはいない。

 前線でのボール保持力と言うでは、昨シーズン終盤に最前線で献身的な動きを見せたエロンが健在。さらに、栃木SCから獲得した宮崎鴻、昨シーズン中途から加入しながら能力を発揮しきれなかったが、潜在力は格段なのことを誰もが認める梅木翼らがいる。彼らが最前線で献身性を発揮すればボール保持力は相当なレベルが期待できるはずだ。

 また得点力については、我々は郷家友太と相良竜之介を所有している。この2人がいるのだ、不安を感じることそのものが、この2人に失礼と言うものだろう(笑)。

 そして、セットプレイの精度については、武田英寿の獲得が解決策になってくれることだろう。


 むしろ、開幕後の試合を見てみないとわからないのは、最終ラインの整備だと考えている。昨シーズン、ほぼ定位置を確保していたベテランのCBの小出悠太が、古巣のヴァンフォーレ甲府に移籍してしまった。

 もちろん、このポジションには副主将に就任した菅田真啓がいて、守備の中核を担ってくれるのは間違いないことだ。ただし、菅田のパートナが誰になるのか。井上詩音とマテウス・モラエスの潜在能力に疑いはないが、2人とも2024年シーズンは諸事情で出場機会が少なかったことが気にかかる。

 ここ最近獲得した新卒選手は、攻撃ポジションのタレントが多く、最後尾はやや不足感がある。このオフの補強は上々だったとは思うが、CBの層の薄さは少々心配なのだ。

 もっとも、1年前も似たような不安を抱いていたな。しかし森山氏は、左DFに新人の石尾陸登を、守備的MFに2年目の工藤蒼生を、それぞれ抜擢し、すべての不安を払拭してくれた。

 きっと、今シーズンも大丈夫なことだろう。


 さあ、J1復帰するシーズンが始まろうとしている。まずは明日。私も駅前不動産スタジアムに向かいます。まずは明日の歓喜から。

posted by 武藤文雄 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月09日

高校選手権決勝2025

 前橋育英 1(9 PK戦 8)1 流通経済代柏
 どなたも賛同してくれるだろうが、今年の高校選手権決勝はおもしろかった。110分間、両軍の若者が死力を尽くして戦い、さらにPK戦でも登場したすべての選手が知性と技術の粋を尽くしていた。
 まずはすばらしい試合を見せてくれた両軍の関係者すべてに、感謝の言葉を捧げたい。ありがとうございました。

 高校選手権を日本テレビがショーアップを始めてから、半世紀が継続した。初期にそのショーアップの一環として行われた首都圏移転。移転前、最後の関西開催の1975-76年決勝は、前JFA会長の田島幸三の見事な2得点で浦和南が静岡工業を下して優勝。この試合は、後に日本代表になる選手が多数プレイしていた。浦和南には田島(一応後に古河)の他に菅又哲男(後に日立)、静岡工業には吉田弘(後に古河)、石神良訓(後にヤマハ)がいた。その翌年首都圏移転後、準決勝以降を国立で行うレギュレーションになった初年度1976-77年の決勝は、今でも語り草となっている浦和南対静岡学園の死闘、5対4で浦和南が連覇に成功した。この試合は、後に日本代表となる浦和南の水沼貴史(後に日産、マリノスでもプレイしたな、水沼宏太の親父殿ですね)や静岡学園森下申一(後にヤマハ、ジュビロ時代もプレイ)が、高校1年生で登場している。さらには、この大会に前橋育英の山田耕介監督が2年生で島原商業高の中心選手として活躍していた云々…と語り始めるとキリがないなw。
 ともあれ、半世紀に渡り、日本テレビはこの年明けの若年層サッカー大会を盛り上げるべく尽力してきてくれた。このお祭り騒ぎが、日本サッカーにどのような貢献をしてきたのかの歴史を振り返るのも中々楽しいことだが、それは別な機会に譲ろう。本稿では、私自身がテレビ桟敷で楽しんだ決勝戦について講釈を垂れて行きたい。

 繰り返しとなるが、野次馬にとっては手に汗握るすごい決勝戦だった。ただし、サッカーの質と言う視点からすると、不満はあった。さすがに70分を過ぎたあたりから、両軍ともにガス欠状態。守備ラインの押し上げが効かなくなり、前線の選手が強引に突破をねらう単調なサッカーになってしまったからだ。もう少しやりようがあったのではないかと思うが、それについては後述する。
 しかし、単調になろうが、質が低かろうが、敵のゴールネットを揺らすことを狙い、若者たちが強引に前進する姿は美しいものだ。そして、それを阻止すべく献身的に身体を張り、我慢を重ねて縦突破を許さない守備陣の若者たちの献身も、また尊いものだった。そして、その尊さは観る者の心を打つ。

 「サッカーの質に不満」とイヤミを述べたが、それは延長戦を含めた後半半ば以降のこと。前半はサッカーの質と言う視点からも、すばらしい試合だった。双方の組織的なフォアチェック、それを丁寧にかわすボール回しの妙。一度ボールを奪うや、素早く切り替え全選手が敵陣を目指す。奪われたチームは、同じく素早く切り替え守備体型を整え直す。
 流経の先制点の「早さ」の鮮やかだったこと。中盤で、飯浜空風が鮮やかなインタセプト、そのまま前橋陣に向けて持ち上がり、走り込む亀田歩夢が受けやすいポイントに正確なパス。亀田もトップスピードでそのパスを受け、正確なボール扱いで横に流れながら落ち着いてDFをかわし、落ち着いて狙い済ましたシュートを決めた。亀田はフットサル出身とのことだが、高速で敵陣に向いての技術精度の高さが見事だった。カターレ富山内定とのこと、J2での活躍を期待したい。もちろん、飯浜の知性の冴えは言うまでもない。
 しかし、前半のうちに前橋が追いつく。この同点劇の前橋の「個人能力」にも感嘆。左サイドに開いたオノノジュ慶吏がいかにも彼らしいデュエルの強さを活かし、しっかりとボール保持。そこから適切に視野を確保し、逆サイドのオープンに進出した黒沢佑晟へ高精度パスを通す。黒沢は右サイドで鋭い切り返しでDFを抜き去り、後方から進出していたフリーの柴野快仁に正確なクロスを入れ、前橋は同点に追いついた。柴野は失点時に飯浜にボールを奪われる致命的なミスを冒していただけに、見事な挽回とも言えた。そして、オノノジュのボール保持力と黒沢の切れ味の見事なこと。
 その後も全選手の忠実な守備、ボール奪取後の一気に敵陣に迫る攻撃、奪われた直後の忠実な戻りなど、サッカーの質視点でもレベルの高い試合が継続する。すばらしい前半だった。

 後半に入り、両軍とも想定外のトラブルに見舞われる。
 まず流経。63分に3人の選手の同時交代で勝負を賭ける、驚いたのは中盤の柚木創の交代。柚木は切り返しの巧さで敵DFに囲まれてもしっかりボール保持できる能力を基盤に、敵DFのタイミングを外すパスも出せる。20年前ならば「ファンタジスタ」と絶賛されていたタレントだ。もちろん、今の選手だ。献身性は言うまでもないし、自己満足のために位置取りを勝手に変えて守備に破綻をきたすこともない。流経榎本雅大監督は、その柚木を外すと言う勝負に出たわけだ。ところが、不運にも交代出場した和田哲平が直後に負傷、早々に安藤晃希との交代を余儀なくされる。安藤はスピードのある選手で再三左サイドの縦突破を狙っていたが、柚木も和田も不在の流経は、どうしても単調な攻撃に終始することになってしまった。
 そして、交代カードを1枚しか切らず流経の交代による攻勢を我慢を重ね凌ぎ切った前橋。84分に勝負に出る。上記した同点弾を演出したオノノジュと黒沢を交代、2人に代えて脚力のある選手を起用、ピッチに残した佐藤耕太のシュートの巧さを活かそうとしたのだろう。ところが、よりによって交代直後にその佐藤が負傷退場。前橋も当初狙った交代の意図が発揮できない状況に陥った。それでも牧野奨や大岡航未が、執拗に強引な裏狙い突破を試みたが、こちらも変化が不足し流経の守備陣を破ることができなかった。
 和田と佐藤が負傷せずにピッチに残っていたら、試合はどうなっていただろうか。榎本、山田両監督の意図は実現せぬまま試合は進行することになった。
 個人的には両監督の采配に疑問も残った。延長に入り両軍選手の疲弊が明らかだったのだから、お互い確保していた残り1枠の交代を使うべきではなかったのか。例えば、後方のタレントを投入し、中盤でボールを落ち着けることができて展開力に優れる石井陽(前橋)なり飯浜空風(流経)を1列前に上げるだけで、両軍とも攻撃に変化が生まれたと思うのだが。まあ、野次馬の戯言として。
 そんなこんなで偶然と必然が交錯、後半半ば以降は前述したように、両軍ともに押上げもないまま前線の選手が強引に縦をねらう攻撃に終始。それをまた両軍の守備陣がファウルをしないように身体を巧みにいれる守備で対抗。延長含めて、文字通り死闘が継続したが両軍ともにゴールネットを揺らすことはなかった。繰り返すがサッカー的な質はさておき、見ていて興奮させられる見事な戦いだった。
 
 かくして突入したPK戦がまた壮絶だった。
 全選手が低い弾道をサイドネットに決めるか、やや浮かしてゴール端に決めるか、GKを動かしてから逆側なり中央に決める。要は皆がしっかりとPKも練習し、自分のスタイルを持ち、自信満々蹴っているだ。それが、5人ずつ全員が決めてサドンデスになった以降も継続するのだから恐れ入る。最後勝負を決めた前橋の10人目柴野もフェイントでGKを動かしてから冷静に蹴り込んだ。フィールドプレイヤの最後のキッカーまで自分のスタイルのPKを準備しているのだから、感心させられた。すごいPK戦だった。
 前橋育英山田耕介先生は、故小嶺忠敏先生の最高の弟子と語っても、過言ではないだろう。
 半世紀前に選手としてインタハイを制し高校選手権でも活躍、山口素弘・故松田直樹・細貝萌ら幾多の名手を育て、監督として全国制覇も経験、ザスパの経営にも関わる。文字通り日本サッカー界の大巨人。その大巨人が、教え子達のPK戦を正視できない表情が美しかった。ちょっと故イビチャ・オシム氏を思い出したりして。おめでとうございます。

 世界最強国を目指すに至った我々。必ずや、この凄絶な決勝戦も、世界最強に向けての一助となることだろう。改めて、両軍関係者に乾杯。
posted by 武藤文雄 at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする