ワールドカップだ!
予選を勝ち抜くと言うのは、本当に嬉しいことだ。
少々寂しいことだが、一生分の嬉し涙を流したジョホーバルの感動は、もう味わうことはできない。こればかりは仕方がない。さすがに、このフランス大会以降、日本は8大会連続出場、さすがに予選突破が常態化してしまったのだから。しかし、繰り返すが出場権を獲得する瞬間の感動は、やはり堪えられない。ただ、こうなるとドイツ大会やブラジル大会など、予選が順調な本大会はロクなことがなかったことを思い出し心配にもなるのだが(笑)。まあ、それはそれ。
また試合内容がすばらしかった。バーレーンが見事な組織的サッカーを演じ、日本は. それを上回る攻撃を強いられたからだ。そして、その難しい状況下で、見事な崩しからのビューティフルゴールが生まれた。しかも、その見事な攻撃を若きエース候補の久保建英が演出してくれたのだ。よく守備を固めた難敵を、若きリーダによるアイデアあふれる攻撃で打ち破り、本大会出場を決めた。誠に気持ちよい勝利だった。
それにしても、バーレーンの守備は見事だった。裏を突かれるリスク覚悟で浅いラインを維持、日本のDFとMFにほどよいプレスをかけ、容易にロングボールを蹴らさない。堂安と三苫を軸にしたサイド攻撃も人数かけて押さえてきた。三苫を自由にさせないと言うのは、今の日本対策の常識だろうが、堂安側のサイドにも蓋をしたのが中々見事。久保がよくボールを引き出し、南野と守田と相互に距離を詰めて敵の位置取りのバランスを崩そうとするが、バーレーンの選手たちの自制心は中々でスペースが空かない。上田綺世は敵CBに当たられてもうまくスクリーンできていたので、もう少しボールを集めたいところだが、遠藤航や3DFに対するプレスも中々で縦パスが入らない。こう言う局面を打開できるとしたら堂安のサイドチェンジではないかと期待するのだが、意欲的な久保がサポートに寄ってくるものだから、2人で意地になって(?笑)コンビプレイで敵3人を突破しようとして行き詰まる。結果論だが、3DFの右に瀬古ではなくもっと縦にも行ける菅原あたりを起用していれば、もっと機動的な崩しができたかもしれない。
後半守田に代えて田中碧。守田については、バーレーン戦前から体調がベストではないとの報道があり、試合後離脱が発表されたが、そのためだったのかもしれない。しかし、結果的にはこの交代が有効だった。この日の田中碧は代表で久々に輝いた印象があった。カタール予選では遠藤航(世界屈指の狩人)と守田(運動量豊富なオールラウンダ)との3ボランチで、配球の妙を見せ、よく攻撃に変化をつけていた。しかし、基本布陣が2ボランチになった以降の田中碧は、航と守田のバックアップ的存在となり、ボール奪取や頻繁な顔出しが要求されることとなる。その結果、得点を決めMVPにも選ばれたスペイン戦を含めて、本来の持ち味のパスワークをあまり見せられないでいた。しかし、この日の碧は、久保がよく動いていたことにも助けられ、長短のパスをすばやく回しチーム全体の中核となり、バーレーンの守備網に焦点を絞らせない。そして、次第にバーレーンのMF達にも疲労が出始める時間帯、森保氏は伊東純也と鎌田を起用。鎌田の上下動、伊東純也の縦への恐怖感に、碧のパスワークにより左右に振られたことが合わさり、いよいよバーレーンのDF陣は日本の5FWに貼り付く形となる。
初め、伊藤洋輝が巧みな持ち出しで敵FWを出し抜いた時、私は「巧いものだなあ」とノンビリと感心していた。綺世に縦パスが入り「よし、前を向いている碧に落とせば好機となる、三笘も純也もよい位置取りだ」とやや前のめりになった。ところが、綺世の創造力は私の想像力を遥かに上回っていた(笑)。鮮やかなターンからの完璧なスルーパス。そして久保!鎌田!碧の一連の細工でバーレーンDF陣が後方に貼り付く形になっていたとは言え、コンパクトさは維持されていた。そこをCBの縦パスとCFのターンで崩し、2シャドーの妙技でゴールネットを揺らしたのだから痛快だった。日本代表史に残るビューティフルゴール。
そして、この美しい先制点とは別な意味で、この試合は、日本代表史に記憶されるものになるかもしれない。久保が攻撃の全指揮をとった試合として。まだ23歳の久保だが、10代の頃からその攻撃の才能は高く評価されてきた。しかし、代表においては、絶対的エース純也、止めようのないドリブルを見せる三苫、カタール本大会で見事に得点を重ねた堂安らと比べると、もう一つハッキリした活躍がなかった。しかしこの日は序盤から精力的にボールを引き出し変化をつけるべく尽力を重ねていた。そして、とうとう先制弾で完璧なラストパスを鎌田に通してくれた。そして、終了間際の鮮やかなダメ押しゴール。もちろん、開始早々の決定機にシュートが遅れた事、凝りすぎたつなぎ、堂安との共存など課題もあるが、まずはこの日の久保デーを素直に喜びたい。
さてサウジ戦。
サウジにとって極めて難しい試合だ。ホームゲームから10時間近いフライトでの移動での疲労。埼玉で待ち構える相性の悪いアジア最強国。しかも残り試合はこの日本戦の後はアウェイバーレーン戦とホーム豪州戦。確実に勝ち点を計算できそうな試合は皆無。ここに来て豪州の日本との引き分けによる勝ち点1差は大きく、2位に入るのが段々厳しくなっている。いや、それだけではなく残り3連敗でもしようものならば、5位以下に落ちて完全敗退のリスクもある。必死の思いで、勝ち点1以上の獲得を目指してくるだろう。ただし、ベストとは思えない体調下でバーレーンのようにラインを上げてコンパクトに戦えるか。だからと言って、ゴール前に引きこもって、日本のサイドチェンジに耐えられるか。非常に難しい選択を強いられる。唯一の突破口は日本が既に出場を決めていて気が抜ける可能性があること。さらに守田、綺世、そして三苫の不出場が噂されていることくらいか。
日本としては、本大会に向けた準備となる。考え方としては2種類あるのではないか。1つは、チームとして同じやり方で、新しい選手を試すこと。綺世の位置に町野を入れ、若い藤田チマと高井を起用する。特にこのパリ五輪の精鋭の抜擢は、やや平均年齢が上がりがちの今のチームにとってとても重要なはずだ。今1つは、今までとは異なるやり方を試すこと。トップに前田大然を起用し裏を突く、菅原と中山を両サイドDFに起用した4DF、航、碧、チマによる3MFなど。サウジは本大会出場すれば十分に2次ラウンド進出を狙える戦闘能力を持つし、個人能力が高い選手も多い。このような強豪を相手に、トライアルができる贅沢を楽しみつつ、見事に勝利する試合を期待したい。