2008年07月24日

上々の豪州戦

(失点場面のテレビ解説を揶揄しているのですが、どうやらその発言は小倉氏ではなくて、相馬氏だったようです。小倉さん、失礼な事言ってごめんなさい)

 よい試合だったと思う。
 このチームはこれまでも攻撃力、それも連携面が課題だったので、見事な2得点を含め攻撃は及第点だろう。香川が完全にチームを仕切り、本田圭が助演を務めるMF。さすがにA代表のレギュラは違うと思わせた内田と長友。そして、最後に得点を決めて突き放す事にも成功。一方で、これまでこのチームの長所だった守備には問題点が散見された。

 同点弾は美しかった。
 左サイド奥深くにオーバラップした長友が獲得したスローインからスタート。長友が顔を出した細貝(前半終了間際に負傷し、後半早々に退いたが、やはりこの選手が中盤に入ると守備が安定する)が一拍はさみ香川へ。香川は本田圭にはたきリターンをもらうと、視野の広さを活かして逆サイドの内田へ。その横パスを敵DFが引っ掛けるも内田が巧く拾い、内田は中央にグラウンダの斜めパス。飛び出してきた忠成がスルー、森本が(上から見て)時計回りに反転し、左足シュートを狙うかと思わせて、ボールを流すと、後方から長躯してきた香川が巧く抜け出してGKと1対1になり冷静に流し込んだ。
 これは実に重要な得点だ。このチームでは過去ほとんど見る事ができなかった遅攻からの相互連携を活かした美しい得点だったと言う意味でも、(このチームでほとんどプレイしていないにもかかわらず、このチームの攻撃の中核となる事を要求されている)香川が展開の起点となり最後も締めたと言う意味でも。
 約2年の月日の準備を重ねた上で、連携トレーニングが今回の合宿から始まったのではないかとの突っ込みは禁止します。

 決勝点は、香川が左タッチ際で敵に絡まれボールを奪われそうになった所に、岡崎、安田の2人が巧くプレスをかけてボールを奪取したところから始まった。ボールを受けた梶山が岡崎に当て、岡崎が谷口に落とし、谷口が左オープンに開いた安田を走らせ、安田がゴールライン近傍でDF2人を引き付けて、谷口に下げる。全くフリーの谷口がアーリークロスを上げ、岡崎がダイビングヘッド。豪州GKがボールを見送る仕草をしたため、テレビ桟敷からは「外れたのか」と瞬間残念に思ったが、何の事はない、敵GKの判断ミスで、歓喜の決勝点と相成った。もっとも、あのコースなので、GKが正しく反応しても取れなかっただろうが。
 高さのある豪州に対して、よい位置でボールを奪い、巧く外をえぐった上での後方からの速いクロスに「闘う」FWがアタマでねじ込むと言う理想的な決勝点だった。

 攻撃面で、速いパスと鋭い走りで豪州守備陣を切り裂いた事は高く評価されるだろう。ここまでやれるならば、オランダや合衆国の守備網をそれなりに悩ませる事ができるはずだ。
 何より一番驚いたのは、香川と本田圭の間によい意味での主従関係が出来上がっていた事。本田圭という選手はボールをさばく能力は疑いないが、自分の間合いでボールを持たないと仕掛けが始まらない。そして、その自分間合いに持ち込もうとしないあたりが不満だった。ところが、この日は香川に主役を譲り、使われる中で再三持ち味も出していた。同点劇の仕込みでの香川へのリターンや、後半香川の長いスルーパスから抜け出した場面などは秀逸だった(もっとも、左アウトのシュートを当て損ねて大減点だったが)。香川にマークが集中したら、この2人ならば役割を切り替える事も可能だろう。この2人にとって幸いなのは、北京に向けての一連の準備や本大会での厳しい試合は、お互い同士のみならず、気鋭のA代表サイドバック達と連携を高める絶好機である事。A代表のポジション争いのライバルである先輩達には、このような機会は南アフリカ本大会直前の集中合宿までは訪れない。北京で光り輝いて、山瀬と松井を追い抜く気概で努力して欲しい。
 先般酷評した岡崎と豊田の充実も嬉しかった。岡崎は得点場面の他でも期待通りタフなプレイを連続、守備であれだけ貢献して、なお見事な得点を決めた。豊田も後方からの長いボールをしっかりと保持し、後半の攻勢の起点となった。この調子で精進し、本大会での謝罪機会の提供を期待したい。

 一方で守備面は気になった。
 失点場面は、完全に吉田個人の問題。最初のボール提供も酷かったが、水本がうまくウェイティングしたにもかかわらず、そのカバーにのみ専心し後方の選手の進出を見損ねたのは論外。アタマのよさそうな選手なので、ミスが重なり失敗も具体化したこのような場面は、よい意味での「反省体験」としてくれると、前向きに捉えよう。余談ながら、この失点場面のTV解説の小倉氏(だよね、まさか相馬氏ではないよね)の発言は大問題。何と、「ウェイティングした水本が当たりに行かず、余裕でラストパスを出されのがいけない」と語っていた。昔から「TV解説者で生き残るためには、アナウンサが間が持てるように、とにかく喋る事」と言われているが、ここまで極端に間違った事を喋るとやばいんじゃないの。それとも、松本育夫氏の道を狙っているのか。
 失点場面より気になったのが、中盤の守備。もっと、敵の攻撃を中盤で止めたいところだ。特に後半の半ば以降、せっかく豪州の足が止まった時間帯に、こちらも中盤がスカスカ気味になってしまった。結果的に、試合終盤やや殴り合いに近い状況に陥った。それでも先方の疲弊度がより高く、かつ疲弊後の戦闘能力差が歴然としていたために、トドメを挿す事ができたに過ぎないのだ。
 同様に、敵が長いボールを入れてきてセンタバックがはね返したのを拾いそびれるのが目に付いた。終盤に、吉田が1度はね返したボールを拾われ、サイド左サイドからアーリークロスを上げられてクロスプレイになり、今度は吉田がかろうじてCKに逃げた場面はその典型。特に合衆国やナイジェリア戦の終盤は、このような交通事故の機会を最小にする工夫が必要だろう。
 中盤守備の甘さは、アジア予選でも再三問題になったが、最後のところで水本と青山直がハンマーのように敵の攻撃を止めていたので問題は顕在化しなかった。しかし、これからは相手の質が違う。しかも、両サイドバックの攻め上がりが攻撃の軸となるチームだけに、中盤の守備の一層の充実が必要だ。おそらく中盤後方は細貝が軸になるのだろうが、森重、本田拓、谷口とどのような併用を行い、消耗を防ぎつつ守備を固めるのだろうか。

 豪州、アルゼンチンを準備試合に招聘したのは大ヒットだろう。同等レベルの豪州戦(しかも初戦で闘う合衆国に比較的近いスタイル、もちろん合衆国のパス回しはより速く、一方で単純な強さは豪州の方が上だろうが)で見えた良さ、悪さが、最強国相手に再検定できる。
 アルゼンチン戦では、中盤で劣勢になるだろうが、どの程度の頻度でしっかりとした攻め込みができるか。その数少ない攻め込みから、攻め切る事ができるか。高速パスワークをどのくらい中盤で止める事ができるか。こぼれ球をどの程度拾う事ができるか。最前線勝負となった時に、当方のセンタバックは強力FWにどこまで抵抗できるか。

 少なくとも、五輪本大会前にベストメンバも固まりそうだし、4年前のアテネよりは状態よく大会を迎えられそうな気運になってきた。残り時間は短いが、反町監督得意の逆算に期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(8) | TrackBack(1) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
失点の場面だが、結果論からすれば100%吉田が悪い。
しかし、アノ場面、吉田は胸トラで水本にボールを繋ごうとした。
水本は、単にクリアだと思った。
ここが、4バックの吉田と基本3バックのストッパーの水本との連携の悪さだと思う。
あの時、吉田はボールを制圧しており、グランパスの4バックのCBなら
吉田の近くのスペースにいたと思う。
最終ラインからボールを繋ぐことが基本だから・・。
結論は、4バックでの水本+吉田のCBはかなり厳しい。
4バックなら吉田と青山が正しい選択だったと思う。
個人的には、水本の4バックでのCBはありえない。
まぁ、オリンピックでの相手関係を考えれば、
シンプルにクリアを心がけるのが賢明ではある・・。

Posted by 天邪鬼 at 2008年07月26日 18:56
あの水本が当たりにいくべきのコメントは相馬さんだったような…
Posted by at 2008年07月26日 19:34
吉田の胸パスがいいか悪いかはよく判りません。敵FWが詰めていたようにも思うので。

大きいのはその後、敵FWに2CBがひっついたことでしょう。吉田はスペースをカバーするべきだったと思います。水本のディレイは恐らくあの局面での常識。

そして「当たりに行くべきだった」と言ったのは相馬だったような気が。。。
Posted by serenista at 2008年07月26日 19:55
水本が上手くディレイしたというより、オーストラリアの選手にうまくタメを作られた、という風に見えた。
Posted by j at 2008年07月26日 20:15
>本田圭という選手はボールをさばく能力は疑いない

細かく動いてパスの中継点になる遠藤のような役回りとしては及第点でしたが、ロングパスの精度が酷かったですね。少しずれたといったレベルじゃなく、5m以上外れているのが8割はあったはず。香川が大きな展開でも高い精度を見せていたので余計目立ちました。もともと言われているほど上手い選手ではなかったですが、一昨年の夏頃をピークに徐々に下手になってる印象。クロスの精度や守備・フリーランの運動量を期待するより、スルーパスのセンス、抜けはしないがボールを運べる程度には上手いドリブル、そして速いモーションからの強烈なキック、これらを活かしてもっと早くこの試合のように右SHで使ってほしかったなぁなんて思いました。
Posted by at 2008年07月27日 02:36
あのコメントは相馬だったと思いますよ。
なぜあれが水本のせいになるのか、自分も???状態でしたが。
Posted by at 2008年07月27日 12:29
だからさ、水本はこの世代の代表の主力として、
高校時代から4バックライン(しかもCBでもSBでも)で中心的な活躍をしているわけで、
その選手をたかだか移籍先の数試合でダメだったということをもって、
「4バックは無理」とかいうナンセンスな人がいるのはいったい何なんでしょうね。
ついでに、その移籍先のまた移籍先では加入後すぐに4バックこなしてますしねえ。
普通に考えれば、「前所属クラブとはちょっと合わなかった」
という結論に達しそうなもんですが。
Posted by at 2008年07月28日 02:22
上の人達が指摘しているように、例のコメントをしたのは相馬です。
でも、選手キャリアの大半を鹿島で過ごした相馬があのように言うことは、全く問題も矛盾ないと思います。
そもそも鹿島のサッカーは大昔から…

1) 守備が薄い時に危険なカウンターを受けそうになったら、ファウルしてもいいからさっさと敵を潰す。
2) レフェリーに、自分が悪いことを百も承知の上で、「えー、今のがなんでファウルなんだよ!」と、カードをもらわない程度に悪態をついて時間を稼ぎながら、味方の戻りを待つ。
3) ドン引きでがっちり守って、ボールを奪う。
4) 縦ポンで相手でのラインを押し戻し、展開を振り出しに戻す。

…とまあ、こんな感じですから。
鹿島は殆ど十余年間、延々とこの『守備文化』を徹底し続けて、Jリーグ1のタイトルホルダーになったのです。
発言内容の正否はともかく、相馬が水本を叱咤したのは当然でしょう。
Posted by at 2008年07月28日 13:17
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Tracked: 2008-07-27 20:30