序盤から大野と永里のフォアチェックで中国の起点を押し下げフィードの精度を落とし、澤と阪口がその不正確なフィードを受けようとする敵MFを見事に刈り取る。池田と岩清水のCBはコースの読みは抜群。上背で勝る敵選手よりも格段に適切な位置取りで、再三インタセプトに成功するのみならず、空中戦でも完勝。宮間と矢野(柳田)、大野と近賀の両翼は抜群の運動量でサイドで数的優位を作り、中盤で優位に立つと、精度の高いパスを前線に。これを受けた2トップは動き出しの早さと瞬発力の速さで好機を次々に演出する。
ここまでサッカーの質、技巧と判断力で圧倒しても、いわゆるフィジカルの差は大きかった。崩し切れない場面も多かったし、最後の場面でバランスを崩し弱々しいシュートしか打てない場面も再三。また、不正確なパスで攻め込まれたにもかかわらず、強引に持ち込まれCKを与え、ヒヤリとする場面もあった。
それでも、宮間の高精度CKと澤の見事な間合いと位置取りによるヘディングで先制。終盤には、根負けした中国DF陣を、大野と永里が脚力で切り裂いてトドメを刺した。
アジアで、北朝鮮、中国の強いフィジカルに勝つ事が非常に難しかったのは、ほんの1、2年前の事だったのだ。その僅かな過去が隔世の感を思わせる完勝。澤、池田らのベテランを軸に組織的な攻守のレベルが上がったのみならず、宮間、岩清水のような「個」に優れた若手を組み合わせた佐々木監督の手腕は高く評価されるべきだろう。
巷では今回の女子代表は「戦う姿勢」を評価する向きが多いようだが、私はそれ以上に各選手の相互を信頼した連動と、都度見せる判断力の的確さに感心している。あそこまで、全員が意思統一され適切なプレイを継続しているのだから、なるほど強いはずだ。これだけ相互理解が充実したチームと言うのは、欧州や南米の男のチームを含めそうは見られないように思える。
そして、ここまで見事なサッカーを見せてくれているチームなのだ、もっと具体的な成果であるメダルを、それも可能ならば金メダルを取って欲しいではないか。それだけの戦闘能力は十二分に持っている選手たちなのだから。
ここ数年の女子サッカーの右肩上がりは素晴らしいものがあるし、前回、今回の五輪での女子代表の奮闘などもあり、サッカーを志す少女が増加し、一層の強化が図れる可能性は低くないだろう。しかし、だからと言って澤穂希のようなタレントがそう出てくるかどうかはわからない。これだけの好チームなのだ、澤を軸にした今回のチームの良さを存分に発揮し、何としてでもメダルを取って欲しい。繰り返すが、このチームは十二分にその権利を持っている。
準決勝は1次リーグで完敗した合衆国。中国とは異なり大変な難敵だ。技巧は互角、フィジカルは劣勢、判断力は優勢と言うところか。そして、過去の試合では、体力差をどうしてもカバーできずに勝てずに来た訳だ。そして、今回初勝利を挙げられるかどうかのポイントは、そのフィジカル差を打ち破り、いかに攻め切って点を取れるかどうかだと思う。そのためには2つポイントがあると思う。
1つ目は先日のニュージーランド戦でも述べたセンタリングの問題。日本が稠密に攻撃を組み立てるためには、両翼に早く展開するのが重要なのだが、一方でセンタリングの弱さは結構な課題。せっかく両翼に展開してもそこから崩し切れないケースがこれまでも多かった。逆に1次リーグで合衆国に食らった失点は、左サイドをえぐられ角度が深く強いセンタリングからのものだった。あのようなボールを蹴る事ができるフィジカルを持つ選手は日本女子にはまだいない。しかし、強いセンタリングを上げると言う意識を持って、最後まで集中を継続する事は可能なはずだ。その集中が勝負を分けるのではないか。
2つ目。中国戦での不満は、各位がミドルシュートを狙った際に、GKのファンブルを期待して詰める選手がほとんどいなかった事。あれだけ動いた大野と永里に酷な要求なのはわかっているが、それでもお互いが(あるいは他の選手が)ミドルを狙った時は、必ず詰めて欲しい。残る2試合180分間(いや240分間かもしれないが)で、その詰めが歓喜を呼ぶ可能性は決して低くないと思うのだが。
ついでに戯言。多くの報道に「ここまで来たのだから『勝たせてやりたい』」と、彼女達に非常に失礼な表現が見受けられる。そうではないよね。彼女達は「勝ってくれる」のだ。
奮えるような好ゲーム。
胸を焦がすような白熱した戦いを期待!
彼女達が、輝くメダルをさげて帰国してくるのを待ってます!!!!!