2008年11月02日

ブラジルの奥深さを堪能

 昨シーズン経営破綻から、創立以来初めて2部リーグに陥落したコリンチャンスは、圧倒的な強さで2部リーグを独走、前節敵地の試合に勝利し1部復帰を決めたと言う。そして、1部昇格決定後に初めてホームのパカエンブー競技場で行う試合が、この日のパラナ戦だった。そのために、ただでさえ熱狂的なこのブラジル屈指の人気クラブのホームスタジアムは、いつになく盛り上がる事が期待されていた。
 サンパウロ中心にあるパカエンブー競技場に入場したのは試合開始の1時間ちょっと前だった。ピッチ上ではコリンチャンズOBチームが試合をしている。案内してくれた現地の知人が、あの8番はコロンビア代表のフレディ・リンコン(彼は「ヒンコン」と発音した、ブラジルでは「R」の音を「ハ」行の音で読む、たとえばこのクラブの歴史的名選手は「ヒベリーノ」と発音されるのだ)と教えてくれた。何と、98年フランスワールドカップ以来の再会ではないか。そして、さらに8年遡ったイタリアワールドカップの1次リーグ西ドイツ戦、2次トーナメント進出を決めたロスタイムの同点弾を思い出した。
 メインスタンドほぼ中央中段あたりに席を確保、ピッチの外側にかつて細いながらもトラックがあったような痕跡があるが、現在は完全な専用競技場だ。スタンドの傾斜も急で非常に見やすい競技場。面白いのはメインから見て左手のゴール裏はトラック跡に合わせて扇形のスタンドになっているのに対し、右側は直線的なスタンド。そしてそのそれぞれにいわゆる熱狂的なサポータグループが分散していた。この時間帯はまだ入場しないサポータも多いらしく、競技場外から爆竹の連続音が響くなど、異様な雰囲気が漂ってきて愉しい。ここでかつてリベリーノが魔術のようなプレイを次々に見せていたのかと思うと感慨深い。いやリベリーノと一緒にプレイしていたと言う日系人選手にも思いをはせたりして。
 試合開始前30分あたりに、僅かながらパラナサポータも入場。このあたりから、両ゴール裏の応援が響き始める。太鼓によるサンバのリズムをバックに、大音響のコールや歌が響き渡る。熱狂的なのは当然ながらゴール裏なのだが、ゴール裏から始まった応援は一気に競技場全体に広がる。最も頻度が多い「おー、こりにゃー、ぼーとー」と聞こえるコールは、日本語にすると「コリンチャンズ復活」と言う意味らしい。

 面白いのは両チームとも、3DFで比較的浅いラインを作りかつDFを余らせる守備体系を取っていた事。最前線からのプレスも中々激しく、それを各選手が技巧でかわしながら丹念につなぐのだが、このあたりの技巧の冴えはさすがブラジル。人が余っている分、DFがドリブルで攻め上がる事も多く、攻守の切替はとても速い。2部リーグながら、非常にレベルの高い試合だ。
 そしてコリンチャンスは個人能力の高い選手も多い。アルゼンチン人のエレーラは頑健なストライカ、主に左から技巧的なドリブルで仕掛けるデンチーニョはまだ19歳だと言う。この2トップ後方の古典的な司令塔のドグラスは身体の向きと異なる角度をつけたパスが得意、さらに後方から右サイドに進出するエリアスが変化をつける。最後尾の主将シカンは読みのよさも、攻撃参加のうまさも圧巻。そしてこれらの選手が執拗に上下動する事でパラナの執拗な守備を引き剥がす。
 前半半ばからドグラスを軸にペースを掴んだコリンチャンス。21分には左サイドでデンチーニョが縦への抜け出しを狙い敵DFを1度下げてから、後方から前進したシカンに戻し、シカンはデンチーニョの突破狙いによりペナルティエリア外ほぼ中央でフリーになったドグラスへ好パス。ドグラスは慌ててチェックに来た敵DFをスクリーンしつつ見事な回転から右サイドのオープンスペースに流し込み、後方から長駆前進したエリアスがフリーで強シュートを放った攻撃は見事だった。そして、前半終了間際、デンチーニョが引いて最前線に張っていたドグラスが巧く後方に引きながらフィードを受けて回転、後方から進出しドグラスを追い越したエリアスにピタリと合わせ、さらにエリアスは見事なスルーパスを走りこむデンチーニョに通す。デンチーニョは正確なトラップ後ドリブルで勝負、GKを抜こうとして引っ掛けられてPKを獲得。主将のシカンが決め、コリンチャンスは理想的な時間帯に先制した。

 後半に入り勢いにのるコリンチャンスはさらに攻勢を取ろうとする。ところが少々調子に乗り過ぎたか、パラナに見事な逆襲から同点弾を食らってしまう。左サイドでデンチーニョが仕掛けたところ敵DFと交錯しボールを奪われるが、主審はファウルを取らず。そこからそのまま左サイドから逆に仕掛けられ、中央で技巧的なMFのジュリアーノがトリッキーなプレイでコリンチャンスDF2人を外す仕掛けから、最後は右サイドでトップのリカルジーニョ(現地読みだとヒカルジーニョ)が余り強シュート。GKフェリペが好捕するも、こぼれ球を走りこんだ左アウトサイドのファビーニョが決められた。
 この失点はコリンチャンスにとって相当衝撃だった模様で、直後に決定機を許すが、やや不可解なオフサイド判定で救われるなど、明らかにこの直後の時間帯は守備ラインがおかしくなった。ところが、ここでパラナのエースのリカルジーニョが、巧く抜け出した場面でアプローチしてきたシカンにスクリーンプレイをする振りから、明らかに意図的なファウルで一発退場になってしまう。少々厳し過ぎる判定だったが、見ていても非常に汚いプレイ。何を考えてのラフプレイだったのか。
 これでパラナは敵地同点で10人。後方を分厚くして守ろうと言う策に出た。対するコリンチャンスは、FWのベベトを投入し3トップで押し込む。そして17分、パラナが後方に引く事でできたため、完全にチェックの甘くなった事を利用し、シカンがドリブルで前線に進出。最後尾の選手の前進ゆえ、対応者が決められなかったパラナDFに対し、シカンはハーフウェイラインを15m越えたあたりの右サイドから全くのフリーで、カーブがかり狙い済ましたクロスを送る。クロスは走りこんだベベトを越え、さらに大外から飛び込んだデンチーニョにピタリ、前途有為な若者は角度のない所から見事なボレーを決めた。
 以降は完全にコリンチャンスペース。3点目が入ってもおかしくない展開ながら、パラナもよく粘り2−1のまま試合は進む。終盤、パラナはFWを増やし攻勢を取る時間帯もあったが、そのままコリンチャンスが逃げ切った。

 かつてリベリーノやソクラテスで世界を席捲した名門クラブは、2部に落ちてもブラジル最高の人気を誇る。その熱狂的なサポータ達の応援をバックにした上記の名手達のプレイを存分に堪能した。
 世界中に選手を輸出し、それでもなおこれだけの好選手を2部リーグに抱えるブラジルサッカーの奥深さ。その奥深さを僅かながらにも実感できた一日だった。
posted by 武藤文雄 at 11:11| Comment(8) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ていうか,逃げてない?w
Posted by at 2008年11月02日 22:15
お仕事はブラジルでしたか。本場のスタジアムを堪能されたようで羨ましい。ビッグゲームではない普通の試合の方が、その国の水準が感じられる気がしますね。
リンコンの同点弾、先制ゴールはリトバルスキーでしたね。懐かしい。
Posted by 念仏の鉄 at 2008年11月03日 08:09
イルクナーの股間!
Posted by R at 2008年11月03日 10:54
せっかく首都圏にベガルタがやってきた時にお仕事とはお気の毒さまです。もっとも、さすがに南米出張はご堪能のようですが(笑)。
これからいよいよ日本の2部リーグも胸突き八丁です。帰国後の講釈、楽しみにしております。
そうそう、先日フジテレビ739でやってた女子U-17、なんだかイケイケで楽しいサッカーやってました。こちらももし機会がありましたら。
Posted by かわうそさん at 2008年11月03日 19:05
関心度

ブラジル国内リーグ>>>日本代表

ということでFA?
Posted by at 2008年11月04日 11:07
これだけの名手が現地には埋もれてるんですから、中東も手間を惜しまず自分達で選手探して欲しいですねw
Posted by さざなみ at 2008年11月04日 18:19
石油が枯渇しない限り無理かも
Posted by at 2008年11月06日 21:53
ブラジルはどんなチームでも飛びぬけた選手はいますよね。

私が観戦した時はサンパウリーノに襲撃されましたけど、大丈夫でしたか?
Posted by Motti at 2008年11月08日 15:51
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