未曾有の不況に面している世界経済の悪影響が、サッカー界にも迫ろうとしている現状だが、それはそれとして受け止めるしかないので、敢えてこの10大ニュースからは外した。
時代は劇的に変わりそうな節目で、2009年は日本のサッカー界も世界のサッカー界も、「決して楽ではない年」になるかもしれない。しかし、何が起こっても、サッカーの美しさは変わらないはずだ
この1年間も、この偏見あふれるサッカー講釈にお付き合いいただき、ありがとうございます。こうやって、不平不満の愚痴と、素晴らしいプレイに感嘆と、クドクドと講釈を垂れる事が愉しいのです。来年も懲りずに、好き勝手な事を語り続けるつもりです。
それではよい年をお迎えください。
1.危機的状況にある日本協会
犬飼会長云々は別項として。会長の問題以前に、日本協会の当事者能力欠如がいよいよ深刻になってきた。もはやトップの資質、能力ではなく、組織として真っ当な対応ができなくなっているのだ。
具体的に問題を列記する。いくつかはJリーグの問題だが、Jリーグ当局の当事者能力に問題があるならば、日本協会が決然とした対応をすればよいのだから。
ドーピング濡れ衣問題。第3者期間から完全に「シロ」の判断が下ったのだから、単なる濡れ衣だったのだが、その後の処理、対応の拙さは眼を覆うばかりのものがある。このような不適切な対応で失う「信用」がどんなに痛いかわかっていないのだろうか。
スタジアム暴力事件対応。過日の帳尻合わせ的な対処の発表を含め、極めて深刻な問題を深刻に捉えられない見識の無さ。取り返しがつかなくなってからでは遅い事がどうしてわからないのか。
敵地オマーン戦のキックオフ時間。テレビ局には彼らの都合があり、勝手な要求をしてくるのは仕方が無い。しかし、許容できない事はサッカー側が拒絶しなければならないのだ。
これらは川淵前会長の「錯綜する問題に対する解決能力欠如」が要因であろう。しかし、こう言った問題を、上司の顔を立てながら解決する事がそれほど難しいとは思えない。日本協会の有償スタッフの方々には、誇りを持って「愛するサッカーのために」問題解決に励んでいただきたいのだ。
2.日本代表への異様なバッシング
マスコミやネット世論から代表チームに対して異様なバッシングが行われた1年だった。
既に破綻しきっている現状の日程下において、クラブと代表強化のバッティングは避けられない。そのためクラブのサポータが「代表などどうでもよいから、自クラブのために時間を割いてくれ」と願うのも仕方がないだろう。オシム氏と言う誰からも尊敬され求心力ある監督を失った事もあろうし、川淵ジーコ時代のヘタクソなマーケティング活動の失敗が代表チームに対する尊敬の念を失わせてしまった事もあろう。
しかし、一部のマスコミの戦評は「日本代表は準備段階で一切クラブチームに迷惑をかけずに、敵地だろうが灼熱下だろうがどのような敵に対しても、発展性のある攻撃的サッカーで圧倒する義務がある」ような論調だ。3月の敵地バーレーン戦のように無様な試合があったのも確かだが、少々出来が悪いと「(勝ち点勘定など忘れたように)ワールドカップには出場できないのではないか」と評され、出来のよい試合で勝つと「アジアで勝てても世界では勝てない」と評される。厳しい評価があってもよいし、挙国一致で全員が応援する必要もないのは確かだ。けれども、代表で戦っている選手は、岡田監督以下、名誉のために真摯に戦っている。その彼らが尊敬の目線で語られないのは異常な事態だし、日本サッカーの将来にとってもよい事ではない。
もっとも、岡田氏率いる代表チームは、現実的には的確に予選を戦い、過去最高の選手層で着実に強化されている。こちらの現場は2009年、2010年に向けて状況は明るく、今までにないスケールの大きな代表チームが期待できそうなのだが。
3.ワールドユース出場失敗
大変残念。しかし、ここまでの連続出場そのものが見事だったのであり、負けた事は仕方がない。ワールドカップ予選に負けた訳でもないのだし。重要な事はいかに反省し次に備えるかであろう。
心配なのは、日本協会の強化筋から「強烈な反省」が聞こえてこない事。たまたま昨日の読売新聞に布氏の発言が掲載されていた(高校サッカー展望を兼ねて)が、相変わらず「日本は個が弱い」と言う抽象的内容。だいたい、A代表を見ていても、他のアジア諸国に中澤、遠藤、中村俊輔より「個」が優れた選手には、ほとんどお目にかかれないのだが、具体的に「日本選手の何が『個』で劣っているのか」語ってくれないものか。
4.ガンバアジア制覇
と言う事で、圧倒的な「個」の強さを前面に出した見事な攻撃的サッカーでガンバがアジアを制覇した。さらに拡大トヨタカップでも見事なサッカーを披露。
遠藤は世界でも通用する能力を見せ、実質的にアジア最高の選手と評されるに至った。
西野監督については、書かなければなりませんね。
5.トリニータナビスコ制覇
トリニータと言う地方クラブ、それも事実上Jリーグ開幕以降に作られたクラブが、ビッグタイトルを獲得した事は、今期の日本サッカーの充実を示す大ニュースだ。優秀な監督を招聘し、若手育成を重視し、丹念にスポンサを集める。日本中のサッカークラブが目標とすべき1つの理想だろう。
6.モンテディオJ1昇格
ヴァンフォーレ、横浜FCと、必ずしも財政規模の大きくないクラブがJ1に昇格した事例はあった。しかし山形は、甲府と異なり必ずしもサッカーが盛んな土壌はなく、横浜と異なり首都圏でないため選手やスポンサの獲得は容易ではない。そのモンテディオがJ1に昇格したのは素晴らしい事だ。本当に羨ましい。
また、小林伸二監督はこのJ1昇格で、岡田武史氏、西野朗氏に匹敵する実績を挙げたと言っても過言ではない。
7.反町氏の五輪大失敗と颯爽たる女子代表
アルビレックス監督として秀でた成果を挙げた反町氏。大いなる期待を受けて五輪代表監督に就任し、ただの1度も見事な試合を見せず敗戦。もちろんオーバエージを選ばないなど、日本協会の真剣でない姿勢が最大の問題だったのだが、それを甘んじて受け入れチームを活性化できなかった反町氏の責任は重い。あのアルビレックス時代の見事さと、五輪代表時代の無様さの対比は何なのだろうか。そして、これだけの実績がある若手日本人監督が成果を発揮できなかった事実は、日本サッカー界にとって極めて深刻に捉えるべき問題に思える。その反町氏はJ1昇格を狙うベルマーレ監督に就任、監督として「最後のチャンス」に賭けるのだが。
一方の女子代表。名将中の名将古沼先生の最高の弟子とも言える佐々木監督の下、颯爽たるサッカーを見せた。この女子の颯爽さと、男の無様さの対比にも考えさせられる。
「日本人監督ではダメだ」とか「恵まれない環境で戦うLリーグ戦士達」と、安易な議論では語り尽くせない問題に思う。
8.異様な中国代表
隣にいるのだから試合をしない訳にはいかない。しかし「敵を蹴ってはいけない」と言うルールを知らない国とは戦いたくない。
9.無知な新会長の暴言連発
サッカーに関する知識と理解の欠如は明らかなのだから、発言はうるさいだけだ。就任数ヶ月で、発言を面白おかしく記事にするマスコミ以外は(協会関係者を含め)誰も相手にしなくなっているようだが。
10.長沼元会長逝去
サッカー界の皆が世界を目指そうとした成長期の卓越したリーダの死。
サッカー人の利害、目標が一致しなくなりつつある難しい時代になりつつある今、サッカーの将来を真摯に考える事が、長沼氏への感謝となるのだろう。
それにしても、長沼批判を口泡飛ばして語っていた時代は幸せだったのだなと。
2008年12月31日
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本稿10大ニュースに「ヤマハスタジアムでの落涙」があるはず…と思い読み進めましたがありません。
何も成し得なかった一クラブを、全体を俯瞰する稿で取り上げるのも、確かに良くない、うん、そうあるべきだ
と、納得してさらに下段へスクロールしましたら、
前項に松浦の名が。
その意、嬉しく思います。
本年もどうぞ、意に任せた講釈の数々、期待しております。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
さてそのベガルタですが、契約更改で主力がほとんど残りましたね。個人的には粱、関口、菅井、(千葉)直樹さんの全員が残る(現役を続ける)とは思ってなかったので、うれしい驚きです。外国人がそろったらまた来季へ向けての講釈お願いします。
まあ、その前に天皇杯&選手権がありますが。
「五輪サッカーは23歳以下の若手に経験をつませる積ませるための大会であり、ワールドユースの延長上に位置する」という日本での考え方が通用しなくなっているのではないでしょうか。アルゼンチンがリケルメ出してきてるのに日本がフル代表経験者ほとんどなしじゃ、最初から勝負にならないわけで。
過日、Numberに「今のプロテニス選手にとって五輪は生まれたときからプロが参加する大会であり、従って昔と違って五輪をグランドスラム大会と同格に位置づける選手が多い」といった論旨のコラムが載りまして、テニスと同時期にプロ解禁となったサッカーでも同様の変化が起きても不思議ではないわけです。FIFAやIOCの思惑とは別に、選手の意識の変化としてね。
昔ならメッシクラスの選手が五輪に出るなんて考えられなかったわけですが平然と出てくる。アルゼンチン協会のオファーがあったからってメッシ本人に出る意思がなければ召集できない(いくらでもズル休みする口実はつけられる)わけで、メッシ本人にとって五輪に出るのは自然な選択になってきている。
サッカーの大会としては日程に問題がありすぎてW杯と同格にはなってないでしょうが、昔に比べれば格差は縮まっている。最早、サッカーネーションが本気でタイトルを狙いにくる価値のある大会です。少なくとも、コンフェデ杯よりは格が上でしょう。そこに「五輪はアマの出る格下の大会」なんて意識の監督が率いるチームが出てきたら、試合にならない。そういうことじゃないかと。
もちろん、必ずしも反町監督個人の問題じゃなくて、サッカー界全体の問題でしょう。JFAの覚悟もいい加減なものだったし、武藤さんの論調だって「五輪は経験を積む場」という前提の下にロジックを組み立ててたでしょ?それじゃ、経験をつむことすら許されないほど本気度の高い大会になってしまった。次の五輪代表の監督はプル代表監督が兼任することになりそうですが、今回の反省を踏まえた上での当然の処置じゃないかと思います。
「ジーコは自由なサッカーを目指している」「ジーコは日本には早すぎた」etc
この手の論調を、(武藤氏も含めて)きちんと批判できないサッカーライタたちも問題ではないでしょうか?
>6.モンテディオJ1昇格
山形の、あやしい「フルモデルチェンジ構想」について、隣県クラブのサポータとしてのご意見を拝聴したいです。
「東北ダービー」という日本のサッカー文化にも及んでくる問題ですし。
>4.ガンバアジア制覇
2008年、ガンバはすごかったですね。
ACLを制覇し、マンU相手に劣勢ながらも攻撃をし続けたガンバ。
その姿勢に、感動をも覚えました。
話は変わりますが、10大ニュースに「鹿島のJ12連覇」、「ジェフ千葉の奇跡の残留」が載ってなかったのがちょっと寂しかったです。
まぁ、他の方が「濃い」というのもあるんでしょうけれど。
鹿島とジェフはお約束ですからねぇ。
西野さんについては是非書いていただきたいと期待しております。
自分は、どうしても、西野さんと現代表監督と比較してしまいます。岡田さんとは違うサッカーを目指して来たためか、守備と攻撃のバランスを取るのが難しくて、安定した勝率を残せなかった印象を持っています。リアリティーに欠ける監督だと思ったこともあります。それでも、長期に渡ってクラブの監督を務める中で、西野さんは少しづつ変わっていったような気がします。そして、現在のガンバのような中盤で戦うチームを作り上げました。
これまで日本人監督が作るチームの中盤は、守備的な選手と攻撃的な選手が分かれているか、でなければ全員でプレスを掛けてショートカウンター、という型が多かったと思うのですが、ガンバの中盤はもっと流動性が高いのではないでしょうか。素人の私には、うまい表現ができないのですが。ちょっと欧州テイストだな、と感じるのです。
かつて、名波を中心にジュビロが攻守に優れた流動性の高い中盤で戦うサッカーをしましたが、そのサッカーは名波の衰えと共に消えてしまいました。西野さんの次のチャレンジは、2年後ぐらい後に訪れるのでしょうか。
一番顕著なのは「頭が悪い」って点ではないかと。
指導者も含めて。