2009年01月12日

大迫勇也への期待

 実は新年早々、本業都合で隣のサッカー弱小国に滞在しており、この週末に帰国した次第。結果的に高校選手権は、序盤の幾試合をと今日の決勝をTV観戦したのみとなった。
 で、決勝戦。大迫勇也は、なるほど中々のストライカ振り。先制点、ペナルティエリアの中であれだけの敵DFに囲まれて、細かく修正を繰り返してシュートに持ち込んでしまった。何と言うボディバランスだろうか。2点目では、大迫がボールを持つだけで、位置取りのバランスのよい広島皆実の守備がズレてしまった。ここまでの試合の得点振りを含め、とにかくペナルティエリア近くで前を向くだけで、大変な脅威となる。これは「逸材」と呼んで間違いないだろう
 しかし言い換えれば、守る方としては「大迫がペナルティエリア近くで前を向く」状況を作らなければよい事になる。皆実は3点目で突き放した以降、見事な組織守備でこれに成功した。これ以降、大迫が低いボールをしっかり収める事ができた場面は、左サイドからドリブルシュートを狙いGKに候補された1回だけだった。終盤、うまくつなげなくなった鹿児島城西の後方の選手達は、皆実の注文にはまりロングボールを蹴り続け、大迫に的確なボールを提供できずタイムアップを迎えた。
 皆実の試合は、1回戦の帝京戦を見た。(少々厳し過ぎる判定に思えたが)前半にDF崎原が退場になりながらも、整然とした組織守備とカウンタアタックを見せPK戦で振り切った試合だ。その後も、僅か1失点で決勝まで進出した皆実だが、いかにも高校選手権で上位に残るチームらしい組織守備がいいチームだった。他のチームがやろうとしてできなかった「大迫によい体勢で持たせない」事に、ほとんど成功したのだから、日本一の資格は十分と言えるだろう。
 一方で、ここまで猛威を振るい、見事なボディバランスを見せた大迫への期待は大きい。現状のレベルではボディバランスの良さで持ち出せてしまうが、より厳しいJの守備者を相手にした際に、自分の得意なシュートポイントにボールを止める事ができるかどうかが鍵になると思う。愉しみな逸材だ。

 サポティスタ経由で発見したのだが、高校選手権の得点王があまり大成していないと言う論評がある。平成になって以降20年間の大会の得点王をリストにしてくれたものだ。これは中々面白い視点だと思う。過去を振り返り個人的にも、西田、吉原、北嶋、林、大久保、そして平山には、結構な期待をした事を思い出した。いや、昨年の大前も忘れ難いタレントだ。彼らの「的中率」が高いのか、低いのかは何とも言い難い。大久保まで行けば、多くの方が合格点をつけるだろうが(この男には別な意味での不満山積なのだが、とにかくドイツで頑張れ、期待してるぞ)、吉原や林の実績をどう評価するかは微妙なところかもしれない。
 ただ、代表に完全に定着するレベルの選手は、せいぜい1学年で数人と言う事を考えると、こんなものではないかと言う気もしてくる。だいたいトーナメントの全国選手権で得点王になるためには、本人の実力と運に加え、チームメートにも、(監督を含めた指導陣にも)恵まれる必要もある。ただでさえ、代表に定着するストライカが少ないのが悩みの我が国にあって、1年間に数人の「本当の逸材」が、前線のポジションの選手で、トーナメント方式の大会の得点王まで取ってしまう確率は低くてもおかしくはなかろう。このようなトーナメントの連戦では、必ずしも「抜群の素質の選手」を抱えているチームが勝ち抜くとは限らないのだし。
 ただし、将来大成し代表に定着したようなストライカは、得点王に至らずとも高校時代から高名だった事例は多いのも確か。釜本、松永、永井、碓井、水沼、武田、中山、柳沢あたりは、高校選手権でも「スーパー」だった。また、奥寺、柱谷兄、福田、高木、西澤、高原、玉田、田中達也のようにそれなりにユース時代に知られながらも選手権運に恵まれなかったタレント、一方で松浦、原、鈴木、久保、巻のようにユース時点ではほとんど目立たなかったタレントもいる。言い換えれば、この時点では「何もわからない」のだ(戸塚、カズ、寿人のように「選手権とは別ルート」を歩んだタレントもいる、これらの「別ルート」のタレント数が多いか少ないかは別な議論として)。
 とは言え、上記の高校選手権で「スーパー」だったタレント達を見れば、私はやはり大迫には期待したくなる。優秀なストライカの素材ならば、高校選手権でボカスカ点を取って悪い事はないのだ。

 むしろ、「大迫大丈夫か」議論は、
(1)テレビ局をはじめとするマスコミがキンキンと過剰に大騒ぎする事
(2)誰もが「これはイケル!」と期待した平山の伸び悩み
(3)クラブユースなどとの比較から、高校選手権そのもの地盤低下
などが錯綜しているのかもしれない。それぞれは、個別に議論すべき事だと思うので、別途機会を見て。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(3) | TrackBack(5) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 しかし、18にもなれば、欧州、南米ではトップリーグにスタメンで出てる選手も多数いるわけで。
Posted by at 2009年01月17日 13:07
高校生特別指定、ユースからの卒業前の引き上げもありますが、

本人の人生設計とも関わってきますよね。

大迫君のシュートのうまさ、ゴール前のセンスには期待したいです。
Posted by KOHJI at 2009年01月17日 16:36
(3)が大きい気がします。「選手権での活躍度は小倉・城・柳沢等と比べて劣りはしない。しかしその選手権自体が、今はどうなんだ?」と。

平山に関しては、周りがもっとフォローしてやるべきだと思います。特別扱いしてでもなんとか伸ばしたい才能であって、彼を預かるJクラブや監督は、チームの勝利やタイトルよりも、平山をストライカーとして成長させることに心血を注がなくちゃいけない。平山を預かるからにはそれだけの責任があると思う。
北京反町さんにしたって、結局気に入らないのはそこでした。誰が監督やってもどんな選手を連れてったとしても常識的に考えて3試合で終わる展開が予想される中、メダル云々とか誇大なアドバルーンではなく、平山という日本サッカー史上においても非常に希有な才能に経験を積ませること、そこを第一としてほしかった。
平山はもう終わっただなんて言わずに、今からでも遅くない、ムービングなんちゃらなんてのは平山のいないとこでやってくれ、とは思うんですがね…。
Posted by ゆう at 2009年01月18日 07:30
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