2009年02月01日

バクスター氏に学ぶ

 拙宅から自転車で15分の平塚競技場にヤン・リトマネン襲来との事だったが、坊主の試合とバッティングと言う事で回避、その代わり自己啓発に励もうとこちらを選択する事にした。
 ベルマーレは昨年より、若年層の育成と地域における普及を統合して活動している。その具体活動として「ベルマーレフットボールアカデミーカンファレンス」を行っており、今回はその第2回。第1回としてこのような活動が行われたと言う。第1回も参加したかったのだが都合がつかなかった。この報告におけるベルマーレのチョウキジェユース監督(当時、現トップチームコーチ)のコメント
Jのクラブとして初の試みではないでしょうか。今後サッカーがどんなに進化しても、闘う気持ちだけは変わらず大切だと思います。今日は多くの指導者の方々と交流するよい機会となりました。これからもこうした取り組みを続け、サッカーを通じて人間力を育んでいきたいと思います
にあるように、我々底辺指導者と地域のトップクラブが情報交換する機会を設けようとする発想はすばらしいと思う。他のJクラブにも非常に参考になる活動ではなかろうか。
 過去も再三述べているように、ベガルタサポータの私だが居住地はベルマーレホームタウンの一角。少年の指導をしているのだから、当然出席資格はあるのじゃ。
 そして今回は、何とバクスター氏の講演会と言うのだから、ベルマーレの企画力も何とも見事なものだ。

 入場すると、浅野哲也氏(現ベルマーレユース監督、グランパス、レッズで活躍した日本代表選手、オフト氏就任直後はレギュラだったのだが、92年アジアカップ直前に負傷し離脱、あの負傷がなければドーハで我々は異なる歴史を味わったのかもしれない)が「ご苦労様です」と挨拶してくれて気持ちいい。さすがにこれだけのイベントゆえ100人を超える出席者、いかにもサッカー指導者と言う風情のジャージ姿のオジサン達も皆浮き浮きしている。開始直前にかの男が地味に入場してくる。当然ながらも出席していると思ったのだが発見できなかった。いなかった訳はないと思うのだが。きっとサングラスをかけて隅っこに座っていたのだろう。
 真壁社長が冒頭の挨拶で、アカデミー活動の説明、バクスター氏の紹介を行う。そして最後に「南アフリカで、フィンランドと日本、ベルマーレのサッカーファミリーの再会を」と付け加える。さすがだな。
 「通訳はどこかで見た事がある人だな」と思っていたら、最後に紹介があった。何と西野努氏ではないか。聞き取りづらいバクスター氏の英国英語を、実に見事なタイミングとサッカー用語で日本語化してくれた。

 内容は大きく2つに分けられていた。前半は昨年のユーロと欧州チャンピオンズリーグの統計からUEFAが分析した現代サッカーの分析。後半は日本が取るべきサッカースタイル。指導者向きとも言えるが、一般サッカー狂から見ても実に興味深いテーマだ。詳細はベルマーレ当局がまとめてくれるだろうから、興味を引いた部分の抜粋を。

 現代サッカーについて。
 上記2大会の得点のうち70%が「Transition」と「セットプレイ」によるもの。「Transition」をバクスター氏は「KIRIKAE」とはっきり日本語化してくれた。今までの感覚からすると「Transition」は「逆襲」とか「速攻」とか言い換えたくなるところだが、なるほど「KIRIKAE」はしっくりくるな。
 ちなみに上記2大会の得点でセットプレイによるものは23%と案外低い。過去8シーズンの欧州トップゲームの得点の40%がセットプレイだったのと比較すると、驚異的な低さだと言う。これは、「各チームの監督がセットプレイ対策を存分に行った」からであり、「小柄な選手が多い日本にとって勇気付けられる結果ではないか」と示唆してくれた。かの無様なバーレーン戦後に、豪州戦を(あるいはバクスター氏率いるフィンランド戦を)控える我々にも重要な見解だな。
 そして勝敗を分けるのは「KIRIKAE」直後の守備。ボールを奪われた直後に(1)奪われた選手がまず厳しく取り返しに行き(2)チーム全体が「KIRIKAE」てプレスし、敵の「KIRIKAE」スターの10番を押さえ(3)チーム全体が隊形を整え直し(4)敵の攻撃を遅らせる(そして、「すべきではないが」と前置きした上で「イタリア風のファウル」まで言及)と、具体的に説明してくれた。

 日本サッカーのあるべきスタイルについて。バクスター氏は、いきなり
「If you do not understand and respect your past then the present will always be confused and therefore no hope for the future」
と語ってくれた。武藤風の意訳では
「自分達の過去を理解し尊重できなければ、現在は混迷し未来への希望はない」
と言うところか。サッカー界の昔話を自慢するのが大好きな私にとって、大変都合がよく、ありがたい意見だ。そして、いきなり宮本武蔵の五輪書にこそ、サッカーの真髄が述べられていると、話は吹っ飛んでいった。「地」は基本、「水」は鍛錬、「火」は戦い、「風」は伝統、「空」は「地水火風がなければ空になる」のだそうだ。そこから、見事にサッカー用語への展開がなされるのだが、このあたりの例えが抜群に面白く、完全に引き込まれてしまった。

 最後に質疑応答。この手の機会を図々しい私は逃さない。ちゃんと質問しました。
「子どもを指導していて、運動神経のあまりない子は上達にすごく時間がかかる。そのような子どもの意欲をどう上げたらいいだろうか。」
 底辺指導者の私の質問を、西野努氏が通訳し、バクスター氏が真剣にうなずいてくれるだけで、結構な快感だ。そしてバクスター氏はうなずきながら答えてくれた。
「Very important question. We have lost a lot of players.」
面倒だから以降は日本語で。
「ついつい指導者は、チームの中でレベルの高い子との接触頻度が高くなる。そうではなくて力の落ちる子どもと共にできるだけ触れ合うべき。」
これは重要だよな。いつも、いつも気をつけているけれど、上手な子どもへの指導時間がどうしても長くなってしまう事を真摯に反省しよう。
「そのような子には、やる気が出る情報を提供すればいい、オーウェンやルーニーはなるほど子どもの頃から格段に能力が高かった。でもソル・キャンベルは全然違う。20歳くらいまで大変貧弱なフィジカル(「本当ですか」と言う突っ込みはなし)だったが、努力で強いフィジカルを作った。20歳くらいの時にキャンベルはFAに自ら電話してきて『身体を鍛えたから見てくれ』と言ったのだよ。」
 そこまで答えてくれたので、さらに突っ込みました。
「私の子ども達からすれば、オーウェンやルーニーよりも、ベルマーレの選手達なんです。是非ベルマーレで後から伸びてきた選手を教えてください。それが子ども達への最大の励ましです。」
 バクスター氏が、私の目を見てニヤリと笑った。
 ベルマーレ強化部長の大倉智氏が最後のまとめで答えてくれた。
「鎌田翔雅がそれに当たると思います。ジュニアの時代から能力は高かったのですが『背が小さく判断が悪い』と言う評価だったのですが、翔雅は努力でここまで上がってきました。」
 バクスターさん、大倉さん、ありがとう。これで来週から、子ども達に指導する材料は全部そろいましたよ。実際には、キャンベルも鎌田も、私の子ども達の一番優秀な奴よりも格段に能力が高いのはわかっている。でも、考え方はそれだ。来週から、もっと巧く子ども達と触れ合う事ができるような気がしてきた。

 実に勉強になる話を聞かせてくれたバクスター氏、見事な通訳をしてくれた西野氏、すばらしいイベントを提供してくれた(J1昇格のライバルでもある)ベルマーレ関係者に多謝。
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posted by 武藤文雄 at 23:44| Comment(5) | TrackBack(0) | 自己啓発 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
神戸サポからすれば涎のでる内容です。
Posted by r at 2009年02月02日 08:41
いらっしゃっていたのですね。
私は残念ながら試合だけだったのですが。

> 「If you do not understand and respect your past then the present will always be confused and therefore no hope for the future」

過去を否定すればそれで良いと思っている全員に10000回音読させたいですね^^;
Posted by 隊長@サッカー蟻地獄 at 2009年02月02日 17:55
すごい!まさに夢のあるお話です。

ちなみに「ヤリ・リトマネン襲来!」と聞いて、「ああ〜、リトマネンももう代表監督かコーチになったのね〜」とか思っていたら……選手じゃん!
うおー、明日はどんなプレーを見せてくれるのかぁ〜。動けるのかあ?うーん。うーん。
チャンピオンズリーグ優勝から14年ですぜ!
(思わず遠い目に……)
Posted by Dortmund06 at 2009年02月03日 17:14
ライカールトはCL優勝して引退だっけ?あの黄金メンバーはいまでも記憶にあるw

サル・ブリント・レイジーハ?・デブール兄弟・ダービッツ
リトマネン・Fジョージ・オーフェルマウス・カヌー・クライファート
Posted by TEN at 2009年02月03日 21:38
昔の記事に突然のコメントですみません。

宮本武蔵の『五輪書』をサッカー語に訳してみました。

もしよろしかったら、ご覧ください。
http://outsidervoice.com/gorinsho/
Posted by outsidervoice at 2012年05月31日 23:38
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