70年代半ば、正に彗星のように日本サッカー界に突然登場し、あっという間に消えていった永大産業と言うチームがあった。本書はその永大のマネージャを務めていた河口洋氏への取材を中心に、永大の太く短かった歴史をまとめたもの。
日本リーグ黎明期には、東洋工業(現サンフレッチェ)、三菱(現レッズ)、古河(現ジェフ)、日立(現レイソル)、八幡製鉄(後の新日鉄、現在の継承チームなし)、ヤンマー(現セレッソ)などが中核と言える存在だった。以降、次々と振興チームが参画してくる。藤和不動産(後のフジタ、現ベルマーレ)、読売(現ヴェルディ)、日産(現マリノス)、ヤマハ(現ジュビロ)等々。永大は藤和より後、読売より前に、JSL1部に昇格した位置づけになる。
永大は74−75年シーズンに創部以降実質僅か4年半(!)でJSL1部に昇格し、そのシーズンの天皇杯で決勝進出(決勝では、第2全盛期とも言える釜本を擁するヤンマーに惜敗)。3シーズンJSL1部を戦い、76−77年シーズンを最後に会社の業績不振で廃部となりサッカー界から去っていった。余談っぽい豆知識だが、かのセルジオ越後氏が現役引退をした後、唯一(コーチとして)トップの指導陣に直接加わったチームでもある。
その永大がどのように強化を行う事で、短期的に国内のトップリーグにまで参画し、天皇杯決勝を戦うまでに至ったか。本書はその辺りを丹念に記述している。
この本の読みどころは2つある。
1つ目。70年代の日本のトップレベルのサッカー界そのものを、巧みに裏面から描写している事。Jリーグより前のサッカー界が「前史」扱いされる事そのものは仕方がないだろう。けれども、その「前史」を巧みに切り出した文章の存在は非常に貴重なものである。こう言うと、当時「闘っていた」男達には大変失礼だろうが、何か牧歌的な雰囲気がする当時の息吹は、非常に愉しい。
いや「前史」と限定する事はもったいない。今日でさえ、トップレベルのサッカー界で戦う選手達の内実を正確に描写するテキストは、そう簡単には公開されない。30年経った今日だからこそ、公開する事が差し支えなくなった当時の実態を眺める事は、今日のサッカー界を考えたい人々への有効な材料となるのは間違いない。
2つ目。河口氏が極めて短い期間で、トップチームを作り上げるために行った施策(と言うより権謀術数(笑))の数々が愉しい。本書を読めば、日本サッカーには「マリーシアがない」と言った表面的な議論が、いかに浅薄なものかをよく理解できる。当時の日本協会首脳と氏の駆け引きの界隈の描写など(どこまで事実なのかは、その協会首脳が鬼籍に入っているため不明だが)、もう最高だ。30年以上前に、我がサッカー界に「夢」を実現するために、ありとあらゆる努力を尽くした先達が存在した事そのものが、我々サッカー人への最大の勇気となる。
本書は一昨年に出版されたもので、少々紹介の機を逸した感がある。しかし、上記した浅薄な議論が横行している現状を鑑み、敢えて紹介させていただく次第。
個人的に、私には本書にも登場する永大関係者が友人(友人と言うには失礼なサッカー人の大先輩なのだが)にいる。実際には本書では、河口氏に関する記述は相当美化されているとの事だ(本人への取材を主体にしているのは当然なのだが)。それに対してどうこう評価する事はできない。しかし、そう言ったインサイダ情報を持ちつつも、本書は「サッカーを心底愉しみたい」と言う人には絶対読んでいただきたい逸品である。
2009年02月21日
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でもまだ読んでません。。。
今は年末に発刊された東大90周年記念誌「闘魂」を読んでます!