大迫勇也のJ初得点(もっとも既にACLで既に2得点しているが)時の写真が掲載されている。その写真には大迫の美しいインステップキックのバックスイングが写っている。けれども、全く焦点は合っていない。焦点は、後方で大迫に対し両手を広げリターンパスを大声で要求している小笠原にピタリ。
あの場面、ペナルティエリア内で好パスを受けた大迫は、マークに付いていた羽生、カバーに入った佐原の2人を打ち破って(もちろん技巧でこの2人を「抜いた」のだが、そこでのボディバランスが絶妙だったので「抜いた」と言うよりは「打ち破る」と言う言葉を用いたい)、二アサイドに強シュートを決めた。ボールを受ける位置取り、その後の抜群のボディバランス、冷静で強いシュート。見事な得点だった。
なるほど、最初に大迫がボールを受けた場所はFC東京ゴールにほど近いものの、マークも付かれていたしカバーもしっかりされていた。そこから後方の小笠原に正確な「リターン」を戻せば、好機となる確率は「突破狙い」よりも高かっただろう。その写真を撮影したカメラマン(徳丸篤志氏と言う方との事)も、その確率と過去の経験を鑑み、焦点を小笠原に合わせた訳だ。
当該エルゴラ1面には、その徳丸氏が実に興味深い文章を寄せている。
大迫が2人のディフェンスと重なった瞬間、(中略)小笠原がドフリーで叫びながら走り込んで来るのが見えた。(中略)ピントを小笠原に合わせる。が、その直後に歓声があがり、大迫があの状況から強引にゴールを奪ったんだということを理解する。いやご謙遜を。「大迫のJ初得点の重要さを伝える」と言う観点からは、あの写真は通常の大迫のシュートシーンよりも格段に重要だった。あの小笠原の確信に満ちた表情は、敢えて「突破狙い」を行った大迫の凄みを見事に伝えてくれていますよ。
(中略)この選手をほかの日本人FWを撮るときと同じ感覚で撮ると危険だ。(中略)大迫はさらにもう一歩グイッとゴールに迫って来ることを頭に刻んでおかないと、相手DFと同様にカメラマンも痛い目に遭うだろう。さらにこの若者は、パスはいいものを持っている。撮る側としては、選択肢が多く、実に悩ましい存在なのだ。自らの未熟さをこうして文章にするのは恥ずかしくて仕方ないのだ...それ以上にこんな選手が日本に出てきたことに期待と喜びを感じている。
先ほどこの得点直前の場面について、「好機になる確率は『リターン』の方が『突破狙い』よりも高かった」と述べた。しかし、「得点になる確率は『突破狙い』に成功した場合の方が『リターン』よりも格段に高かった」のだ。そして、大迫は自らの実力で「突破狙い」の選択が正しかった事を証明した。
つい3ヶ月前に、同年代の若者相手に抜群の能力を見せていた若者が、いよいよ大人の世界でその素質を見せ始めた訳だ。まあ、これから幾度となく壁に当たり、艱難辛苦を乗り越えなければ、「本物」にはなれないだろう。けれども、前途有為な若者がその茨の道を堂々と歩みだした事は実にめでたいではないか。
改めて、大迫の前途に期待するとともに、抜群の「記録」を残してくれた徳丸氏、その写真を1面に採用したエルゴラッソに感謝。
ともあれ、サッカーのカメラマンって辛い職業な事を再認識。被写体を追うために、肝心の場面を自らの目で確認できない事が再三あるのだろうな。この職業は「サッカーを好きであればあるほど、辛い仕事」なのではないかと考えた次第。