2009年07月30日

Jリーグ移籍制度改変について(中)

 移籍制度改変について、今日はその影響について述べる。
 結論を先に述べておく。(上)でも述べた通り、改変の唐突性による短期的混乱を除けば、移籍金撤廃では決定的に大きな違いは生まれないのではないか。ただし、選手の流動性は高まるし、何より交渉早期化により選手の適材適所化はより進むだろう。以上が私の予測である。

 Jを語る前に、ボスマン判決以前以降の欧州のサッカーシーンを概観してみる。
 ボスマン判決以前の「移籍金」時代も、一部のクラブにその国の有力選手が偏在していた。たとえばレアル・マドリード、バルセロナ、バイエルン、ユベントスと言った西欧のトップクラブ、ステアウア・ブカレスト、ディナモ・キエフ、レッドスターなど東欧のクラブにも同様の事態は結構あった(東欧のトップクラブはいささか「国家政策」の色も濃かったが、まあそれはそれとして)。ボスマン判決があろうがなかろうが、資金力のあるクラブに有力な選手は偏在し、「移籍金」なり「違約金」なりの形態で、対価は資金力のないクラブに支払われると言う事だ。
 しかし、当時から国内タイトルがそう言ったクラブに「独占」されていた訳ではなかった。たとえばイングランドではリバプールやユナイテッドを中心に、戦闘能力あるクラブが毎年のように変わる今日のJリーグ風の展開がしばしば見られた。トヨタカップ黎明期にノッティンガム・フォレストやアストンビラと言ったクラブが登場したのは、ほんの2、30年前の事である。またイタリアもユベントス、ミラン、インテルが軸にはなっていたが、カリアリ、トリノ、ヴェローナ、サンプドリアと言った、自国有力選手を寡占すらできないクラブが優勝した事もあった。つまり、自国トップ選手が偏在するクラブは結構あったが、タイトルそのものはそのような金満クラブに「独占」はされていなかったのだ。
 一方で、ここ10年くらいで欧州のサッカー界は一部のトップクラブがタイトルを「独占」する傾向が強くなってきた。この要因は上記したように「移籍金」がなくなった事とは思いがたい、選手の偏在は「移籍金」時代からあったのだから。
 むしろ、強豪クラブのタイトル独占の要因は「外国人枠の緩和」と「巨額マネーのサッカー界の流入」にある。80年代半ばまで、世界中の多くのクラブでは常識的な外国人枠はせいぜい「2人」だった。ところが90年代以降、EU内での枠が撤廃されると共に、EU外枠もどんどんと広げられていった。またそれらの原資には、巨額のテレビ放映権料、それに伴う広告費、株式上場による流入資金、大金持ちのポケットマネー?などが充てられた。結果として、サッカービジネスにおけるリターンは莫大なものとなり、正のフィードバックがかかり、さらに資金が流入され続け、国籍を問わない優秀な選手が高額で一部のクラブにさらに偏在する事になった(そして、一部のクラブではキャッシュが尽き、破綻するところも出たのだが)。
 かくして、西欧の一部のトップクラブのみが極端に戦闘能力が高い現状が完成したのだ。

 ではJはどうなるか。
 巷では資金力があるクラブとそうでないクラブの格差が極端に広がるのではないかと見る向きが多いようだが、私は必ずしもそうは思わない。従来の方式下においてもやはり資金力のあるクラブには優秀な選手が集まっているし、新方式下でそれがさらに進むだろうが、今日の西欧のように極端な戦闘能力差は生まれないと見る。
 上記した西欧の事例でも述べたが、現状のJリーグでは(アジア枠を含めた)外国人枠の上限があるし、(これは少々残念な事でもあるが)西欧のサッカーシーンのように巨額のキャッシュは入り込まないからだ。また、「超」有力外国人選手(いや「超」有力日本人選手もだが)は経済規模が格段に大きな西欧の大クラブに向かうから、ここでも差がつきにくい事になる。
 
 ただし、様々な要因で選手の流動性は高まる。
 これまでの移籍係数による移籍金は尋常ではなかったのは確かだから、従来以上に豊かなクラブが選手を集めやすくなるのは確か。さらに、従来はオファーを出すクラブの提示する年俸にも移籍係数がかかり移籍金に加算されるため、新たに獲得を希望する選手に高額な新年俸を提示しづらかったが問題もなくなる。
 優秀な若い選手を複数年契約で保有する資金力の弱いクラブが、「契約期間中の違約金狙い」で積極的に「売る」事例も出てくるだろう。
 極端な移籍金が不要になると言う事は、「大金持ち」のクラブでなくても、高額な年俸さえ払えれば「中金持ち」のクラブでも、選手にオファーを出せると言う事でもある。つまり、レッズでなくても「阿部勇樹を買える」事になる。
 資金力豊富なクラブに所属している優秀な選手がなんらかの事情でチームを変えたい場合(たとえば厚過ぎる選手層により出場機会が少ない場合など)には、逆に他のクラブが買う事も容易になると言う事だ。今期オフは強豪クラブがゆえに出場機会が少ない選手にオファーが殺到する可能性がある。

 制度改変のもう1つのポイントである交渉の早期化も、移籍金撤廃とは異なる意味で流動性を高め、大きな変化を生むだろう。
 他クラブとの交渉が早い段階で可能になる事で、各クラブともより的確な編成ができるようになる。従来の方式では、戦力外と目された選手が他クラブに職を求めようにも交渉期間が短いのみならず、いずれのクラブも概略の編成を固めた後でのクラブ探しになり、思うに任せぬケースが結構あった。従来方式では、「あのA選手がタダで手に入るなら取りに行くべきだった、でも同じポジションはレギュラのBとバックアップのCと契約済みだから今年は手を出せないな」的な事例が結構多かったのではないか。(たとえばこれなんかは、典型事例)。今後は実力のある選手は能力に見合ったクラブと出会える事例が増え、一種の適材適所化が進むのではないか。

 以上述べたように、本移籍制度改変により、選手の流動化は進むだろうが、クラブ間の戦闘能力差が従来以上に極端に広がることは少ないと予想する。ただし、クラブ運営は大きく変わっていく可能性があると思うが、それについては、稿を改めて講釈を垂れる事とする。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
FC東京のGK権田ですが、昨年の時点でトップでの出場が
なかったにもかかわらず、長期契約を結んでいるんですね。

http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/fctokyo/news/200811/CK2008110102000134.html

恐らく、先の見えているクラブは近い将来の移籍保証金
撤廃を折り込んで既に長期契約を結んでいるんじゃ
ないでしょうか。中田浩を強奪された経験のある
鹿島なんかは対応済みという気がします。
今回の件はあまりにも突然だったので不平不満は
出ているでしょうが、「寝耳に水」という程は
驚いてないんじゃないかと。

……ベガルタあたりは驚いていそうですが(苦笑)
先を読む能力もクラブの実力ってことで。
Posted by masuda at 2009年08月04日 18:07
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