2009年08月06日

Jリーグ移籍制度改変について(下)

 移籍制度の改変についてクドクドとした講釈を継続する。

 いずれにしても、今回の改変により、各クラブのチーム編成が相当複雑化する事は間違いない。そして、各クラブの編成担当部門(責任者はGMとか強化部長とかの役職と言う事になるが)の手腕が一層問われる事になる。
 複雑化の要因の1つは、これまで再三述べてきたようにチーム間での流動性が増す事により、他クラブの選手動向を一層細やかに追う必要が出てくる事だ。さらに、有力選手と複数年契約するのが常識になるだろうし、自クラブの育成部門出身選手を含めた若手選手の処遇が非常に難しくなる事も重要な要因となる。以下、この2件について詳説する。
 
 まず複数年契約について。
 複数年契約と言うやり方は、単年換算すれば負担は極端に変わらないはず。契約期間を通じて、契約時に期待した水準のプレイを見せてくれればよいのだから。そして、その選手が期待以上に働いて年俸を上げるにしても、活躍と言う結果によるものだから、クラブにはそれほど痛手ではない。年俸を支払えないくらいの大活躍をした場合は、「よい結果」を置き土産にしてもらって、他クラブに「違約金」相当で売ればよい事になる。だから、いわゆる中核の選手に対し「活躍に応じて年俸アップ」と言う複数年契約のオファーを出す判断は難しいものではない。「移籍金」がなくなった事で、資金力の乏しいクラブでも精神的に割り切りが可能になるだろうし。
 しかし、複数年契約は厄介な判断を必要とする事態も多い。クラブにとって複数年契約の最大のリスクは、その選手が契約期間内に調子を崩し期待したパフォーマンスを発揮しない事だ。そして、急に伸びてきた若手選手、負傷がちの選手に対し、複数年契約をオファーするべきかどうかは非常に難しい問題となる。
 言うまでもなく、実績のあるベテラン選手への対応もまた難しい。そのようなベテランは、プライドもあり「より長くプレイしたい」と切実に考えているだけに、ある程度の複数年契約を望むだろう。しかし、雇用側のクラブにとって、そのベテランが「後どのくらい働いてくれるのか」の判断はかなり厄介だ。
 従来の「原則単年度方式」では、ある程度精度の高い予測が可能な毎期ごとの成績と収支を考慮しながら、編成が可能だった。しかし、今後は違う。複数年契約数年単位での計画性あるチーム作りが必要となる。数年単位となると、状況によっては下位リーグに陥落したり、大口のスポンサの撤退などで、収支が大幅なマイナスになる危険もあり得る(もちろん、上位進出し収入がプラスになる可能性もある)。これらを考慮しながらの編成が必要となるのだ。

 そして、若年選手への契約。
 クラブ側も、前途有為であればあるほど、長期契約を結びたい。しかし、いつの時代でも、10代の若手選手の素質を見抜くのは難しいものだ。特に、若手選手が目の出ない要因の1つに、クラブなり指導陣との相性がよくない事がある。その場合に、不適切な長期契約は、選手にもクラブにも不幸になる怖れがある。と言って、逸材として期待していた選手を複数年契約で「押さえて」おかなければ、資金力豊富なクラブに、格安はおろか無償で持ちされてしまう事も、何とか避けたい。
 さらにややこしいのは、Jリーグの現行の若手選手の年俸上限方式と複数年契約はなじみがよくない。公式戦出場数などで翌年以降の年俸アップをセットにした複数年契約となるのだろうが、上限可能幅が極端に大きなものとなると、本質的に複数年契約の意味をなさない可能性がある。複数年契約中での年俸アップも交渉ごとなので、極端に上限可能幅が大きいと、双方の意見が合わないリスクがあるからだ。もちろん、契約ごとだから、そこまで斟酌した契約案を作ればよいのだろうが、これは相当複雑な仕事になるだろう。
 また、Jクラブユースの選手の他クラブへのコンタクトも事態を混乱させるかもしれない。Aクラブユース出身に選手に対し、Aクラブは単年度契約をオファーし、別なクラブが複数年度契約をオファーした場合に、その選手はAクラブを選択しなければならないのか。J当局も育成クラブの育成費をどう取り扱うかの制度設計に悩んでいるとの報道を目にした事はあるがどうなるか。「原則自由競争」が、クラブユース育成選手にどこまで波及するのかの決め事は、かなり重要なものとなる。この問題に対し、「紳士協定」への期待は危険と言うものだ。この部分は1つさじ加減を間違うと、Jが各クラブに育成部門設立を「義務付けている事」そのものが矛盾となってしまう。
 これらの若年選手への対応について、有効な解決策がJ当局より提示されたとの情報は聞いた事がないのだが、どうなるのだろうか。

 以上、今回の移籍制度改変の影響について予測を述べてきた。繰り返すが、(中)で述べたように、一部報道で騒がれているほど、クラブ間の格差は広がらないと見ている。しかし、(上)で述べた改変があまりに唐突な事と、本稿で述べた若年選手問題の混乱は懸念事項である。
 そして、最終結論。むしろ、上記の編成の問題を考慮すると、今回の改変により有利になるのはカネのあるクラブではなく、知恵のあるクラブと言う事になるのではないか。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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