2009年12月10日

トリニータ経営危機問題

 トリニータの経営危機について語りたい。
 何よりいらだつのは、多くの報道を読んでも正確な状況が理解できない事だ。ほとんどの報道が、債務超過と赤字とキャッシュ不足を混同して述べているため、(少なくとも私が見つけた限りでは)破綻の状況が正確に理解できない。ただ類推するに、報道されている以上の「何か」があるとしか思えない。また、その割にクラブ周辺からは、あまりに楽天的な声も聞こえてくるのも不思議だが、これも正確な情報が出ていないからかもしれない。
 以下、私なりにいくつかの報道を繋ぎ合わせた現状の推定と、トリニータがとるべき道筋を述べたいと思う。解釈の誤りもあるかもしれないし、何よりトリニータのサポータの方が不愉快に思われる事もあるかもしれないが、ご容赦いただきたい。

1.トリニータの財政状態を推測する

 たとえばこちらによると
入場料収入は昨季より約6千万円減少する見込み。広告料収入も、レジャー産業大手の「マルハン」撤退や一部スポンサーの未払いもあって、昨季より約2億9千万円の減少見込みという。
また、シーズン終了後に生じる選手移籍金と来季分のシーズンパス売り上げの両収入は本来、来季予算に充てるべきだが、資金繰りの厳しさから、収入見込み額約4億円を今季運営費に組み入れていた。今後は来季予算に計上するため、今季の決算期に約4億円の不足が生じることになる。
との事だ。
 この記事を読む限りでは、資金不足は3億5千万円。また、来期の見込み収入を今期予算に繰り入れていたのは極めて悪質な事業計画偽造ではあるが、今期のキャッシュ不足ではない。赤字がかさんで累積債務が増えるだけだ。ところが、同じ媒体の後日報道のこちらでは、
 大分FCの借り入れ申請に応じて、公式試合安定開催基金から今季の資金繰りを付けるために当初3億5千万円を融資。さらなる不足を見込み、来年1月末までに2億5千万円を準備する、と説明。現時点で返済期限は設けていない。(中略)累積損失が約11億円、債務超過が約5億6千万円で、来年1月末の借入金が約12億円と推定。
との事だ。
 キャッシュ不足の3億5千万円は一致しているが、来年1月までの不足金がよくわからない。何か特殊な事情があって、短期返済が必要な負債があると言う事なのだろうか。また、累積損失(11億円)も、借入金(12億円)に、J当局からの6億円近い融資が含まれているのか、実質的な今期の赤字高は幾らなのか、このあたりの正確な報道がないのが、上記した通りいらだちにつながってくる。J当局は、マスコミを介さず正確な情報をWEBベースで流す事も考えるべきだと思う。
 いすれにしても、これらの報道を参考にすると、来年1月の時点で(これって来月だ!)、10億以上の累積損失、借入金を持ちながら、このクラブは再スタートを切ると言う事になる。しかも、追加融資の6億円の完済は、J1昇格の必要条件。今期少なくとも3億円以上の赤字が必至(もっと多いような気がするが)のクラブが、来期J2陥落し観客動員もスポンサ収入も苦しくなり、新たな出資者も出そうもない状態で、1年ないし2年で6億円の返済する事が必要になる。何か信じ難いスキームとなるが、本当なのだろうか。

 ちなみにプロサッカークラブの年間のキャッシュフローは、入場料収入は水ものの部分があるが、広告収入はある程度予想できるもの。上記の2億9千万円のショート(スポンサ未払い)は、常識的には信じ難い話である。この今期の未払いについては、こちらの報道が参考になる。今期シーズン半ばの胸スポンサの是非が一時話題になったが、その他のスポンサも相当もかなり怪しい企業だった模様だ。
 このように書いてくると、「大企業の支援が得られにくい地方のクラブはやむを得ないのだ」との反論があるかもしれない。でも、それは違う。多くの地方クラブは、苦労して健全なスポンサを集めているのだ。しかも、スポンサ未払いについては、このクラブにはミュージシャンがらみの前科があった。1度ならず2度も億円単位を取りはぐれる失態は、何ら言い訳の余地もない。ここまで怪しいスポンサが多数徘徊しているクラブは他にはないのだから、「やむを得ないのではなく、このクラブの体質的課題」だったのだ。 
 余談となるが、少々曖昧な規定のためにユニフォームに広告を出せないにもかかわらず、先般まで多額の広告料をトリニータに払ってくれたレジャー産業企業さんは、その堂々とした姿勢を含め、一切「怪しさ」などなかった事は、ここで強調しておきたい。
 
2.許されがたい今期中途の経営判断

 ただし、強力な親会社を持たぬクラブが資金繰りを含めて、自転車操業的な状態に陥ってしまうのは、ある意味ではやむを得ないのかもしれない。けれども、トリニータの今期の経営は全くの論外だった。既に今期半ばでスポンサ費用の回収が難しいの明らかだったはずだ(上記した入場料減少も含めて)。ならば、入ってくるキャッシュが少ないのだから、出て行くキャッシュを減らす活動をしなければならない。それが経営と言うものだ。
 J1で下位に低迷していた状況で、サポータの方々には身を切るようにつらい事だろうが、やるべき事は自明だった。シーズン途中でも選手を売るべきだったのだ。このような事例では「買い叩かれる」リスクはあるが、そこは「特例」としてJリーグ当局が介在するなどする手段もあったはず(現実的にトリニータには、比較的経済的に余裕のあるクラブならば、喜んでキャッシュを払う選手が多数いたのだし)。
 トリニータが持っていた最も貴重な有形資産である優秀な若手選手達を現金化して急場をしのぐと言う判断は、繰り返すがトリニータサポータからすれば、何よりもつらい事だったろう。けれども、それによってキャッシュ不足を小さなものにしておけば、ここまで破綻する事はなかったのだ。しかし、トリニータ経営陣は、許されがたい経営判断を行った。契約が残っている監督を更迭し、別な高価な外国人監督を雇用したり、新たな選手補強を行ったのだ。キャッシュ不足が自明な状態で、さらにキャッシュを消費する施策を取ったのだ。この時点で地獄へ向かっての暴走は決定的になっていた。

 溝畑前社長のインタビューを抜粋しよう。
ー17日の記者会見はなぜ欠席したのか。
 来期の予算確保のための営業活動が1カ月前から入っていた。すべてはクラブを守るため。(中略)
ー判断を誤ったとすればどこか。
 マルハンの撤退が不測の事態だった。ナビスコ杯優勝メンバーを残すために1億円を加算したが、非情な決断も必要だった。
ーシーズン途中のポポビッチ監督や補強選手の獲得も影響したのか。
 シャムスカ監督や外国人コーチらを契約解除する際、給与をカットし、その分でポポビッチ監督や選手を獲得した。総計で余分にかかったのは1千万円ほど。
 何とも重苦しいインタビューだ。まず、これだけのキャッシュ不足の状態で、「来期」を気にしている(来期の発言を公にしてしまう)認識不足。最も大きな損失となっている未収金の事を語らない(実際には「語れない」状態だったのだろうが)ポイントのずれ。そして、(1千万円と言う数値が事実だとしても)キャッシュ不足に対して、何ら有効な策を打たなかった事への無自覚。
 溝畑氏が、自らの人生の全てをトリニータに注いで来た事はよく知られている。心底尊敬すべき人物だろう。昨年のナビスコ決勝後の氏の涙は美しかった。そのような尊敬すべき人に対して、野次馬の私が結果論から批判を加える事そのものが失礼な事も理解している。けれども、2部に落ちるのと、クラブがつぶれるのと、どちらがましかは言うまでもないだろう。今期の氏の経営判断のあやまりは、氏が人生を賭して築いて来たクラブを死に至らしめるものだったのだ。何と言う事だろうか。

3.Jリーグの判断をどう見るか

 本来的には「そのような放漫経営を行うクラブへのJリーグ当局の支援はなし」でもおかしくないくらいだ。それでも、私は今回のJ当局が「金を出して助ける」と宣言したのは、正しいと思う。そう宣言しなければ、億単位のキャッシュが足りない現状で、本当に皆がキャッシュを引き上げ、完全にトリニータは崩壊してしまう。
 あそこで「助ける」と宣言しなければ、今期のリーグ戦を無事完結できたかもわからない状態だったのだ。もし、そうなった場合のJリーグの社会的信用すら失墜してしまい、その被害ははトリニータと言う1クラブに留まらないおそれもあったはずだ。
 もちろん、平均動員約20000人の友の悲鳴など想像もしたくないのは言うまでもない。もう、フリューゲルスのような惨禍は勘弁して欲しい。
 そして、20000人の人が年間を通して、サッカーを愉しむ環境は、安易に捨てる事が許されない貴重な資源なのだし。

 しかし、「助ける」事は正しいと思うが、上記のように本当に6億円も必要なのかの客観的な数値を含めた報道がないから、考えてしまう。そして、本当に6億円必要なのだとしたら、上記の通り絶望的な財務状況でこのクラブは再スタートする事になる。 「つなぐ事」はもちろん大事だが、まとめる事(巷で言う再建案)の計画立案はもっと大事なはずだ。報道によると、J当局が参画して相当厳しい再建策が立案中だと言うが、どうなるのか。

4.トリニータに残された道

 それなのに、トリニータ周辺から聞こえてくる楽天的な見方が理解できない。曰く「ポポビッチ氏を留任させたい」、曰く「できるだけ選手の流出を防ぎたい」、等々。
 確かにリーグ終盤、ポポビッチ氏に率いられたトリニータのサッカーは魅力的だった。あのサッカーを継続すればJ1復帰は容易だろう。そして、あのサッカーの発展をじっくりと愉しみたい。そして、あのサッカーが消えてしまうのは、あまりに悲しい。

 けれども、それは叶わない夢なのだ。

 トリニータが今やるべき事は、Jの緊急融資を速やかに返却する道筋を書く事。上記したが、6億円の返済に尽きるのだ。これは極めて難しい挑戦となる。たとえば、我がベガルタにしても、昨年掟破りとも言える減資で累積損失を一層した前科を持つ。個人的にこの施策は誉められないものだと思っているが、ベガルタが減資を許されたのは、とにかくキャッシュフローをある程度プラスが維持できるならば、出資者に対して今後の配当が期待させられたからだ。しかしトリニータは違う。「ある程度のプラス」ではなく「6億円のプラス」を短期で実現しなければならない。
 もちろん、短期返済が必須なのは、J1復帰の権利と言う面からのみではない。トリニータに限らず、苦しい財務状態のクラブは多い。そして、未曾有の不況のための広告収入減少に皆が苦労している。その状況下で、6億円と言うJ2の小規模クラブの営業収入を大幅に上回る「特別融資」を受けるクラブが、J2で戦いたいならば、早急な返済計画立案と実行は、最低限の義務いや、礼儀であろう。トリニータ側の想いはどうあれ、Jリーグ当局はそのような姿勢で臨まなければ、融資の説明すら不可能になる。
 そして、そのためには入る金をできるだけ増やし、出て行く金をできるだけ減らすしかない。現実的に来期J2に陥落する事で、スポンサ収入も入場料収入を増やすのは容易ではないだろう。そうだとしたら、まずやるべき事は、徹底したスリム化、つまりスタッフや選手を最小限とする事に尽きる。現実的にポポビッチ氏の契約継続や、大量の選手のつなぎ止めは不可能と考えるべきではないか(そう言う意味では解雇する選手が少ないのがとても気になっている、多くの選手と大量減俸前提で交渉しているのだろうか)。
 そして、20000人の大観衆を維持できれば(あるいは減少を食い止めれば)、苦しいながらも短期返済の道筋が見えてくるはずだ。
 
 一方で、Jへの短期返済を怠り、ある程度の戦力維持をしてJ2を戦ったらどうなるか。返済繰り延べによる、勝ち点剥奪、降格、除名などのリスクも、もちろんあろう。けれども、上位リーグへの昇格権のない戦いを継続する事は実につらいはずだ。中々勝てずにJ1に上がれないクラブは多数いるし、それはそれでリーグ戦を戦い続ける事は愉しい事だ。なぜならば、「でも勝てばいつかは」と言う希望があるから愉しいのだ。けれども、いくら勝ってもJ1に上がる権利を持てない事は、本質的に異なる。しかも、借金を返せないでいる事で後ろ指をさされながら戦うのだから。中途半端な対応は、最終的にクラブに緩慢な死を提供する事になるのではないか。

 繰り返すが、短期返済の計画と実行、これしかトリニータが取るべき道はないのだ。

5.国内屈指の無形資産

 トリニータの関係者の方々にとって大層不愉快な事を書き続けて来た。申し訳ないとは思う。けれども、間違った事を書いたつもりはない。

 しかし、トリニータにはバランスシートには乗らない格段の無形資産がある。
 監督を選考する眼力。ブラジル、バルカンと全く異なる国から、2発続けて大当たりの監督を連れて来た眼力は信じ難いものがある。いや、さらにその前には、石崎信弘氏、小林伸二氏を抱いていた。これはもう偶然ではない。
 抜群の若手選手を育成するノウハウ。自前で育成した西川、梅崎、福元、清武、東。高校出身選手だった森重、金崎。ここまで優秀な若手選手の育成に成功したクラブが他にあるだろうか。これまた偶然である訳がない。
 そして、平均観客動員数20000人のサポータ。
 これらの無形資産を持つクラブは、他にそうはない。そして、短期返済と、無形資産を維持する事は、大きく矛盾はしないはずだ。そして、ポポビッチ氏と多くのスタア選手を失っても、これだけの無形資産があるクラブが、いつかまたJ1上位に復活する事は決して不可能ではないはずだ、それもそう遠くない将来に。

 だからこそ、この無形資産を維持するためにも、速やかな「短期返済の計画と実行」への決断が必要ははずだ。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(5) | TrackBack(1) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも講釈を拝読しています、一瓦斯サポです。

トリニータの件は私もかなり気に病んでいて、武藤さんはこの件についてどんな講釈を書かれるだろうと思っていたのですが、実にまっとうで読み応えのある、しかも考えさせられる講釈でした。

武藤さんのおっしゃる通り、ギリギリまでのスリム化と死に物狂いの短期返済、生き残る道はこれしかないでしょうね。道はとんでもなく険しいけれども、クラブを消滅させないために、なんとか踏ん張ってもらいたい。講釈の最後に書かれた無形資産を、大きな力として生かしてほしいと思います。

とりあえず今は、近々発表される再建計画が実のあるものであることを祈っています。
Posted by くろ at 2009年12月11日 03:57
ベガルタの場合はまさに累積した「負債」でした
からねぇ…しかも、大体がベガルタになる前の(笑)

無論、その後の経営で実際に累積赤字は減少させた
実績もありますし、そういう観点で減資を認めて
もらえたのかなぁ〜とも思ってます。
まーでもズデンコの違約金やら、06年の大型補強等
色々とやっちゃってはいるんですけどね…

個人的にはもうちょっと…
降格=デッドラインっていう考え方が改善されればなぁ…と。
Posted by 近会 at 2009年12月11日 14:45
全く不愉快ではありませんよ。むしろこちらとしても言いたかったことを分かりやすく書いていただいてありがとうございます、という心境です。
Posted by 大分サポーター at 2009年12月11日 22:40
最後まで本当に良く研究された内容であると思います。
私はトリニータは即破綻させるべきと考えてます。

Jの大分県民を担保に取るような発言に違和感を感じるからです。
少なくとも大分県には私企業であるチームの再生を願わない県民も居ます。
どんぶり勘定に近い経営感覚が理解に苦しみますし。

経営再建計画は噴飯物のお気楽なものでした。
塁損の解消の詳細な計画などなく精神論に近いものです。

一般の企業なら当然に破綻状態であるのに何故存続させるか甚だ疑問に思います。
Posted by トリニータを心底嫌う大分県民 at 2009年12月12日 11:11
トリニータは大分の素晴らしい資源だと思います。
そんなに嫌わないであげてください。

先般の東京オリンピックの招致には、プレゼン映像だけで、5億円かかったとか。たかだか6億くらい、どこかから捻出できないのかなと思います。
たわ言ですが…。
Posted by ヨコヅナ at 2009年12月13日 02:28
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