この日直接FKを決め、鋭いサイドチェンジを通し、サイドを見事に突破するなど、八面六臂の活躍をしていた田坂祐介が交代と聞いて、私は失望した。せっかく若い(と言っても24歳だが)MFが、韓国のトップチームとの難しい国際試合でよいプレイを見せていたのだから、90分使い切って自信をつけさせればよいのにと。
けれども、(いつもの通り?)私は間違えていた。田坂に代って入ったのは、中村憲剛と言う選手だったのだ。冗談抜きに、その瞬間「競技場の空気が変わった」のだ。フロンターレの選手達の連動も、サポータの声援も、いや城南の選手達のプレイすらも、憲剛の一挙手一投足に制御され、眼前でプレイされるサッカーが一層色鮮やかなものに。我々のみならず、ゴール裏で(少々単調なきらいはあるが)必死に応援していた城南サポータにも、憲剛の登場は歓喜を提供したのではないだろうか。
等々力の王様の帰還を、目の当たりにする事ができたのは幸せだった。もはや、完全に王様となったこの選手を初めて見たのは、6年前のこの競技場だった。6年前に期待を抱いた事は間違いないが、ここまでの存在になるとは思ってもいなかった。その王様が、屈強の敵に対して、磨きに磨いた能力を全てぶつける機会が、2ヶ月後に訪れる。
今まで左サイドに貼り付いていた佐々木勇人が右に流れる。この日、遠藤保仁が不在のため中盤で全権を振るっていた二川孝広が、柔らかいパスを佐々木に通す。佐々木は落ち着いて守備ラインとGK李雲在の間にアーリークロス。宇佐美貴史は、ちょっと引いて敵DFの間に入り込み、それぞれの視野から完全に消えた上で、抜群の奪取力でDFを置き去りにして抜け出し、やさしく左足でボールを突いた。李雲在は何もできず!ロスタイムの信じ難い決勝点だった。
開始早々、二川のパスから宇佐美が抜け出す決定機から始まったこの試合。遠藤と共にプレイする際の二川は、遠藤の動きに合わせて多くの好機を演出する。けれども、遠藤不在のこの日は、二川が全軍を指揮。そして、その補助役を演じたのが、二川と同じ干支、12歳若い宇佐美だったのだ。
二川の同点弾、宇佐美が左サイドから切れ込み、敵DFを中央に寄せたところで受けた二川の見事な切り返しと正確なミドルシュート。「部下」が工夫して作ったスペースを活かした完璧な得点だった。
勝ちたい西野氏は、終盤やり方を変えて、宇佐美を最前線に貼付けた。宇佐美は我慢を重ね、最前線で味方からのボールを待つ。二川は再三工夫したボールをこの若き部下に提供しようとするが、水原の守備陣も厳しく守り、突破を許さない。そうこうしているうちに、上記のロスタイムを迎えた訳だ。西野氏と二川と宇佐美の勝利。
前半終了間際、ペナルティエリアにしっかりと人数を揃えながら、軽卒なミスから失点。苦労して苦労してようやく同点に追いつきながら、FKを守備陣とGK西川の中間に蹴り込まれ、マークに突き切れずに失点。このような、つまらない失点を重ね、サンフレッチェはACLで勝ち点を失ってきた。ここまで修正できないと言うのは、ある意味感心させられる。
けれども、この日のサンフレッチェの3得点はいずれも本当に美しいものだった。分厚く守る敵守備陣に対し、丁寧にボールを回し、ほんの僅かな隙を見つけて裏を突きスペースを作り、シュートを狙う。後方に引いた寿人の完璧なスルーパスを受けた森崎浩が冷静に決めた1点目。左サイドに拠点を作り、山崎が作った溜めから、渾身で李忠成が決めた2点目。ようやく逆転したものの、再び追いつかれ、精神的に苦しい状況になった終盤、新たに起用された石川大徳と大崎淳矢が精力的に引き出し、再度ペースをつかみ直す。(私にとって)全く初めての若い攻撃タレントが、山岸智、山崎雅人と言う実績ある選手に代って起用され、再びチームを活性化させるのはすごい。そして、森崎浩(だと思った)のスルーパスを受けた石川(受けの飛び出しもラストパスも完璧だった)の落としを、再び李が強烈に決めた決勝点。
サンフレッチェはアジアを去る事となった。けれども、この勝利は大きい。柏木を失い、青山を使えないと言う、極めて厳しい状況下、欠点を是正できずに、長所だけを伸ばし、見事なサッカーを演じたのだから。
タフな国際試合。見ているだけでも本当におもしろい。けれども、我々の眼前で行われる七転八倒そのものが、日本サッカーを着実に発展させている。
2010年04月15日
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正直、代表の試合よりずっと面白いと思います。
結果にかかわらず。Jのどこを応援しているいないにかかわらず。
リアリティがあるせいかな。
勝つ負けるという、シンプルだけど究極のリアリティが。
代表の試合は、サッカーというより「日本化」サンプルゲーム
といったメタサッカーになってしまっている。
内容でもない。勝敗でもない。個性でもない。
「日本化してますか?」が最優先みたいな感じです。観念的。
Jの試合は、互いの戦力戦法がよくよくわかりあっている者同士の
予定調和があったりする。
リーグ優勝や残留、カップ戦で上にいくためのそれぞれの
駆け引きはもちろん面白いけれど、
想像をこえた局面はあまりおこらない。そして、それでいい。
一方ACLには、「この刹那だけ」のひりひりするような
どきどき感とわくわく感があります。
展開の読めない一期一会サッカーがともかく楽しい。
アジアレベルなんて、と馬鹿にしちゃう人は本当にもったいないです。
Jクラブがこういう舞台を毎年何度も経験して
じっくりと世界水準を目指すのは、
四年に一度しかない大会のためにひたすら代表だけを強化するより
ずっとずっと健全なことだと思います。
親善試合との違いかな?
代表に呼ばれてない、田坂、小笠原、二川、佐藤の方が真剣に必死にサッカーしてるように見える。