2010年04月29日

(書評)蹴球風見鶏(1)

 最初にお断りしておくが、私は著者のとうこく氏とも編集者とも面識がある。と言うか友人だ。だから、書評そのものが客観性に欠けるものとなるかもしれない(まあ、もっとも私の講釈はいずれも客観性があるかどうかは、かなり疑問なのだが)。

 本書は、エルゴラッソ毎週水曜日のお愉しみの連載マンガを、08年、09年の2期に渡ってまとめたもの。第1巻なのだが、連載初期ではなく、最近の2期をまとめた形態になっている。そして、多くのマンガの題材が、典型的な「時事ネタ」であるためか、前後のサッカー界のトピックや記録を併催しているのが特徴。
 いや、おもしろい本です。そして、私は本書が、2つの意味で、日本サッカー界において重要な位置づけを占めるものと考えています。

 1つ目は「サッカーの記録」と言う視点。
 以前も触れた事があるが、私はとうこく氏は「サッカーを記録する」と言う点において、一種の天才だと評価している。
 言うまでもなく、現行の技術において「サッカーの記録」で最も有効な手段は「ハイビジョン録画、できれば複数角度から」であろう。けれども、この方法だと1試合の再現に最低でも試合時間分の時間がかかってしまう。一方、最もシンプルな記録はスコアとメンバのみの記録だろう。けれども、そこからは試合内容の類推は、極めて難しい。
 そこで、その中間でいかに試合を記録し、その「雰囲気」を的確に記憶するかを、皆が工夫するのである。私もその一翼を担っているつもりだ。そして、とうこく氏は、僅かなスペースの「絵」と、巧みな短文を併用する事で、「サッカーの記録」を鮮やかに行ってくれている。まあ、いくつかは失敗作もあるやに思うが、それが傑作を否定するものではないのは言うまでもない。
 そして、単行本化するために、少々あやしくなった当時の記憶を補足するがために、丁寧に当時の記録を併催している編集がいい。結果として、この一冊は09年と10年の日本サッカーを回顧するために格好な記録書となっている。とにかく、本書を読む事で、この2年間のあれこれを鮮明に思い出す事ができる。いや、数年後、数十年後に再読すれば、再び鮮明にこの2年を思い出す事ができるだろう。たとえば、思い出したくはないのだが、この日の松浦拓弥の笑顔。

 2つ目は「自律して歩き始めたマスコット達」。
 93年のJリーグ開幕時、友人たちとよく「あのマスコットの格好悪さ」は勘弁して欲しいと、語り合った(当時から唯一の例外は、グランパスくんだったが)。
 けれども、我々は間違っていた。あれから20年近くの歳月が流れ、Jのマスコット界には次々と新参者が登場し(ベガルタサポータとしては、我がベガッ太が、その中の中軸を担っているのが嬉しいが)、彼ら一人一人が明確に自律し、人格?を持ち始めている。
 そして、とうこく氏は彼らにクラブを代弁させる技法で、それぞれのJクラブが抱えている「主観」を、的確に描写しているのだ。山形弁のディーオ君と仙台弁のベガッ太の微妙な掛け合いなど、(その方言相違の描写を含め)とうこく氏の他に描写できる人がいるとは思えない。

 さらなる要望を2点。1つは、08年より前の作品も同様な記録書として編纂して欲しい事。とうこく氏に平伏させられた、かの名作を単行本で再度堪能したい。2つ目は、その次回作にサッカー以外の氏の傑作(たとえばこれ、ちなみにトリノ五輪前ね)が掲載される事。

 ちなみに本書で一番好きなのは、立石の引退試合のためにハガキを書く遠藤。

posted by 武藤文雄 at 23:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
蹴球風見鶏をこつこつスクラップしてまとめていた私としては、さらに過去に遡って単行本にまとめられるのは・・・
いや、とても良い事ですなw
未読の方々に頒布される機会があってしかるべき、と言っていいぐらいの作品なのだし。

サッカー界におけるとうこく氏の存在は、競馬漫画で活躍されてるよしだみほさんを思い起こします。
よしだみほさんは馬事文化賞を贈呈してもいいんじゃないか・・・てなぐらい、一部の競馬ファンに評価されてますが。
とうこくさんもJリーグから特別表彰を受けてもいいんじゃないかと、それくらいこの「物語の語り部」は貴重な存在だと。
私はそう思っています。
ま、そんな余計な事をして、とうこくさんの筆の勢いが鈍られても困るわけでもありw
Posted by 新横浜 at 2010年04月30日 08:25
とうこくさんいいですよね。
とうこくさんの描くグランパスくんがいつもめっちゃかわいいので好きです。
あと、シャムスカ解任時のとうこくさん作のエルゴラの表紙が
トリサポじゃないのに泣けたなあ・・・。
Posted by とし at 2010年04月30日 11:08
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