2010年07月06日

ウルグアイ−オランダを前に

 ウルグアイ−オランダと言うと、74年クライフ大会以来か。考えてみれば当時この対決は古豪対新興国と言われていたが、両国の立ち位置が36年経過した今日でもそう変わっていないのがおもしろい。以降36年間、ウルグアイがベスト4に入れないとか、オランダが1度も優勝できないとか、思いもしなかったな。
 1次リーグの初戦で、戦った両国、いきなり開始早々のオランダの先制点がすごかった。CFのクライフが後方に引いたスペースに、右ウィングのレップが移動、さらにそのスペースに右バックのシュルビアが前進。クライフが走りこむシュルビアにピタリとロングパス、シュルビアのセンタリングを、レップがヘッドで叩き込んだ。正に「渦巻き」を絵に描いたような攻撃。以降この大会で次々とオランダは、美しい得点を決めてくれた。
 って言っても、数ヶ月遅れで東京で放送されるダイヤモンドサッカーの、それまた数ヶ月遅れで仙台で放送された奴で「次々と」見たと言う事なのですが。

 もう1つこの両国の対戦と言う意味で忘れ難いのは、代表チームではないが、88年のトヨタカップ、ナショナル・モンテビデオ対PSVアイントフォーヘン。PSVには、その年初めて欧州選手権を制した代表の中心選手、ロナルド・クーマン。その他にもファンネンブルグ(後にジュビロで活躍)、ファンブロイケレンらの代表選手がいた。外国籍選手としては、デンマークの中盤の将軍セーレン・レアビー(つまり主将でリベロのモアテン・オルセンの前方で中盤を仕切っていた選手)、その年のソウル五輪で大活躍しセレソンに定着しつつあるロマーリオと言う若いストライカがいた。一方のナショナルは、ウルグアイ代表の主将ウーゴ・デレオンをはじめとしてウルグアイ代表選手がずらり。
 そして、試合はナショナルが徹底したフォアチェックでクーマンを襲う。元々、クーマンが後方から組み立てる事で攻撃を構成していたPSVは、思うように展開できず苦しむ。そして延長まで入る2−2の点の取り合いから、PK戦でナショナルがPSVを振り切る試合となった。このナショナルのクーマン対策の成功は、90年ワールドカップでのオランダ対策につながるものとなった。
 余談ながら、この翌年は、トヨタカップに、ファン・バステン、フランコ・バレーシのACミランが登場。以降はトヨタカップは欧州の金満クラブが主役となる。そう言う見地からは、この88年のナショナルは、戦闘能力で南米クラブが欧州クラブに対等に戦う事ができたトヨタカップの本当に愉しかった時代がそろそろ終わりを遂げる端境期の試合だったとも言える。

 ウルグアイは1930年、50年に優勝。70年4位。そして、今大会40年ぶりのベスト4で話題になっている。ただし、実はウルグアイは90年大会も上位に来るのではないかと言われていた。
 上記のデレオン、欧州でも名CBと言われていたグチェレスらが後方を固め、欧州でも名高いエンソ・フランセスコリ、ルーベン・ソサ、ルーベン・パスらが攻める。「これは強い!」と言うイメージがあったのだ。
 しかし、大会に入ってからはベルギー(プロドーム、シーフォ、クーレマンス)に完敗するなど、パッとせず。2次トーナメントに進出したものの、地元イタリアに完敗(スキラッチの強烈なドライブシュートなどあり)し、大きな印象を残さず大会を去った。以降の本大会出場は02年のみ、この大会では1次リーグで敗退。
 そうこう考えると、今大会は本当に久しぶりの「強いウルグアイ」を愉しめる大会なのだなと。ルガノ(負傷で準決勝の出場が叶わないという噂があるが)を軸とした強い守備、フォルランの心憎いばかりのプレイ選択の的確さ。周辺を固める仕事師たちの献身ぶり。
 彼らは赤子の頃から、60年前の英雄たちの話を聞かされて育ってきているはずだ。当然ながら、40年ぶりでは全く満足はなく、60年ぶりを狙っているのだろう。

 ちなみに上記した90年大会。2年前に欧州を制覇したオランダ(ファン・バステン、ライカールト、グーリット、ヴァウターズに、上記のPSV選手らが中心だった)は、準優勝した78年以来12年ぶりの出場ながら、優勝候補の一角と言われていた。しかし、大会に入ってからも調子は上がらない(上記の対策でクーマンの展開が止められたのも大きかった)。そして、こちらも1/16ファイナルの西ドイツ戦(ブレーメ、マテウス、ブッフバルド、クリンスマンら)に完敗、イタリアを去った。
 しかし、以降オランダは次々と世界屈指の名手を輩出、毎大会のように優勝候補と言われる強力なチームでワールドカップに臨み、その実力を発揮しつつもどうしても勝ち切れず、優勝の夢は叶わないできた。
 以前から幾度も書いているが、今大会のオランダは「絶対に優勝しようと言う」決心が感じられるチームだ。スナイデルとロッベンを軸とする攻撃も確かにすごい。しかし、とにかく1点差でもリードしたら、極端にリスクを減らし、確実に守備を固める。その守備の稠密さがすばらしい。特にデ・ヨングとファン・ボメルの知的な位置取りと言ったら。日本相手に先制して、あそこまでしっかりと守る姿勢には、忌々しさを通り越して呆れたものだった(ちょっとした誇らしさもあったが、いや正確にはあの試合中はそれどころではなく、「俊輔、サボるな!岡崎!決めんかい!」と絶叫し続けたのだが)。

 双方とも出場停止なり負傷で出られない選手をどうカバーするかが、勝負のアヤとなりそう。オランダは、デ・ヨングとファン・デル・ウィールが出場停止。ブラジル戦同様、マタイセンも負傷で代わりのオーイヤが出場しそうなので、あの精緻な守備の中核を担っていた選手が3人出る事ができないのは、相当厳しいと思う。
 一方ウルグアイは、かのスアレス先生が不在(私は彼のあのファウルを称え、ワールドカップ史に残すためにも、彼には2試合出場停止と言う名誉を捧げるべきだと思っていたのだが)。ただし、何よりフォルランがいるから、攻撃は何とかなると思う(初戦におバカをしたロデイロも負傷と言う情報があるがどうなのか)。問題はルガノの負傷からの回復だろう。もし、ルガノが出られればウルグアイが、出られなければオランダが、それぞれやや有利か。
 「60年ぶりの執念対36年間の怨念」を、じっくりと愉しみたい。
posted by 武藤文雄 at 22:23| Comment(4) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> ルガノが出られればウルグアイが、出られなければオランダが、それぞれやや有利か。

接戦の予想ですね!私は圧倒的にオランダ有利かとみていました。
ウルグアイの選手たちは2ラウンドの組み合わせにも恵まれ、早くからベスト4を目標にしており、前代未聞の準決勝での大差が見られるのではないかとすら。

ウルグアイの歴史と今大会の勢いに期待します。
Posted by げる at 2010年07月06日 23:56
フランチェスコリの技巧とルーベン・ソサのFKは素晴らしかった。

いつも南米予選でギリギリな感じのウルグアイが
ここまで来るのも意外でしたが、戦い方もまた危なっかしいw
ここまではカードに恵まれた面もあるので
スアレスがいないとはいえ、アブレウが入って
フォルランが前に行きやすいと思うから
オランダレベルにどこまで対抗できるか楽しみですね。
Posted by at 2010年07月07日 02:41
試合の結果はでたようですが,
<私は彼のあのファウルを称え、ワールドカップ史に残すためにも
アフリカ諸国及び日本との国際試合終身出場停止ぐらいがよろしいように思います.っていいすぎでしょうか?
Posted by KI at 2010年07月07日 09:15
フォルランは凄まじいプレーぶりでした。足の痛みで最後までプレー
できなかったのは残念。ウルグアイにとっても痛恨でしたね。
Posted by at 2010年07月07日 22:24
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック