愉しかった1ヶ月が終わってしまった。
決勝戦。だいたいワールドカップの決勝戦は、往々にして「ここまで来る事」に全エネルギーを消費してしまったチームが登場する事が多く、一方的でつまらない試合も多い。
しかし、今回の決勝は相当おもしろかった。少なくとも私が見た範囲の中では過去を振り返っても、ベストの決勝戦だったのではないか。78年のリーベルスタジアムの超熱狂や、94年のフランコ・バレシ対ドゥンガの陰々滅々も悪くなかった。また、06年のカンナバーロ対ジダンの盾矛対決も、ジダンがナニするまでは(イタリアの攻撃が今一歩ではあったが)、中々だった。しかし、今日の決勝は、双方が敵を何としてでも崩し切ろうとする攻撃姿勢、加えて双方の(と言うと不正確だな、仕掛けたのはオランダだ)削り合い。それでも、両軍が持ち味を出して、何とか勝とうともがく死闘。本当におもしろかった。
ただ、残念だったのは、今大会、我々も当事者として参戦したが故に、直接戦ったオランダにしても、次に戦うはずだったスペインにしても、「常に己との相対比較」と言う呪縛にとらわれ、野次馬として、あるいは娯楽として、心底愉しめ切れなかったくらいか。うん、心底愉しめない方が、格段によいな。
序盤、オランダは相当激しくプレスをかけて、スペインのパスを防ごうとした。連発されるイエローカード。特にデ・ヨングの足裏キックは、一発退場でも全くおかしくないほど。主審のハワード・ウェブ氏は、このラフプレイも黄色で押さえる事で決勝戦の権威を保ち、一方で毅然とした判定で両国の選手の過興奮を抑えた見事にゲームコントロール。双方の激しい守備が継続したにもかかわらず、109分まで22人をピッチに残し、試合の調和を保ったジャッジを見せたのだから、ウェブ氏の手腕は鮮やかだった(ただし、たとえ試合が壊れても、あのデ・ヨングを退場にすべきだったと言う考えもまた正しいと思うが)。
後半、特にオランダのイエローカード保持者が激しいプレス(ラフアタックとも言うが)をかけられなくなり、次第にスペインペースとなっていく。これは仕方がない。オランダは正当な裁きを受けたと言う事だ。
好機の数はスペインが圧倒していたが、オランダも決定機を掴む。ロッベンの独走2本。スナイデルとロッベンの能力には、改めて恐れ入る。しかし、カシージャスがこの危機を救った。そして、ブスケツの充実。スナイデルに執拗に食い下がり、さらにシャビ・アロンソ交代後にはロッベンにもまとわりつく。ブスケツの奮戦がオランダの攻撃力を奪っていく。
またオランダは、ファン・ボメル、デ・ヨングに代えられる中盤後方の好タレントが不在だった。準決勝、出場停止のデ・ヨングに代って出たデ・ゼーウは、明らかに力が落ちた(負傷したとの情報もあったが)。終盤、疲労の色が濃いデ・ヨングに代えて、ファン・デル・ファールトを起用しなければならない所が、オランダの弱さだったのだと思う。
決勝点。逆襲からの、フェルナンド・トーレスのクロス。ファン・ブロンホルストに代わり腕章をつけていたファン・デル・ファールトがクリアし切れない。そしてセスク・ファブレガスに拾われイニエスタにラストパス、そこでもファン・デル・ファールトは、イニエスタについていけなかった。攻撃に魅力のある大駒が守備に忙殺される状況そのものが、オランダの限界だったのか。
冴え渡ったウェブ氏の審判振りだったが、終盤の判定は、オランダとしては相当不満の残るところだったとは思う。決勝点直前のスナイデルフリーキックに関するミスジャッジ。決勝点時の最初のフェルナンド・トーレスのクロス時のイニエスタのオフサイド疑惑(写真によると微妙だがギリギリオンサイドか、例の黒ラインテレビ映像は直後のイニエスタ抜け出ししか映してくれないのだもの)。さらに、延長の終盤にフェルナンド・トーレスが負傷した時間を、ほとんどロスタイムに加えなかった事。ああ言った判定が終盤に連続したにもかかわらず、終盤大乱闘にならず粛々と式典まで進んで行けてやれやれ。オランダ関係者の冷静さに感謝すると言う事か。まあ、上記したように、オランダはかなりをウェブ氏に救われていた訳で、文句を言える筋合いでもないのだが。
上記のように、オランダが序盤からラフに行き過ぎた事、攻撃に比べて目立たないがスペイン守備陣が見事だっった事、中盤後方の選手層が薄かった事、この3点が決定的に勝敗を分けたと見る。オランダは、あんなに強くて、勝つ事に執念を燃やしても、まだ足りないのだから、本当に難しいものだ。一方で、後から後から湧き出るように逸材を輩出するバルセロナの若年層指導システム、そこにヨハン・クライフと言うキーワードが出てくるのは皮肉なものだ。これで一層あの74年のチームが神格化され、ヨハン爺さんの繰言をまた聞かされ続ける事と相成った。もちろん、極東の野次馬としては大歓迎だが。
今後も色々な切り口で、この南アフリカ大会を振り返りながら、書いていく事になると思う。そうではあるが、1つの総決算として、今大会のベストイレブンをまとめておきたい。これはこれで、私なりの今大会のまとめとなるし。
GK カシージャス
DF マイコン、プジョル、中澤
MF ブスケツ、ファン・ボメル、スナイデル、エジル、イニエスタ
FW フォルラン、ギャン
カシージャスはパラグアイ戦のPKストップ、決勝のロッベンストップを考えたら、これしかない。
中澤はプジョルと並び、俊敏なドリブラなどへ対処時の、(少々不恰好だが)冷静なプレイ振りがすばらしかった。ここ最近、世界中でストライカの大型化の対抗するために190cmクラスのCBが増えているが、俊敏なFWへの対応が不得手な事例が非常に多かった。その中で、中澤は十分ワールドクラス。もちろん、私からすれば、今大会日本人がいないベスト11は考えられないと言う事もある。あとはやはりルガーノ、オランダ戦に出場できていれば...
マイコンはやはり世界最高のサイドバックだと思う、ラームと迷ったのだが、今大会あのブラジルが既に忘れ去られたような報道が寂しいのでマイコンを選択。左バックにカブデビラ、ファン・ブロンクホルスト、エインセあたりを選んで、バランスの取れたチームにしたかったのだが、中盤より前の7人は外し難くて、こうなってしまいました。
決勝進出の両軍を支えた2人のボランチは必須。いや、デ・ヨングも選びたいところだったくらいです。アルゼンチン総代と言う意味でマスケラーノを入れたかったが、やはりこの2人の貢献と比べると弱い。また、シャビを入れられなかったが、他の攻撃的MF3人を外せなかったから。遠藤を入れる算段も色々考えたのですが。
最前線だが、フォルランは必須。ギャンについては、今大会ガーナから1人は選ぶべきだろうと言う考えに加え、あのUSA戦の決勝点に。ロッベン、クローゼ、ビジャよりは、ギャンかなと。
MVPはプジョル。
そして、監督はディエゴにお願いしよう。ただし、ディエゴの職務はテクニカルエリアに立つ事と記者会見対応のみ。実際の采配はマルティーノ氏(パラグアイ)に担当いただく事とする。あのカードの切り合いの末、最後PK戦とは言え我々を打ち破った監督が、最優秀監督なのは当然だろう。くそう。
2010年07月13日
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ファビオ カンナバーロ
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Weblog: 岡田ジャパン 最新情報
Tracked: 2010-07-21 21:59
これから日本中の、狂人達が一杯飲りながら
それぞれ好き勝手にベストイレブンを選ぶの
でしょうね。
中澤でしたか!考えは色々ありますが最終
ラインの統率と裏に回ったキャプテンシーは
素晴らしかったです。異論はありません。
さてと、週末の地元ダービーに思いを馳せる
としましょうか。
オランダを応援していた身としては残念な結果でしたが、決戦に相応しいしのぎ合いで大満足。ただしWカップの権威を護るためにも敢えてデ・ヨングには一発レッドを出して欲しかった私です。
西村氏にメダルがかけられたときには思わず涙腺がゆるんでしまいましたが。
以下、蛇足ながら、極私的趣味のみで選考させていただきました。
MVP スアレス(ウルグアイ)
【 ベスト11 】
GK エニュアマ(ナイジェリア)
DF プジョル(スペイン)・ダシウバ(パラグアイ)・長友(日本)
DH ファンボメル(オランダ)・シャビ(スペイン)・シュバインシュタイガー(ドイツ)
OH スナイデル(オランダ)・イニエスタ(スペイン)・フォルラン(ウルグアイ)
FW ドログバ(コートジボアール)
監督 岡ちゃん(日本)
コーチ ディエゴ・アルマンド・マラちゃん(アルゼンチン)
それで準決勝でなぜだか上手く点が入ってしまったからでしょうね。
誰も機能していたと言った人はいませんでしたが
そういう「運」みたいなモノに賭けてみたんじゃないでしょうか。
ボスケもダメダメなトーレスを入れましたしねw
やっと熱気から覚める事ができそうですね。
でも、早くも4年後を熱望し始めている自分が居ます。
ベストイレブン、いろいろな意見が出そうですが、
わたしもFWフォルラン、ギャンにはそれぞれ
『清き一票』です。
http://www.fifa.com/worldcup/statistics/teams/compare/index.html#tA=43819&tB=43976
パスのチームだったはずの日本のこの最下位はちょっと意外であり、タクティクスを変更したせいもあってしょうがないかという気もしますが、今回の日本はこうでもしなきゃグループリーグ突破はかなわなかったということでもあるのかと。それにしても長いパスとクロスの精度が悪い。
以下は、日本、スペイン、オランダと参考までにFIFAランキングで今大会出場国中最下位のニュージーランドの統計値です。
成功率
チーム 日======西======蘭=======NZ
全パス 60% 80% 71% 61%
ロングパス 36% 63% 51% 45%
中距離パス 65% 84% 79% 68%
ショートパス 71% 81% 68% 64%
スローイン 73% 83% 68% 63%
クロス 16% 29% 27% 7%
>くそう。
すばらしい結語!!!
>>2010年07月14日 10:37
「大嫌い、前岡田監督」なのはご自由にどうぞ、なわけだが、岡田氏の名前なんて1つも出てこないエントリーへのコメントでそんなこと書いてもカッコワルイだけだと思うなw
それにしても当たり前にW杯に参加している日本がすごいです。
決勝の勝負機会はそれほど差がなかったと思います。
ただチームがやりたい内容と勝負に応えられる登録選手層の厚さではスペインに分があったのでないかなぁと思います。
この期に及んでまだそんなこと気にしてんの?
あんなでっかいアンチテーゼ目の前にぶら下げられて
ゴールにぶち込むかぶち込まれるか、それだけの競技だって未だに理解できないの?
ちなみにダントツ一位だそうないすぱあにゃさんとこはあんだけボール持って、
準決はCKをセンターバックがヘッドの一点だけ、
決勝は90分ゴールなし、
それ以外もロースコアだらけ
レベルが天と地ほど違うけど、
既視感バリバリで観ててイライラしたよ