2010年07月19日

スアレスのハンドについて

 日本代表の事も振り返りたいが、断片的にワールドカップについていくつか書いて行きたいとも思っている。で、まず第一弾として、例のスアレスのハンドについて。 
 今大会審判の判定が色々取沙汰されたが、不思議な事にこのスアレスのハンド問題を同列に扱う方がいるようだ。しかし、ランパードのノーゴール問題や、テベスのメキシコ戦先制点のオフサイド疑惑と異なり、このスアレスのハンドは審判判定上は何も問題がない。ゴールライン上でハンドした選手は退場となり、相手にPKが与えられた。それだけの事だ(スアレスはPK覚悟と言うよりは、審判の見落としを期待したかのような態度だったが、まあいいでしょう、それは)。
 あのような場面はラグビーのように「認定得点とすべし」と言う意見もあるかもしれないが、それはサッカー的ではない。あれはハンドと判定しPKを提供するしかない。
 言うまでもなく、そのPK以降にすごいドラマがあったので、再三採り上げられる事になったと言う事なのだが。
 私は以前も書いたが、あの鮮やかな判断を讃えて、2試合出場停止処分を提供するのがよいと思っていた。もちろん、公平さなどは無視しておもしろがっていただけが理由だったが。賢明なFIFAは、おもしろがる事なく、1試合の出場停止を課したが、まあ妥当な裁定だろう。

 ただし、不思議にあまり議論されていない事がある。「あの場面、スアレスはハンドすべきだったのだろうか。何とかヘディングではね返す工夫をすべきだったのではないか」と言う事だ。あの場面、スアレスは、伸びきりのセービングをした訳ではなかった。
 大昔81−82年シーズンの天皇杯決勝NKKー読売戦で、NKKのシュートを読売のサイドバック都並敏史が後方に下がりながら、見事なフィスティングではじき出しPKを与えた場面があった。この場面は、なるほど手を使わなければ防げないもので、都並の判断とするどい反応は高く評価された(当時のルールでは警告止まりだったのだから、受ける罪も随分少なかった...だから、ルールが改訂されあのような意図的に敵の得点を防ぐプレイは一発退場で罰されるようになってきたのだ)。また、多くの方がご記憶だろうが、95年のウェンブレイでのイングランド戦の柱谷哲二のハンド。なるほどあれも手でなければ止められなかったボールだった(もっとも、あれはあれで、直前に柱谷がGK前川と交錯してしまったプレイが問題だったのだが)。
 けれども、あの場面のスアレスは、頭上ほんの少し上のボールをかき出したもの。的確に反応すれば、ヘディングで防げたのではないかと思ったのだが。
 もう時間がないロスタイムだったから、退場そのものの選択は問題とはならない。けれども、PKを提供するのと、届かないかもしれないが何とかヘディングでボールに触ろうとするのと、どちらがウルグアイの準決勝進出の確率を高めたかが重要ではないかと思うのだ。上記したが、スアレスはその選択肢に、審判の見落としへの期待と言う係数をかけ合わせ、ハンドを選択したのかもしれないけれど。
 サッカーは確率の選択を要求される競技なのだ。議論されるべきはそこである。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(18) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私も、あのプレイを見た直後に思ったのは「ヘディングで防げたんじゃないか?」ということでした。
しかしその後何度かリプレイを繰り返し見て、ヘディングでは防ぎ切れない(伸びきるための時間が足りない)と判断して手を出したようにも思えます。
いずれにしろ、この件についてはスアレス本人の回顧談を聞いてみたいものですね。
Posted by くろもうり at 2010年07月21日 01:56
議論されるべきは、あのプレーが道義的に許されるべきか否かだと思います。
ヘディングで届かなければ、横っ飛びで手で止めても良いという論調に感じましたが、
武藤さんの意見はいかがなのでしょうか?
あのスアレスのプレーが、ハンドでしか防げないボールであったとしたら、賞賛されるべきとお考えなのでしょうか?
僕はルール上でレッドカードが出るとされているプレーは
レッドをもらう覚悟があろうとなかろうと
それをした選手が責められるべきであると考えています。
Posted by 気まぐれな読者 at 2010年07月21日 07:57
スアレスはリスクとリターンを考えハンドをした。
それでスアレスはしかるべき罰を受けて、相手はPKを受け取った。それだけのこと。
ルール上はそれで問題ないわけで、後の賞賛も批判も各人がそれぞれすればいいだけ。
ただ、道義的に、などと言って問題を明後日の方向に勘違いして過剰に騒いでいる輩は、何を考えているのか理解に苦しむ。
Posted by tuti at 2010年07月21日 09:22
あの状況で確率の選択なんてできないでしょう
スアレスが考えたのは「少なくとも、今、この場でのシュートは入れさせない」これだけでしょう
Posted by コント at 2010年07月21日 13:42
ただのペテンだろうに。

ほかの選手がみんな我慢していることを我慢できなかっただけ。

ドーピングとどこが違う。

Posted by cheat at 2010年07月21日 17:09
ただのペテンだろうに。

ほかの選手がみんな我慢していることを我慢できなかっただけ。

ドーピングとどこが違う。
Posted by cheat at 2010年07月21日 17:13
すみません。

ミスって二回入れちゃいました。
Posted by cheat at 2010年07月21日 17:16
ドーピングとはだいぶ違う気がしますが。
ドーピングとはだいぶ違う気がしますが。

今大会は「え?そこで手を出す?」というようなハンドが多かった気がしますね。
セルビアの2選手、アルジェリア、そしてブラジルのフアンと、まんまと罰を逃れた
ルイス・ファビアーノ。
大会前、イングランド戦での本田のハンドもありましたが、あのボールには
思わず手を出させてしまう何かがあるのでしょうかね?

ちなみに武藤さんが出されたお題ですが、おそらくあの速度ではヘディングは
間に合わなかっただろう、とは思いますが彼がディフェンダーであったならば
それでも頭を出したかも知れませんね。
Posted by at 2010年07月21日 19:27
彼の前にいた選手も手で掻きだそうとしてましたよね?彼はその行為にはつられた面もあると思いますが。
「故意に」手を使う。という意味では二人とも退場という可能性もあるし、そうなればその後の結果も変わっていたかも
Posted by 仙台ヒグチ at 2010年07月21日 21:42
思い出されるのは1995年のウェンブリーの柱谷哲二のハンドかなあ。
Posted by ohma at 2010年07月21日 23:22
これは「審判よく見たなあ〜」の一言で。
もし見逃してたら本当に大騒動だったと思います..
ご指摘の通り、ルールとしては妥当な裁定この上ないし、もしそれ以上の判定をしてたら逆にルールにを超えた恣意的なものになってしまうんですがね..
(「ルールを変えろ」という意見はありですが、それでも事後法の適用はできませんし)
まあ、スアレスがレッドカードを提示された際に「何で俺が?」という反応をしてた図々しさには笑いましたが。

ヘディングクリアといえば、
テリーが低空ダイビングヘッドでクリアを狙ったシーンは鬼気迫る雰囲気で感動しました。届かなかったんですが。
(実際にその後ろでクリアしたDFよりテリーが目立ってるのは変な気もしますが)
Posted by vB at 2010年07月22日 04:09
私も気まぐれな読者さんとおなじであのプレーはあまりに酷いと思うんですが、ブログ主さんをはじめ皆さんはOKなんですね。
「サッカーという競技ではキーパー以外の手の使用は通常禁止されているが、退場&次節の出場停止を覚悟すればフィールドプレーヤーも手を使ってもいい」という解釈なんでしょうが。
「非紳士的行為」なんていう反則のある競技だけに釈然としません。

あの試合を憤りなく普通のゲームとして楽しめるのはうらやましいというべきなのか・・・複雑です。
半年〜1年くらいのFIFA公式戦の出場停止くらいくれてやってもいいと思うんですが。
Posted by demo at 2010年07月22日 17:27
想像ですが、スアレスの判断に加わった係数は、「審判の見落としへの期待」に加えて、「PK失敗への期待」もあったのではないかと思います。延長戦までの疲労、決めれば準決勝進出という相当なプレッシャー、等を考えれば、PK失敗の可能性はそう低くないと判断した。そこまで考えていたと想像すると、とても面白いです。
Posted by カズオ at 2010年07月22日 21:20
>demoさん
あらゆるハンドにそうするならそれでいいかも知れませんね。

あるいはあらゆる得点機阻止の反則にも半年〜1年の出場停止を
課しますか?

サッカーは紳士のスポーツではありますが、同時に非常に人間的な、
嘘、ごまかし、欺瞞にも満ちたスポーツなんですよね。
もちろんあのプレーに釈然としないという思いも分かりますけどね。

あのプレーはサッカーに対する冒涜だ、と言えるかも知れないけど
同じような冒涜はありとあらゆる場所でサッカーに対して行われて
いるわけで。
結局W杯という舞台といえども神聖にして特別なものではなく
ただサッカーなのだということなのではないかなと。
Posted by at 2010年07月23日 00:36
>あるいはあらゆる得点機阻止の反則にも半年〜1年の出場停止を課しますか?

選手の安全を守るためのルールや競技をよりエキサイティングなものにするためのルールなどもありますが、「フィールドプレーヤーは手を使ってはならない」ことはサッカーをサッカーたらしめる、もっとも単純かつ重要なルールと思います。

よく話題になるオフサイドの内容も時代によって変わりましたし、対戦相手への危険行為の解釈・さじ加減も時代とともに変わります。
試合時間やプレーヤーの人数さえも選手の年齢によっては変わります。
そのほか今後も変わる、あるいは付け足されるルールもあるかもしれません。
しかし「フィールドプレーヤーは手を使ってはならない」というルールは、これがなければそれはサッカーとは呼べないと思うのです。

「あらゆる」とまではいかなくとも、「明らかに故意」かつ「その行為がなければ確実に点が入る」状況下での「ハンド」に対しては長期間の出場停止処分を課してよいと思います。
Posted by demo at 2010年07月23日 23:12
スアレスのハンドですが、特に問題はないように思ってました。

バスケットボールでも負けてるチームが試合終盤に、相手のフリースローが外れることを期待してわざとファールをする戦術があると思いますが、非難はあまり聞いたことがありません。

武藤さんの言われる通り、相手を怪我させたりするプレーでない限りOKだと思います。

まぁスアレスの場合はハンド自体はOKとしても、そのあと知らないふりしてとぼけていたのは責められるべきかもしれません。個人的には笑ってしまいましたが。
Posted by at 2010年07月24日 00:27
>「フィールドプレーヤーは手を使ってはならない」ことはサッカーをサッカーたらしめる、もっとも単純かつ重要なルールと思います。

元々footballはボールを手で扱うゲームの事ですよ。
「キーパー以外は主として蹴って運ぶ」というのは
今から150年ほど前に導入された新しい規則で、「そのほうが
面白そうだよね」程度のものです。少なくとも宗主国の人々
(現在でもルール改正には英国四協会の同意が必須です)は
宗教的厳格さは求めていません。

まぁ反則は反則なんですが、どの程度厳しく罰するかは
時代と共に変わってきた……というのは武藤師の本文に
ある通り。demo氏に賛同する人が増えれば厳しくなるでしょう。
ただ、日本人はスポーツマンに「品格」を求めますが、
諸外国は必ずしもそうでない事は肝に命じるべきかと。
Posted by masuda at 2010年07月24日 01:09
あくまでも個人的な感想ですが、スアレスのハンドはパラグアイ戦の本田のハンドやデンマーク戦の長谷部のハンドと同質なものに想えました。
単純に、戦闘意識が瞬時にハンドという形で具象化してしまったものと考えています。
スアレスの場合はそれが土壇場であったため本能が最大限発揮されて、結果としてベスト4を具現化してしまったということだけでしょう。

彼は反則を犯しチームを勝利に導いた、ということで、それ以上でもそれ以下でもないと思われます。
主審の判断も正しかったしFIFAの裁定も正しかった、と。

疑わしきは罰せず
審判は絶対である

この二つの大原則を鑑みれば当然の帰結なのではないでしょうか。

今回のワールドカップで限りなく故意に近いと私が感じたのは、ルイス・ファビアーノの件ですが、それさえも現行ルールでは故意と決めつけることはよろしくないのでは。

認定ゴールの可能性も含めて大原則を覆しルールを改正するのも一考ではありますが、そこまで求めるなら全選手の全行動をビデオ監視しなけりゃ公正とは言えないでしょう。

個人的になら、ギャンやファン・ボメルやイニエスタやカカたちの審判のブラインドでの挑発行為のほうが、百万倍キモチワルイですが、それを含めてサッカーという競技が成り立っているのも現状を見わたせば火を見るよりも明らかでしょう。
Posted by かまどう魔 at 2010年07月28日 14:03
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