2010年10月10日

2010年10月8日、埼玉スタジアムの関口訓充

 私の席はメインスタンドはるか上方、いわゆるメインアッパー席の端、ゴールライン後方あたりだった。ちょうど日本代表のベンチを斜め右下に見下ろせる場所。したがって、前半からウォームアップする選手達がよく見えていた。眼前で展開される長谷部の仲間達対マスケラーノの仲間達の壮大な戦い。その壮大な戦い(しかも、我々がリードしているのだ!)を堪能しながら、真下でアップする選手達を時々チラチラと眺めては満足感を味わっていた。だって、そこに私の関口訓充もいるのだから。
 65分くらいだったか、まず前田遼一が呼ばれた。森本の調子、Jにおける前田の格段な実績。妥当な交代だ。そして、68分あたりだったろうか。ふと、下を見ると、アップしている選手が、明らかに少なくなっている。慌てて、ベンチに視線を移す。ザッケローニ氏と通訳が熱くやや小柄な選手に指示を飛ばしている。背番号はと見るととにかく「27」のように見えた。「来た!」と思った。が、試合は続いている、ずっとベンチを見ている訳にはいかない。ボールがラインを割ったので再び視線をベンチに。「あれ?」背番号は確かに「2」がついているが、小柄な選手ではない。よく見たら阿部勇樹ではないか。阿部の背番号は「2」だ。見間違いだったのかと溜め息をつく。再び視線はフィールドに。またボールがラインを割る。またベンチを見た。交代選手は2人だったのだ。「2」のほかにもう1人「27」がそこにいた...関口訓充が阿部と共にタッチラインに近づいている。夢は実現しようとしていた。

 この日私は50年の人生で初めての事を行う決心をしていた。それは「27」の代表チームのTシャツ、あるいはユニフォームを、自分が着るために購入する事だ。
 何となくご理解いただけるだろうが、私はドイツの運動具メーカの公式着衣を自分のために購入した事はない。観戦用の青いTシャツならばいくらでも持っているのだが。いわゆる「公式」モノは、2002年の春先に、当時小学校2年生だった坊主に「MYOJIN」の公式Tシャツを勝ってやったくらい。
 競技場そばの売店で、「いらっしゃいませ〜〜」と元気に声をかけてくれるお姉さんに尋ねた。「関口の27番Tシャツを下さい」と。「はあ?」とお姉さんが問いかけ直してくる。「関口ですよ」と私が繰り返すと「せき...づか、ですかあ?」と問われてしまった。笑いをこらえながら「せ、き、ぐ、ち、です。今度初めて代表に入ったのですよ、ベガルタ仙台からね。」と。お姉さんは(ベガルタ仙台と言う名前も知らないのかもね)「はあい、すみませんでしたあ、『せきぐち』ですね、確認しまあす」と丁寧に私に語り、振り向き、後方に控える責任者風に尋ねる。そして、戻ってきて「すみませえん。『せきぐち』のはないんですう。まだ、こちらには、入っていないらしくってええ」との事。責任者風が申し訳なさそうに「申し訳ありません。関口のは、背番号の決定が間に合わず何もないのです。」と補足してくれた。思わず「頼むよ、関口Tシャツがあれば、3万円だって買うのに(嘘だけど)」と私が言ったら、「上に行っておきます」と元気よく言ってくれた。
 素朴な疑問だが、メンバ選考から1週間はあったのだから、さっさと背番号を決めて作ってしまえばよかったと思うのだけれども。新しい代表選手のユニフォームって、結構商売になると思うのだが。それこそ、会場外でも通信販売でベガルタサポータで買いたいと思う人は結構多いように思うし。
 違うな、やはり売れるのは本田圭佑なのだろう、実力の世界だな。

 席に着くと、ちょうど日本代表のウォームアップが始まろうとしていた。おお関口が、日本対アルゼンチンの試合前のピッチに堂々と立っている。オーロラビジョンに時々大写しになる関口。オーロラビジョンでアップに登場頻度は、本田、香川、森本、長友、内田、長谷部に次いで7番目くらいに思えた(俺フィルタ経由)。他のJクラブのサポータの方々には笑われるかもしれないが、とにかく代表チームの試合に自軍の選手、それも生え抜きの選手がいると言うのは1つの大きな事件なのだ。いや、事件ではない、願望だったのだ。日本代表を応援して、40年近くの歳月が流れた。そして、つい先日、己もとうとう50歳になった。故郷にトッププロのクラブができたのが、ほんの15年前くらい前の事。以降の15年の歴史は、苦難と歓喜に満ち溢れた何とも言えないものがある(いや、つらい事ばかりだったけど、振り返ると全てが愉しく美しい思い出となるのだが)。そして、ついに生え抜きの選手が、日本代表に呼ばれるまでになった。その歓喜については先日述べた。そして、それを現地で、自分の目で、確認する事ができたのだ。間違いなく、関口があのピッチ上にいる。
 しかし、代表に呼ばれるのと、代表選手としてA代表戦に出る事は全く異なる。関口はウォームアップではなく、試合時間にフィールド内に立つ事ができるのか。

 そして、冒頭の場面に戻る。
 関口の登場と共に私は鞄からベガルタゴールドのTシャツを取り出した。そして以降、フィールドの全体視野を確保しつつも、常に関口のプレイばかりを注視する、何とも幸せで贅沢な20分間を堪能する事となった。
 帰宅後、テレビ桟敷で観戦していた娘が言っていた。「関口が登場した後、青一色のスタンドのあちらこちらに黄色い人がいたよ、100人に1人くらいだったかな。お父さんと同じように関口を応援している人が、たくさんいたんだね。」娘よ、それは違う。残念ながら、ベガサポはあの会場に600人はいなかった。お前が映像から見た黄色い人々は川島や西川を応援する人だったのだよ。でも、もしかしたら、ゴールキーパジャージではなくてベガルタゴールドを着た人が、100人に1人は無理でも、1000人に1人、私を含め60人くらいはいたかもしれないな。

 以降、ようやく本題。
 関口は岡崎(直前に接触プレイで負傷していた)に代わり、右サイドのMFに起用された。同時に遠藤と阿部が交代した事を含め、ザッケローニ氏の指示は明らかで、チームのバランスを保持し、1−0での逃げ切りを狙う事だったのだろう。
 関口は指示通り、よくやったとは思う。4DF−4MFのブロックをよく維持し、エインセをよく見張り、内田が絞ると後方にしっかり下がる。特に、内田が絞った場合は、関口のケアする相手はテベスとなる。さらには終了間際には、アルゼンチンは守備ラインの人数を減らし、しかもボラッティが負傷したためにデ・マリアが登場。こうなると、関口は局面に応じて、エインセ、デ・マリア、そしてテベスと言った面々を適切に押さえる事が必要となる。いずれの相手も、関口のサッカー史上初めてと言って過言ではないレベルだったはずだ。そのような厄介な連中相手に対しても、関口は臆する事なく堂々と守備対応しボールを保持し丁寧にさばき、結果的にザッケローニ氏の意図通り試合をクローズする事にしっかりと貢献する事ができた。一部に「得意のドリブル突破がなかったのが残念」的な評価があるようだが、今回が初めてのチーム入り、そして無理に得点を奪いに行く場面ではなかったのだ。まずは監督の指示にしたがい、組織的、集約的、戦術的なプレイができる事をアピールしなければならない。そう言う意味では、関口は実に冷静にザッケローニ氏の指示にしたがったと評価できよう。
 特によかったのはボールを受ける際の身体の向きと位置取り。同点を狙ってガツガツくるアルゼンチンに対し、常に落ち着いて外に開いて的確にボールを保持した。往々にして、このように敵が同点を狙いかなり強引にガツガツ出てきている時は、技巧的な選手は妙な欲を出してヘマをする事が多い。ここで言うヘマとは、一発でガツガツを抜き去り、逆襲速攻につなげようとして、逆に入れ違いでボールを奪われるようなミスを言う。しかし、関口は常に冷静に一度内側に向かってから、位置取りをタッチ沿いに移し、的確にボールを受け、時間をしっかりと稼いでいた。この動きを継続した事は、ザッケローニ氏を満足させてに違いない。
 しかし、大変残念な事に3回程ミスがあった。まず投入早々、上記のよい受けをした後、前線に飛び出した本田へグラウンダのパスが精度を欠き、敵に簡単に奪われた事。これは、受け手の本田側にも問題があった(関口がルックアップした際に、トップの前田はさておき、本田までが前に飛び出そうとしたため、パスの方向が限られたものになっていた。加えて言うと、前回も講釈を垂れたがあの時間帯の前田のイケイケもセオリー的に正しいかと言うと疑問なのだが、まあこれはいいだろう)、ここは本田はチームとしてしっかりとボールを保持するためには、急ぐべきではなかったように思えたのだ。しかし、だからと言って、敵にボールを渡した事そのものは関口の責任である。さらに続いて、関口は類似の受け方の後、ミスを重ねる。同様によい受け方をした後、ちょっと前に出るフェイントから横パスを中央に入れたのをアルゼンチンにかっさわれかけたのだ。おそらく、その前の縦へのミスパスへの反省もあり「縦とは違う』選択をしたと思うのだが、外から内への横パスが危ないのはセオリーである。これは前のプレイよりももっとまずかった。また、その後中盤のルーズボールに両軍選手がもたついた場面で、どうやらアルゼンチン選手がキープに成功になった瞬間、問面のエインセが動き出したのに対応し遅れたのもミスだった(結果的には後方から必死に追いかけて何とか間に合うのだが)。いずれも敵の決定機につながった訳ではないが、終盤守備を固める意図で起用されたのだから、あのようなミスはダメだ。ザッケローニ氏はそのようなミスに寛容とはとても思えない、ヘタをすれば、あの3つのミスで関口の代表経歴は完了、となってもおかしくない程だった。ただし、ザッケローニ氏は関口が初代表だった事、少なくともボールを受けるまでの動きは上々だった事で、もう1回はチャンスを与えてくれるのではないか。実際、氏は70分過ぎに香川に代えてしっかりとボールを受けてくれる憲剛を起用、前田のイケイケと本田の前身意欲とのバランスを取ろうとした。あの憲剛起用を見る限り、関口の2本のミスパスを関口だけの問題とは捉えていないようだったし。けれども、関口のポジションにはライバルは無数にいる。次回提供されたチャンスに類似のミスをしたら、本当にもうおしまいかもしれない。
 結局、関口が代表に定着できるかどうかは、月並みだが「Look before, Think before」をより高度に実現できるか否かと言う事になると思う。上記した2本のミスパス、1回の動き出しの遅れ、いずれも己が直接プレイに関与するより前に、展開を読み、周囲をしっかりと把握し、適切な判断ができなかった事によるものだった。さすがに、アルゼンチンや韓国のプレスは、早さも速さもJリーグより格段のものがある。先日のアルゼンチン戦の20分間でその早さと速さに対する対処を体得できたかどうか(つまり、より高度な「Look before, Think before」をモノにできたかどうか)。そして、敵地での韓国戦(これは、ある意味でアルゼンチン戦以上に日本代表にとって最も難しい試合なのだが)で、その体得を実現する事ができるかどうか。関口訓充にとって、あまりに大きな日韓戦となるやに思う。期待して応援したい。ソウル、行けばよかった...
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
前回の講釈に関口に関わるコメントがなかった訳がわかりました。
Posted by こまえけんいち at 2010年10月11日 18:00
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