グランパスの優勝について、少し講釈を垂れたいと思う。まずは何より、グランパス関係者の皆様、おめでとうございます。
このクラブの前身のトヨタ。70年代一時JSL1部に昇格したものの、下位に低迷が続き、77ー78年シーズンの入れ替え戦で読売クラブに完敗し2部落ちしてしまった。当時新進気鋭の読売クラブが、いわゆる会社の福利厚生の延長で強化しているトヨタに完勝した事は、当時としては「クラブ方式の勝利」、「プロフェッショナリズム導入の先駆け」と、非常にポジティブに評価された。その後読売は80年代半ばから90年代前半にかけ、日本最強クラブとして君臨する事になる。一方、純粋なアマチュア福利厚生の延長で活動するトヨタは以降しばらくは2部に低迷する(もっとも、福利厚生で当時のJSL2部の地位を守り続けた事は、極めて高い評価を受けるべきにも思うが)。いずれにしても、今期の両軍の現状を見るにつけ、サッカークラブの栄枯盛衰には何とも言えない思いが。
80年代半ばに「各工場に分散して勤務した選手を集約して強化する」と言う、今思い起こすと何とも愉しい理由で、ホームタウンを静岡県東富士市に移し(同市にはトヨタの研究所がある)、以降チーム力を上げ、86−87シーズンには1部に復帰。直後に2部陥落するも、90−91シーズンに1部復帰。
選手としては、90年代前半に日本代表でも一時定位置を獲得していた浅野哲也が、いわゆる出世頭。一方で、2部時代、強くて堅実そのものだったDF佐藤辰男、幾度もJSL2部のベストイレブンに選抜された小柄な味のあるウィング青木正英、島原商業時代の最後の小嶺アーミーで高校時代は超攻撃的サイドバックと評価された吉田昭義(トヨタでは基本的にFWだったな)など、記憶に残る選手も多い。
そしてJSLが、Jリーグに発展解消する際には、改めてホームタウンを名古屋に移し、グランパス(当時はグランパスエイトか)と言う名前のプロフェッショナルクラブに転身した。
その時点で、このクラブは大変大きなインパクトある判断を2件している。
1つは、クラブ名に親会社名をつけない事を快諾した事だ。正直言って、当時のJリーグ当局あるいは日本協会のこの交渉がフェアとは言えないものだった。と言うのは各クラブに対して、親会社名をつけてはいけないとは言わずに、募集を行っていたからだ。現に、松下(当時の社名ですね)を親会社とするクラブは「パナソニックガンバ」と言うチーム名で戦うと、公式発表をしていたくらいだ。しかし、グランパスの(あるいは親会社トヨタの)決断に、松下をはじめとする多くの企業が賛同してくれた。もちろん、抵抗した会社があったのも、みなさまご記憶の通り。ただし、本経緯もあるため、私は一概に抵抗した会社を否定できないのだが。
経緯はさておき、グランパスとトヨタの決断が、サッカー界の地域密着を促進した。これは、日本のスポーツ界にとって、エポックメーキングな事態だった。かくして、あれから20年足らずで、日本中に地域密着を狙うプロ指向のサッカークラブが多数存在するに至った。サッカーの発展にとり、これほど貴重な資源はない(いや、野球界にも、バスケットボール界にも、この決断は非常にポジティブな結果を残しているな)。そして、ここまで地域密着が定着した以上は、改めて親会社(あるいはスポンサでも出資企業でもよいが)の名前の取り扱いを、徹底して議論すべきように思うが、これは本題でないので、別な機会に詳細を述べよう。
そしてもう1つがグランパスくんなのは、言うまでもない。
グランパスは確かにJリーグ初制覇。そして、前身のトヨタもリーグ制覇をするようなクラブではなかった。けれども、アルセーヌ・ベンゲル氏率いた90年代半ばの強さは格段だった(特に95−96年シーズンの天皇杯決勝、ピクシー、小倉の2トップに、左サイドから平野孝が遊弋する攻撃の鋭さは、今でも忘れ難い)事もあり、野次馬からは「苦節ウン年」と言う印象は薄いのだが...ただ、間違いなく、ピクシー監督招聘以降、何かが変わった。この3期、常に上位を争うクラブになっていたのだし。「勝利を健全に目指す」リーダの存在が、クラブを変えたのだ(そう言う意味では、監督、選手を集めた久米GMの手腕に恐れ入りました、と言う事になるのだが...選手久米一正の現役時代は運動量豊富でしつこい選手だったが、そのまま管理職になり成功していると言う事だろうか)。
そして、今期ピクシーも変ったのだと思う。たとえば、昨期のACL準決勝、天皇杯決勝などのような無謀な采配がなくなった。今期は多くの試合で、実に辛抱強く堅実な采配を継続、大事に大事に勝ち点を積み上げに成功したと言う事だろう。
正直ベガルタサポータとしては、前期のユアテック、後期の敵地戦、いずれも(当方の試合運びの拙さゆえなのだが)、終盤まで1−1同点で戦いながら、詰めをあやまり突き放された印象が強い(いや、それ以上に先方の1点目がいずれもケネディへのファウルによるPKだった事に主審への不満が...)。だから、思い起こすと、一層の悔しさを味わえるのですが。ただ、「もう少しうまく戦っていれば」と言う思いもある一方で、当方のちょっとした隙を突かれた失点を思い起こすと、グランパスがツボにはまった時の攻撃を防ぐのは(ガンバがツボにはまった時とは全く別な意味で)相当厄介と言う思いも強い。言い換えると、最後のゴール前の「能力」(ここでの「能力」は筋力や高さのみならず、技術や戦術眼を含めて)の差なのだから。もちろん、ベガルタ的には「これをいかに防ぐか」が今後の課題となり、その攻防の連続が日本サッカー界の質を着実に上げてい事になるのだが。
そして、いずれにしても、これが今期のグランパスの強さだった。
ピクシーは本気だろう。本気で来期に悲願のアジア制覇を再度狙うに違いない。楢崎、闘莉王、ダニルソン、ケネディと中央にアジア屈指の選手を並べる陣容。よい選手をしっかりと補強し、リーダシップあふれる監督が率いる。そして、得点力あふれるCFとCB。どうせ、ここまで戦闘能力を積み上げて来たのだ。野次馬の我々が、ピクシーと楢崎と闘莉王にアジアクラブのタイトル奪回を期待してもバチは当たるまい。
2010年11月24日
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一年以上前の記事ですが
トヨタが雇った再建屋は日立出身のセールスマン、名古屋グランパスGM・久米一正
http://www.toyokeizai.net/business/management_business/detail/AC/ae7d12fcea43b0710639fabbed092c0b/
アジア大会で金メダル♪
UAEも北朝鮮、韓国、日本と3タテはさすがにきつかったか。っていうか東アジアとしては阻止すべきことをキッチリ阻止してくれた。
あははは。
あいつらがやった!
楢崎が優勝できたということに感無量です。