2011年01月23日

高みの見物

 豪州ーイラク。イランー韓国。彼らのもがくような死闘を、完全に上から目線でたっぷりと堪能する事ができた。しかし、いずれも延長の大死闘になり、ボロボロに消耗する事になるのだから、堪えられない娯楽だった。

 豪州ーイラク。
 前半は緊張感あふれるつなぎ合い。序盤こそ豪州が押し込むものの、試合が進むに連れてイラクも押し返し互角の攻防。後半半ばあたりまでは、この展開が続いた。
 いつもの事であるが、豪州は全員の技術が揃っているものの、緩急の変化をつける選手が少ないので、時間が経つにつれてどうしても攻撃が単調になっていく。ただし、全員の勤勉さはしっかりしており、よい形でボールを奪えれば攻撃の形はできるのだが、最前線のキューエルとケーヒルの動き出しが遅いので、崩せる形にならない。
 一方のイラクは、アクラムとムニールのドイスボランチの能力が高い。この2人が緩急をつける事で、両翼のいずれかがフリーになり、再三嫌らしいボールが豪州ゴールを襲う。それをニール、オグネフノスキがギリギリで押さえる攻防が続いた。
 しかし、後半半ば過ぎから様相が変ってくる。両軍のスタミナが目に見えて落ち始めたのだ。豪州は30代の選手が多い事からわからなくもないが、イラクは20代半ばの選手が多いのだが。イラクの選手のほとんどはカタールのクラブでプレイしているが、そのカタールのクラブの鍛練のレベルが低いのではないかと邪推したくなるくらいだ。
 こうなると、双方の攻めは単発になる。豪州はロングボール戦法。ただし逆にケーヒルの抜群の空中戦の強さが奏功し、好機を掴むからサッカーはおもしろい。ただし、後半終了間際負傷上がりのケーヒルは交代、以降は豪州も攻めあぐむ事となる。一方のイラクはボール回しはきれいだが運動量が落ちて人数がかけずらくなる。そこで両翼のいずれかに拠点を作り、低いクロスを入れてエースの主将マフムードの個人技での得点を狙う。しかし、この日は典型的な「not his day」、巧みな位置取りから再三好機を掴んだマフムードだが、なぜかシュートがうまくミートせず決め切れなかった。前大会は勝負どころで見事に得点を決めていたのだが。まあ今大会はマフムードの大会ではなく、岡崎の大会だったと記憶される事になると考える事にするか。
 PK戦かと思われたところで、マッカイの好クロスをキューエルが見事に決めた。ここまで思うような仕事ができなかったものの、あそこで決めるとはさすがキューエル。まだまだ元気なところを見せてくれた。この試合に関してはキューエルがマハムードに勝ったと言うところか。

 豪州は、他人事ながら「ここまでベテランに頼ってよいのか」との印象。知らない選手が、マッカイだけでビックリした(笑)。豪州は北京五輪にも出場できている訳で、若手中堅にタレントがいないとは思えない。そう考えると、「監督選考がまずかったのではないですかあ?」とイヤミを言いたくなるけれどね。
 イラクはスタミナ不足が残念。また監督のシドカ氏が、延長濃厚にもかかわらず早々に交代カードを切ったのも疑問だった。ただ、アクラムとムニールのボランチコンビは、遠藤、長谷部と比較すると気の毒だが、他国よりは明らかに一段上。全員がしっかりとプロフェッショナルなトレーニングを積んでくれば(全員が90分走れるようになれば、と言う事です)、間違いなくアジアのトップに定着するだろう。アジアのレベル向上のためにも、それを期待したいのだが。

 イランー韓国。
 立ち上がりから、落ち着かない試合となった。イランが中盤で相当激しいチェックを見せると、韓国はそれを真っ向に受けて立った。皮肉では全くなく、このあたり「受けて立つ」韓国はすごいと思う。これが我々だったら、「いかにかわすか」が主題となる。どちらが正しいかわからない。ただ、体格的にも近いこの隣国が、我々とは全く異なるアプローチで世界のトップを目指しているのは、とてもおもしろい。
 とは言え、この肉弾戦への対抗。韓国にとってよかった事なのか?前半こそ、李榮杓と車ドゥリが押し上げて、そこにボランチの李ヨンレ(漢字不明、李庸来かなあ?)がからんで、サイドに人数をかけた攻撃でいくつか好機をつかんだ。しかし、前半の終わりあたりから肉弾戦に忙しい奇誠庸は展開できなくなり、両翼の朴智星と李青龍が単独突破する以外攻撃の手だてがなくなってしまった。しかし、ボランチの大黒柱ネクナムを加えた守備陣の分厚さは、そう簡単に敗れない。こうなると韓国の若手選手達は悪い意味での「若さ」を露呈する。皆技術は高いし、フィジカルも強そうなのだが、イランの激しい守りと戦ううちにその良さを出す余裕がなくなっていったのだ。まあ、20歳前後の選手達だし、これは仕方がない事だろう。しかし、試合がこうなってくると、今回の韓国代表の編成はよくわからない。最終ラインは33歳の李榮杓を含め、皆30代。ところが前線は、朴智星を除くとほとんどが20代そこそこの選手達(10代もいる)。確かに韓国自慢の20代前半の各員は、なるほど皆巧いしフィジカルにも恵まれている。しかし、他にタレントはいないのかと不思議になる。
 そうこうしているうちにイランペースとなっていく。次期エスパルス監督のゴトビ氏は前線に小柄だが俊敏な選手を3人並べ、高さにはめっぽう強いが足下はやや怪しい韓国守備陣を悩ませる。あの小柄なカラトバリ(169cmとメンバ表に書いてあるが、159cmじゃないのかと言う小ささだったな)のドリブルを、李正秀が全く止められないのがおもしろかった。ただ、両翼のレザネイとジョジャエイはドリブルはうまいのだが、あまり回りが見えるタイプではないので、プレイが局地戦にとどまってしまう。イランは昔から、前線に「抜群にうまいが、あまり効果的でない」タレントが出てくる。97年予選の死闘時もエスティリと言う攻撃的MFがいたが、技巧は抜群だが回りが見えず随分助かった事を思い出した。
 したがい、イランも決定機を作れず、こちらも延長に。準決勝、当方は中3日。一方どちらが来るにせよ、敵は中2日。ただでさえ、当方が有利なのに先方は延長戦に入ってしまった。それも明らかな消耗戦。このような幸運は素直に喜ぶ事にすべきだろう。
 こちらはこちらで、PK戦かと思われた前半終盤。不思議な時間帯が訪れる。イランのFWのジョジャエイが交錯プレイで痛み動けなくなる。ところが、主審がジョジャエイを警告。ジョジャエイは苦笑い。おそらく主審は「痛い振りで時間稼ぎ」と判断したのだろうが、だったらジョジャエイは1度フィールドを出なければならない(好機はイランの方に多かった時間帯、イランが時間稼ぎする意味があったかどうかも疑問だが)。しかし、そのような指示はなく再開。何か、この主審の判定で、全体の空気が緩んだ。そして、表示されたアディショナルタイムは1分。時計が16分過ぎを示した時に韓国が右サイドから攻撃。「笛が鳴るのかな」と思ってみていたが、主審は試合継続。そこから、ユンビッカラム(いよいよ漢字不明、名前3音節は韓国人の名前としては珍しいな)の強烈な得点が決まった。交代出場したこの選手も20歳か。確かに韓国の若手恐るべしではあるな。イランはその後人数をかけて猛攻をかけるが、ネクナムを除いて視野の狭い選手が多い事もあり、攻め切れず試合終了。

 イランだが、伝統的なフィジカルの強さと各選手の技巧の高さは大したものだ。しかし、前線で各選手に視野が狭く、崩し切れなかった。ネクナムはよい選手だが、他に展開するなり、さばくなりのタレントが欲しい。古いが93年のドーハにいたデラクシャン、あるいは97年ジョホールバルで我々を悩ませたマンスリアンのような選手がいれば、事態は随分変ったと思うのだが。
 韓国。確かに強いし、よい選手も多い。でも勝てるな、これならば。それについては別途述べる事にしよう。

 この試合1つ大きな不満がある。それは主審のラヴシャン氏が見事な笛で退場者を1人も出さずに、この難しい試合を終えた事だ。川島や吉田が退場を食らう基準で笛を吹いてくれれば、李榮杓とレザネイは前半にセットで退場。その他の選手にも黄色が乱れ飛び、延長終了時には8対8くらいになっていた事だろう。どうせ、韓国イレブンは皆ヘトヘトに疲弊したのだ。準決勝、相当数の選手を出場停止にして休ませてあげたかったではないか。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(8) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんわ!
韓国vsイラン戦を見ておりました。
記事にも書かれてありましたが、
なんで韓国はわざわざ力勝負にいったのかなぁと
不思議に思っております。
韓国の技量からすると、もう少し「かわした」
戦いができたのではないかと思ってます。

まぁこっちとしては有利になったのでいいのかもしれないんですけど(笑)
Posted by furyu1000 at 2011年01月24日 00:53
韓国でいないのは怪我で辞退したパク・チュヨンくらいで、後はちょうどいい年代に全くといっていいほど人材がいないんです。
Kリーグでも若手か、逆にイ・ドングといったベテランの活躍する姿が多いです。
Posted by at 2011年01月24日 02:10
自分もユンビッカラムって音節が多いというか
違和感のある名前だなと思っていたのですが、
元の漢字が無い名前みたいです。
なので尹ビッカラムでいいのではないでしょうか。
Posted by どらんめる at 2011年01月24日 09:34
豪州ーイラクの「ー」(音引き)は、「―」(ダッシ)か「×」にしませう。
Posted by at 2011年01月24日 11:35
こんにちわ。いつも楽しく拝見しております。

しかし今回はブラック講釈師の香りが仄かに漂う、良い記事でした(笑)。

「イ・ヨンレ」は「李容來」、「ユンビッカラム」は漢字表記はないと思われます。まあ、「車ドゥリ」も漢字はありませんからね。
Posted by molirinho at 2011年01月24日 13:38
次の記事がまてないよー.
パクチソンが代表引退を撤回するくらい悔しい思いをさせましょう.
Posted by KI at 2011年01月24日 15:54
冒頭からのニヤニヤ感。さすがのオチで、この空きの時間を堪能させてもらいました。
いよいよ明日。
すべてが期待する方向に行くことを願ってます。
Posted by at 2011年01月25日 00:12
このニヤニヤする感じ、そしてオチ(笑)。
韓国だけに辛味の入ったコラム内容がとても面白いです。

けれど、自分としては韓国は日本より強いなぁと感じてしまいました…。
それでも勝利を願いします。
Posted by 通りすがりのサッカーファン at 2011年01月25日 15:53
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