岡崎慎司の移籍問題がもめている。経緯はこう言う事らしい。問題点は、エスパルスの契約が1月31日まで残っていて、かつ欧州の移籍期限が1月31日なので、シュツットガルト入りするためには、エスパルス契約期間内に契約を締結する必要があるから、若干額だが違約金が必要だと言う事だ。これに対しては、慣例で違約金不要とか、時差の関係で日本の契約が切れた後でドイツで契約すれば大丈夫とかの説があるようだが、そうなってくるとFIFAの裁定を仰ぐしかないだろう。
元々本件は「シュツットガルト入り有力」と報道された1月の時点から噂されており、1月末にアジアカップから直接渡独した岡崎のシュツットガルト移籍発表直後も、こちらのような報道があった。しかし、昨日(2月12日)のニュルンベルグ戦でベンチ入り(あるいはスタメン)との情報が、あちらこちらに出ていた事もあり、ウヤムヤのうちに(?!)「丸く収まったのだろうか」と思っていた。そう思っていたら、昨日の試合直前に「書類不備で登録できず」と言う報道(たとえば「これ」)が流れ、敢えなく岡崎はベンチ外になってしまった。
本件については、今日(2月13日)にエスパルスがニュースリリースを発行し、見解を明示した。シュツットガルトサイドの言い分については、昨日以降の英語WEB記事が発見できなかったためにわからないが、エスパルスが契約を基盤に権利を主張する事はまったく正当な事。ただ、「どうせ主張するならばもっと早く」、「日本語のみならず英語、ドイツ語で」と言う思いもある。アジアカップで岡崎が奮闘している事もあって騒ぎを起こすのを自粛したと言う説もあるが、それならばそれでシュツットガルトが岡崎入団発表した直後に、正式に抗議をすべきだったのではないか。実利を取るためにはアクションは早い方がよかったし、世界に直接訴えるべきと思うのだが。
本件自体は、代理人のヘマだろう。こう言うトラブルを避けるために、代理人が存在するのだと思うのだけれども、なぜか日本の代理人はかえっ(以下略)。
しかし、岡崎自身に甘さがあった感も否めない。一連の問題は1月時点で報道されており、岡崎自身も帰国時にこのようなコメントを述べている事から、ある程度の事態は理解していたはず。「交渉は代理人に任せる」のは問題ないが、事は己の進退の問題なのだ。子供ではないのだし、行動に責任を持つ必要がある。岡崎には日本代表の中核として、今後長く活躍してもらわなければならないので、敢えて苦言を呈したい。
いずれにしても、本件については早期に事態が収拾し、岡崎が欧州を席巻するのを期待するところだ。
ところで。
本件を含め、日本サッカー界の移籍規定を世界対応に合わせたタイミングで、多くの日本選手がタダあるいはタダ同然で欧州に移籍する事を嘆く向きが多い。しかし、これは仕方がない事なのだ。6年前の中田浩二のマルセイユ移籍時に、選手サイドが「海外に行きたい」と切望すれば、Jサイドは防ぎようがない事はわかっていた事。当時私は、本件について何とも牧歌的な甘さで誤解していた事があるのだが。これへの対策は、複数年契約を結び、契約期間中に違約金込みで売るしかない(もちろん、複数年契約を拒絶されれば、契約期間中「干す」と言う、非常に難しい選択肢しか残らないのだが)。
つまり、Jリーグ各クラブが中心選手をタダ同然で欧州クラブに取られているのは、日本が移籍規定を世界標準に合わせた事が要因ではない。欧州各クラブが日本選手の良さを再発見したからなのだ。中村俊輔のみが欧州で相当の活躍をしていたものの、中田英寿と小野伸二が(おそらく負傷の影響で)20代後半から自クラブでの活躍が叶わなくなったあたりから、日本人スタアの欧州の市場価値は落ちっ放しだった。しかし、長谷部誠、松井大輔、本田圭佑らの奮戦と、南アフリカでの好成績から、事態が転換。長友佑都、香川真司、内田篤人らが、堂々と欧州トップリーグの定位置を確保するどころか、中心選手として活躍するに至り、多くの欧州クラブが「タダ同然」の日本人選手に目を付けたと言う事だろう(「『タダです』と言う代理人の売り込みに耳を貸すようになった」と言うのがより正確かな)。もちろん、今期に関して「契約切れ」選手が多く、タダ同然が多いのは、日本の移籍制度が変った過渡期だからだろうが。
大体、多くの人が誤解しているが、「取られる」クラブからすれば、「取る」クラブが欧州だろうがJリーグだろうが、同じ事のはずだ。エスパルスは岡崎に対し複数年契約を納得させられなかったのだから、もしシュツットガルトに「取られ」なければ、他のJクラブに「取られる」可能性が高い。上記の契約期間に対するFIFA裁定次第だが、シュツットガルトに「取られる」方が、僅かかもしれないが「違約金」を取れるならば、まだマシと言う事になる。繰り返すが、それに対する対策は複数年契約しかない。
毎シーズンオフごとに、関口訓充との別れが来るのかヤキモキするベガルタサポータからすれば、関口がベルギーのクラブに行こうが、Jのトップクラブに行こうか、どちらも「別れ」と言う事では全く同じ事なのだ。「別れずに、来期も共に戦えるかどうか」それ以外何がある?そして、関口が長期離脱するような負傷のリスクを覚悟で、自己の付加価値を最大限に高めるために単年度契約を望むのも、それはそれでその意気やよしである。
また、インテルが払う大枚の多くが、FC東京ではなく、チェゼーナに行く事が、おもしろくない方も多いと思う。これまた、仕方がない。長友が日本代表とFC東京で、どんなにすばらしいプレイを見せても、インテルは食指を動かさなかっただろう。チェゼーナであれだけのプレイを見せたからがゆえ、インテルは取りに行ったのだ。11年前にローマが中田英寿を獲得したのも、日本代表で活躍したからではなく、ペルージャで活躍したからだ(そう考えると、奥寺康彦の偉大さに感心するのだが、まあそれはそれ)。
しかし、この事態は近い将来大きく変る可能性がある。現在欧州で活躍する我らの英雄達が、今以上のプレイを継続すれば、欧州のトップクラブは中堅クラブのバッファ抜きに、Jから選手をダイレクトで獲得しようとしに来るはずだ。そして、それはそう遠い先ではない。その時までに、Jの各クラブは若手の精鋭を、しっかりと長期契約で押さえる事ができていれば、多額の違約金を獲得できるではないか。選手達ができるだけ身軽に欧州に飛び出そうとするのは当然の事、クラブはいかにそれらの選手と折り合いを付けて成長の付加価値を享受できるようにすべきか。日本サッカーのレベルが上がり、Jリーグの存在意義が世界でも重要になる時代になったからこそ、嬉しい悩みが増えて来たと言う事だろう。
そして、それらを繰り返しながら、Jのレベルを上げて行き、いつかサッカーの戦闘力で西欧のトップクラブに追いつく事。かつてのジャパンマネーによって世界のスーパースタアを集めた時代とは全く異なる意味で、Jリーグに世界のスーパースタアを集め、拡大トヨタカップを制覇する事。それはワールドカップを獲得する事とは別な意味での我々の目標となる。
2011年02月13日
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20112014
Excerpt: ******************************************  ..
Weblog: 今日の新着ブログ
Tracked: 2011-02-16 08:32
そろそろ日本選手の欧州での知名度的にも種蒔きくらいはできたということでバーゲンセール期間はこれにて打ち止め。ビジネスに例えれば市場の宣伝にはなったでしょう。まあ、清水には失礼な物言いかもしれないけど、よい勉強をさせてもらったくらいの前向きさで受け止めてほしいものです。
無論、憶測ながら、少々確信犯的な岡崎に関しては、責任云々をとやかく言う気はさらさらないけど、自分のためにもチームのためにも日本サッカー界のためにも、一社会人として恥ずかしくないだけの対応を見せてくださいと、ひと言。
いずれにせよ、来年にもプレミアリーグを発足させようとしていた協会がアジアカップのルールさえ把握しておらず抗議文書すらまともに提出できなかったみたいな恥曝しは御免被りたいので、いまのうちにクラブの経営理念くらい各々お勉強しておいてください、とゆーコトで ( 以下略。
にも拘らず海外移籍となると、小旗打ち振って行ってらっしゃいと手を振るサポに笑顔で答える選手…
という訳の解らない図が展開する現状は、もう少し何とかならないものかとヤキモキしたり。
特に優勝を争ってるクラブ、今年こそタイトルを掴まんとするクラブがこれをやってくれた日には、私はどうして良いか途方に暮れましたよ、ええ。
でこういう事を書くと時折、何時か帰ってきてクラブに経験を注入してくれればいいじゃん、なんて呑気な反論に出くわしたりしますが。
失礼を承知で言えば、殆どの選手が帰ってる頃にはポンコツ寸前という現実を直視して尚、その様な事が言えるのかと。
名波選手みたいにさくっと帰ってきて、Jリーグで阿修羅の如く大暴れ、とは中々行かないのに。
行きたいという選手の気持ちは解るし、止められないとも思うのですが。
なら観る側は観る側で観る側の論理みたいなものを、日本のサッカーファンきっちり確立しなきゃ、いい加減駄目でしょうな。
それがとても残念。
某代理人なんてタダで移籍するための
レクチャービデオの宣伝までする始末。
ショーケースとしてのJリーグはまだ小さいですが
ユーロスポーツで放送されたり、徐々に認められつつあります。
あとは現地の選手たちの活躍次第なのは
いつの世も変わりませんね。
そんな、時差を使った空白時間を利用する契約って可能なんですかね。
常識的にはそんなバカなと思いますけどね。
あなたのおっしゃることが正しいとすると、契約はGMTで結ばないといけませんね。
ほかの商取引にも影響がありそうな。
ちょっと信じられません。
時差や慣習なんて言い逃れは通らないでしょう。
草刈り場にならないよう清水には頑張って貰いたいものです。
この予防線の張り方は好きではないです。
シュツットガルトが1/31日を契約期間の起点にしてると、時差を考慮しても数時間ダブるんですよね
契約期間の起点を時間単位にしてればおっしゃることも理論的には可能かも知れません
しかし、それだったら、やり方が悪辣ですね。
政治でも経済でも何度も繰り返された事で、今回の件も納得のいかない面が多かったですが、
>嬉しい悩みが増えて来た
のお言葉で、かなり前向きに考えられるようになって来ました。
日本人選手の価値は、我々が思っている以上に高くなっているのでしょう。
だから選手もクラブもサポーターも、これまでのような「海外に出られればそれだけで嬉しい」「海外に取られてしまうのは仕方ない」ではなく、ビジネスとしてよりシビアに挑む必要があるのだと思います。
Jリーグが潤沢な移籍金を得てよりレベルの高いリーグになるのか、単なる草刈場になってしまうのか。
この過渡期をどう乗り越えるか、しっかり見守りサポートしていきたいですね。
選手とその雇用者の仲介をすることで利益を得る代行業者に
過ぎず、別に選手の味方ではない……ということは
肝に命じておかないとね。結局、一番損したのは岡崎選手なんだから。
現千葉ロッテマリーンズの井口資仁選手はホワイトソックスに
いた時に代理人を解任した事がありました。当時の
スポーツナビに梅田香子氏が記事を書いていたのですが、
もうその記事残ってないだろうなぁ。代理人にも言い分は
あったのでしょうが、井口選手にとっての真実としては、
「信頼の置けない代理人を解任した事。その後、代理人が
関与した雇用契約を白紙に戻して井口選手自身が球団側と
交渉して契約を結び直したこと」です。
井口選手の場合は契約更改していた2日間は試合に出られ
なかったわけだけど、岡崎選手の場合は事前に動いていれば
欠場しないで済んだんだからさ。武藤師が書いているように
自分できちんと処理するべきだったよね。
もっとも、日本のアスリートでは井口選手のように
動ける人は例外なんでしょうけど。中田英寿ですら
次原さんの意のままに操られていたっぽいものなぁ。
かいさん、「常識的にはそんなバカなと思いますけどね。」
もし契約が日本国内だけで完結しているのなら、もちろんありえない話でしょう。
ですが事が海外移籍ですから、国際問題になってしまっているわけです。
国際的な契約で期限を指定する際は、どの国のどの標準時なのか明記するのは
当たり前です。
そう思って昨日は書いたのですが、シュツットガルト側は
「1日2日程度の重複なら問題ない」とか、「1月30日に加入した」とのことを
述べているとか…。さらに代理人は姿をくらましているとか…
どうやら時差を利用して契約したと考えたのは私の早とちりだったようです。
お騒がせして申し訳ありません。
とはいえ、質問もされたようですので、昨日述べたことを
一部修正して整理してみます。以下駄文。
日本時間 ドイツ時間
1/31 24時 1/31 16時 ……(1)
2/01 02時 1/31 18時 ……(2) 登録期限
どうやらドイツ時間の18時までに登録すればよいようですので、
(1)と(2)の間に契約したら、もしくは(1)の時点以降に有効となる
という契約を、シュツットガルトと岡崎選手が交わしていたとしたら、
法的には何の問題もないと思います。
(1)を過ぎた時点で、岡崎選手は完全にフリーな選手となり、
ライバルチームのジュビロ磐田と契約することすら可能です。
(1)の時点以降ならば磐田との契約すら可能なのに、シュツットガルトとの
契約はまかりならんという主張は、はたして可能でしょうか。
もしそのような主張が可能ならば、清水というクラブは、契約が終了した
(1)の時点以降も、岡崎選手を拘束する権利を保有していると主張している
ことになります。これは、契約期間が過ぎた後も選手を拘束することを
禁じたボスマン判決に違反するのではないでしょうか。
というような事を、昨日は考えました。
一応理屈は分かりますが、わたしも、英文契約書を見たことがありますが、何日何時締結の契約書って見たことないんですよ。
たいていは、entered into the th day of (month)で、本契約は何月何日に締結された なんですよね。契約期間の起点は日なんです。
もしおっしゃるように時差を利用して、日本における契約終了と欧州の移籍ウィンドーのギャップを利用したのであれば、そのように説明すれば済むことですね。ただ、いかにもやり方が汚いという印象を与えますね。手段を選ばずという感じです。
その場合でも事前通知がなかったという(清水の主張ですが)規約違反を免れますかね?
FIFAルールでは、移籍ウィンドー前に契約終了する選手を、その規定の例外としているのですが、それも、時差を使って、例外にあたると主張するのですかね。
清水の誤認識らしいですね。
その情報はスポニチだけなんですよね。
その他の新聞はFIFA裁定は16日以降と報じているだけです。
このエントリで、武藤さんが書いているように、冬の移籍期間は1月31日までなんです。2月5日発効の契約はできないんですよ。
ただし、例外があって、1月31日より前に前の契約が終了している場合は別なんです。
清水の岡崎との契約は1月31日までなんですよ、ですから、2月5日契約はできないんです。
ただ、時差があるから、ヨーロッパでは1月31日前に終了しているとの主張があるいは可能かも知れません。
そんなの認めたら、ボジョレー・ヌヴォー解禁で、日本はフランスから訴えられかねない(笑)
というわけで、通常の商取引なら、かいさんの仰るとおり「契約地の日付」でしか縛れないと思います。
サッカー「業界」が「通常」なのかどうかは分かりませんけど。
まあ、今回の件は、代理人がその時差の穴を突いたつもりなのかも知れないですけど、逆に、シュツットガルトが清水に無理矢理選手を売りたくなったら、どうするんでしょうね(苦笑)