2011年03月28日

カズと言う奇跡

 明日は、日本代表対Jリーグ選抜のチャリティマッチ。
 重苦しい日々が続く中で、長谷部や長友らが帰って来てくれて、有料試合を観られる事を素直に喜びたい。両軍の選手達それぞれに、多くの想いがあるだろう。観戦するサポータ達にも、複雑な想いがあるだろう。私にも、仙台出身のサッカー狂として、何とも言えない想いがある。
 ただ、とにかく、私は華やかなスタア達の競演が観られればそれで十分だと思う。

 ちょっと視点を変えて、改めてカズについて考えてみた。カズがアジア最優秀選手になったのは93年のドーハの悲劇の年。あれから、なんと18年の月日が経った。あの年に生まれた子供が、普通にJリーガなのだ。そして、今なお元気にプレイをして、さらに今回のチャリティマッチでも、主役の1人として君臨している。いったい、この男は何なのだろうか。
 カズについて5年前にこんな事を書いた。これは自分なりにカズの記録としては決定版?なのではないかと自負していた。あの時も、「すごい男だな」と呆れていたのだが、あれから5年経ち、今なおカズが現役選手として光彩を放っている。

 先日、ある方が「外国人にカズを説明するのには?カズのようにワールドカップに出た事はないが、その国のサッカーの象徴となっている選手は誰か?」と言う問いをしてくれた。
 たとえば、ライアン・ギグス、ヤン・リトマネン、ジョージ・ウェア、釜本邦茂のように、格段の能力を誇った選手でも、その国がワールドカップに出る事ができない場合がある。
 ベルント・シュスター、ラモン・ディアス(ディアスは1回出ているのだが、全盛期には出場できなかった)のように、ご本人の意思とか、チーム編成の都合で、出場しない場合もある。
 エリック・カントナは確かにワールドカップに出られなかった。ただし、出られなかった事の責任の一端は本人にもあるのだし、何より彼は偉大な存在だが、プラティニとジダンと比べて、フランスの象徴かどうかとなると、やや疑問が残る。もっともユナイテッドの象徴ではあるかもしれないが。
 しいて言えば、ジョージ・ベストかもしれない。82年大会、久々に本大会に出場し、地元スペイン、スタア軍団ユーゴスラビアと同じと言う難しいグループに入りながら、ベテランGKパット・ジェニングスを軸に2次ラウンドまで進出した北アイルランド。ジェニングスと同世代のベストが、「あの場にいてくれれば」と世界中の誰もが想った。しかし、言うまでもなく、外国の方々に、ストイックの固まりで長期に渡りプレイを続けているカズを、自堕落極まりなく全盛期があまりに短かったベストに喩えて説明すると、混乱は大きいかもしれない。共通点は、ドリブルが巧みで、得点力が抜群で、格好よくて、抜群に女にもてて、その国のサッカーの象徴である事くらいだから(同世代の北アイルランド人と飲んだ時、そいつは目を潤ませながら、極東のサッカー狂にベストの自慢話をしてたから、カズ同様男達からも尊敬されていたのだろうが)。
 
 カズは、苦労して、苦労して、日本代表を引っぱり、ようやくワールドカップにたどり着いたが、出られなかった。
 重要な事は、90年代カズの全盛期の日本サッカー界ほど、物凄い右肩上がりでその質を上昇させた国は、他に思いつかない事だ(同時に井原正巳、福田正博と言う、カズとは別な意味で超スーパーなスタアがいたのも幸いしたのだが)。そして、その右肩上がり以降も、日本は世界の強豪の片隅の地位をしっかりと確保している。その急激な上昇と、以降の安定に、カズが格段な貢献をした事は言うまでもない。
 けれども、それでもカズはワールドカップに出られなかった。
 以前より述べているが、岡田氏贔屓の私でさえ、その事は飲み込めずにいる。もっとも、岡田武史と言う人を現役時代からずっと観ていて、ブラジルから帰国以降のカズもずっと観ていて、その後の2人の活躍も反芻すると、あの時の岡田氏の決断とカズの悲劇は、生半可には書けない想いもある。

 カズよりも、偉大でワールドカップに出る事が叶わなかった国民的象徴は他国にいない。カズは世界レベルから見ても、唯一無二の存在なのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:43| Comment(13) | TrackBack(2) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
外国人にカズを説明するには「日本のスタンリー・マシューズ」を推します。

・全選手の手本であると称される
・摂生による長い選手生命
・彼の名のついたトリックがある

ただし、自国のサッカーのレベルと人気を引き上げた功労者でありながらW杯に出られなかったというのは、やはり違います。武藤さんのお話通り、カズを独自の存在にしている、哀切な一面ですね。
Posted by ぶらぶら at 2011年03月29日 00:27
「母国がW杯に何度も出場しているのに本人がでたことがない」ていうとますますいないですかね。
Posted by at 2011年03月29日 01:42
今回のことを含め
今まで君が僕たちに与えてくれてた幾多のことに感謝しています。
W杯に行かせてあげられなくてごめん。本当にありがとう。
言わずにはいられないのです。
Posted by トム at 2011年03月29日 04:08
「生ける伝説」の一人、ディ・ステファノもW杯出場経験がなかったと聞きますが・・・
Posted by at 2011年03月29日 11:56
決めてくれましたね。ゴールしたからスゴイ、もあるけど、サッカーを通じて人の心をこんなにも震わせることができるところがすごい。

素晴らしいゴールをありがとう!!

一緒の時代に生まれたことを、誇りに思います。
Posted by ろく at 2011年03月29日 21:49
「カズさんありがとうございます。」今日の試合のゴールを見て、41歳仙台在住の私はそれしか言えません。それほど勇気をもらいました。
そして、今日の試合の前にカズさんのことを唯一無二の存在として取り上げた武藤さんの慧眼には本当に敬服いたします。
まさに「カズという奇跡」ですね。
Posted by at 2011年03月29日 22:12
世界中の人に、「目を潤ませながら自慢話が出来る」そんな試合、そんなゴールだったと思います。
本当に生きてて良かった。サッカーが好きな日本人で良かった。そういう勇気をもらいました。
Posted by TK at 2011年03月29日 23:43
森島スタジアムに響いたTWISTED とカントリーロードについても侯爵してください(涙×100)
Posted by 涙 at 2011年03月30日 09:13
カズゴールに感動です
歓喜のカズダンスを真正面で見た友人はこの後カズは泣いていたと興奮して語っていました
私も泣けました
ついにカズは伝説になりましたネ
Posted by ロベルトヤマ at 2011年03月30日 09:41
キングはやっぱりキングでしたね
持ってるとかそういうレベルじゃなかったね。
現地でしかもすぐ近くで見れた奇跡に感動して
朝まで寝られなかった。

それにしても日本人らしいマジメで真剣なチャリティーマッチでよかったな〜
Posted by at 2011年03月30日 11:11
“ワールドカップに出た事はないが、その国のサッカーの象徴となっている選手”は、1980年代のリヴァプールのストライカー『イアン・ラッシュ』(ウェールズ代表)と、ゴールキーパー『ブルース・グロベラー』(ジンバブエ代表)の他、ユヴェントスの守備的MFマッシモ・ボニーニ(サンマリノ共和国代表)が思い浮かびます。
皆、「ヨーロッパ・チャンピオンズカップを制している」のでしたね。


そんな猛者たちも、「40代半ばに差し掛かっても、サッカー選手であり続けていたか」というと・・・・だからこそ、「KAZUは特別な存在である」といえますね。
Posted by 19番ゲート at 2011年03月31日 00:06
生きるための明るさを 三浦知良・サッカー人として

このたびの大震災の被災者の方々に、心からお見舞いを申し上げます。被害に遭われた方々にとって、この2週間が、その1分1秒が、どんなものだったかを思うと、おかけする言葉も見つかりません。

生きているとはどういうことなのだろう、サッカーをする意味とは何なのだろう。そういったことを見つめ直さずにはいられなかった日々のなか、思わず頭をよぎったのは「今のオレ、価値がないよな」ということ。

試合がなくなり、見に来る観客がいなければ、僕の存在意義もない。プロにとってお客さんがいかに大切か、改めて学んでもいる。

サッカーをやっている場合じゃないよな、と思う。震災の悲惨な現実を前にすると、サッカーが「なくてもいいもの」にみえる。

医者に食料……、必要なものから優先順位を付けていけば、スポーツは一番に要らなくなりそうだ。

でも、僕はサッカーが娯楽を超えた存在だと信じる。人間が成長する過程で、勉強と同じくらい大事なものが学べる、「あった方がいいもの」のはずだと。

未曽有の悲劇からまだ日は浅く、被災された方々はいまだにつらい日々を送っている。余裕などなく、水も食べるものもなく、家が流され、大切な人を失った心の痛みは2週間では癒やされはしない。
 
そうした人々にサッカーで力を与えられるとは思えない。むしろ逆だ。身を削る思いで必死に生きる方々、命をかけて仕事にあたるみなさんから、僕らの方が勇気をもらっているのだから。

サッカー人として何ができるだろう。サッカーを通じて人々を集め、協力の輪を広げ、「何か力になりたい」という祈りを支援金の形で届け、一日も早い復興の手助けをしたい。そこに29日の日本代表との慈善試合の意義があると思う。

こんなことを言える立場ではないけれども、いま大事なのは、これから生きていくことだ。悲しみに打ちのめされるたびに、乗り越えてきたのが僕たち人間の歴史のはずだ。とても明るく生きていける状況じゃない。

でも、何か明るい材料がなければ生きていけない。
暗さではなく、明るさを。29日のチャリティーマッチ、Jリーグ選抜の僕らはみなさんに負けぬよう、全力で、必死に、真剣にプレーすることを誓う。
(元日本代表、横浜FC)

(3/25 日本経済新聞より転記/ヤバければ誠にすみませんが削除してください)
号泣しました...
Posted by currymansp at 2011年03月31日 01:45
初めてコメントします。
もうすでにご存知のことかもしれませんが、以前テレビのどこかの番組で、中田特集をやっていて、そのときにドーハの時はフリーキッカーは中田と名波と決まっていたのに、カズが勝手に蹴ってしまったシーンをやっていて、(それは若いヒデが苦労をした観点から画かれていたのですが)もしかしたら、岡田監督はそのことを重視してカズを外したのかな、と思いました。

ただ、そのときの心理状況などを鑑みると、蹴ってしまったカズの気持ちも分かりますし、(もし仮にそのことが原因でカズを外したとしたら)岡田監督のチームマネジメントも納得がいく気がしました。
Posted by しっちー at 2011年04月09日 19:02
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