2011年05月12日

北嶋秀朗と大前元紀

 リーグのトップを好調に走るレイソルだが、ベテランストライカの北嶋秀朗が既に4得点、得点王レースの先頭を走り、話題になっている。若い頃から定評のあったシュートの巧さ、老獪と言うかしたたかで適切な位置取り。元々見ていて愉しい選手だが、今期は好調なチームの中で、すっかり働き場所を見出しているようだ。ただし、ちょっと驚いたのは、北嶋自身の今季初得点(ヴァンフォーレ戦)が、J1通算50得点目と言う報道。北嶋は33歳、今期が15シーズン目のはず。「え、まだそれしか点を取っていなかったの」と感想を持ったのは私だけだろうか。

 北嶋は市立船橋高校のエースとして、1年生の時から高校選手権で大活躍。鳴り物入りでレイソルに加入した。順調に成長し、2000年シーズンには完全なエースストライカとして活躍、ほぼフル出場し18得点を奪った。
 このシーズンに行われたアジアカップでは代表入り。定位置獲得はならなかったが、大量点で勝利したウズベク戦で1得点を決めている。この得点は、小野のパスで完全に抜け出し、落ち着いてGKを抜きさって、冷静に流し込んだもの。この選手の持ち味である、冷静で正確なボールを扱いによるシュートの巧さが、見事に発揮されていた。当時トルシェ氏が選考していたFWは高原、西澤、柳沢、いずれもボールの引き出しやポストプレイには妙味を発揮するが、シュートそのものはあまり巧いとは言えない選手(その後、高原は時間限定ながらシュートも上手になるのだが)だっただけに、北嶋への期待は大きかった。そして、いやしかし、当時このウズベク戦の得点が、このストライカの代表戦での唯一の得点となるとは思いもしなかった。  
 また、同じ年のJリーグ後期最終戦、今でも語り草となっているレイソルーアントラーズ戦、レイソルは勝てば後期優勝を決められるところだったが、秋田、相馬、本田らを擁するアントラーズが見事に0−0に持ち込み後期制覇を決めた。北嶋も幾度か好機を掴みかけたが、秋田の壁をどうしても破れなかった。試合終了後の北嶋の悔しさを噛み殺した表情は、若きエースがこの悔しい経験を糧に大きな成長をしてくれるものと期待させてくれるものだったのだが。
 ところが翌シーズン、レイソルには韓国の名ストライカ黄善洪、オールラウンドプレイヤ柳想鐵が加入した事もあり(黄は2000年に加入していた)、北嶋の出場機会は微妙に減って行った。もちろん、出場機会が減ったのは強力なライバルが存在したためだけではなかった。このあたりから、北嶋は己の最大の特長であるシュートの巧さを見失い、妙にポストプレイにこだわり過ぎているように思えたのだ。古い議論だが、サッカーが組織的になればなるほど、FWには得点の他の能力が要求される。巷によく言われる、ボールを奪われてからの最初の守備者としての機能、攻撃を組み立てる際の一員としての機能、後方からのフィードを持ちこたえて味方が上がる時間を確保する機能。これらの機能と、得点能力とのバランスは常にFWに対する難しい要求事項となる。そして、北嶋はこのバランスを操り損ねたように思えたのだ。
 以降北嶋は苦労を重ね、エスパルスへの移籍を経験しつつ、今はレイソルの大ベテランとして君臨している。往時の瞬間の切れはなくなったものの、ボールの受け方の巧さ、シュートへの持ち出し、冷静さなどは磨きがかかり、見ていて本当に愉しい選手だ。過日のレッズ戦での2得点、位置取りの巧さと冷静さが見事に発揮されていたではないか。
 
 今の北嶋は本当に見ていて愉しい選手なのだが、もっともっと点を取ってくれてもよかったのではないか、と言う思いがどうしてもあると言うだけの話。ただ、今の北嶋を見ていると、もうこれで十分以上のものを見せてもらえているのも確かだし...

 突然、大前元紀について。北嶋と大前って、あるポイントがそっくりに思うのだ。
 外的な共通点は千葉県の高校で、高校サッカー選手権で大量に得点を取って優勝した事くらい。プレイスタイルも全く異なる。けれども、この2人のシュートの際の冷静さに、非常に近いものを感じるのだ。昨年の後期ユアテックでのエスパルス戦、リードを許したベガルタの終盤のコーナキック、GKの林も攻撃に参加したところでの、エスパルスの逆襲。大前の心憎いばかりの冷静さで無人のゴールに流し込まれ、トドメを刺された訳だが、あの場面の大前の冷静さに、上記した北嶋のウズベク戦の得点を思い出したのだ。
 今期の大前はすばらしい。大幅にメンバが入れ代わり、大エースの岡崎を失ったエスパルス。その中で豊富な運動量で動き回り、敵陣前で見事なシュートを放ち、さらには見事な直接FKを決める大前。「今期Jで最も冴えている攻撃タレントは北嶋と大前」と言っても過言ではないくらいだ。あ、もちろん、関口も。
 残念ながら、本日発表された五輪代表には大前は選考されていないようだ。しかし、現状のプレイを継続していれば、関塚氏ではなくザッケローニ氏が選考する可能性も高いと思う。大前は、最大の特長のゴール前の冷静さを最大限に活かすために、1.5列目(1.3列目って言う方が適切かもしれないな)からすさまじい運動量で動くプレイスタイルを身につけつつある。

 確かにこの2人のプレイスタイルは全く違う。でも、今の北嶋の域に、少しでも早く大前が近づいて欲しいなと。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(1) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これによると本人がポストプレイヤー目指したみたいですよ
http://www.nikkei.com/sports/column/article/g=96958A96889DE0E5E1E5E0E1E5E2E0E7E2E6E0E2E3E38781E2E2E2E3;df=2;p
Posted by at 2011年05月14日 13:21
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