五輪代表敵地クウェート戦。
クウェートの落ち着かないラインの裏をうまく突いた酒井宏樹の先制弾で、余裕の3次予選進出かと思われた。けれども、後半立ち上げりに信じ難いミスが重なり逆転を許してしまう。結果として、スコア的には、あと1点を許すと2試合合計で同点に追いつかれ延長戦を戦わなければならないと言う、緊迫した試合を愉しむ事ができてしまった。しかも気温は約40度の猛暑、テレビ桟敷からも各選手の疲弊がはっきりとわかり、非常にスリリングな展開となった。
が、見ていてほとんど不安を感じなかった。もし、追いつかれれば灼熱の敵地、しかも芝もよくない環境で、30分ハーフの延長戦を戦わなければならない。そして、勝ちきれなければ4回連続出場をしていた五輪への出場権を絶たれると言うのに。
それは選手たちが実に冷静にプレイしていたからだ。凡人であれば、舞い上がっても仕方がない状況だったにもかかわらず、いずれの選手も冷静にボールをさばき、落ち着いた位置取りで相互の距離を維持し、時に長いボールで裏を狙う。暑さから、本来の運動量はないので、豊田で見せた鮮やかなパス回しは披露できなかった。けれども、豊田とは全く異なるサッカーで、淡々と時計を進める若者たちの凄みは中々だった。
そういう意味で、この試合のポイントは、「あれだけ追い込まれた状況で、あれだけ冷静にプレイできる選手達が、なぜ後半開始の15分間だけあれだけ無様なプレイをしてしまったか」と言う事になるだろう。
もちろん、逆転された以降も危ない場面もいくつかあった。朝のニュースでは1−2となったそれぞれの得点を見せた後、ロスタイムの権田の伸び切りのセービングのみを映していた。あの映像だけ見ると、相当危ない試合に思えただろう。これは1つにはサッカーの常(どんなにペースを確保していても敵にも好機が訪れる)でもあるし、今1つには日本の守備能力の問題でもある。後者について少し。
元々、今回のチームはCBにタレントが不足していた。豊田での試合は中盤で圧倒できた事もあり、鈴木大輔も濱田も常に厳しく前に出るチェックをする事で、その能力をいかんなく発揮していた。しかし敵地戦では、暑さもあって日本の中盤、前線での守備がうまく行かず、(たとえばロングボールを入れられて)最終ラインの戦いとなった時に、2人ともいわゆる1対1の戦いで課題を露呈してしまった。鈴木は言うまでもなくPKの場面。濱田は同点時に敵のFKに完全に競り負けた場面。
慌てる必要はあるまい。2人とも今回の失敗経験を糧としてくれればよい。鈴木はアルビレックスでJのトップFW達と戦う事で能力を高め、濱田はまずレッズで定位置を狙う。ここには村松大輔もいるし、山村をCB起用する手段もある。内田達也や遠藤航のようにより若いが、Jに登場してきているタレントもいる。これからJで出てくるCBもいるかもしれない。また守備を強化すると言う意味では、既にJ1で定位置を確保しているサイドバックをサイドMFに起用し、守備を強化する手段もある。逆に山田直樹や柴崎岳のようなタレントをボランチに使い展開力で打開する手段もあろう。とにかく、いくらでもカードはある。
そして、課題が残る日本の最終ラインだが、冷静さを取り戻してからは、危ない場面が僅かにあったものの、ほぼ盤石の試合振りだった。
と言う事で、本題の「あれだけ追い込まれた状況で、あれだけ冷静にプレイできる選手達が、なぜ後半開始の15分間だけあれだけ無様なプレイをしてしまったか」について。
すっかり慌ててしまったテレビの解説者が、「とにかく水を飲め」、「クウェートの選手の方が切れがいい(別な映像を見ているのかと思ったくらいだ)」、「最後の10分になったらクウェートも焦るから我慢しろ」など絶叫する。テレビ桟敷のサポータとしては、この解説者の舞い上がり方と、選手たちの冷静さの対比がおもしろかった。
しかし、あんなに冷静な若者達が、なぜ後半立ち上がりだけドジを踏んだのか。日本が先制して迎えたハーフタイム、クウェートが最後の希望を賭けて無理攻めに来るのは、誰にでも予想できる。ハーフタイムには関塚氏が、そのリスクを述べ、各選手が確認して臨んだのも間違いないだろう。それでも、いきなりのガタガタである。しかも1点取られて落ち着くならさておき、さらにオタオタしてもう1失点してしまう(2失点の他にも、セットプレイからフリーでヘッドを許す場面もあった)。そして、逆転された以降の冷静な試合振り。
大変陳腐な解釈だが、選手達は「追い込まれて初めて気持ちを入れ直せた」と言う事ではないか。気持ちの上では集中して入ったつもりだが、敵の勢いに押し込まれてしまった。早々にセットプレイから先制されたが、「まあ、まだ大丈夫だろう」と言う意識が残ってしまった。そして、怪しげなPKをとられ、いよいよ「あと1点とられたらヤバい」となった以降に、スイッチが入ったと。
もちろん、これでは困る。クウェートが最後の可能性にかけて、後半早々からラッシュをかけてきたら、落ちついて敵をいなし、1点もやらずにペースを取り戻して欲しい。そして、ロンドン本大会までには、そのようなチームになってもらわなくては。
ただ、スイッチが入った後の冷静さに、このチーム全体が抱えている底知れぬ魅力を感じるのだ。アジア大会での初優勝も同じ。何かこううまく言えないが、荒削りの魅力と言うか。無数に潜在的タレントを抱えるこのチーム、そしてロンドンでは香川も登場するはずだ。この荒削りの魅力を、Jで格段の成果を誇る関塚氏がどう引き出すか。愉しみは尽きない。
2011年06月24日
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CBの問題は各所でいろいろと言われていますが、個人が経験を積んでレベルアップしていくしかないですね。個人的には本番はCBはオーバーエイジを使って欲しいところですが。