女子代表は、丁寧に戦って終盤宮間の鮮やかな直接フリーキックでニュージーランドを振り切り、初戦をものにした。上々の出足と言えるだろう。
北京五輪で堂々とベスト4に進出、メダルまであと一歩に迫った彼女達にすれば、次なる目標を優勝に設定したのは当然の事。ただし、だからと言って、優勝、あるいは北京五輪を越える成績を収める事は、相当難しいのは間違いない。
まず1つ目の難しさ。北京五輪にしても、準決勝の合衆国戦、3位決定戦のドイツ戦、いずれも日本は見事な試合を見せたが、最後の最後、球際での肉体的強さに粉砕されてしまった。厄介なのは、その肉体的強さの差は、体重の差である事。いつも言っているが、サッカーでは上背の差よりも、体重の差の方が、厳しいものとなる。そして、その差は、そのサイズの選手を連れてこない限りは埋まらない。そうなると、日本が合衆国、ドイツ、そしてブラジルとの差を詰めるためには、従来以上に自分たちの強みを磨かなければならない事になる。その強みが俊敏性、素早いパスワーク、組織的な守備である事は間違いないが、これらに関しては、既に北京の段階で、これら列強を圧倒していた。既に他を圧していた強みの面で、さらに差をつけると言うのだから、これはとても難しい挑戦となる。
2つ目の難しさ。優勝するためには、体調のピークを大会後半、準々決勝以降にに持って行く必要がある事。そのためには、ピークにならない体調で、1次リーグを抜けなければならない。しかし、これには、相当勇気がいるはず。もし1次リーグで2位になってしまうと、いきなり準々決勝で地元ドイツと戦う事になる可能性が高いからだ。つまり、ピークを迎えていない状態で、1位抜けを目指すと言う、矛盾した1次目標を達成する必要があるのだ。
しかし、ニュージーランド戦を見て、「彼女達はその難しい挑戦に成功しつつあるのではないか」と思えて来た。
まず戦力アップの件。
従来日本はサイドに人数をかけ、(しかしタッチライン沿いから鋭いクロスを蹴る筋力はないので)ペナルティエリア幅くらいで外をえぐり、速いセンタリングを通すのが、得意のパタンだった(たとえば、この試合で言えば近賀のセンタリングを阪口がポストに当てたやつ)。しかし、この試合、日本はすっかりと逞しさを増した永里と安藤の最前線での持ちこたえや裏狙いを軸に、中央突破に成功しかけた。突破しきれずも、こぼれ球を拾って幾度も大野や澤がフリーでミドルシュートを打つ好機と掴めていた。これは明らかに攻撃の多様化の成功だ。ただし、この日は強引な中央突破にこだわってしまい、本来のサイド攻撃が少なくなり、攻めが単調になったのは大きな課題だが。
さらに岩渕の鋭いドリブル突破が大きなプラスなのは言うまでもない。この日もそうだったが、大柄で(体重の重い)合衆国やドイツのアングロサクソン系のCBには、加速した岩渕のドリブルは悪夢のはずだ。ただ、岩渕は93年生まれの18歳。まだ、あまりにも若いのが気になるところだが。
そう言う意味で鍵を握るのは、大野だと思う。大野は、開始早々敵陣でボールを奪うや、美しいロブのパスで永里の得点をアシストしたのは見事だった。けれども、その後幾度も好機をつかみながら、ことごとくシュートを枠に飛ばすの失敗。これは、小柄で必ずしもフィジカルに恵まれているとは言えない(本来最前線でプレイする)大野が、相当後方から疾走する事で最後のフィニッシュまで体力が残っていないと言う事だと思う。たとえば、北澤豪。彼も相当後方から挙動を開始し、2仕事くらいしてから最前線に進出し、最後見事に宇宙開発する場面を再三見せてくれた。何か似てるでしょ。
この日は開始早々に大野がアシスト、後半から大野に代った岩渕がFKを奪取と、交代策がピタリとはまった。おそらく、大野、岩渕そして安藤を、うまく交代させながら戦って行く事になると思うが、佐々木監督の手腕に期待したい。
そして、コンディショニングの問題。
この日の日本は、守りに入った時に、1人1人の対応が微妙にずれたところを見ると、どうやら体調のピークは、大会後半に合わせていたようだ。やはり、本腰で狙っているのだろう。
それでも、ニュージーランドに対して走力で上回り、しっかりと勝ち点3を獲得したのだから、大したものだ。1次リーグの残り2試合とて、決して楽観できるものではないが、初戦の勝利は大きい。ベストでない状態でのトップ通過と言う、矛盾した挑戦に対し、順調なスタートを切れた事は間違いない。
これからも難しい戦いが続くだろう。そうなると、やはり澤のリーダシップに期待がかかる。共に戦って来た同世代のチームメートが次々に去り、70年代生まれのタレントは、澤と山郷のみとなった。熊谷や岩渕は90年代生まれである。そんな中で、澤が山郷と共に、いかに若いチームメートを奮起させ、戦いを継続させるか。順調にきているコンディショニングと共に注目したい。
他にいくつか。
守備について。問題の失点場面だが、安易に「ロングパス対応への失敗」と言うのは違うと思う。あの場面はニュージーランドが後方でボールを回し、ドガンと思い切り裏を突いたら、日本のDFの人数が足りなかったのが最大の問題だった。右に開いたFWに対し、なぜ鮫島があんなに上がっていたのか。あるいはカバーすべきボランチはどこにいたのか。そして、あそこであんなよいセンタリングを上げられたところで勝負ありだった(角度のある、あれだけ強いボールを蹴る事ができる選手は、日本にはいない、あれは羨ましいところだ)。あれはロングパスの問題ではなく、守備陣の位置取り修正の怠慢によるものだった。以降の守備振りは、ほぼ完璧だっただけに、修正を期待したい。
また、守備とに関しては、岩清水の鋭い読みはすばらしかったのも評価すべきだろう。再三見せてくれたインタセプトは、この日の最優秀選手と言っても過言ではないと思った。
終盤のベンチワークの拙さは厳しく評価されるべき。安藤が動けなくなっていたのに、交代が遅れた。さらに、交代選手を変更?したため、交代がロスタイムにずれこみ、結果的にロスタイムを1分延ばされてしまった。このあたりのディティールにはこだわって欲しいのだが。
総じて、明るい気持ちになる見事な初戦だった。あと6試合、彼女達の颯爽とした活躍をテレビ桟敷で愉しめる。ありがたい事だ。
2011年06月29日
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今回の躍進で、そういう気運になればと願います。
知り合いでもサッカー女子はいましたが、骨折や怪我をきっかけに辞めてしまうことが多いです。やはり思春期の女子にとっては過酷な状況ですし、特に母親から反対されて続けられないということも多くあります。
そういう意味でも、トップで躍動する現在の日本女子サッカーは素晴らしいし、頂点を極めて欲しいと思います。