2011年07月15日

スウェーデンを圧倒

 準決勝は、ただただ日本の強さのみが目立つ試合だった。
 序盤にあろう事か澤の信じ難い失態から先制を許す。澤ほどの責任ではないが、岩清水も一瞬の迷いから出足を緩めてしまい、逆に敵にあっけなく抜かれるミス。大黒柱の2人の連続ミスによる序盤の失点、状況は最悪と思われた。
 けれども、日本は当たり前のように勝ってしまった。それぞれの得点も美しいものだったが、ピンチらしいピンチは一切なし。逆転以降も、長身選手によるパワープレイすら仕掛けられる事なく、余裕を持って敵をいなし、完勝だった。あれだけ悪いスタートを切りながらの、冷静な逆転劇。本当に強い国でなければ、できない試合だ。
 特にこの日は、1度ボールを奪われた後、すぐ取り返す事に再三成功していた。これにより(1度奪った事で前に出たスウェーデンの裏をつけるので)再三好機を掴む事ができた。これは、準備がよくて敏捷性に優れている事もあるのだが、攻撃から守備への切り替えが格段に早いから。そして、その判断の早さが、彼女達が列強より優れているところだと思う。
 正直、日本の戦闘能力は、合衆国、ドイツ、ブラジルの3強に次ぐが、スウェーデンのような欧州のトップ国と、そう大きな開きはないとも思っていた。けれども、この試合は(スウェーデンは中2日、日本は中3日と言うハンディもあったが)、そのような事以前に全くサッカーの質が違っていた。

 スウェーデンは、ドイツが日本に対し前線からフォアチェックする事で押し込みほとんどチャンスを与えなかった代わりに終盤疲労で動けなくなった事を、意識したのだと思う。上記した試合間隔の違いを考慮したのかもしれない。そのため、後方を厚くし、最終ライン勝負を考えたのだろう。そう言う意味では、スウェーデンから見れば日本のミスから先制できたのだから、理想的な展開とも言えた。しかし、スウェーデンが引くから、日本の大野と宮間が思い切り挙動開始点を前にできた事で、日本がこの2人を起点におもしろいようにスウェーデン守備陣を切り裂いた。今の日本に対し、ただ後方に引いて守るのは、相当難しいのだ。
 同点弾は、ハーフウェイライン過ぎで岩清水?のフィードを受けた大野が右サイドから左に向い高速ドリブルで斜行。そのドリブルにスウェーデン守備陣が皆引きつけられたところで、左で全くフリーの宮間に展開。宮間の狙い済ましたクロスに川澄が合わせた。大野のドリブルは非常によかったが、宮間を見張るべき右DFの間抜けさで勝負ありだった。川澄の先発起用には、正直言ってビックリしたのだが、見事に抜擢にこたえてくれた。また、この場面後方から川澄をどついたスウェーデンDFのプレイは非常に危ないもの。後方から、シュートを狙っていて全く無防備の川澄を悪意を持って倒しに行っていた。これはいわゆる得点機会阻止にとどまらない危険なプレイ。1つ間違えれば、川澄は重傷を負っていた怖れもあった。得点は入ったものの退場にすべきプレイだったと思う。
 その後も大野の見事な技巧による突破からのプルバックを受けた川澄のシュート、川澄が倒されて得た直接FKを宮間が狙うもGKに防がれるなどの決定機をつかみ前半終了。
 後半早々に、大野のミドルシュートがバーを叩く。続いて、大野のトリッキーなヒールパスを受けた近賀を起点に右サイドを破り、澤が落としたボールを阪口がシュートするもブロックされ、ボールは左に流れる。それを拾った鮫島のクロスに、安藤が飛び込み、GKがかろうじてしのぐも、そこには澤がいた。左右にボールを展開して揺さぶり、完全に敵DFはマークを見失っていた。見事な崩しだった。ちなみに、オフサイドポジションにいた安藤が、必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶりをしたのがおもしろかった。97年フランス予選の、敵地UAE戦の後半、井原の完璧なヘディングを、わざわざオフサイドポジションにいた小村が蹴り込んで台無しにしたの思い出したりして。安藤さすがです。
 そして、スウェーデンが前掛りになってきたのを、宮間が狙い済ました縦パスを入れて、安藤が全くフリーで抜け出し、GKがブロックしたの拾った川澄がとどめの得点を決めてくれた、
 以降は日本はテンポを落とし、ボールを保持して、危ない場面1つ作らせずに、丁寧に試合をクローズさせて試合終了となった。

 欧州の強豪への完勝による決勝進出。それも偶然に頼らず、戦闘能力で完全に上回った勝利だった。感心するのは、試合を積むごとに、選手個々の能力を含め、着実に戦闘能力が上がって来ている事。難しい試合に耐え、勝ち抜く事が、(特に若い)熊谷や鮫島の成長を育んでいるのかもしれない。そして、あれこれあったが、本質的には、「優勝を狙っていたチームが、苦労しながらも堂々と決勝戦に到達した」と、言う事なのだ。
 決勝の相手は合衆国。これまた厳しい相手だ。相性も悪い。しかし、先方も相当悩んでいるはず。フォアチェックに行ったドイツが疲労困憊になり、後方に引いたスウェーデンがボロボロにされたのを見ているのだ。合衆国としても、どのような策を立ててくるか。
 最後の最後の壁はなるほど厚くて、高いだろう。けれども、決して破れない相手でもない。澤とその仲間達には、是非、この最高の舞台での最高の歓喜を期待したいものだ。
posted by 武藤文雄 at 01:51| Comment(12) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お待ちしておりました。

正直なところ、あそこまで完勝するとは思っていませんでした。
けど、後半からは負ける気がしませんでした。

我らがなでしこ。
これほどまでに強いとは…。

フィジカルがつん!っていう強さでなく、
素早いチェシングと正確なパスによるしなやかな強さが
日本らしいなと。
ドイツ戦の辛抱強さなんて、「おしん」みたいでした。

あと、審判が非常にクールでしたね。
あのイングランド戦は何だったんだろう…?

ワイドショーやニュースで、
なでしこJAPANがどんどん取り上げられていて嬉しい限りです。
スポンサーが増えて欲しい。

強く、しなやかで、忍耐強い大和撫子。
アメリカ戦の勝利を期待します。
Posted by むさきち at 2011年07月15日 03:14
美しく勝つということで欧州メディアからも絶賛されていますね。

フィジカル差を感じさせず、スキルフルで見ていて楽しく、強い。オシムが目指した「日本人の特性を生かしたサッカー」とは今の女子代表のようなスタイルなのかと思いました。

米国は体力まかせではなく技術と頭脳で勝負してくるまさに最強の相手。
ほとんどすべての面で日本を上回っていると思いますが、強者が常に勝つとは限らないのがフットボール。

歓喜の瞬間が訪れることを切に願っております。
Posted by at 2011年07月15日 04:49
ほんと大野と宮間ってかけがえのない存在ですよね。女子サッカーの歴史にはいろんな選手いますけどこの2人の強さ、改めて認識しました。

いよいよあと一つ。強ければ強い相手ほど、逆境であればあるほど勝利した時の歓喜が大きいと言う武藤さんの教えを胸にまた応援します。がんばれニッポン!!
Posted by at 2011年07月15日 07:46
僕も、小村のシーンを思い出していました(笑)

さぁ、歴史を変える瞬間まであと1勝。

心の底から彼女たちを応援したいと思います。

追伸;
ワイドショーの「メダルメダル報道」にちょっと違和感が。。。(苦笑)五輪じゃないんだから(笑)
Posted by ろく at 2011年07月15日 08:38
1点目以外の場面でも日本の選手を後から押し倒してもカードを出す素振りも全くない審判にストレスを感じました。

3点目は安藤にパスが出た時点でオフサイド。
2点目、澤のヘッディング時点でオフサイドポジションに居た安藤の「必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶり」がスウェーデン7番のディフェンスを阻害してボールに触れないオフサイドの条件である、
プレーに干渉する、
相手の選手に干渉する、
オフサイドポジションにいることによって利益を得る、
を満たしているように感じました。

1.「必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶり」をしていたからオンサイド。
2.安藤が居なくてもGKや7番はおそらくはボールに触れなかったであろうからオンサイド。
3.7番に対する干渉が微妙なのでオンサイド。
4.オフサイド。

審判として正しい判断はどれになると思われますか?
Posted by 町田市民 at 2011年07月15日 09:54
「満開のパスサッカー」を堪能しました。
こんな贅沢な時間をすごすことが、かつて、日本のサッカーの国際試合であったでしょうか。
ましてや女子は、限界まで必死にくらいついても圧倒的な体格差でふりきられ、倒されるシーンを見て来たので、感慨深いです。
長く大野選手ファンのわたしとしては、あとは彼女のゴールが見たい!

去年のスペインの映像になでしこを重ね合わせるイメージトレーニングを、18日まで繰り返します。
Posted by pon at 2011年07月15日 10:24
町田市民さん

大前提として、澤のヘディングをシュートと判断して、安藤へのパスでないとした時点で、安藤は関与してないと見なしたんじゃないですか?
Posted by yama at 2011年07月15日 10:59
彼女らの頑張りから本当に元気をもらいました。

対戦相手の米国は強いでしょう。
でも、勝ってほしい。

サッカーの女神がいるなら、今回は日本に微笑んでほしい。

奮闘する姿に胸が熱くなります。
Posted by たろうの尻尾 at 2011年07月15日 11:33
いかにアルゼンチン教徒とはいえ、後藤健生氏は後悔しているのではないか?
Posted by at 2011年07月15日 17:56
どうも、メダルメダルと回りだけでなく、選手本人たちからも発言があり、少々混乱するが、そこにはW杯と言うカップ戦の厳しさがあり、歴代の優勝者以外はそもそも記憶されない。その点では五輪は敗者への優しさがあると思う。ぜひメンタルをコントロールしてトップを狙って欲しい。現在の状況ならば、十分に可能だと思う。
Posted by at 2011年07月15日 18:11
町田市民さん
そういう分析は負けた時の楽しみですぜ。
そもそも1点目で相手は退場。
2点目で関与と見るのは中東アウエイのみ。
3点目は●●トトッ●で比べれば完全にオンサイド! <(_ _)>ゴメンナサイ
Posted by くま at 2011年07月15日 20:24
>2点目、澤のヘッディング時点でオフサイドポジションに居た安藤の「必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶり」がスウェーデン7番のディフェンスを阻害してボールに触れないオフサイドの条件である、プレーに干渉する、相手の選手に干渉する、オフサイドポジションにいることによって利益を得る、を満たしているように感じました。

ニュースで確認できました。彼女の位置はコース的にスウェーデン7番のプレイを全く阻害していません。なので正当なゴールです。

Posted by くま at 2011年07月16日 10:17
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