先般の女子ワールドカップ決勝、澤の同点弾について。あの劇的な得点、澤はいったい足のどこでシュートしたのだろうか。
勝利後も、幾度も再生映像が流れたが、私にはさっぱりわからなかった。トーなのか、アウトフロント(足の甲の外側)なのか、アウトサイド(足の外側)なのか、ヒールなのか。さらに言えば、当てて方向を変えただけなのか、足首を捻ってスナップを利かせたのか、あるいは膝を使って能動的に方向を変えたのか。宮間がピタリと合わせて来たボールを、一体どのようにしてあのコースに飛ばしたのか。いくつもの可能性が考えられる、実に難解な一撃だった。
サッカーの妙技は、場面的な劇的度が高いもの、技術的な難易度が高いものに2分されると思う。たとえば、前者の典型はジョホールバルの岡野の決勝点であり、後者の典型は06年ワールドカップのアルゼンチンでセルビアモンテネグロから奪ったカンビアッソの25本パス得点である。そして、今回の澤の得点は、その両方の特長を持っていると言う意味では、88年のファン・バステンが決めたあのボレーキックと同等に、記憶にも記録にも残る得点になるのではないか。ただし、ファン・バステンのそれは、技術的には極めてわかりやすく、「ファン・バステンすげ〜〜」で片付けられるものだった。しかし、澤のあの一撃は「一体何が起こったんだ!」と言う意味での奇跡性を含めると、正に世界サッカー史の金字塔と言われる得点になるのかもしれない。
当たり前の話だが、ボールが来た方向に近い方向に蹴るより、この得点のようにボールが来た方向と蹴る方向が鈍角の方が格段に難しいのは言うまでもない。そして、蹴る方向に向かって外側の足(この場合は左足)ならば、腰を使えるから、難易度は低くなる。ただし、外側の足を使うためには、そのための空間と時間が必要だが、今回の澤の一撃は、合衆国DFの必死の寄せもあり、そのような余裕はなく、内側の右足を使うしかなかった。加えて、澤はボールの方向(あるいは宮間の方向)にトップスピードで走り込んでいたから、自分の進行方向より後方にボールを飛ばす必要があった。
つまり敵DFを振り切るがための前進と、ボールを後方に飛ばすための足の運び、と言う全く矛盾した動きを同時にしなければならなかったのだ。
どうやら、ご本人はあるテレビ番組で「アウトサイドで触れた感じ」と帰国後に語っていたらしい(私はその映像を見ていないが、twitterで複数の人がその旨の情報を伝えてくれた)。ただ、「アウトサイド」と行っても、上記した「アウトフロント」を「アウトサイド」と呼ぶ人もいるので、澤自身がどちらの意味で「アウトサイド」と語ったかは、よくわからない。また「触れた感じ」と言うからには、膝を使ったり、ミートの瞬間足首のスナップを使った訳では無く、足首の角度を合わせて当てて方向を変えたのだと推測できる。
その状況で、強いシュートを枠に飛ばすためには、足首をよほど固定してかつ適切な場所にボールを当て、さらに膝をかぶせる事もできないから浮かさないためにも、ボールのやや上側に足を当てる必要がある。
整理しよう。澤はあの場面、宮間のキックを信じ切り、そこしかない場所に動き出しをして、そのボールに合わせて内側の右足を伸ばし切りながら、足首と膝の角度に細心の注意を払い、ボールを浮かさないようにややボール上側を、足の外側(甲がかかっていたかは不明)で、枠に強いボールが飛ぶようにミートしたのだ。
何と言う妙技なのだろうか。そして、あの究極の場面で、あの得点を決めるために、澤は一体どのような反復練習を積んで来たのだろうか。こんなシュート、「偶然に決めろ」と言われてもできはしない。周到に究極の準備がなされて、それでも数十回に1回決まるかどうかの一撃ではないのか。それを、澤と宮間は、あの場面で決めたのだ。
世界一になるためには、なるだけの理由があるのだ。
2011年08月01日
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最後の一文にしびれました。
これが比較的わかりやすい映像だとおもいます。DFにあたって角度がかわってなければ、あるいは…。
ありがとうございます。
リプレイ見直すと澤の右足は、内側すなわち左側に寝かされています。右足アウトの甲で狙うのであればひざは立てていたはずです。1982年のWカップ準決勝の西ドイツ対フランス戦のKHルンメニゲのゴールのようにです。
ですので推測ですが澤は、浮かない様に右ヒールで叩きにいった結果、右足アウトのアッパーとヒールの角でどんぴしゃで当てることに成功したんだと思います。
是非、少女サッカー選手、女子選手はあのプレイを真似して欲しい。いや男もです。何十回やってもそう簡単に出来るプレーではないということを知って欲しいものです。
難易度からすると相当のものですが、あれが延長後半12分に出るんだから、「なるだけの理由がある」ってのはまさしくその通りですよね。
http://www.tbsradio.jp/kirakira/2011/07/20110718-2.html
澤の右足がDFの伸ばした足のやや上方にあり、恐らく小指あたりに当たってゴール方向に軌道を変えたと思います。
DFの足に当たったら上方に跳ね上がるはずですから澤の足に当たったのは間違いないでしょう。
また、澤が技巧を使ったかどうかですが、多分そんな時間も余裕も無かったと思います。とにかく先に触ったのが全てです。先に触れたこと、あのコースにボールが蹴られたこと2点の完璧なゴールです。
http://a.yfrog.com/img734/7892/392la.jpg
アメリカの20番の選手は神の手を使いませんでした.男子のWCとは違って.
あのゴールは十回に一回決められるかどうかの凄いゴールです。技術と執念が凝縮した一発をあそこに持ってきました。シビレましたね。本当に入ったのか信じられなかった。
それにしても国民栄誉賞なんて五輪予選の直前で余計プレッシャーがかかって少し心配です
でもカズのコメントがナイスでした
「イイことですよ 国民栄誉賞もらったらなでしこリーグつぶせないでしょう!」
深いなぁ〜
8/1の「はなまるカフェ」で澤が「シュートしたのは右足の小指・薬指あたり」と言っていたようです↓
http://www.m-a-l.jp/hanamaru/2011/08/01/cafe/16/51/19.html
(だいぶ下の方ですが辛抱して読んで下さい)
澤も度々問題提起し、武藤氏も言及しておられる中学女子のサッカー環境ですが、当方居住の江東区ではこのような活動があるようです↓
http://www.jfa.or.jp/nadeshiko_vision/tsukurikata/modelcase/a_01.html
拠点校に複数の中学校から集まるシステム。
全国で適用できるかわかりませんが、中学生にとって部活動はやはりとっかかりやすいと思いますので軌道に乗ってほしいです。
そんな人いるんすか? 素人かつ阿呆かつ恥知らずですね。
あの当て方で、よく後ろからのボールを(背後にディフェンス抱えながら)味方に流して
すぐ振り向いてワンツーもらう、みたいなことやります。すげえ効果的です。
澤選手のは、それの高度な応用(高速クロスの処理)を、あの舞台、あの時間帯に、あの状況で
やってしまったと言うことで心の底から興奮したものです。
全て筋書き通り、あのゴール直前にゴールキーパーが膝を痛め、その治療の間に宮間選手と澤選手の打ち合わせる時間ができた事、それらの一見関係のない事もすべて繋がっているのです。
相手のゴールキーパーのソロ選手もワンバック選手も試合中に、「何か目に見えない力が働いていた」と不思議な感覚を覚えたとインタビューで述べています。
2011年はあの大震災が起こりました。
間違いなく関係しています。
日本人の念と亡くなった方々の思いが澤選手に乗り移り、あの奇跡を生み出したのです。
WBSで不振を極めたイチローが最後の最後決勝戦のここぞという場面で回ってきてヒットを打ったあのヒットと同じ類のものです。
多数の人間の心が一つになり、一身に念じると奇跡が必然的に起こるのです。