2011年09月04日

ブラジルに向けてまず1歩

 90分間あれだけ手変え品変え攻め込んで、あれこれ変化もつけて、それでも入らない。しかし、最後の最後には崩せる。90分と言うサッカーの時間設定の妙味を改めて味わう試合だった。

 苦戦の最大要因は、言うまでもなく北朝鮮の守備がよかったと言う事だ。あれだけ執拗に、岡崎や李が裏を狙ったのに、北朝鮮の最終ラインが、試合終盤まで高いラインを保ち、整然と組織的な守備を継続した精神力はすばらしかった。日本は終盤にハーフナーが起用し、駒野が落ち着いてアーリークロスを狙う事で、ようやく北朝鮮のラインを下げる事に成功した程だった(試合前に本田、憲剛不在となりハーフナーを呼んだ事、あの押し詰まった時間帯に田中順也や原口でなくハーフナーを起用した事、ザッケローニ氏にこの2つの判断の成果である)。
 一方で日本は終始バランスを考えたサッカーを展開、北朝鮮はほとんど好機を掴めなかった。一部のマスコミが大騒ぎした鄭大世だが、今野が完全に押さえ込んだ。鄭大世はよい選手だが、フロンターレ在籍時代も決してJを席巻したレベルの選手ではない。色々な経緯があって、マスコミが実力以上に持ち上げ、本人もよい意味で自惚れているのは、大変結構な事だけれども。
 北朝鮮がつかんだ数少ない好機は、後半早々の香川の日本陣内でのミスパスと、梁が例外的にフリーになりミドルシュートを狙った場面、さらにそこで得たCKで梁がファーサイドを正確に狙った場面くらいだった(ちなみにこの3つの場面で見事な対応を見せたのが吉田麻也、麻也は決勝点の他でも貢献が非常に大きかった訳だ)。梁がある程度自由にプレイできれば効果的な攻撃も可能だったろうが、梁は内田の冷静な守備に多くの時間帯は封印されてしまった。この日の内田は、2度にわたる宇宙開発と、右サイドを強引にえぐるプレイがなかったのは不満だが、守備の安定感には恐れ入った。この梁と内田の質の高い1対1の攻防は、この試合のハイライトとも言えた。ただサポートの少ない状態で梁を左サイドに貼付けた北朝鮮のユン・ジョンス監督の采配も疑問、知的な梁を守備でも貢献させたかった気持ちはよくわかるが、梁の守備から攻撃への切り替えの早さを活かして、もう少し自由にプレイさせれば攻撃の間口も広がったと思う。北朝鮮がウズベクより上に行かれるかどうかは、ユン・ジョンス氏がいかに梁を駆使するかにもかかっているように思う。
 また、終盤に鄭大世を交代させたのは不思議だった。あの時間帯は、北朝鮮の守備ラインも完全に下がっており、日本が高さでゴリ押しするのは自明。確かに鄭大世の疲労は激しかったが、ヘディング要員としてはまだ使えたはず。時間稼ぎするならば梁を交代させ、高さがある鄭大世を残した方がよいと思ったのだが。
 それにしても、梁のセットプレイがいかに恐ろしいか、生まれて初めて実感できた。本当に幸せな試合だった。

 もちろん、苦戦の最大要因は先方の粘り強さだったがのだが、当方もかなり反省材料があったのは言うまでもない。
 あれだけ、多くの選手がシュートを浮かしてしまった事、前半敵GKが負傷?した時間帯で何か相手に合わせてしまい攻撃の手が緩んだ事、終盤岡崎とハーフナーの連動があまりなかった事などが挙げられるだろう。
 柏木、内田を軸にした宇宙開発の連発は味わい深かった。フリーなために得点の期待がグッと高まった状態で、その高さが極端なために蹴った直後に「入らない」とすぐわかる落差の失望感はとても大きい。このシュートを低く抑える概念欠除は広がり、交代して入った清武も1撃目はよく押さえたグラウンダのシュートを打ったが、2撃目は宇宙開発(もっとも、柏木や内田ほどの高度がなかった分、雰囲気を悪くしなかったが)。さらにハーフナー、今野の一撃がバーを叩いた訳だが、どうして皆シュートを低く押さえようとしなかったのか。それにしても柏木が、利き足でない右で宇宙開発を連発してのはとても不思議だった。内田が失敗したように、利き足の右でカーブをかけたシュートを狙い過ぎて、宇宙開発するのはまだ自然(だからと言って内田には猛省してもらわなければならないのは、変わらないが)。けれども、通常の選手ならば、利き足でない足でシュートを打つ場合は、逆に細工せずに素直に蹴る事ができるために、あのようなヘマはあまりしないものなのだが。
 前半半ばから日本の攻撃にスイッチが入り、次々に北朝鮮陣を襲っていた35分過ぎに、敵GKが負傷。治療後も、思うようにゴールキックも蹴るのが難しい状態になった。ところが、それ以降、日本は攻撃姿勢はおろか、前線からのプレスもゆるくなってしまい、前半残り時間攻撃が完全に停滞してしまった。サッカーでは、時々このような不思議な時間帯が訪れる事があるが、世界のトップレベルを目指そうと言う代表チームが、これではまずい。むしろ、ゴールキーパが負傷し、しかし敵が交代しないとすれば、これ程の幸運はないのだから、その弱点を突くようなサッカーをすべきだったのだが。今の日本代表は、精神的に非常にしっかりしたチームなのだが、このようなエアポケットがまだまだあると言う事か。
 終盤、ハーフナーを起用して、特に駒野のアーリークロスを中心に、北朝鮮に圧迫を加えた時間帯。岡崎が左サイドに開き過ぎているのが気になった。ハーフナーと言う格好の囮が起用されたのだから、もっと直接的に得点を狙うべきだったはずだ。ノタノタしたハーフナーと、岡崎の鋭い動きは、結構マッチすると思うんだけどなあ。まあ、ハーフナーの招集は直前だっただけに、この2人は一緒に練習したのは試合前日がはじめて?だったのかもしれないのだが。しかし、岡崎は自分の立場を自覚して欲しいところだ。

 まあ、文句を言えばキリがないが、ブラジルに向けて若い選手がグングンと出てきているのは間違いない。
 もちろん、香川は完璧な「格」を見せてくれた。どこまで伸びてくれるのか期待は大きい。ただ、この試合に関しては、岡崎とは異なる意味での「強引さ」を見せて欲しかった。具体的には削られてもよいから、PKなり直接狙えるFKを取るくらいの気持ちで、「強引な」突破を、時々見せて欲しいと言う事だ。
 麻也は上記の通り、決勝点の他にも、守備で相当な貢献をしてくれた。考えてみれば、アジアカップ初戦のヨルダン戦で、麻也はロスタイム同点弾を決めたが、守備面では敵の逆襲を止め切れなかったのは、記憶に新しい。今回はロスタイム決勝弾と、無失点貢献だから、格段の進歩だな。
 清武は韓国戦に続きアシストと言う結果を残した。あの煮詰まった場面で、カーブがかかった強いクロスを蹴る事ができる冷静さは、先日の日韓戦の活躍が偶然でない事を示している。また、香川とリズムが合うのも強み。もちろん、この若者はこの北朝鮮戦でA代表での地位を完全に確保した訳だが、香川との連携でロンドン金メダルと言う流れもあるな。
 落ち着いて考えると、JSLで押されっぱなしのマツダの守備を支えていたディドのの倅がA代表選手なんだな。あの決定機をバーにぶつけてしまったのは残念だったが、難しい試合で長所である高さを存分に発揮したのは明るい材料。上記したように、岡崎との相性もよさそうだし。
 終盤、どうしても点をとりたい状況ながら、ザッケローニ氏は交代カードを2枚しか切らなかった。いや、切れなかったと言うべきだろう。現実的に、李と柏木は代える事ができても、長谷部、岡崎、香川のいずれかを代えるだけの控え選手がまだいないのだ(もちろん、本田と憲剛の不在が大きいのだが)。田中順也にしても原口にしても、ここ最近のJでの活躍はすばらしいのだが...ブラジルまでの3年間の目標は、終盤の勝負どころでこれらの中心選手と交代させられるだけのタレントを相当数準備する事なのかもしれない。アジアカップでザッケローニ氏が、序盤戦岡崎をベンチに置いた事があったが、案外そのあたりを熟考しての事だったりして。

 まあ、色々講釈を垂れたが、予選初戦で勝ち点3を確保できた事を改めて喜びたい。そして、この難しかった試合を反芻する度に、長谷部と遠藤の存在に改めて感謝する。
 長谷部の止まる事のない精神力と冷静さ。いったい、2014年には、どんなすばらしい主将を、俺たちは所有できるのだろうか
 そして遠藤。巷に、「遠藤の後継者云々」と言う議論があるが、全く無意味だ。遠藤は遠藤。我々は、世界最高のMFに登りつめようとする、最高級のタレントを所有しているのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めてコメントいたします。
北朝鮮の守備、堅かったですね><
アウェーでは更に手ごわくなるんでしょうか?
ウズベキ戦&コラムも楽しみにしております!
Posted by しろうと at 2011年09月05日 20:27
なぜなんでしょうね?
負傷して利き足で蹴れないキーパー
雨で濡れたピッチ
そして、追い風。

これだけの条件揃ってるのに
強引にシュート打たずに
クロスにこだわる選手達。
それに全く触れない解説と
相変わらず、準備した資料を
披露したがる実況。
あえて形にこだわったかも?だけど
試合観てて、柔道の山下かよ!って…
疑問の残る試合でした。
Posted by S16 at 2011年09月06日 01:20
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