2011年10月02日

梁勇基はどこまで行けるか

 ベガルタはセレッソに快勝。
 攻勢をとった前半にCKから2点を奪取。後半もペースを崩す事なく、終盤まで危なげない試合を見せてくれた。終盤のクローズにヘマがあり、不用意なPKを与えて1点差とされ、さらに大竹に崩されてゴールネットを揺らされたがオフサイド判定に救われやれやれ。まあ、いつもいつも語っている事だが、チーム作りがヘタで締めだけがうまい監督よりは、手倉森氏のようにチーム作りは上々で締めにヘマする監督の方が、格段に頼りになるのだけは間違いない。ありがたい事だと思って、応援すればよいのだ。

 セレッソは清武と金甫Q不在で、前線に起点を作る事ができない。こうなると、先日の全北戦と同じで、攻守のバランスが崩れ、ベガルタは一方的に攻勢をとる事ができた。特に梁へのマークが緩かったために、梁が得意の遅効速攻の使い分けを自在に行えたのは大きい。ただ、後半完全にセレッソを引き出す事ができていたのだから、3点目をしっかり取りたかったところ。ただし、茂庭、藤本、中後、扇原の中央4人に、実に我慢強く守り切られてしまった。彼らは彼らで、全北戦を修正して来たと言う事だろう。
 先日の五輪予選マレーシア戦以降、扇原を短時間で3試合じっくり見る事ができた。よい選手だ。懐が深く、ファーストタッチがよい。やや反転が遅いのが気になるが、まだ十分に身体ができ上がる年齢ではないから、それは焦る必要はないと思う。ただ、ベガルタのプレスに全軍が押し込まれている際に、中盤で前を向いた時に、左右にさばくのみなのが気になった。前が空いているのだから、強引に前進し、遠目からミドルシュートを狙うくらいの意欲があってよいと思うのだが(いや今日は構わなかったのですが)。180cmを超える技巧が安定した中盤のタレントは日本では中々登場しない。そしてようやく登場したタレント達は皆若い時の期待ほど成長してくれなかったきらいがある。西野朗、副島博志、廣長優志、稲本潤一ら。扇原も(五輪代表のチームメート山村ともども)センタバックとしての適正も議論される事だろうが、どのように育っていくか。今後の成長を見守りたい。

 で、今日の本題、梁勇基。
 ベガルタの好調振り(と言うよりは、今期の成長と言う方が正しいと思う)については、色々な見方があるとは思う。望月前監督以降5期に渡り熟成してきた「湧き出る速攻」、曹秉局と角田の加入による守備の安定、赤嶺、富田、関口らの格段の向上等々。それらは皆重要だが、注目されるべきは梁勇基の大幅な向上ではないかと思っている。
 梁は元々J屈指のMFとしての評価は定着している。だから「よいプレイをして当たり前」と皆が思っている。だから、今期も質の高いプレイをしても、それほど騒がれる事がない。けれども、昨期までのプレイと、今期の(特に夏以降の)プレイには質的に大きな違いがでてきていると見ている。それは、攻めに出た時の判断力が抜群に冴えているのだ。
 梁の武器は、精度の高いプレースキック、豊富な運動量な事はよく知られている。けれども、いわゆるドリブルで敵を抜き去るような、瞬間的な速さは持っていない。だから、攻撃的MFとしての梁のプレイは常にシンプル。まじめに守備をして、マイボールになった時に素早く切り換え、速攻の起点となる。ハーフウェイライン前後でボールを受けてドリブルで前進したり、早々に敵DFの隙を見つけて裏を狙い後方からのロングボールを引き出したり。重要なのは、動きの質のよさと、ボールを受ける際のトラップの大きさと方向の適切さ。大向こう受けをするような派手な技巧はないが、プレイにミスが非常に少ない。これは丹念な反復練習の積み重ねと、しっかりとした集中力の賜物だろう。それが、そのまま、セットプレイの精度にもつながっている。
 ところが今期、特に夏場のチーム全体の不振を抜けた後の梁は、さらに一皮むけてくれた。それは、プレイの選択が実に適切になったのだ。前に飛び出すか、後方に引くべきかの、ボールの受けの位置の選択。ドリブルで前進するか、前線の赤嶺あたりに当てるべきかの選択。同サイドで突破を狙うか、逆サイドを使うかの選択。強引に速攻を狙うか、無理せず散らすべきかの選択。これらの選択が、格段に向上してきた。だから、ベガルタの速攻は(いや遅攻もですが)、格段に精度が向上してきた。言わば、梁は今期半ばあたりから、フィールド全体の俯瞰力が格段に向上してきたように思うのだ。
 こう言ったフィールド全体の俯瞰力の究極は、ペレであり、ヨハン・クライフであり、ディエゴ・マラドーナである。最近では、やはりシャビ。日本では、晩年のラモス、全盛期の名波(特に2000年アジアカップ)、小野も一時期はすばらしかった。言うまでもなく、最近の遠藤はおそらく日本サッカー史上最高の俯瞰力を誇る。もちろん、中村憲剛のレベルも相当なものだ。そして、梁はそう言う俯瞰力を相当身につけて来たと思うのだ。
 ただし、梁の挙動開始点は比較的前方で、プレイスタイルも後方からグサリと刺すタイプではなく、前線で揺さぶるタイプ。だから、遠藤や憲剛のような「おおっ!」と言う長いスルーパスは少ないが、ベガルタの得点あるいは好機の多くは、昨期まで以上に梁が起点になっている。今年の1月に29歳になった梁だが、そのような俯瞰力を活かし、今後さらなる成長が期待できるはず。近い将来、位置取りをより後方に下げれば、遠藤的な「ボランチ」になる可能性も高い。
 思えば、2004年ベガルタが2部落ちしたシーズンに梁はベガルタに加入した。最初の3シーズンは、ベガルタフロントの色々な意味で不適切な強化方針があり、出場機会はあったが、必ずしも梁はチームの中心とは言えなかった。しかし、2007年シーズン(上記した)望月監督時代以降は梁は完全にチームの中心として全体を差配してきた。そして、29歳になった今期、いよいよ従来の経験により、さらに一皮むけてくれたと見る。考えてみれば、ラモスも名波も遠藤も憲剛も、皆上記した俯瞰力を見せ始めたのは、20代後半になってから。梁は少々遅かったかもしれないが、いよいよこれからが全盛期となるはずだ。(余談ながら、このような素材は、若くして全軍指揮の経験を与えるのが重要なのだろうな。今日の後半、セレッソの中盤で奮闘した大竹など、まずはJ2下位のチームでそのような経験を積む方が、より豊かな未来が待っているように思えるのだが)。
 先日の埼玉北朝鮮戦。梁は左サイドに固定され、内田の厳しい守備を突破するのに苦労していたが、時によい体勢でボールを受けると、日本に再三脅威を与えていた。北朝鮮が、完全に梁に攻撃を託せば、ウズベキスタンを破り、さらに最終予選を突破する可能性が、十分に出てくるはずだ。そうなれば、32歳の梁勇基はブラジルですばらしいプレイを見せてくれるはずだ。そして、ベガルタは梁と共に、かつては想像もしなかった栄光と歓喜を...
posted by 武藤文雄 at 23:35| Comment(4) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ベガルタらしい勝利だったと思います。
終盤疲れが出て大竹にやられかけましたが。
相手が前がかりになってくる時に、カウンターから追加点を取ってあきらめさせる事ができたら、もう一ランク上に行ける気がします。
Posted by あ at 2011年10月03日 01:41
リャンの選手キャリアの後半(30歳台)はボランチでの勝負だと思っているので、ご指摘の俯瞰力が増強されたことは嬉しい限りです。
私も最近は遠藤とリャンを比較するようになってきたのですが、昨日の遠藤の後方からのキラーパスにはうなりました。
良い手本がいて刺激になりますね。
Posted by たろうの尻尾 at 2011年10月03日 04:26
いつも拝見してます。
わたしは逆に、梁の変化は、最終ラインにも顔を出し始めたところかと思ってました。
横浜戦の3点目アシストとか、プレイエリアを広げてるのかなあと。
Posted by TV観戦者 at 2011年10月03日 11:10
望月監督時代はまだロペスに走らされてるイメージの方が強かったですね。
梁が司令塔として開花したのは経営状況の悪化による純国産?編成のおかげもあるのかもしれません。
Posted by 仙台サポ at 2011年10月03日 13:07
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