2011年10月08日

ベトナム戦雑感

 ベトナムは期待どおりよいチームだった。
 ブロックをしっかり組み、陣形をコンパクトに保つ。日本のパスワークに合わせての修正も的確だ。センタバックは細身だが長いボールへの対応は適切だし、サイドバックのアジリティも中々。ゴールキーパの判断力もすばらしかった。また、勝負どころでの思い切りよい攻撃も上々だった。
 そして、精神的にも切れずに、最後まで誠実にファイトを継続した。元々サッカーが非常に盛んな国が、少しずつ経済的に安定し、優秀な外国人監督の指導により組織的な面でも強化が進んでの成果だろう。東南アジアのトップレベルの国が、これだけ質の高いサッカーを見せてくれた事は、アジアのレベル向上と言う観点からは、とても嬉しい事だ。
 そして、この日本との試合は、ベトナムの選手達にとって、貴重な体験になったに違いない。我々が強化のために世界列強との試合を切望しているのと同様に、彼らも日本のような強豪との対戦を熱望しているのは当然の事。物事はバランスなのだ。タジク戦前にこのようなマッチメークができた事を、高く評価したい。

 前半。最終ラインに伊野波と槙野を、遠藤の代わりに細貝、岡崎の代わりに藤本を起用し、いわゆる3−4−3。結果的にはうまく行かなかった。長友、駒野の両サイドと細貝が引き過ぎてしまい、本来の狙いのサイドの数的優位が中々作れず、またベトナムのボランチやCBへのプレスが甘くなってしまったのだ。このやり方は、アジアカップの豪州戦で試合最中に変則的に試した時は、うまく行っているのだが、立ち上がりから試みると、どうもギクシャクしてしまうようだ。まあ、遠藤がいれば、全体のバランスをとっただろうから、このギクシャクは3−4−3問題と言うよりは遠藤不在問題と言うべきなのかもしれない。このやり方で遠藤を休ませるならば、最初から憲剛を使えばよかったようにも思うのだが。ザッケローニ氏はタジク戦は、4DFでトップ下に憲剛を使うつもりなのだろうから、これも仕方がない。
 我々の目標は、ブラジルでの上位進出。そのためには、列強の猛攻を食らっても、そう簡単には崩されない守備網を構築する必要がある。そのために、このやり方はオプションとしては、とてもおもしろいと思う。気長に熟成を待とう。
 ちなみにオプションと言う意味で、不思議と言うか興味を引くのは、ザッケローニ氏がいわゆるワントップ(3トップでもよいですが)にこだわり、前線に2枚置くやり方を好まない事。先日も述べたが、岡崎とハーフナーあたりを前線に並べるのは有効だと思うのだが。まあ、ザッケローニ氏からすれば、そのあたりは岡崎の自立的な判断に期待しているのかもしれないが。 
 後半は、本来の4DFに戻したが、選手が代り過ぎた事もあり、いっそう連動性が失われてしまった。序盤に今野のミスが連発し、2度決定的なピンチを与えた事で(2つとも西川の美技で事なきを得たのだが)、かえって試合そのものから緊張感が失われてしまったためかもしれないが。
 また、交代を6枚使い切らなかったのは、ちょっと不思議だった。負傷者が出る事を気にしたのかもしれないが、それこそ最後の5分くらいならば、酒井なりハーフナーを起用してもよかったように思うのだが。
 ともあれ、11日の大事な公式戦の4日前なのだから、体調もピークである訳がない。そう考えると、有料の国際Aマッチと言えども、このような試合になってしまった事も不思議ではない。それがよい事なのかどうかは、さておき。

 もちろん、各選手が相応に機能し、戦力となる事が確認された選手は多数いた。憲剛はミスもあったが、格の違いを見せた。ただ、憲剛があれだけ意欲的にラストパスを狙っているのに、李と藤本がその受けに無頓着だったのはちょっと残念だった。細貝も少々ファウルが多かったが、力強いプレイ振り。伊野波も安定したプレイを見せてくれた(後半、今野を外して、伊野波がフル出場するものだと思っていたのだが)。原口も合格点とは言えないが、少なくとも自分の特長を発揮しようとしていた。改めて、もう少し左足を使う事の必要性は確認されたが、ザッケローニ氏はその素材のよさを評価し続けてくれる事だろう。
 で、色々と突っ込みどころが多かった、李,藤本、そして槙野について。
 李は考え過ぎなのだ。前半、しっかりと得点をとり、よくボールを引き出していた。ところが、時間が経つにつれて、焦りが目につき始め、どんどんプレイが固くなっていった。だいたい、点取り屋が、憲剛が中盤でルックアップしているのに、もっと執拗に狙わなくてどうするのだ。反省も(どちらかと言うと、李の終盤のプレイは反省と言うよりは後悔が前面に出ていた)よいが、ストライカはもっと楽観的でなければいけない。結果を出し続けて、代表の完全な定位置をつかみたい気落ちは痛いほどわかるが、ザッケローニ氏は辛抱強い人だ。慌てずに、真面目にプレイを続ければよいと思うのだが。
 一方、藤本は李に比べ、楽観的過ぎるように思えた。先制弾のアシスト後のガッツポーズが気になった。厳しい言い方になるが、あの場面は、自ら得点もできるように左足でボールが操れるところにトラップすべきところ。あれでは、ワールドカップに登場するゴールキーパやセンタバックには「この選手は右足で角度の浅いシュートは打てない」と読まれてしまう。あの程度の結果で喜んでしまうようなところが、李とは逆で心配なのだ。また、後半槙野にFKを譲ったのは論外。後述するが、あの場面は、怒鳴りつけてでも、自分で蹴らなければいけない。さらに、李と同様に、憲剛のパスへの呼び込みの意欲不足も気になった。もっともっと欲を出して欲しいところなのだが。
 そして、槙野。もう呼ばれないのではないか。現状バックアップのディフェンダが、本番前の試合で、足をつってしまっては話にならない。このため、ザッケローニ氏はハーフナーの起用を諦めてしまった。貴重な準備の機会を、体調不備で無駄にしてしまったのだ。不運な負傷ならばさておき、足がつったのは、準備不足によるもの。最近試合に出られていないのは言い訳にはならない。
 さらに、(上記した)直接ゴールを狙えるFKを藤本から「奪った」のにも呆れた。報道によると「ジャンケンで決めた」と言うが、この試合の意味を全くわかっていないのではないか。この試合はタジク戦の準備試合。たとえ槙野がこのFKを決めたとしても、タジク戦で槙野が敵陣を直接狙えるFKを蹴る可能性はないのだ。右足で狙うのは、遠藤か憲剛しかいない。一方、もしこれを藤本が決めていれば、藤本本人の自信にもなるし、タジクに対して(本田が不在でも)左で蹴られる可能性を印象つける事ができた。槙野が攻撃もできるDFを売りにしたいのは自由だが、自己アピールのために準備を阻害する選手は不要だ。

 もう1つ。今野はフル出場。上記したミスはあったが、ご苦労な事だ。ザッケローニ氏の信頼も厚いのだろう。そして何より重要な事は、とうとう代表で腕章を巻いた事。先日の日韓戦で、長谷部、遠藤がピッチを去った際に、遠藤が本田に腕章を託したのには、「今野ではないのか」と愕然としたものだ。まあそれはそれ。とにかく、私にとってこのベトナム戦はとても嬉しいものとなった。この試合は、宮城県出身のサッカー選手が、加藤久以来実に24年振りの代表の主将を務めた試合になったから。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
槙野問題については、足がつった件も、フリーキックを蹴った件についても同感です。

気長にトライアルする場面と、もうトライアルは終わっていて後は準備だけという場面はわけて考えるのはその通りだと思います。

でも「もう呼ばれない」ってのはあまりにシビアすぎる意見ですね。自分はそこまでは考えませんでした。
Posted by ロビン at 2011年10月09日 22:02
講釈いつもたのしく拝聴しております。

まきのFK問題ですが、個人的にはあれはあれでいいのだと思いました。

フィールドに立つ選手達が意志を主張しあうその先に生まれる協調性や連動性、信頼感を彼ら自身が体感するためにも、また、そういった個のぶつかり合いを見つめるこどもたちにとっても、そうわるくないシーンだったと思いました。

あの場面にもし介入する価値をもたらすとすれば、監督やコーチ(あるいはキャプテン?)の言葉でしょうか。

ザッケローニ監督があのFKに特に言及したという話でもあれば別ですが、選手自身がチームの強化目的云々を内面化してプレーが萎縮してしまうほうがよほどつまらなくなってしまうかと。

プレイヤー自身はもっとのびのびとやってほしいもの。
もっともそれを見越した上での、いつものたのしい講釈だとは思いますが。

失礼いたしました。
Posted by じょるじゅ at 2011年10月10日 07:01
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