2011年12月30日

木村和司監督解任に思う

 昨日の天皇杯準決勝、120分間の中澤佑二と中村俊輔の胸打つ努力にもかかわらず、マリノスは敗れた。4対2になった瞬間に、テレビに大映しになった木村和司監督の絶望的な表情は何とも味わい深いものだった。正に日本サッカー史に残る名場面。サッカーの神は、過去幾度も幾度もこの3人に提供してきた微笑みを、彼らではなく18歳の若者(とその仲間達)に提供したのだ。
 この場面が美しかったのは、マリノスの試合振りがまた見事なものだったからだ。大ベテラン2人を軸に、丁寧にしぶとくサンガ陣を狙い続けたのだが、サンガの執拗な組織守備を破り切れず。そして、マリノス守備陣の弱点を幾度も突かれ、失点を重ねてしまった。サンガにバーやポストを叩く決定機が得点場面以外にもあったのは確かだが、昨日も述べたように後半半ばの秋本のプレイは退場以外あり得ないものだったのだから、マリノスは誠に不運だった(個人的には、この判定ミスはロスタイムのハンド以上に重要視されるべきと思っている)。幸運不運入り交じったよいチーム同士の真摯な戦い、正にサッカーの醍醐味を満喫できる試合だった。歓喜と絶望に震えた両軍サポータに羨望するものである。
 久保裕也や宮吉拓実が、今後どこまで成長するかは、まだわからない。けれども、若者が偉大なレジェンド達に打ち勝ち、80年代にアジア諸国を恐怖させたスーパースタアにあの絶望的な表情をさせた場面は印象的なものだった。83-84年シーズン天皇杯決勝、若き木村和司、金田喜稔、水沼貴史らを擁する日産(マリノスの前身)が、選手としての引退直前の釜本邦茂が監督兼任選手だったヤンマー(セレッソの前身)を打ち破った試合を思い出したりした。

 と、よい試合を堪能した翌朝。木村和司の解任が発表されていた。

 「だったら、最初から木村和司にやらせるなよ。」私の率直な感想である。

 そもそも木村和司に監督を託すとして何を期待するのか。まさか、氏に小林伸二氏、松田浩氏のように、精緻な守備網を構築する事を期待した訳はあるまい。
 しかし、木村和司ならば、キャリアの最後に近づいた中村俊輔に技巧や判断に関する事でも遠慮なく指示ができ得るだろう。ありとあらゆる経験を積んで来た中澤佑二と、衰えて行くフィジカルと経験のバランスについて、正にギリギリの議論が可能だろう。格段の才能を持った小野裕二に、相当厳しい要求をして成長促進ができるだろう。その上で、最低限の組織守備指導などを、コーチの樋口氏が行うと言うのが、常識的な期待だったはずだ。
 上記の通り、準決勝はすばらしい試合だった。大ベテランの中澤と俊輔を軸にして、途中交代したものの小野裕二は着実な成長を見せていた。サンガの厳しいチェックをかわしながら、全軍で丁寧に遅攻を狙うサッカーは決して悪いものではなかった。木村和司が監督をすれば、あのようなチームになるのは当然に思える。そして、木村体制を組んだ以上は、あのようなサッカーの質の向上を目指すべきだったはずだ。
 また、今期の結果は悪くない、リーグ戦では5位、天皇杯ではベスト4。かつてアジアカップウィナーズカップも制し、リーグやカップを幾度も制している名門ゆえ、一部のサポータの方々には不満はあるのかもしれない。けれども、野次馬から見て、最近の実績からすれば、そう極端に悲観する成績ではないやに思う。

 もちろん、木村和司が監督としてどうかと言うのは別な話だ。プロの監督である。何がしかの目標を満たせなかったら、解任されるのは仕方がないだろう。そして、それがACL出場権だったのならば、昨日の敗戦を契機にした解任は妥当なのかもしれない。だったら、複数年契約結ぶなと言うツッコミとなるのだが。
 また、来期以降を考えて、より発展的な采配やチーム作りができる監督候補がいるならば、監督交代は常にあり得る選択肢だろう。しかし、昨日共にベンチで戦っていたコーチが後任だと言うならば話は別だ。こんな人事をしていたら、ベンチにいたコーチは自らの昇任のために、コーチとしてベストを尽くさなくなってしまうではないか(まあ、これは余談だな)。

 このような解任しかできないならば、心中する気がないならば、もっと異なるチーム作りを期待するならば、最初から木村和司に監督をやらさなければよかっただけの話だ。
 百歩譲って今期限りの契約としておけばよかったのだ。それならば、昨日の絶望的な表情と任期切れの退任は、それはそれで美しい話となっていた事だろう。
 このクラブは、歴代最高の貢献をした木村和司に対して、このような扱いをした。この解任は、井原正巳をマリノスからさらに遠ざけ、中澤佑二と中村俊輔に自クラブへの不信感を植え付けるものとなる。
posted by 武藤文雄 at 18:53| Comment(11) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マリサポの「天皇杯決勝チケット燃やした事件」については、どう考えられますか?
Posted by ロビー at 2011年12月30日 19:46
ついでに付け加えると、松田直樹に対する扱いですね。

埼玉県民になるまで応援していたマリノス。
今ではレッズ共々嫌いになってきました(笑)
Posted by あるぱか at 2011年12月30日 20:08
かつては天皇杯といえば日産だったのですがね。

樋口氏はコーチだったわけですから、木村氏を解任するなら樋口氏も連帯責任を問わないとおかしいですよね。
来季は浦和化してしまう恐れを無しとしません。
Posted by 北斗七星 at 2011年12月30日 20:51
リーグ戦5位でカップ戦ベスト4で解任というのは、
常勝チーム以外では世界的にもありえないのではないか、
と私も思います。

>しかし、昨日共にベンチで戦っていたコーチが後任だと言うならば話は別だ。
>こんな人事をしていたら、ベンチにいたコーチは自らの昇任のために、
>コーチとしてベストを尽くさなくなってしまうではないか(まあ、これは余談だな)。

強く同意します。w
日本はクラブの代表者がサラリーマンっぽくてなんか変ですね。
野球の中日の代表というかあの社長みたいで。
Posted by むむ at 2011年12月30日 21:24
リーグ戦5位とは言ってもリーグ終盤はまったくいいところなく
降格した福岡と甲府にギリギリで勝っただけ
天皇杯もJ1クラブと当ったのは日程不利な名古屋のみ

渡邉千真の移籍は確実でその他の選手の契約更改も難航
中澤や俊輔からは試合のたびに組織がない、パスがつながらないと言われ
選手からのリスペクトも消えてしまっている

そんな監督を続投させたら、来季どうなるでしょうか?
監督なんかにしなければ良かったという点は同意です
Posted by RAT at 2011年12月30日 23:41
“名選手必ずしも名監督ならず”を体現した人ですよね(あとスイカップじゃない方の柱谷も)
Posted by at 2011年12月31日 00:18
子供の頃、元旦に見る天皇杯は読売vs日産ばっかりだったです・・・。
木村さんの解任のニュースを知った時は、F・マリノスは、何考えてるんだって思いました。
こんなに、整理された記事にまとめられませんが、非常に残念です。
Posted by at 2011年12月31日 00:41
子供の頃、元旦に見る天皇杯は読売vs日産ばっかりだったです・・・。
木村さんの解任のニュースを知った時は、F・マリノスは、何考えてるんだって思いました。
こんなに、整理された記事にまとめられませんが、非常に残念です。
Posted by at 2011年12月31日 00:42
いつも楽しく読ませてもらってますが、自チームのこととなると黙っていられません(笑)

他サポーターから見れば、何でこの成績で?となるのは良くわかります。が、毎試合90分見ていたサポーターからしてみれば違うんですよね・・
特に後半戦は内容・成績ともにひどかったですから。
5位で終われたのが本当に不思議なくらいです。

「こんな人事をしていたら、ベンチにいたコーチは自らの昇任のために、コーチとしてベストを尽くさなくなってしまうではないか」
これは結果論ではないでしょうか。成績不振ならば監督と一緒に自分のクビも飛ぶ可能性だって充分高いですよ。加茂監督解任後に岡田コーチが監督に昇格してから今まで、日本代表のコーチ陣はどうだったでしょうか?

サッカー選手としてレジェンドだったとしても、ひとたび監督業に足を踏み入れれば、そういう厳しい世界に入った事になるんじゃないでしょうか。名選手だった木村和司も、全く無名の三浦俊也も、同じ土俵で扱わなければフェアでないのでは。

もし俊輔や中澤が将来監督業に足を踏み入れるにしても「俺は過去にこのクラブに貢献したから」なんて甘い気持ちを持っていて欲しくはないです。
Posted by 鳥コロ at 2011年12月31日 00:45
中澤や俊輔に「戦術がない」って批判されてたんですが>木村和司
Posted by ななし at 2011年12月31日 03:03
>元旦に見る天皇杯は読売vs日産ばっかりだったです…

これはたぶん違うんじゃないの?
決勝で間見えたのは2回か3回だと思う。
鮮烈な印象が偽記憶を作っただけ。
Posted by at 2012年01月02日 18:50
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